第637話 魔族大陸最強の魔族
彼方を見て笑っているヴェンバイ。誰か近づいて来ているみたいだが、一体誰が?
まあ、誰かは知らねーけど、今はそんなことを気にしている場合じゃないんだけどな。
「さて、続きだ。ヴェルト・ジーハ」
「望むところだ」
微塵も望んじゃいねーし、正直、こんな奴とどうやって戦うか? そう思った時、ヴェンバイが俺に尋ねてきた。
「貴公は、魔法学校中退だったな?」
「あん? それがどーしたよ。低学歴を舐めんなよ?」
「そうではないさ。だが、だからこそ少々知識が無いようだ。いかに巨大な魔力を集めようとも、そこに付随する何かが無ければ魔力に深みは生まれぬ。貴公はただ、魔力の塊を纏ったりぶつけているだけだ」
まるで教師が教育するような口調で語り始めたヴェンバイ。すると……
「んぬうううん!」
「ぬおおおっ!」
たった一歩で俺との距離を詰めて、何の小細工も無い右パンチ。
回避したものの、衝撃波の波が空の彼方まで飛んでいきやがる。
魔力の強化とかそういうやつもない、素の力でこれかよ。
「確かに貴公の技術は素晴らしい。二千年を越える種族同士の争いの中でも前代未聞の技術。しかし、魔力が本領を発揮するのは、自然界に存在する属性と自分の魔力を融合させて放たれる力。何も付随する力もないその魔法では、我クラスが相手になると決定打に欠けるぞ?」
回避する俺に追撃の手を緩めないヴェンバイ。素の力だけで速度は今の俺並……まあ、分かっていた……
実際、俺が魔道兵装で力を増しても、スピードはフォルナ未満。
俺の技の破壊力や爆発力は、チーちゃんよりも劣る。
ただ、俺は空気の流れを感じ取っての回避技術や魔法引き剥がしが使えることもあり、魔法の使い方やその場の機転でこれまでは乗り越えてきたが、相手がこういう風に小細工を利用しないで力を極めた相手には分がワリい。
ましてや、魔力も何も篭っていない単純なパンチやケリの空振りだけで、衝撃波を飛ばしたりその場の地形を変えたりするような規格外が相手じゃな。
「ふわふわランダムレーザーッ!」
死角という死角から、一斉に放つレーザーの乱れ撃ち。回避不能のこの技は……
「我の表皮は貫けぬぞ? 仮に多少抉ったとしても、この身は不死のヴァンパイアであることも忘れるなッ!」
レーザーの連射が足止めにもならねえ。
月光眼の絶対防御も使わず、あえて俺の攻撃を受けてやがる。
多少皮膚に傷ついたところで構わず突進してくる。
「うおおおおおおお、極大ビーム警棒ッ!」
「懲りぬ男だな。ちゃんと狙うが良い」
なら、抉れねえなら叩き潰してやる! かき集めた魔力を警棒に伝わらせ、直径数十メートルの巨大な柱みてーな魔力の棒を力任せに叩き潰―――
「がっ! ……う、おおおおおおっ! っ、う、腕がッ!」
全身がしびれるほどの手ごたえを感じた。ヴェンバイの脳天目掛けて強烈な一撃を。
だが、全身に伝わった痺れはやがて、俺の右腕の肘を粉砕……骨が……折れてやがる!
ヴェンバイは? 多少頭蓋から青い血が流れているものの、かすり傷程度……マジかよッ!
「そういえば、貴公の技、相手を高速で前後に揺さぶる技……月光眼で応用すれば、我にも出来るだろう……こんな風にな!」
ふわふわパニック! 引力と斥力を交互に切り替えて、俺が前後に激しく揺さぶら……
「がっ、ふ、ふわふわエスケープッ!」
アブねえ! あと一瞬遅れたら意識が完全に遠のくところだった! ヴェンバイの月光眼の射程から緊急脱出でなんとか避けられた……がっ!
「どこへ行く? 弩級魔王からは逃げられぬぞ?」
「んの! は、速すぎるッ!」
さっきまで俺の視界に写っていたはずのヴェンバイが一瞬で消え、突風が駆け抜けたと思ったら俺の背後に……
「さらに、魔力の塊を飛ばしたりする程度なら、我にも出来る。こんな風にな」
そう言って、ヴェンバイはデコピンをするように中指を親指に添えて……
「魔指弾ッ!」
弾いた! 飛んでくる。これは、強靭な握力を誇るバスティスタが指を弾くだけで、空気の弾丸を飛ばしたのと同じ! いや、それをヴェンバイのこの巨大な体で、更に魔力まで上乗せして撃ったら……
「ぶほあっ!」
内臓が潰れ……口から飛び散りそうなほど……
「げはっ! が、は、ぐ、あ、がっ!」
「ちなみに、我も連射が可能だ。ソレ、そら、ほらっ!」
弾丸なんてレベルじゃねえ! もはや、大砲だ! こんなの一撃だけでとんでもねえダメージくらっちまう!
しかも、速くて、連射できて……ダメだ、全部回避なんて不可能だ!
「ぐっ、な、なろ………全部弾き飛ばしてやらァ! ふわふわビッグバンッ!」
「おや、またその技か。段々、ネタ切れしてきたのではないか?」
襲い掛かる大砲全てをかき消すように、ビッグバンを起こして相殺させる。さらには、その衝撃波を利用してワザと俺も吹き飛ばされることで、ヴェンバイから距離を……
「どこへ行く?」
「んなっ!」
「仮にも弩級魔王に喧嘩を売ったのだろう? 買い手が満足するように尽くすのが礼儀ではないか?」
と思ったら、衝撃波でふっとばされて距離を取ろうとした俺の飛ばされた先には、既にヴェンバイが回りこんでいやがった!
そして、ヴェンバイはまるでバレーボールのアタックをするかのように……
「後で、存分に治療を受けるが良い。多少の後遺症が残っても、覇王が大きくなるための授業料と思え!」
パチンと、鼓膜が破れるほど大きく乾いた音が響いた。
魔道兵装で身体の力を大幅に上げ、かき集めるだけかき集めた魔力の壁も気流の壁も、何の意味も持たない。
この全身を粉々にするような威力は……あれだ……あの時と同じ……修学旅行で崖下に転落したときと同じ、痛みを通り越して痛覚すらなくなるような……
「がっ……ァ……あぐ……」
意識を一瞬で飛ばされなかったのは奇跡に近い。多分、ヴェンバイが俺を殺さないように絶妙の手加減をしたのも理由の一つなんだろうが……あの巨大な豪腕で叩かれて、海に叩きつけられて、全身が痙攣したかのように身動きが取れずに、纏っていた魔力すらも全て吹き飛ばされた……
「つ……えー……」
ただただ、強すぎる。
「ふむ……、こんなところか」
これでも、まだ本気じゃねえってのかよ。
「がっ、は……こ、こんなバケモン……ッ、ど、どうやって……たたかえば……いい、ってんだよ」
これが、弩級魔王ヴェンバイ。魔族大陸最強の魔王。
【あとがき】
昨日も紹介しましたが、新作書いてみました!!!!
運よく小説家になろうの日間ハイファンタジーランキング3位までいけちゃいました。
ご興味ありましたら是非に!!!!
『冗談で口説いたら攫われた大魔王~知らなかった? 女勇者たちからは逃げられないよ』
https://ncode.syosetu.com/n1660hv/
よろしくお願いします。
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