第615話 第二ラウンド

 いくつもの漁船が島の周りでドラゴンと攻防を繰り広げている。


「おお、結構危なかったみたいだな」

「でも、良かったです。ちゃんと間に合って。ヴェルトくんの魔法のおかげだね」

「あ~あ、ドラゴンがハエのように群がっちゃって、見ていて不愉快じゃない?」

「ふん、やるもんだな、愚弟」

「ぐわははははははは、だからこそ、ロア王子もジャレンガもファルガ王もそろそろ活躍せんとのう。無論、炎轟のバーツと風閃のシャウトものう」


 島には決して上陸させてなるものかと、島に残った漁師たちが少ない戦力ながらも銛を投げ、網を投げ、果敢に挑んでいる。

 そんな中で、俺たちの援軍は奴らにとっては正に光だっただろう。

 俺たちの姿を視界に入れた漁師たちが、歯を食いしばった表情から一気に希望に満ちた表情へと変わったからだ。


「援軍だーッ! カブーキタウンのみんなが、来てくれたぞーっ!」

「こんなに早く、船を返しに堂々と来てくれやがって!」


 さあ、さっきの続きだ! 不完全燃焼でモヤモヤした俺たちは正に、寸止めでお預け食らったようなもんだ。

 今度こそすべてを出し切るためにも、俺たちは吠えた!


「っしゃああっ行くぞーっ! 蹴散らせーっ!」


 そして、正直なところ、油断さえしなければ既に勝負は明白だ。


「おらァ! どけどけどけーッ!」

「道を空けやがれーーッ!」

「手当たり次第に大砲ぶちはなってやれーッ!」

「兄さんたちの援護だッ! 俺らもプロ根性見せるぜ、野郎ども!」


 いくら何百匹の強力なドラゴンが襲い掛かろうと、こっちは全員で立ち向かう必要はない。

 メインの攻撃は俺らでやって、他の連中はサポートしてくれりゃいい。

 先の戦いで、連中の実力は既に分かっている。

 深海族も忍者集団もどういうわけか今は居ない。奴らの余計な茶々にさえ気を付ければ、今この場にいるドラゴンに、ジャレンガみてーな規格外の奴はいない。

 警戒するのはクラスメートの百合竜二匹。その二匹の実力も、大体分かっている。

 だからこそ、油断だけをしないように、瞬殺する。


「ふわふわドリルインパクトッ!」

「エルファーシア流槍術・イブニングシャワー」

「アハハハハハハ! 下等な飛竜風情が僕の相手になると思っているの? 月光眼で散らしてあげるよ!」


 蹴散らす。寄せ付けねえ。このメンツの火力で押して押して押しまくる。


「シャウト、バーツ、二人は念のため、海上で防衛している漁師さんたちの船に向かってくれ。海に落ちている人が居るなら、その救護に」

「了解しました。ロア王子は?」

「とりあえず……僕は、空を覆う影を晴らしてきます」


 十分だった。最強のイーサムが出るまでもなく、ドラゴンの群れだけならば、俺、ファルガ、ロア、ジャレンガだけで十分に蹴散らせた。

 こうなってくると、敵が何か他に罠を仕掛けていないかどうかだが、さっきみたいに伏兵みたいなのが出てくる気配はない。

 案の定、サバス島を襲撃するドラゴンたちを率いている百合竜たちも……


「くっそ……こいつら……どこまでも邪魔を……」

「トリバちゃん、私たちも行くしかないよ! 下級種の飛竜だけじゃ、何百匹居ても勝負にならない。ここは、私たちが……」

「分かってる! 邪魔男どもなんかに、止められてたまるか!」

「ようやく、ようやく前世から引き裂かれた私たちが、今度こそって時に……邪魔はさせない、朝倉君ッ!」


 連中にとって、俺たちがこんなに早くに来たことは予想外というのは間違いない。

 慌てているのも間違いない。


「さっさと来やがれ、今度こそケリをつけてやるよ」


 無意味にドラゴンたちを戦わせても仕方ないと判断したのか、百合竜二匹が早々に前へ出てきやがった。

 好都合だ。逆に返り討ちにしてやるまでだ。

 そう思っていた。

 だが、イケイケ状態だった俺たちの中で、唯一イーサムだけは珍しく渋い顔をしていた。


「にしても……解せんのう……本当に暗殺ギルドや深海族は出てこんのか? 連中に何かあったか?」


 何かがあった? そういや、こいつらはさっきの戦いでは『何か』があったから急遽退散したんだよな。

 そう……どこかの国が動き出したとか……


「はっ? 関係なくない? ナメたマネをしたんだから、当然全員死刑でしょ?」

「当初は女性たちの救出が目的でしたが、新たなる国の建国や、古の魔王の復活、更にはチェーンマイル王国領土のサバス島の襲撃、到底看過できるものではありません。何が待ち受けていようと、今は手を緩めるわけにはいきません!」


 そう叫ぶのはジャレンガにロア。想いは両極端なものの、まあ、そういうことだ

 どちらにせよ、サバス島を守るには、このまま戦うしかない。


「朝倉アアアッ!」

「私たちの邪魔をしないでよ、朝倉君ッ! 見せてあげるんだから、私たちの力をッ!」


 来た! 百合竜二匹! 上空から宝石の礫の雨を次々と振らせて来る。

 あんなもん、頭に当たったら、頭が割れちまう。勿体ないところではあるが、全部返品だ。


「ふわふわクーリングオフッ!」

「「いっ!」」


 飛ばされた宝石の雨を全部包み込んで即返品。

 同じ硬度の宝石でできた奴らの鱗とぶつかって、奴らの宝石の皮膚に亀裂が走っていく。


「ッ、あ、朝倉~~~ッ!」

「いっ、たい……そんな……今まで、どんな魔法も攻撃も跳ね返してきた私たちの体が!」


 ドラゴンの姿でも、苦虫をつぶした顔ってのは分かるもんだ。

 悔しそうに俺を睨む二人のクラスメートに、俺は言ってやった。


「二匹揃えば四獅天亜人クラスって話だったが、そうでもなさそうだな。それとも、なんか奥の手があるのか?」


 奥の手があるならさっさと出しやがれと挑発してやった。もっとも、そんな奥の手を出そうとした瞬間に勝負を決める。

 今、サルトビが居ないなら、今度は変わり身の術なんかで回避は不可能。

 両の翼を新技レーザーで撃ち抜くまでだ。

 すると……


「どうして……どうして、邪魔すんのよ、朝倉……」

「は? 何言ってんだよ、テメエらがアホなことやらかしたんだろ? えっと……真中つかさと、矢島りこ……だっけ?」

「ッ! 朝倉……私たちのことを……」

「いや。覚えてねえよ。とりあえず、巨乳とチビ女っていう情報だけは知ってるけど、そこまでだ」


 話に入るか? それならそれでいい。メンドクせーが、こいつらはただぶっ飛ばせばいいっていう敵じゃねえからだ。

 どっちにしろ、話は付けなくちゃいけない。だから、無駄な抵抗をしないのなら、それに越したことはねえ。

 ジャレンガあたりはブーイングだろうが、これは特別なことだから。


「朝倉……言ったでしょ? 私たちは女を攫ったんじゃない。救出したんだって。それともあんたは、女たちを無理やりもう一度歓楽街へと連れて帰ると言うの?」

「それはテメエらの勝手な決めつけだろうが。それが女たちにとって良かったかどうかは、一度フルチェンコと話をさせたらどうだ?」

「そう? 確かに私たちも最初は無理やりだったかもしれないけど、彼女たちもほんの少し私たちや、ボス……そして、あの方の話を聞いてくれたら、全て納得してくれるはず」


 どこからそんな自信が来るんだ? だが、トリバはどこか確信しているかのような言い方だ。洗脳でもする気か?

 だが、問題は現時点ではそれだけじゃなくなっている。


「つっても、それはそれとして、さっきロアも言ってたけど、どっちにしろいきなり変な国を作るとか、昔の魔王を復活させるとか、そういう問題もあるだろうが」

「はあ? 先に勝手に自分の都合のいいような世界にしたのは、あんたでしょうが!」

「だからテメエもテメエの都合のいい国を作ろうってか? お互い、世界にとっては迷惑極まりない存在だな」


 そして、問題全てをどうにかするなら、結局のところ元凶まで行きつかなきゃならねえ。

 そのためには……


「おい、テメエらのボス……ラクシャサに会わせろ。話をさせろ」

「ッ! あ……あんた……ボスを……」

「サバス島を襲ってたのも、サバトとかいう異常な何かをやろうとしていたんだろ? 同性愛がしたい奴らは勝手にすりゃいいが、そういうものまでは見過ごすのも立場上できねーんでな。それを攫った女たちに強制でさせようとしているなら、尚更だ」


 どうやら、俺が……というより、俺たちがラクシャサの存在を認識していたのは予想外だったようだ。向こうも驚いている。

 だが、同時に強く首を振った。


「無理よ。ボスは今……リリイ同盟全戦力を集結させ、戦争の準備中。そして、新たなる同志となる女の子たちと話をしているところ……」


 ……なに? 新たなる同志となる女と話……それはカブーキタウンから攫った女たちのことなんだろうが、その前にこいつは今なんて言った?

 戦争?


「戦争の準備……だと?」

「ええ、そうよ。そして、私たちの同志となることを自分の意思で決めた子たちには、一緒に戦ってもらう……サバトで魔女の力を得てからね」


 戦争? バカな。半年前にとてもメンドクサイことや、人生の墓場に入ってまで終わらせたってのに、また何かやらかそうっていうのか?

 しかも、これだけ一癖も二癖もありそうな奴らが、一体、どこの誰と戦おうっていうんだ?

 ロアやイーサムたちも、心当たりがないと首を横に振っている。

 じゃあ、誰が……



「……………………願いを叶えるため…………」



 その時だった。


「おっ!」

「ぬっ?……ほほう、大将がもったいぶらずに出てきおって」


 空間が陽炎のように揺らいで、何もなかった空間から誰かが出てきた。



 それこそが、あの魔王だった。







――あとがき――

お世話になっております。

以前紹介した【小説家になろう】で、書いてる新作が日間ハイファンタジー1位を取りました。


まだ読まれていない方がいらっしゃいましたら、是非に!



『戦犯勇者の弟妹は100倍パワーの超人魔戦士~人類に家族の責任を取らされて追放されてるけど、弟妹の方が勇者より才能あるけどいいの? いらないなら魔王軍がもらいます』


https://ncode.syosetu.com/n3457ht/



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