第636話 認めている

 雲を掻き集めた? まずい! 俺はそういった天候やらの知識はねえが、この手は確かにクロニアとの戦いでやられたことだ!

 こいつもまた、器用にとんでもねえことをやりやがる。


「ふわふわ乱気流! 雷の流れを変えてやるッ!」

「ふははははははは、最愛の妻の力が雷なだけに良い反応だな。こっちもそうかな?」


 雷の直撃を防いだかと思えば、今度は……氷塊?


「降り注げ大氷雨ッ! 天の恵みを凶兆と変えて!」


 氷の雨? あられ? いや、もっと規模のデカい氷の塊が次から次へと降り注いできやがる!


「ふわふわマシンガンレーザーッ!」


 威力ではなく、とにかく連射! 降り注ぐ氷塊すべてを撃ち抜く、息もつかせぬレーザーの連射だ。


「粘るではないか。では、氷の世界から一気に、氷河の時代にまで引き上げてくれようか?」

「ッ!」

「吹き荒れよ、瞬間風速計測不能の大暴風!」

 

 今度はハリケーンかよッ! 俺が生み出した気流の流れの全てをかき消すほどの暴風まで。こんなの巻き込まれたら一たまりもねえぞ?


「そう、二つの属性を同時に放つ、合成魔法。氷河の大暴風……ブリザード・オーバーロードッ!」


 猛吹雪! 白い世界が一面を覆って……まずい! 飲み込まれたら氷漬け……戦闘不能……ならッ!


「雲ごと吹き飛ばすッ! ふわふわ極大レーザーッ!」


 人間の力でどうにかできるようなものではない、桁違いの天変地異。

 だが、そういうものは根本から絶つ! レーザーで雲を消滅させるッ!


「……そういえば、クロニアの天候魔法と戦った時も、そうやって雲を飛ばしていたな……。便利なものだな、連射も射出も自由自在で詠唱も必要のない力……それに、迷いもなく的確な判断だ」


 危なかった……雲を吹き飛ばして太陽が再び顔をだしたことで、天変地異が消え去った……は~、死ぬかと思った……


「ま~な……それに、俺は雷やら氷やらには敏感に反応する体になってるんだよな。家庭の事情でな!」


 俺に同じ手は通用しねえ。舐めんじゃねえぞと俺も口に笑みを浮かべるも……


「ほっとしている場合か?」

「ッ!」

「我が月光眼の引力で引き寄せるものが、雲だけと思うなよ?」


 今度は熱い? かなりの上空まで来たから太陽に近づいて……? いや、んなバカな! むしろ上空まで来たら普通は寒くなるはず。

 なら、何で熱くなっている?


「…………あっ……」


 もう一度俺が空を見上げた。

 暗黒の雲を消し飛ばして青空と太陽を取り戻したと思ったら、その空の向こうから、小規模だが…………岩の塊……いや、……


「メテオディープインパクト」

「隕石かよおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 それは確かに使えるけど! でも、まさか使ってくるとは……くそ、俺も甘いぜ! 相手に舐めプしやがってと言いつつ、心のどこかで殺されはしねえだろうなんて甘えていた! 恥ずかしいぜ。

 そしてヴェンバイもまた、ある程度の力を見せても本気で俺を殺す気まではない。この隕石だって、『これぐらい何とかしてみろ』と言わんばかりの笑みを浮かべている。

 なら、何とかしてやるよッ!


「ありったけの魔力を掻き集めて、圧縮して、一気に爆発させるッ! 砕け散りやがれッ! ふわふわビッグバンッ!」

「……ほう……」


 直径どれぐらいくらいか測る余裕もないほど目前まで迫っていた隕石を、収束した魔力を一気に爆発させて打ち砕く。

 俺自身も光で視界が遮られ、爆風で吹き飛ばされる威力だが……手ごたえありだ! 砕いた! 

 ゆっくりと目を開けると、砕かれた大きな隕石の破片が海へと落下していっている。


「へへ、どーよ……俺も、ただ小さいだけの馬鹿でもねえだろ?」


 かなり焦って疲れたが、俺はひきつった笑みを浮かべてヴェンバイに言ってやった。


「流石だな。四獅天亜人や七大魔王たちともそれなりに戦って修羅場を潜ってきているだけはある。実際、七大魔王のチロタンを倒したのも、貴公だったな」

「けっ、そ~んな昔の武勇伝、俺もチーちゃんも今さらどうとも思ってねえよ。過去の栄光に浸るほど、俺も老いぼれちゃいないからな」


 に対して、ヴェンバイは「お利口さん」と子供を褒めているかのように、笑みを浮かべて拍手していた。


「そうか……。だが、貴公は一つ勘違いをしている」

「あ?」

「我は貴公を舐めてなどいない。とうに認めている。貴公がクロニアと戦った時に放った輝きを見た時からな」

「ああ、そうかい。だが、テメエはテメエで勘違いしているぞ? こんな状況で言われても嬉しくねえよ」


 ヴェンバイが言っている、俺を認めているという言葉。この男に限ってリップサービスなんてつもりはねーんだろう。

 だが、それはあくまで「相手を下に見ている余裕から生まれる」、そんな感じで認めているに過ぎない。

 認めるって言葉にだって、ピンからキリまであるんだ。そんな余裕ぶっこいた表情で認めているなんて言われても、響かねえよ!


「贅沢な男め。あくまで、貴公が満足する状況下で認められなければ気が済まぬか。だが、そのギラついた眼光は迷いがなく……更に猛っている……か。貴公も変なところで妥協しない男だな」


 舐められたまま認められても……そう思ったときだった!


「だが、貴公もまた、少々我を舐めているのではないか? 魔法の引き剥がしやら、月光眼対策やら魔力の収束圧縮解放やら……そもそもそんなもので、この我をどうにかできるという次元の話ではないということを!」


 ヴェンバイの気迫が、更にあがった! 


「何度も言うぞ。我は貴公を舐めてなどいない。それでもなぜ我が笑っているのかというと、それは余裕ではない! 魔王の座に慢心し、うぬぼれているからでもない!」


 宙に浮いてなければ、尻餅つくほど圧倒的に!


「ただ貪欲に高みを目指すものにとって、自分を脅かすかもしれぬ未知の可能性ほど、心が躍ってしまうもの! 武神イーサムもそうであろう? そして日常では王として、支配し管理する立場ゆえに個を主張できぬこの身と心を、一時でもしがらみを忘れて解放することができることもまた、我の今の喜びの一つなり!」


 ……へっ……とんだストレス解消に付き合わされているもんだぜ……だが、やるしかねーってことには変わりねえ。

 とは言ったものの、どーしたもんか。

 こういうとき、前世のコンビニで立ち読みした漫画とかだと、魔道兵装2やら3とかになって髪形が変化して強くなったりするもんだが、そういう変化の兆しは無い。

 俺にできることはただ、ふわふわビッグバン並みにかき集めた魔力。大気に存在する魔力をかき集められるだけかき集めて、それを力に変えてこいつに立ち向かうだけだ。

 すると、その時……


「……ん?」


 ヴェンバイが何かに気付いて、視線を俺から逸らした。


「ほう、近づいてきているな……あやつら……一……その背中に、二、三、四、五……噂をすればだな。ラクシャサが絡んでいることで、居ても立っても居られずに現れるか。だが、驚いたな。この気配、あやつとも合流している。あやつも我に情報を流した手前、事の成り行きを気にして見届けに来たか…………もしくは、未来の夫をその目で見に来たか……」


 なんだ? 俺も思わずつられてその方角を見るが、水平線の果てまで海といくつかの島ぐらいしか見えない。


「ふん、あやつらの立ち位置がどちらにつくかは分からないが……とりあえず、あの愉快な仲間たちの存在で緊迫した空気が壊される前に、まずはこの一対一を今のうちに堪能しておくか。なあ? ヴェルト・ジーハよ!」


 どういうことだ? 誰かがこっちに近づいてきているのか? 俺の感知や視力ではまだ何も分からない。

 敵か? ラクシャサの味方か? だが、どういうわけか、ヴェンバイはやけに上機嫌なのが気になるが、それ以上はヴェンバイも言わず、再び猛って俺へ向かって飛んできやがった。



【あとがき】

昨日も紹介しましたが、新作書いてみました!!!!

運よく小説家になろうの日間ハイファンタジーランキング3位までいけちゃいました。

ご興味ありましたら是非に!!!!



『冗談で口説いたら攫われた大魔王~知らなかった? 女勇者たちからは逃げられないよ』

https://ncode.syosetu.com/n1660hv/



よろしくお願いします。

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