第617話 自然と共闘

 凄いとか、でかいとか、何だコリャとか、色々思うけど、真っ先に思ったのは『気持ち悪い』ってことだ。

 一つの胴体からウジャウジャと伸びる無数のドラゴンの首は、思わずゾッとしちまうくらい奇怪なものだった。


「…………使い魔融合……そんなことも出来るだなんて……」

「クソ紋章眼なら解析して同じことできるんだろ? こっちも何かテキトーに融合させるか?」

「いや……無理ですよ、ファルガ王子。そもそも強制融合はまだしも、使い魔契約は相手の同意なしにはできませんから……」


 だがしかし、これだけ規格外のバケモノが現れて、島の漁師や同乗している黒服たちが腰抜かして呆然としている中で、俺たちだけはそこまででもなかった。

 そりゃ、このバケモノが強くてヤバイことなんて一目見りゃ分かるし、ナメてるわけでもねえ。

 ただ……


「バーツ……どう見る?」

「厄介なのは間違いねえよ。でもさ、なんか……ああいうの、もう慣れちまったからな……」


 バーツとシャウトも苦笑しながら現れた化け物『アナンタ』とかいうものを見上げていた。

 そう、正直な話、ジーゴク魔王国との戦いとか、カラクリモンスターとか、ゴッドジラアとかと戦ってた俺らからすれば、ああいう怪獣的なものは正直、『またか』という気持ちになってしまう。

 だからこそ、ビビッたり慌てたりすることもなく、『じゃあ、こいつをどうする?』と即座に考えることができた。


「あは、……あははははははははははは! 何ソレ! 面白くなくない? まさか、そんなもので生物としての格があがったつもり? それがラクシャサさんの奥の手? なんだか凄いガッカリじゃない? 底辺の下級種がいくら集まったってさ~ちょっとやかましくなるくらいだよ!」


 で、こいつにいたっては実の父親等が規格外ゆえに、普通に高笑いしながら巨大で禍々しいヴァンパイアドラゴンの姿へと竜化して、早速、怪獣大決戦の幕を開けやがった。


「おい、ジャレンガッ!」

「あははははははははは! 調子が悪いヴェルトくんは残ったら? ここはさ~、僕がちょっと虐殺してくるからさ♪」


 巨大な翼を羽ばたかせ、狂気に染まった笑みを浮かべたヴァンパイアドラゴン・ジャレンガが飛ぶ。

 すると……


「単純にクソ大暴れするだけじゃ、島も潰れちまう」

「ええ。単純に倒すだけではダメです、ジャレンガ王子」

「それに、何だかんだでアレは相当強いですからね」

「ここは、俺らでやろうじゃねえか」


 その背中に許可なく飛び乗る四人。

 ファルガ、ロア、シャウト、バーツだ。


「はあ? なになになに? 僕の背中に乗るとか何考えてんの? ねえ、調子乗ってる? ねえ、殺しちゃうよ?」

「広い心で許してください、ジャレンガ王子。だって、僕はあなたの親戚ですよ?」

「クソ忌々しいがな……」

「それを言うなら、俺とシャウトはあんたの義弟の幼馴染だしな」

「そういうことですね」


 それは、ジャレンガ自身は物凄く不愉快そうな顔をしているものの、どこか自然に見えた。

 『物凄く気分が悪い』という気持ちなんだろうが、結局ジャレンガは四人を背中に乗せたまま、アナンタに突っ込んでいく。

 ラクシャサの魔法の効果で戦えそうにない俺はその姿を見送りながら、こういう状況で真っ先に『血が滾る』とか言って飛び出すはずのイーサムがニヤニヤしながらみんなの姿を見守っていることに気づき、首をかしげた。


「おい、イーサム、どうしたんだよ?」


 何で笑ってるんだ? という疑問に対し、イーサムはいつもの「武人」というより、「じいちゃん」みたいな表情で笑っていた。


「ぬははははははははは、文句を言いながらも、何だか普通に戦う奴らだと思っての~」

「はあ?」

「たとえ、和睦や休戦協定が成されたとしても、半年前なら想像できんかっただろう? 勇者たちが魔族の王族の背に飛び乗って、ぶつくさ言いながらも戦うというのは。ましてや、婿よ。今、おぬしが参戦しておらんというのにじゃ」


 その時、今更ながら俺もようやく気づいた。

 これまで、俺は色んな種族の奴らと、その壁を気にせず戦ってきた。

 そしてあいつらも、『俺が戦いに参戦できない』という状況でも、普通に一緒に戦っていることを。


「くくくくく、ああいう粋がっている若造たちが、どんどん新しい光景をジジイに見せてくれるのじゃ。あんまりでしゃばらん方が良さそうだのう。じゃから…………」


 ああやってどんどん昔の関係や常識を超えて戦おうとする若者の活躍の場を奪うのはよろしくない。それがイーサムが飛び出さなかった理由だった。

 でも、だからこそ……


「じゃからこそ、太古の遺物の老兵は……ケツの拭き残しを次代のために拭いておくことが役目。そう思わんか? ラクシャサよ」


 だからこそ、ラクシャサは別だ。何十年も前から世界の裏で暗躍し続けてきた魔王が、ようやく変わった世界でいきなり現れて何かをやらかそうとしている。

 イーサムからすれば、「余計なことはするな」と言いたいのだろう。



「………………………………………………」


「のう、おぬしは一体何をしようとしているのじゃ? 今更、雌同士でイチャつける国を作るや、原始時代の魔王を復活させるなど、多様な種族を巻き込んで何をしようとしている? おぬし自身の本当の願いはなんじゃ?」


「………………………………………………」



 イーサムは聞く。余計なことはするなと言いながらも、それでも何かをやろうとしているラクシャサ。その目的は本当になんなのかと。何が、ラクシャサの願いなのかと。

 だが、ラクシャサは何も語らない。何も言おうとしない。語り合おうとする気配がまるで感じない。


「ぬははははは、相変わらず、ノリ悪し。ましてや、おぬしは戦で語り合うということもせん者じゃ。ほんと~に、いやな奴じゃの~。…………じゃがっ!」


 語り合うことも、ぶつけ合うこともしないラクシャサの存在は、生粋の武人であるイーサムにとっては心が惹かれる存在ではないことは明白。だが、それでもこの場は何もしないというわけにもいかない。



「それでもワシらの時代からの拭き残しは拭き残しッ! それが害になるというのなら、子や孫の世のために、ワシはおぬしを討ち取らんといけんのうっ!」


「………………………」


「くく、ここまで言ってもダメならば、とりあえず噛んだら少しは良い声を出すのかのう!」


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