第638話 太陽

「流石に聖母カイレとまでいかんが、それでも我が戦った人間たちの中では郡を抜いている。クロニアが勝てなかったのも頷ける。実力は、十勇者より上。カイレ以下といったところだな」


 俺の体が宙に引き寄せられる……ヴェンバイが引力で俺を回収しているのか?


「伸び代はある。あと、ニ・三年すれば我に魔道兵装を使わせるまでになりそうだ。だが、そのためには、やはりしっかりとした魔法技術の習得が必要だろうな。『奴ら』と戦うために」


 腕を組んで俺を査定しているかのような顔のヴェンバイの正面まで引っ張られたのが、うっすらと分かった。

 ……奴ら……?


「ヴェルト・ジーハ。よく聞け。我々は、こうした小競り合いをしている場合などではない。遥かなる時を超えて現れる者たちとの戦いに備え、その力を結集させる必要がある」


 身動き取れず、ウンともスンとも言えない俺に、ヴェンバイはただ語っていた。


「当初は、三種族の争いの時代が続き過ぎたゆえに、異種族同士が手を組んで世界が一つとなることなど想像もせず、我々魔族は魔族、人類は人類のみで、それぞれの種族の中だけで『奴ら』に対抗する準備を進めていた……しかし、貴公とクロニアが現れ、今はその壁がなくなり世界の種族が一つに結集した。ゆえに、希望がある」


 ああ……敵とか……そういや、その話……神族世界でも聞いたな……


「だからこそ、今、小事で揉めることは断じてならん。ラクシャサを放置しては、ようやくまとまりかけた団結すらも崩壊させる危険性がある。ゆえに、この場で阻害要因を排除せねばならん」


 世界が一つにならなければ……その世界を壊すラクシャサは……リリイ同盟は……


「遥か昔に現れた奴らは、我ら魔族の故郷である……月の世界・魔界を不毛の世界へと変えた者たちだ。何億という犠牲と引き換えに、絶滅までは避けられたが、その脅威が間もなくこの世界に迫ろうとしているということを理解しておけ!」


 ダメだ、なんか色々語られたり、ラクシャサやヤシャのことが頭を過ぎったり、体中がボーっとしたりでちっとも頭の中が働かない。

 せーぜい、頭の中を過ぎってるのは、空の上だから太陽が眩しいなってことぐらい……


「貴公はただの依り代ではない。戦うべき戦士として我が鍛えてやろう。国の建国と他種族との調整が終わり次第、我が師となり貴公に教示してやろう。だから、今は、眠れ」


 太陽か……こういうとき、あのバカ女を思い出しちまうな……クロニア……。

 前世のことも、くだらないことも、半年前の戦いのときのことも思い出す。

 あの時、あいつの力になるって約束しておいて、俺はまだ…………いやっ!


「俺の師は……先生だけで十分だ……」


 相手が強いだけでなんで屈服する。強い奴に圧倒的にボコられるなんて、俺の人生はそういうのばっかだっただろうが。だからこそ、こういうとき、いつだって……



「お日様に弱い吸血鬼が昼間っからペラペラ喋りやがって。いつまでもやかましいと、ガルリックを鼻から大量にぶち込んでやるぞ?」


「ほう。その体でそこまで吠えるか。そういう意地だけは、全種族を含めてトップクラスだな」



 こういうとき、いつだって、舌出して抗ってきただろうが!


「ああ……さっきから、なんか、よくわかんねーこと言って……俺だって頭の中がよくわかってねえけど……でも、……一つになった世界のためにラクシャサたちを始末とか……まあ、俺も……さっきまで同じこと考えてたけど……じゃあ、その世界って、どっからどこまで含まれてる世界なんだよ……ちゃんと線引きあんのかよ! 例え犯罪者でも、生きていて欲しいと思う奴がいるんなら、それだけでそいつは世界にとって十分価値あるってもんだ!」


 反発こそが俺の証明だ。そうだろ? クロニア。


「ふっ、意地だけではなく、まともな口喧嘩も貴公には勝てそうもないな。暴論を、ああいえばこういう……まあ、嫌いではないがな。口先だけではない暴論は」

「ああ! 証明してやらあ! この全身バキバキになった体でも、まるで折れちゃいねえ、俺の反逆心をなッ!」


 ……で、士気は取り戻したものの、正直どうするか。

 普通の攻撃じゃダメなら、もっと小ざかしい手を使って……ガルリックは? いや、手持ちで携帯してねえ。

 他に吸血鬼の弱点は……十字架? ダメだ、持ってねえ。

 となると、オーソドックスで太陽か? ……でも、さっきから太陽の下で戦ってるけど、何か影響があるように見えねえし。


「太陽か……」


 そういや、クロニアも太陽を使ってたな。

 魔道兵装で、太陽エネルギーを身に纏ったり、太陽の熱で灼熱地獄みたいな攻撃したり……。

 クロニアの使った魔法は天候魔法。そんなレアなもの俺にはできねえ。

 だが、ヴェンバイは引力で雲を引き寄せて天変地異を再現したりしていた。ならば、俺も似たようなことができるんじゃねえか?

 さっき、ヴェンバイが、魔法は自然界に存在する属性を付加させることで深い威力を発揮するって言っていた。俺には、氷や雷とかの属性やら詠唱はできねーけど……この照りつける太陽のエネルギーならどうだ?


「どうした? 何か姑息な手でも浮かんだか?」


 太陽の熱を俺の魔法で包み込んでかき集めて、身に纏ったり放ったりの攻撃? そんなこと出来るのか? だけど、俺は空気を操って気流を発生させたり、大気中に存在する魔力をかき集めたりすることができる。

 なら、太陽も?


「ふう……不良に考えるのは似合わねえ。思いついたら、とにかく動けだ」

「ん?」


 できるかどうかを考えるんじゃなく、無理やりやってやる。イメージし、引き寄せる。収束する。

 光を、光線を、熱を、太陽を! 属性なんて知らねえ。俺の武器は属性じゃなく、世界に存在しているもの全てなんだからよ!


「……ん? ……少し気温が……いや、太陽の光が集中しているな……貴公がやったのか?」


 環境の変化にヴェンバイも気づいたようだな。でも、「ちょっと暑くなった」ぐらいで、全然効果がなさそうだ。

 いや、っていうか、太陽の光……集められたよ……


「一つ勘違いをしているようだが、別に吸血鬼は太陽に弱いわけではない。単純に、夜なら闇の力を得られる分、夜のほうが強いというだけだ。そうでなければ、我はクロニアには勝てないということになるからな」


 集められた。太陽の光。なら、これを俺の魔力と融合させて魔道兵装を進化させれば!

 だが、これじゃ威力が全然足りねえ。クロニアの魔法には及ばねえ。

 だから、もっとだ。もっと沢山のエネルギーを、もっと熱量を、もっと光を、もっと太陽の力を身に纏え。


「それを越えるため、ありったけの力を俺に纏わせ、テメエにぶつけてやる!」


 それこそ宇宙空間に存在する太陽を引っ張るぐらい……っていうか、宇宙には空気が存在しないから無理か……って、そうじゃねえ。心意気の話だ! 

 太陽をヴェンバイ目掛けて落とすぐらい! 太陽のエネルギーを全部俺に集めて力に変えるぐらい! 引っ張る! 集める! ぶつける! 身に纏うッ!


「ん? …………………………ッ! おい、ヴェルト・ジーハッ!」


 その時、何かに気づいたヴェンバイが血相を変えたように叫んだ。どうした? ちょっと暑かったか?


「それは……何だ?」


 集中していたので俺は自分自身の変化に気づかなかった。

 ヴェンバイに言われて俺は自分の体を見る。太陽の光を集めるだけ集めてそれを力に変えるという方法で、きっと目も眩むような輝く魔道兵装になっているはず……と思っていたが、そうでもなかった。


「あれ? ……変化……して……るのか?」


 俺が身に纏っている魔道兵装の輝きは確かに変化している。しかし、それは予想に反してそこまで眩しくもないもの。


「淡い……真珠?」


 そう、一言で言うなら、淡い真珠色の魔力の光。これ……失敗か? 成功しても今の俺の限界はこれぐらいか? どっちなんだ?


「……ッ! な……んだと? ……た、太陽コロナ……ッ!?」


 だが、どういうわけだ? あの最強無敵を誇っていたヴェンバイが、顔を引きつらせ、額から汗を流し、何故か驚愕の表情を浮かべて、激しく動揺している。








――あとがき――


御世話になっております。


昨日も書きましたが、こちらもよろしくです。

なろう日間ハイファンタジーランキング3位というありがたいことに。

まだ見ていない方はど~ぞ


『冗談で口説いたら攫われた大魔王~知らなかった? 女勇者たちからは逃げられないよ』

https://ncode.syosetu.com/n1660hv/


気が向けばブックマーク登録やご評価もしていただけたらモリモリ嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る