第580話 幕間・女子会恋バナ
「私は、小さい頃から姫様とヴェルトくんが一緒にいるところを見るのが大好きで憧れてたの。好きな人にべったりで、好きな人に堂々と好きって言える姫様に憧れて、そしてついに結ばれたのを見て、私も憧れてるばかりじゃなくて頑張ろうって……戦争も終わったんだから、バーツだって『色恋なんてやってる場合か!』なんて言わないと思って、頑張ったの……」
サンヌが幼い頃からバーツを好きなのは、バーツ以外には周知の事実。
正直、サンヌは可愛らしくて、誰にでも友好的だからとても人気があり、恋人を作ろうと思えば引く手数多ですわ。
しかし、そんな彼女が一途な恋を頑張ろうとする姿は誰もが応援したくなるほど健気なもの。
だからこそ、ワタクシも応援していますのに……
「私、あんまり料理したことないけど、頑張ったの! 朝早く起きて、栄養とか考えたり、冷めても味が落ちないように工夫したり、量を考えたり、胃にもたれないように味の濃さも調整して、そしてようやく作ったお弁当を、バーツに食べてもらったの! そしたら、……そしたら、う、うわあああああああん!」
サンヌも人目も憚らずに涙を流し……
「バーツったら、私のお弁当を食べたら、『今度から昼飯はトンコトゥラメーン屋で食べるから、弁当いらねえ。ヴェルトも腕上げて美味いし』…………って言ったんですよ~~~~! うわあああああああああああん」
………………ひ………………酷い……
「そ、それは、わ、笑えないわね」
「私でも泣くぞ」
「私なら殺すわね」
アルーシャもウラもクレオ姫も、当然ワタクシも、もはや完全に聞き手となり、ヒューレやサンヌの悲しい出来事に同情することしかできませんでしたわ。
「私はちょっと違うけど、ただ……もう少し自信持って行動して欲しいっていうのはあるかな」
「ホーク? ホークはシャウトと何かありましたの?」
「あったというより、無い……が正解です、姫様。シャウトくんは……シスターである私に遠慮している……と最初は思っていたのですけど、実際のところは照れて何もしてこないんだなと、最近分かりました」
あら、それは、そもそもの気持ちが届かないヒューレやサンヌとは違った悩み。
「私はシスターですから、生涯この身を神に捧げるものとして育ってきました。だから私はそれでいいと思っています。ですから、そんな私が誰かと恋に落ちるなら……そんな私を思いっきり奪い去ってくれるような人………その気もないのに、ウロチョロするのだけはやめてほしいです。迷惑ですから」
つまり、ホークはシスターであるからこそ、自分から進んで殿方を求めるようなことはできないと考えている。
だからこそ、シャウトが子供の頃から好きだったホークも、自ら積極的にはなれない。
そんなホークの恋をどうにかするのは、シャウト自身の行動によるもの。
しかし、シャウトは誰の目から見ても明らかにホークのことが好きですのに、未だに思い切った行動を取れずに、距離間を保ったまま手を出さない。
「あら、つまり、あのリベラル家のお坊ちゃんはヘタレってことかしら?」
「クレオ姫、身も蓋もないことを言ってはいけませんわ」
まあ、ようするにそういうことになるのかもしれませんわね。
にしても、自分が幸せ過ぎて気づきませんでしたが、みさなん色々と悩みが……
「ふ、ふふふふふふ……」
その時でしたわ!
「ペットちゃん?」
「ペット?」
急に妖しく笑い出した。ペット。思わずゾクッとしましたわ。
何故なら、引っ込み思案で大人しいペットがこれほど黒い瘴気のようなものを出すだなんて。
「ペット、どうしましたの?」
「あなた、随分と暗黒化が進んでいるわね」
誰もが寒気を感じてしまったペットの笑み。すると、ペットは顔を上げて語り始めましたわ。
「女性の気持ちが分からない……鈍感……行動をしない……ならばみなさんは、その条件を満たしていれば合格なんですか? この世には、気持ちを知ってるくせに、鋭いくせに、行動的なくせに……それでも、女の子を傷つける男の人だっているんですから……い、いるんですから~!」
ペットがこれほどまでに憎しみを込めて大きな声で話すのを初めて聞きましたわ!
そして、ペットの恋話なんてあまり聞いたことがありませんでしたわ。
何故なら、ペットが恋話をしようとすると、サンヌやホークたちがいつも顔を青ざめて話を中断していましたし。
「ペット、何やらとても傷つくことがあったようですわね。話してみなさい。あなたの友人として、あなたを傷つけた男をワタクシは決して許しませんもの!」
「姫様に相談できるわけないですよ~~~~! できないんです、私なんてもう、こんなんなんですから~!」
嗚咽混じりで泣き出すペット。どういうことですの! 一体、これほど良い子のペットをどこの誰が苦しめていますの! 許しませんわ! 必ずワタクシが見つけ出して……って、何故かサンヌとホークとクレオ姫だけは、あさっての方向を向いて、何かご存知なんですの?
すると、そんな状況の中でひとつのため息が聞こえてきましたわ。
「は~……世界でも名だたる方々が集まって、さっきからこんな話ばかり…………」
「ちょっ、ハウッ! そんな呆れた顔しないでくださいませ! 今宵は無礼講の場。淑女が揃えば話題の内容は、殿方との恋話になるのは必然ではありませんの!」
「……私は、公式の場でも姫様が恋話をしていた記憶も多いのでなんとも」
「なっ! で、では、あなたはどうですの! あなただって、好きな人ぐらい居るのではありませんの?」
そういえば、ペット以上にハウの恋愛話は聞きませんわね。まあ、ハウが普段からあまりこのような場には出席しないことも多く、常にクールで近寄りがたい雰囲気を出しているのもありますが。
「私にその手の話はありませんよ。それに、恋人とか夫婦とか、そんなのになって何が変わるんですか?」
「いっぱい変わりますわ! 好きな人と結ばれたのでしたら最早、天にも上るかのよう! もう、なんでもしてあげたくなってしまいますわ! そして、なんでも言うことを聞いてしまいますの! 時折、動物のように激しく淫らに交じり合い、絶頂に達した瞬間に貪るように唇を重ねた瞬間、激しく体が痙攣して……」
「は~~~…………あいつに買ってもらった青いリボンを自慢していた可愛らしい姫様が、随分と淫らに……」
本当にハウはこの手の話にはノってきませんわね。というより、謎ですわね。
今度、お父上のプルンチット将軍に聞いて見たほうがよろしいかもしれませんわね。
ただ、その時、ハウがほんの僅かに頬を緩めて……
「そうですね、姫様。私はそういったことにあまり興味がないというよりは……ただ、距離詰めて、飽きられたり喧嘩したり失望されたりして距離が離れるぐらいなら、一生安定した距離から見ていられる片思いとかの方が私はいいというだけかもしれませんね」
この時、誰もが思ったことでしょう。「恋してるじゃねーですの!」と。
「でも、姫様は私や友人よりも、旦那の浮気を心配するなら、むしろソッチを気にしたほうがいいのではないですか?」
「えっ?」
皆の注目がハウに向けられた瞬間、ハウはその視線を逸らすために、皆に次の注目を指しましたわ。
それは…………
「こ、このような美味しい料理を、拙者のような身分の低い者が……拙者はなんと果報者でござるか……へっ?」
さっきからワタクシたちの会話に一切入らずに、出された料理を幸せそうに食べるムサシ。
そ、そうでしたわね。この子は、ヴェルトのお気に入りでしたわね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます