第635話 超魔王の小手調べ

「くくくくく、ふはははははは! 滾るぞ! 沸き立つぞ! 荒ぶるぞ? 少し乱暴になるが、大丈夫か? ヴェルト・ジーハよ!」


「だいじょばなくても、大丈夫ッて言っちまうのが、男の本能だろうが」


「よかろうっ! ならば、死に物狂いで耐え忍ぶがよい! 万が一でもこの我を力で屈服させようものなら、貴公の望み通り、ラクシャサたちの身柄は貴公に預けよう!」


「へっ、人に王としての在り方云々語ってたわりには、そういうところは決断がいいじゃねえか」


「そうでもない。我は貴公のように何事も公私混同で判断する政治など、恐ろしくてできんからな」


「俺程度の公私混同の何が悪い! 本当に悪い公私混同ってのは、市民の血税や政治資金を横領したりして、私物を経費で購入したり、領収書の人数や金額をごまかしたり、公用車を私物化したり、温泉旅館で会議したりするようなことを言うんだよ!」


「ははははは、そいつは確かにたまらんな」



 パワーとかスピードとか魔力とか中二病の目とか、正直脅威なのはそんなところじゃねえ。

 思えば、イーサムも、ユーバメンシュことママンも、カイレというあのバーさんも、そしてキシンだってそう。

『こいつら』は、ただ訳もなく、あらゆるものが不公平と思えるほど規格外すぎるんだ。

 こっちがどれだけとっておきをぶつけても、こいつらは笑って力づくで正面から打ち破りそうな空気を常に放っている。

 だからこそ、こいつらは最強と呼ばれた。

 そして、だからこそ、何の遠慮も必要ねえ。


「いくぜ、ふわふわ空気爆弾!」


 ジャレンガがラクシャサにやられたように、月光眼対策は既に俺だってある程度分かっている。

 例えば、目つぶし!

 目に見えない圧縮した空気をヴェンバイの眼前で爆発させてからの……


「からの~、ふわふわドリルインパクトッ!」


 のっけから、百合竜の鱗を突き破ったドリル状レーザー光線で先手必勝。

 螺旋を描いた魔力の巨大な渦がヴェンバイの胴体を……


「相変わらず器用なことをするな。だが……それで貫けると思ったか?」


 硬いッ! 俺のドリルレーザーが、先端部分が僅かにヴェンバイの胴体に突き刺さっただけで、回転が腹筋で止まっちまった!


「おいおいおいおい! 百合竜の宝石鱗を突き破ったってのに、てんでダメか?」

「ふん。宝石は確かに希少価値は高いものだが……忘れたか? 我は世界において二つとない唯一無二の存在であるということを!」


 ヴェンバイが更に腹筋に力を入れた瞬間、俺の放ったドリルレーザーが折れて砕け散った。

 今度は向こうからか? 何で来る? 魔法? 体術? 月光眼?



「魔道兵装・ふわふわ革命ッ!」


「革命家というものは、失敗すればただの愚か者になるということを覚えておくのだな」


「ッ!」



 ヴェンバイがアッパーをするかのように、下から上へと拳を突き上げた。

 俺の全身に突風が! 俺の体が浮いて……違うッ! 激しい衝撃波のようなもので俺がはるか上空に吹き飛ばされている!

 さっきまで、俺の四方には、ヴェンバイが月光眼で左右に割ったコバルトブルーの深海の壁に囲まれた世界だったのに、気付けば俺は何回転しているかも分からない状態で上空まで飛ばされて、気付けば空に居た。


「おえええ、気持ちワリ……目ェ回った……しっかし、何つうやつだ……」


 アッパーで俺を殴るのではなく、その拳圧だけで上空までふっとばしやがった。

 魔道兵装状態でなければ、体が今の拳圧だけで砕け散っていたかもしれねえ。

 そして何よりも、空気の流れで相手の動きを先読みして被弾を避けることを得意としている俺が、来ると分かっていた攻撃に対して反応が遅れた。

 あの図体で、なんつうスピードだよ。


「あの場であのまま戦うと、ヤシャまで相手にせねばならんからな。そうなると……流石に加減がうまくいかずに、『間違い』が起こってしまうのでな。だが、この空の上なら誰の邪魔もないぞ? それとも、降伏するか? ヴェルト・ジーハ」


 巨大な蝙蝠の翼を羽ばたかせ、ヴェンバイがゆっくりと海の中から空へと飛んできた。

 その笑みは、ワルガキをこらしめる大人の態度が見て取れた。

 俺はまだまだガキ扱い……そりゃ対等扱いはされねえか……でも、そういう大人がガキを見下すような目は、俺には逆効果なんだけどな!


「降伏? ざけんなよ。そういうものに反逆することこそ―――」

「貴公の生きる道なのだろう? 分かっていたとも」

「ッ……か~、舐めてくれちゃってよお! 見てろよ、すぐに度肝を抜いてやるよッ!」


 もう一度俺から仕掛けてやる。月光眼には気を付けながら周囲を高速で飛び回り、ヴェンバイにヒットアンドアウェイで中距離から攻撃を仕掛けつつ、隙を作っ――


「と言いつつ、接近戦を避けて、スピードで撹乱しながら離れた距離から戦うのか? 意外とオーソドックスな戦法を使うものなのだな」

「んなっ!」


 なんで! 俺が速度を上げようとした瞬間、俺の真正面にヴェンバイが現れてその行く手を遮った! は……速いッ!


「ただデカいだけで動きがとろい様なデクの棒が、最強などと呼ばれていると思ったか?」


 こいつ、さっきのアッパーといい、スピードもとんでもねえ! それに、ただでさえスピードがある上に、こいつの一歩は俺にとっては十歩ぐらい。簡単に回り込まれる!


「では、今度はこちらからもやらせてもらおう!」


 来るッ! ヴェンバイの全身に禍々しく巨大な魔力が漲り、瘴気に包まれた巨大な両手を俺に向けて伸ばした。

 この魔力、ラクシャサとは比べ物にならねえほど強大ッ!


「邪悪魔法・ネガティブ連鎖チェイン!」


 魔法? 攻撃? 炎とか雷とかそういう類のものじゃねえ。邪悪魔法? アルテアとかが使う、よく分からんけど凄そうな分野の魔法!

 効果は? 黒い靄が俺の世界を包み込んで……



―――パッパ……パッパ!



 暗黒の世界に現れたのは……コスモスッ? なんでここに? しかも、なんでそんなふくれっ面で……



―――べ~っだ! パッパなんてもう大嫌いなんだから!



 ッ! コスモス! 何が……



―――お兄ちゃん……僕はもう……お兄ちゃんの弟なんてウンザリだ。今日から他人だ


―――殿……もう、ついていけないでござる。今日より、拙者お暇を戴きたく申し上げます


―――にいちゃんなんて、どこにでもいっちゃえばいいんだから!



 ラガイア! ムサシ! ハナビッ!

 ……なるほど、こういう魔法か……



―――ヴェルト君。今日から私、アルーシャ・ジーハは、元のアルーシャ・アークラインに戻ることにするわ。君となんて離婚よ!


「普通にイラっとするぜ! ふわふわキャストオフッ!」



 暗黒の靄の塊を引きはがして消し飛ばすッ!

 靄の晴れた世界が一変して青空の下、俺の目の前には笑みを浮かべるヴェンバイ。


「ちょっと泣きそうになったが、こんな精神攻撃で今さらダメになるかよ! コスモス、ラガイア、ムサシ、ハナビが俺に、あんなことを言うなんて世界が崩壊したってありえねえからな」

「ああ、それほどの絆で結ばれていることも知っている。だが、少し遅いぞ?」


 ……? 空気が……ピリピリしている? なんだ? 静電気?


「戦場で相手から数秒目を離すことは死に直結するぞ? ……と言っても、これは戦争ではなく喧嘩とやらなのだがな」


 巨大な音が聞こえる。何かが、何かが近づいて……ッ!

 俺が思わず空を見上げたら……


「って!」


 さっきまでは青空が広がる太陽の下で戦っていたはずなのに、いつの間にか太陽が黒い雲に覆われている。

 なんで?


「クロニアの天候魔法と同じようなもの。引力を操ることで、このようなことも可能ッ! 黒き積乱雲から発せられる爆発的なエナジーに我が魔力を加えることで降り注ぐ……爆雷ッ!」





【あとがき】

昨日も紹介しましたが、新作書いてみました!!!!

運よく小説家になろうの日間ハイファンタジーランキング3位までいけちゃいました。

ご興味ありましたら是非に!!!!



『冗談で口説いたら攫われた大魔王~知らなかった? 女勇者たちからは逃げられないよ』

https://ncode.syosetu.com/n1660hv/



よろしくお願いします。

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