第608話 証明する

「ぐっ……やはりか……偽りの姿に捕われることなく……己を貫く……さすがです、リモコン様」

「あたりめーだろうが。つうか、今の俺は嫁たちの暴虐ぶりに腹立ってるから、いつも以上に容赦ねえぞ?」

「……なるほど……では、このように……変化の術! パッパ~、いじめるのやめてよ~、コスモスのこと嫌いに―――」

「ふわふわキャストオフッ!」


 これは殴れねえ。絶対に殴れねえ。だって、コスモスの姿なら偽者といえど殴れるはずがねえ。

 でも、こうすれば解決できる。

 変化の術なんてどうせ魔力使った幻術だろ? だったら、それをこうして引っぺがせば元の姿に戻る。

 そして何よりも……


「おい、人を試すにも限度があるぜ? コスモスの姿に化けてどうこうしようとか……マジでテメエどうなるか分かってるんだろうな?」

「ふ……ふふふ……ほら、想いは本物ですね……」


 やっていいことと悪いことがある。

 そのことを理解しているのか理解していないのか分からないが、サルトビのそれは、俺にとっちゃ、やってはいけないことだ。

 いい加減、この女にこれ以上付き合うことも不愉快になってくる。

 だから、もう、終わらせてやる。


「サルトビ……ハットリの後輩だか弟子だかよく分からねえが、遊びはこれで終いだ。もう……終わらせてやるよ」


 恐らく、こいつにも奥の手や、まだ強力な術もあるんだろう。

 だが、俺とこいつじゃ相性が悪い。

 こいつのやり方じゃ、俺の首は落とせねえ。

 すると、サルトビは……


「しかし、あなたの愛は本物でも、男であることには変わりない」

「あっ?」

「確かに、オレの技や術、戦闘ではあなたには勝てない。しかし、あなた自身は男。それは変えることのできない事実……ならば、こういうのはどうでしょうか?」


 あっ? 男だから? それが何かあるのか?

 それで俺をどうにか……



「変化の術! クロニア・ボルバルディエだぜい、ヴェルトくん! こんにちワンダフルッ!」



 …………そう来たか…………。

 変化の術の発動により、煙で自分の姿を包み隠し、その煙が晴れたとき、中から現れたのはあの女。

 最終決戦の時と同じ、黒いヘソ出しタンクトップに、ホットパンツ。

 豪快に強調した胸は、何となく視線を向けてしまう。

 でも……


「残念だったな。俺はその女を殴れるぜ? つか、半年前にもボコったしな。でも、それ以前に、俺がふわふわキャストオフすりゃ、直ぐにその変化だって―――」


 別に殴れる殴れないなんて関係無しに、今すぐ俺がふわふわキャストオフさせすりゃ、クロニアに化けた姿なんてすぐに引っぺがせる。

 そう……思っていた……


「~からの~……」


 しかし、その時、クロニアの姿をしたサルトビが笑った。どこか妖しく。

 そして……



「魔忍法・卑猥の術ッ!」


「………………なっ………………………………にっ?」



 その時、俺は目を疑った。

 そして、思考と動きが完全に停止しちまった。

 なぜなら、変化の術から追加で発動させたサルトビの術。それは、クロニアの衣服のみを変えたもの。

 それは、今でさえ露出の激しいクロニアの服装に対し、「卑猥」と名づけたくせに、むしろ露出が減った、しかしそれはどこか懐かしい服。


「女子高生の制服……?」

「どうでい? ハットリくんに教えてもらった、コスチュームってやつだぜい」

「あいつ……なにやってんだ……まあ、アルテアも学生服広めたりと、同じことしたけどよ」


 それは、ローファー、ミニスカート、シャツ、ブレザーを纏ったクロニア……?

 ……なんで?



「いっくぜい、ヴェルトくん! ほ~~~~、はいっ! チャラララッララ~♪」


「…………えっ……はっ? ちょ、ちょおお、おいっ!」



 その時だった。妙な歌を口ずさみながら、クロニアがブレザーを脱ぎ捨てた。

 そして、もったいぶるように、シャツのボタンに手をかけて、一つ一つゆっくりと外して……


「って、テメエは何をやってんだよッ!」

「チャラララッララ~♪ ん? 何をやっているかと来ましたかい、ヴェルトくん。決まってるンルンルン!」


 ちょ、み、谷間! ぶ、ブラの端っこ! レースの部分! あっ、もうちょい! くそ、見えな……じゃなくて、だから何で!



「そう~、チ~ラ~リ~ズ~ム? からの、ドッキドキな脱ぎ脱ぎサ~ビスタイム?」


「…………は………はあっ?」



 サルトビが、扇情的に、そして俺を挑発するかのように笑った……って、なんつうくだらねえことを!

 そんな幻、今すぐ消してやる。



「アホかっ! そんなもんで俺がどうにかできると思ってんのかよっ! 俺にハニートラップは通用しねーんだよっ! そんなもん、今すぐふわふわキャストオフで―――」


「いいのかいヴェルトくんや~。この中身を君は気にならんのかい?」


「ッ!」



 俺がサルトビから変化の術を解除しようとした瞬間、クロニアがペロッと舌を出して、ただでさえ短い制服のミニスカートをほんの数センチだけ足を這わせるように、上へズラした。

 ッ、み、見え……見えない……あとちょいで見えるけど……見えない……


「し~……そんなビックリした声出さないで、周りに気づかれますぜ~、旦那」

「お、おう……」

「ま~、ほら、アレだ。…………記念に見てみんかい~?」


 ちょおおおっ! み、み見る? はっ? バカかこの女。見るって、クロニアのパンツか? 何を言ってんだ? 

 俺にハニートラップは通用しねーって言ってるのに、そんな俺に今更女のパンツ? 馬鹿が。中坊でもあるまいし、そんなのに俺が引っかかるかよ。


「ほれほれ、こ~い、かま~ん、ダイブこ~い……このスカートの裾を、君が掴んじゃっても、いいんじゃぞ? よいぞなよいぞな?」


 親指と人差し指で軽くスカートの裾を摘まんで、パタパタさせるクロニアッ! だから、見え、いや、見えないけど、ギリギリ見えねえけどさ、その、だから……


「ポチッとな」

「ッ!」

「それとも旦那は、コッチの方が良いでスカイ?」


 余っている指で、クロニアは今度はシャツのボタンを一つ外しッ! 

 つうか、こんなのクロニアじゃねえな! あいつはこんなことはゼッテー言わねえしよ。

 いや、神乃は前世じゃ幼児体型だったから、こんなセリフを言う姿なんて想像もできねーが、こんなワガママなボディを入手したクロニアだったら言うかもしれねえ。いや、言うだろうな。相手をからかうように、挑発して、そんで「やーいやーい、ひっかかりましたな~」とか言うに決まってる。

 そう、あいつは言うけど見せねえ! 本物のあいつは見せねえ。

 ん? 待てよ? でも、こいつはクロニアじゃなくてサルトビだ。で、体はクロニア。

 クロニアじゃなくて、サルトビだったら見せるんじゃねえのか? だって、卑猥の術とかって言ってるぐらいだから、パンツぐらいは見せるだろうし、下手すりゃもっと重要箇所だって見せるかもしれねえ。

 そうなった場合、俺は耐え切れるか? ならば、今すぐふわふわキャストオフで変化を解除するしかねえ。でも、解除したら、そっから先は? いや、待てよ。俺はハニートラップは通用しねえって言った。だったら、大丈夫だろう? むしろ証明しなくちゃいけねえ。それを証明するにはどうする?

 俺がハニートラップは通用しないと証明する方法は一つ。最後の最後までこの卑猥の術を使わせて、それでも俺はなんともないぜと言うことだ。そうすれば、俺の勝ちだ。そう、この勝負はどっちが強いとかそういうことじゃねえ。サルトビの最後の足掻きに付き合ってやって、それでも俺はなんともないことをアピールすれば、サルトビにはもう打つ手はない。そうなれば俺の完全勝利だ。

 だから……



「いいぜ、付き合ってやるよ、サルトビ。そして知りな。そんなくだらねえ手を使ったって、俺は何も変わらねえ。スカートめくるかって? 別にめくったって何てことはねえぜ? やってやるよ」


「………うおっと、そういう言い訳きましたかい? いや~、おぬしもやらし~の~?」


「ち、ちげーし! やらしいのは否定しねーけど、そんなもんで俺をどうにかできるほど甘くねえって証明してやるために、あえてテメエの策に乗ってるだけだし!」


「にゃははのは……しゃーないですの~、では、カマ~~~~ン」



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