第609話 男の子だもん
俺は、平静を全面に押し出してクロニアに近づいた。
クロニアは両手を広げて目を瞑り、ちょっと頬を赤らめて無防備を強調。
俺は目の前まで近づき、視線を下に。そこにはヒラヒラとしたクロニアのミニスカ。
「あ~、ヴェルトくんや。あんまりバッと勢いよくやられるのもアレなんで、ゆっくりでいーですかい? ちょち、恥ずかしいもんで揉んで」
「ふん、くだらねえ恥じらいだ……まあ、別に勢いよくやっても、ゆっくりやっても、かわ、か、か、……コホン、俺は変わらねえけどな」
「じゃあさ、屈んでくれるかのう。他の人には見えないよう、ちょびっと、ね? ちょびっとめくる感じでよろしいかいな?」
「お、おう……ゆっくりな……」
言われるままに、俺はクロニアの目の前で屈んだ。
その瞬間、俺の目の前には真っ白いクロニアの太ももとスカートの裾の境目……あとちょっとこのスカートをめくれば……
「あん、ちょ、これこれ、ヴェルトくん。ふ、太ももに息があたってるぜい? まさか、君は興奮してルンルン?」
「ばっ、して、ふう、し、してねーし、ちょ、別にこんなのなんてことねーし」
大丈夫だ。俺は、そこいらの奴らとは違うほどの経験値を積んできた。たかがクロニアのミニスカートを目の前でめくるぐらいで動揺したりなんてしねえ。
別にこの太ももに顔を埋めてえとか、そんなことねえし、このスカート……
「ゴクッ……じゃあ、め、めくるぞ?」
俺は人差し指と親指でクロニアのスカートの裾をつまむ。クロニアは、小さくコクリと頷いて、俺はゆっくりとソレを引き上げ―――――
「魔忍法体術・零距離真空膝蹴り」
「ッッッッッッ!」
あ、頭を捕まれ、膝蹴りが鼻にッ!
「ぐぬお、ぐあああああああああああああああああああああああっ!」
いっ、いてえ! なんか目の端で火花が飛んだような、も、モロに! いてえ! 涙が出るッ!
「……リモコン様……今……もし、オレがクナイで頚動脈を切っていれば、死んでいましたよ? まあ、その場合はあなたの反応も変わっていたでしょうが……」
「がっ、て、テメエ! だましやがっ……って、テメエ、なんで元の姿に戻ってるんだよッ! スカートめくっていいんじゃなかっ……」
「………ふう~………男の子ですね、リモコン様……」
あ、呆れたような溜息ッ! こ、この女……騙しやがっ……の……やろう……
「なあ、シャウト……さっき俺らにあんなこと言ってたのに、ヴェルトのやつ、何やってんだ?」
「……一応……フォルナ姫には内緒にしておこう、バーツ」
くそ、さっきまでイイ顔でギラついていたあいつらまで俺を呆れ顔で見てる……ちくしょうっ!
「テメエッ、ブチ殺すッ! もう勘弁ならねえ、どうなっても知らねえからなッ! グッチャグチャにしてやるよォッ!」
「変化卑猥の術! ……いや、ヴェルトくん、許してちょんまげ♪」
「ああああん? もう、騙されねえぞ、そんなツラしてももうダメだッ! つうか、そいつのツラでそういうこと言われるのが一番ムカつく! そのツラのままボコボコにしてやるよっ!」
「んも~う、も~う、牛さんだモ~。それじゃあ、こいつで許してくんしゃい、はい、チラリ……純白の白ですぜ~」
「はうっ! あ………あ………お、おお……」
もう一度クロニアになったサルトビ。ウインクテヘペロ顔で、ほんの一瞬だけスカートを自分でパッと捲り上げてすぐ降ろした。でも、ほんの一瞬だったけど確かに……
「リモコン様…………」
「はっ! ご、ご、こ、て、このや、ろ~……」
気づけば、元の姿に戻ったサルトビが、頭を抑えて「やれやれ」と呆れた様子……なんだろう……この気持ちは……
「分かりましたか、リモコン様? 百合竜様の言葉を訂正するなら、確かにあなたの愛は本物です。強く重く揺るがない。しかし……妻も娘も居るのに、他の女にも劣情を抱く……それがリモコン様、あなたたち男というものです」
「…………い、いやそれは……」
ヤバイ……否定するはずが、否定できねえ……
「でも、オレはそんなことはしない。愛する者、ただ一人を生涯愛し続ける。それは、あなたの妻であるフォルナ姫たちのような愛。オレは、男の体を手にしたならば、そんな愛し方のできる、真の男になりたいと思っている。そして……いつの日か、『ボス』と……」
その時だった。顔こそ見えないが、ハットリの言葉に熱が篭っていた。
それは、フォルナたちが愛を語っている時のような強い想いを感じる。
「……真の男になりたいって……お前、そう言いながら……恋する乙女の桃色の空気が………」
「さあ、リモコン様、雑談はこれまでにしましょう。オレはオレの任務を果たすため、あなたを倒しましょう。確かにあなたはオレより強い。しかし、オレがあなたより強くなる必要はない。何故なら……やり方を問わずに、勝てばそれでいいのだから」
くそ……ダメだな……ペースを握らせずに、俺たちのペースに持ち込んで押せ押せで行くつもりだったのに、どうにもペースが掴めねえ。
多分、まともに戦えば負けないだろう。でも、まともに戦うことができねえ。
強くなる必要はない。どんな手段を使っても負けなければいい。正に、こいつの言っている通り、俺はこいつにペースを狂わされている。
こんなやつ、どうやって戦えばいいんだか……めんどくせー……
「ちっ、クソが……来るなら来やがれッ!」
「さあ、もっと凄いのをあなたに披露しましょうッ!」
だが、……
「――――――――ッ!」
「ん?」
その時だった。
「…………報告が遅くなり申し訳ございません………はい、……はい、難儀な状況です……」
急に、サルトビの動きが止まった。
そして、何か独り言のようにブツブツと呟き出した。しかし、今はサルトビの横には誰も居ない。
じゃあ、誰と話しているんだ?
「しかし、ボス……今、この場で敵の人数を減らさなければ、『サバト』に邪魔が入ります……それに、今、オレの目の前には、あのリモコン様が居ます。この方の身柄を抑えれば後々……いえ、侮ってはいませんが……はい……そうですが…………はい……はい……」
……テレパシーか? そして、ボス? こいつらの黒幕か?
「…………『あの国』の刺客がこちらに向かっている? ……ボスの動向がバレたのでしょうか? ……分かりました、祠の防衛に努めます」
何を話しているのかは分からない。だが、サルトビはどこか残念そうな顔を浮かべながら俺を見て……
「残念ですが、時間です。リモコン様……」
「あっ?」
「……オレたちは、この場から退散させて頂きます……」
……なに? か、帰る?
「って、ちょっと待てコラァ! いきなり喧嘩売ってきたくせに、帰るだと? 何を勝手なことを言ってやがる!」
この女、これだけのことをしておいて、何をサラッと帰るとか言い出してんだよ。予想外すぎて普通にビックリしちまったじゃねえかよ。
だが……
「残念ながら、オレに意思などないのです」
「はあ? なにを……ん?」
その時だった。すると、その時だった。
サルトビの足元に、小さな魔法陣のようなものが浮かび上がり、その光に包まれていく。
これは……
「な、なんだ?」
しかも、それはサルトビだけじゃねえ。
「ちょお、マジかい! いま、あたいはスゲー楽しんでんのに、あたいもかよっ!」
「す……スラ……もうやら……おうち帰るスラ……あんな……おええ、気持ち悪い……ガタガタブルブル……あんなのされたら、頭が絶対バカになる……死んじゃうスラ……」
ヤシャ、ドラゴン、深海族……っておいおい、何があった? スライム娘たちが物凄いおびえた顔してるんだけど。
って、そんなんどうでもいいか。あいつらまで、足元に魔法陣が?
「なんじゃ、ようやくワシの体も温まってきたのに……水をさされたの~」
「ちょお、俺っちのソフトハード触手なエロ妄想はこれからだってのに!」
「はあ? え? なになになになに? 僕にこれだけのことをして、逃げる気? 帰る気? 何それ?」
「ちょ、僕はまだまだ気持ちよくなりたいんだな! これで帰るなんてひどいんだな!」
「ロア王子、あれはっ……まさか!」
「ああ。間違いない! これは、召喚魔法陣ッ! しかも、全員に? バカな、一体誰がこれほど大規模なことを……?」
それは、魔法陣が出現して僅か数十秒足らずのことだった。
「ま、待ちやがれ、テメエらッ!」
「……ご無礼をお許しください、リモコン様。ですが………」
「サルトビッ!」
「今度はもっとすごいことをして、ボスやオレたちを驚かせてください」
一体何が起こったのかと、周りがざわつく中で、俺たちに強烈なインパクトを与えた女たちは勝手に消えた。
さっきまでの争いが嘘だったかのように、海も空も穏やかで静かな世界を取り戻し、俺たちはしばらく呆然としたままだった。
結局何が何だか分からないまま、俺たちには不完全にモヤモヤさせられた空気だけが残っていた。
だが、そんな中で……
「ふん……魔女を……契約したオナゴたちを自由自在に召喚する魔法か…………やはり『あやつ』が絡んでおったか……」
目の前で好敵手とやりあっていたのに、不完全燃焼状態で終わらされたはずだというのに、イーサムはどういうわけかニタリと笑っていた。
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