第581話 幕間・女子会最凶の後押し


「そうそう、私、前から気になってたんだけど、ムサシちゃんってヴェルトくんのこと大好きでしょ? ヴェルトくんだってムサシちゃんはなんか特別扱いしてるし」


「にゃにゃにゃ! サンヌ殿、お、奥方様の前で何を! そんなことはありま……い、いえ、拙者、殿に仕えるものとしてお慕い申すのは当然のことでございまするが、それは色恋を超越した想いにございまする!」


「だが、私たちが居ない間にヴェルトに一回抱かれたのだろう?」


「一回ではござらん! 合計で…………はうううっ、せ、拙者としたことが! う、ウラ殿、違うでござる、それにあれはエロスヴィッチ様の魔の手により拙者が壊れかけたことで、殿が救いの手を差し伸べて下さったに過ぎないでござる!」


「膝枕して頭なでてもらったり、ムサシちゃんに関してはむしろヴェルトくんの方からイチャイチャしてきてるよね」


「ペット殿、なぜそのような拗ねた表情をされるでござるか! そ、それに、い、イチャイチャではないでござる! あれは、殿がよくやってくださる、労いでござる!」


「よくやるんだ…………」



 そういえば、クレオ姫のことですっかりその話題が流されていましたわね。

 ヴェルトが、ついにムサシまで手篭めにしたということを。その話、言い訳も含めてまだなにも聞いていませんでしたわね。

 にしても、膝枕? 頭ナデナデ? そんなこと、ワタクシもされたことがありませんわ! ワタクシがされたいですわ!

 そしてなによりも「ヴェルトの方から?」とはどういうことですの!

 やはり、キッチリ確認する必要がありますわね。


「やれやれね」

「今夜な」

「立場を分からせてあげないとねえ」


 アルーシャ、ウラ、クレオ姫もどうやらワタクシと同じ気持ちのようですわね。

 ならば、今夜も四人で……



「でもいーじゃん、あのヴェルトくんは態度ハッキリしてんだしさ~、ロアよりマシじゃん。いや、マシかどうか分からないけどさ~」


「私、いつまでバーツと幼なじみなのかな……」


「私はどうなるのかな?」



 と、その前の今はこの三人でしたわね。勢いよく酒を飲み続けるヒューレ、そして同調するサンヌにホーク。

 この三人の想い人に関する問題でしたわね。



「ねえ、それじゃあさ~……ひっぐ、フォルナたちはさ~、どうすればあのバカが私のことを好きになってくれると思う?」


「もう、いっそのことあなたの方から告白されては?」


「そしたら、あいつのお決まりのセリフ言って断るに決まってんじゃん! そうじゃなくて、あいつが私を好きになって欲しいの! フォルナとかどうやったの?」


「そうですわね………………ッ!」



 と、その時でしたわ。ヒューレの言葉にワタクシたちは思わぬことに気づいてしまいましたわ。


「あっ」

「ちっ」

「ふん」


 それは、アルーシャも、ウラも、クレオ姫も同じ。

 ワタクシたちは既に身も心もヴェルトと結ばれた夫婦。そこに間違いがありませんわ。

 そして、ワタクシたちはヴェルトに恋をし、愛し、そして結ばれた。

 一方で、ヴェルトは? ワタクシたちを愛してくれますわ。

 でも、ヴェルトはワタクシたちに恋をしては…………

 それなのに、どうやって結ばれた?


「ん? どーしたのよ、何かいいアドバイスないの?」


 ワタクシは、ヴェルトの情けにつけ込みましたわ。

 アルーシャは、無理矢理便乗しましたわ。

 ウラは、噂では家出してヴェルトを困らせて無理矢理プロポーズさせたとか。

 クレオ姫は、幻術で罠にはめて。

 ……こ、これでどんなアドバイスをしろと?



「そ、そうですわね。た、たまには一日だけ言うことを何でも聞く奴隷になったりするのはどうですの?」


「……穴を開けた避妊具を使わせて、一定の期間を置いた後、お腹をおさえながら子供が出来たと言うとか……」


「は、裸エプロンで、新婚さんごっことか…………」


「ノ……ノーパンで悩殺というのはどうかしら?」



 その時、ヒューレがものすごい軽蔑するような眼差しでワタクシたちを見ていましたわ。

 まるで参考にならないと言いたげに……



「やーれやれなーのだ~」


「「「「「ッッッッッ!」」」」」



 その時でしたわ。

 妖艶な声がこの部屋の外から聞こえてきましたわ。



「隣の部屋で、ファンレッドと宴会をやっていたら、何やら処女臭い話ばかり聞こえてきて耐え切れなかったのだ~」


「青臭い小便タレたちが、ギャーギャー騒いでたまらないねえ。防音している部屋の外まで聞こえてきたよ」



 こ、この二人で飲み会をなさっていた?

 そこに居たのは、全世界を震撼させるほどの二人の女傑。

 


「師匠! お母様ッ!」



 みな、思わず起立して固まってしまいましたわ。お酒も一瞬で抜けましたわ。

 まさか、ワタクシたちが盛り上がっていた隣の部屋で、『女王大将軍』と『淫獣女帝』が食事をしていたなんて予想もしていませんでしたわ。


「しかし、話は聞いたのだ、娘っ子ども。ヘタレ勇者共に困っているとな。ならば、ここは世界を支配したヴェルトを見事一夫多妻にした功労者たるわらわが、可愛い乙女たちのために一肌も二肌も脱ぎ脱ぎ脱いでやるのだ」


 そう言って、師匠はこの場にいたワタクシたち全員に怪しい瓶を。

 何やら怪しい色の液体が入ってますが……



「わらわが調合した薬なのだ。すごいぞ? これさえあれば、男は誰でもイーサムのごとき性欲を爆発させる! これ飲ませて襲ってやるのだ! 勃たぬなら、襲って泣かそう男の子。それがおぬしらに与える合言葉なのだ!」


「そうだねえ。そんなやつら、泣かしてやりな。今の私はただの訓練教官だが、今の女王陛下とは友達みたいなもんでねえ。あいつに言って、今晩起こる事件は全て無罪にするようにしてやるよ」



 な、なんとも、危ないような……し、しかし、頼もしいようなお言葉……しかし、あまりにも直球過ぎますわ。

 免疫のないサンヌたちが……あっ、でも何か決心したような顔をしていますわね。



「~~~~~、そ、そうよね。このままじゃ、あのバカと私は一生……ッ、なら! やってやろーじゃんか!」


「そ、そうだよ、あのヴェルトくんだって既成事実作ったら姫様たちと……なら」

 

「……これ飲ませて私が襲われたら……一応、私からってことにはならないから……いいのかな……って、私は何をッ!」



 どうやら、ヒューレもサンヌもホークもよっぽど追い詰められていたようですわね。

 まさかここで、彼女たちが乗るとは思いませんでしたわ。


「まあ、私たちは私たちで、師匠のこれは最早必需品だからな」

「そうね。いつも亜人大陸から取り寄せていたからね」

「まあ、昨晩は私も不覚を取ったけれど。今夜はそういうわけにはいかないわ」

「はあ、……私はいらないよ」

「ほら、ハウもそんなこと言わずに素直になる時ですわ」

「にゃああ! せ、拙者、もう、もうこんなのは口にしたくないでござる~! ペット殿にあげるでござる」

「い、いらない、いらないいらないから! だ、だから、わ、私がムサシちゃんの分も処分しておくね…………一応とっておこ…………」


 強力な後押しがあると、とてつもなく頼もしくなり勇気を与えてくれるもの。

 これまで溜まりに溜まった鬱憤を全て晴らすかの如くヒューレが叫び、皆一斉に店の外へ



「それじゃあ、さっそく行こうじゃない。今日は、ヴェルトくんは、兄さんたちと飲み会って言ってたわ」


「うん、バーツの家でやってるって!」


「ならば、そこへ向かいますわ!」



 我ら恋愛同盟は、むしろ夜はこれから始まるのだと気持ちを高ぶらせて師匠とお母様の声援を受け、目指すはバーツの実家の酒場。

 そこに居る、ロア王子たちとの決着をつけるため。

 




 そして、結論から言いますと、ワタクシたちは…………酒場で目にした光景に…………ブチ切れましたわ。

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