第579話 幕間・女子会

「お待ちしておりました、フォルナ姫様」

「ええ。急に大人数で申し訳ございませんわね」

「いえいえ。いつもひいきにして頂いてますので」


 王都の中でも格式高い居住区にある高級レストラン。

 一人分のフルコースの価格は、最低でもトンコトゥラメーン屋の百倍ほど。

 ワタクシたち王族貴族がよく利用する特別な空間。

 店内に入るには正装が義務付けられ、完璧なマナーを身につけた黒服に案内され、店内は派手過ぎず、しかし質素過ぎずない調和の取れた落ち着いた空間であり、更に案内された部屋は美しい星空とその下に広がる王都の明かりが灯された風景を背景にした一室。

 一度くらい、ヴェルトとここでゆっくりと語り合いたいと子供の頃から思っていましたわ。

 ですが、今日の席は、ワタクシの「愛」のためではなく、「友情」のため。

 再会した宿敵……というより、旧友含め、幼馴染や戦友たちと女子だけで飲み語らう日。

 本来であればヴェルトと肌を触れ合いたいところですが、とりあえず昨晩ヴェルト成分はそれなりに補給しましたし、抜けがけしそうな方々もこの場に出席していることもありますので、今宵は友情を選ぶということで、ワタクシはテーブルに笑顔でつきましたわ。


「へ~、なんかすごいとこだね~。私、フォルナの旦那が居る、なんとかラメーン屋でもよかったんだけどね」


 さっそく台無しなことを言うのは、共に幾多の死地を乗り越えた戦友である、十勇者のヒューレ。

 いつもは露出の多い下着姿のような服ばかりですが、今日はパーティードレスという可愛らしい姿。

 ですが、普段も豪快に食事したりする彼女にとって、こういった店は「肩が凝って疲れそう」と漏れるのが、なんとも残念ですわ。


「ヒューレ、そういうこと言わないの。ここは、ロルバン帝国の伝説の『美食家ウミバラ』が認めた世界でも有数のシェフが腕を振るうお店よ? 本来であれば何ヶ月先も予約でいっぱいなのよ?」


 そんなヒューレを諌める、アルーシャ。


「そうだよね~、私たちも当日だと予約できないもんね」

「私も小さい頃はたまに来てましたけど、戦争終わってからは久しぶりです」

「サンヌとペットはお嬢様だからね。私なんて初めてよ。別世界だと思っていたし」

「姫様。いいんですか? ご馳走して戴いて」


 そして、この会に是非同席をとお呼びした、サンヌ、ペット、ホーク、ハウ。


「ふふ。まあまあの店ね。旦那の故郷にもこのような立派な店があるのなら、少しホッとしたわ。いつもいつも塩分過多のラメーンばかりだとどうしようかと思っていたから」


 昨晩より、最早他人ではなくなった、クレオ姫。


「私はエルファーシア王国に住んで七年になるが、初めてだな」


 盟友ウラ。


「あう~、せ、拙者のようなものが、このような格式高い場にいてよろしいでござるか~?」


 ヴェルトを守る護衛剣士及び監視員のムサシ。

 本来であれば、アルーシャやヴェルトの旧友である、妖精のフィアリもお招きするところでしたが、家に行ったら「彼氏尋問調教中♥誰も入るべからず」という札を目にし、やめましたわ。

 今日は、同世代の女性だけの無礼講の場。クレオ姫の「一応」の歓迎も込めた場を設けることとしましたの。

 



「でもさ~、私、その例のヴェルトくん? のことって、フォルナの自慢話以外ではあんま知らないんだよね~。話したのも数回だけだし。そんなにすごいの? フォルナ、アルーシャ、ウラ姫、そして今ではクレオ姫まででしょ?」


「私たちだけではないわ、ヒューレ。更に、エルジェラ皇女、アルテア姫、ユズリハ姫も忘れてはいけないわ」


「いや、アルーシャ、あんた言ってて気づかないの? どう考えたって異常でしょ? あんた、ほんとにそれでいいの?」


「仕方ないじゃない。強敵な彼を倒すには、多人数で襲いかかるしか方法がなかったのよ」



 流石はヒューレ。昔から思ったことは、相手の身分に関係なく真っ直ぐ聞いてきますわね。

 まあ、そう言った相手の顔色を伺わないところが、彼女のいいところであるのですけれど。

 でも、あまりワタクシたちの関係を「変」と言われ過ぎるのも気持ちのいいものではありま……というより、ペット。あなた、なぜしきりに頷いていますの?



「まあ、本来であれば私一人でも良かったんだけどな。そもそもヴェルトが十五歳の頃に旅に出ようとしなければ、私とヴェルトの二人でトンコトゥラメーン屋二号店を夫婦として切り盛りしていたのだからな。今の嫁たちとも出会うことなかったし、どーせ、フォルナたちも戦争で死んでたしな」


「お待ちなさい、ウラ! ワタクシがヴェルトを残して死ぬなどありえませんでしたわ! た、確かに、ヴェルトが助けに来なければ危うい場面もありましたが……」


「あまり不貞腐れないことね、ウラ姫。あのときあんなことがなければ……それを言ったらキリがないし、仮に言ってもいいのだとしたら、私なんて十年前にヴェルトにプロポーズされているしね」


「クレオ姫! そもそも、それは色々な勘違いですわ! だいたい、ヴェルトとの結婚の予約など、ワタクシは五歳のころからしていますのに!」



 前菜、スープ、次々と運ばれてくる料理を口に入れながらも、気づけば大きな声を出してワタクシたちは品が無い言い合いをしていましたわ。

 いくらこの部屋が防音の取れた個室とはいえ、ここまで騒いだのは初めてですわ。

 ですが、その声が途絶えることも小さくなることも終始ありませんでしたわ。



「は~、そうなんだ。なんか今までは、ヴェルトくんは、ただのスケベな女好きで、色んな女を口説きまくってる……的なことを考えてたけど。むしろ、口説かれて襲われてるのはヴェルトくんの方なんだ」


「「「「………………うっ…………」」」」


「にひひ~じゃあ~、昨晩はお楽しみだったとか~? 久々会えた旦那様に、四人がかりで~とか、そんなんだったり? あははは、な~んてね♪ さすがにそれはないっか!」


「「「「…………………………」」」」


「ちょっ! 否定しなさいよ、目線そらすんじゃないわよ、このドスケベ姫四人衆!」



 ド、ドスケ……ドスケ……、ちょ、そ、それはあんまりですわ!



「な、何を言いますの、ヒューレ! ワタクシがドスケベなど、侮辱もいいところですわ! ワタクシは、いやらしいヴェルトが喜ぶならとこの身を捧げていますのに。それに、愛する殿方と肌を重ねることの幸せと神聖さ知らないあなたに言われたくありませんわ」


「まったくよ。だいたい、そういうことが多いっていうことは、つまりそれだけ夫婦円満である証拠でしょ? それに、彼ってヤラしいけど自分の口からは中々そういうことを誘えないシャイなところがあるから、私たちの方から襲っ……求めているだけよ。兄さんのことを子供の頃からずっと好きだったのに、幼馴染から前進できない臆病なあなたと一緒にしないでよね」


「なんだ、十勇者の女。お前は勇ましそうな態度のくせに、そういうことはダメなのか。まあ、お前がそれでいいなら好きにすればいい。だが、ハッキリ言ってやる。男から家族として、娘のような、妹のような、幼なじみとかそんな目で見られているとしたら、何か強力な行動を起こさない限り一生そのままだぞ?」


「へえ、あの真・勇者ロアをねえ~。競争率激しそうな物件に目をつけたものねえ。それで? 私たちをドスケベ女と中傷するからには、あなた自身、相当参考になりそうな恋愛ストーリーがあるのでしょう? 教えてくれるかしら? ちなみに、肌の重ね合いをドスケベと言っているけど、あなたはどこまで進んでいるのかしら?」



 ワタクシ、アルーシャ、ウラ、クレオ姫の四連続カウンターですわ。


「うっ、うう、な、なによ~、全員揃って~」


 「そういう経験ないくせに」「自分はできないくせに」「今のままでは一生そのまま」「で、あなたはどうなの?」

 容赦ない言葉を浴びせられたヒューレは、とても悔しそうな表情で歯ぎしりをし、そしてついには……



「だって……だって~………………だって、あのバカ! ほんっと、人の気持ちを全然分かってないんだもん!」



 ついにヒューレは涙腺を決壊させて泣き叫んでしまいましたわ。


「キスどころか……手ェつないだことだって、子供の時以来ないわよ、こんちくしょーっ! どうしてよ! それっぽい雰囲気になりかけた時だってあったのよ? 私が目ェ閉じて唇近づけようとしたら、あいついきなり私の両肩掴んで私を引き剥がして『できない。君が穢れてしまうから』とか、この状況でそれ言うかよみたいなこと言ってんのよ?」


「それは単純に、あなたがロア王子に好かれてないだけじゃないの?」


「うっ! う、……うう~、しかも、しかも、この間なんてもっと最低なんだから! あいつ、急に執務室に私を呼び出して、『今日は王子でも勇者でもない。君の幼馴染のロアとして、君に言わなくちゃいけないことがあるんだ』みたいなこと言ってくっから、ひょっとして告白されるんじゃないかとドキドキして、『戦争が終わり、平和な時代がようやく始まろうとしている。だからこそ、僕にとってかけがえのない君は誰よりも幸せになって欲しいと思っている』なんて更に言ってくるわけ! そんで『アルーシャは、恋をして誰よりも幸せそうな表情になった。だから君も一人の女としての幸せを掴んでみないか?』で、キタアアアアっ! って思ったの。もうその時の私は表面では『んで? あんた何が言いたいの?』みたいな態度だったけど、もう心の中では『来い来い来い来い!』みたいな感じで、あいつが告った瞬間に受け入れる準備万端だったり、今日はどんなパンツ穿いてたっけとか考えたりして身構えたっつうのに、それが……それが……」



 もはや涙なしでは語れないヒューレの悲劇。それは、先ほど中傷されたワタクシたちでも同情せざるを得ないほどの悲劇。



「あいつってば、たくさんの男の名前が入ったリストを私に見せて! 『僕が、これはと思う方たちをここに記した。この中から、君の生涯のパートナー選んでみないか?』とかホザきやがったから、思いっきりぶん殴ってやったわよ、あのバカ勇者! ううう~~~、酒えええ! お酒ちょうだあああああい! うっ、ううう、うわああああああああああああん!」



 ……ふ、……不憫な人……


「ヒューレ。兄さんの妹として、あなたに心より謝罪するわ」

「なんだか……その……すまん。一生そのままとか言ったりして」

「わ、私も言葉が過ぎたわね」


 その悲劇は、アルーシャ、ウラ、クレオ姫すら引いてしまい、ヒューレに謝ってしまうほどのもの。

 愛するヴェルトと好きなように愛を確かめられるワタクシたちが、いかに恵まれているかが良く分かってしまいましたわ。

 すると、


「う、ううう、わ、分かるよ、ヒューレちゃん! 鈍感な男の人ってほんとダメだよね!」

「行動を起こしてくれない男の人ってダメね」


 涙ながら、テーブルを乗り越えてヒューレの手をガシッと握り締めるのは、サンヌとホーク。

 それは、同情ではなく、同調。その気持ちを理解できると言わんばかりに、何度も頷いていましたわ。






――あとがき――

たまには女子だけの会話も~



さて、こっちも少しずつ増えてきたんで、よろしくお願いしま~す。


【R18】異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと~

https://www.alphapolis.co.jp/novel/722145744/743637876


※解禁バージョン


まぁ、本格的に差別化されるのは、やはりエロスヴィッチが大仕事してから何ですけどね(笑)

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