第578話 恋愛を学ぶ

「つうか、ロアはよく分からねーけど、シャウトとバーツはガキの頃からあの二人と居て、さらに人類大連合軍で七年間もあいつらと一緒に居たんだろ? なんで今更なんだよ」


「いや、俺は人類大連合軍の頃は……強くなることしか考えてなかったしな」


「僕は……それなりに親しくなれたと思っているけど、君を見ていると僕のやっていることは、ママゴトのように思えてきて……」



 サンヌは幼なじみの中でもかなり可愛い部類に入るが、ハッキリ言ってガキの頃からバーツのことばかり見ているのは周知の事実だ。

 ホークも、シャウトと同じ優等生でクラスのまとめ役で、いつも二人で何かをやっていた印象がある。

 それを今になって、サンヌが訳わからねえ? ホークともっと仲良くなりたい? 俺はお前らが分からん。



「つってもなー。てか、お前ら三人とも、勇者なんだからモテモテだったんじゃねえの? ラブレターもらったりとか、告られたりとか、もっとあっただろうが。そこら辺はどうだったんだよ」


「確かに恋文などもらったりしたことはあるが、血に汚れた僕―――」


「馬鹿野郎! 多くの人が苦しみ悲しんでいるときに、人類に希望の光を照らすべき俺らが―――」


「そういった女性の気持ちは嬉しくもあったが、僕は―――」


「あ~、もういいや。お前ら三人、一生童貞でいろ。魔王に立ち向かえるくせに、女相手にビビりやがって」


「「「なんで!?」」」



 こいつら、超絶鈍感とか、奥手とかそういうレベルじゃねえ。

 言ってみれば、こいつら恋愛絡みに免疫や経験が無さすぎるんだ。



「もう、俺じゃなくて、フォルナに相談したら? あいつこそ、戦と恋を両立した、代表そのものじゃねえか。それこそ、そのヒューレとかいう女も、サンヌやホークとも仲が良いし」


「「「相談したら、怒られた」」」


「相談済みかよ! しかも、三人揃って!」



 情けねえ。つうか、だから人類大連合軍や光の十勇者なんか、キシン一人にボコボコにされたりしたんじゃねえのか?

 だがしかし、「だからこそ」とロアが身を乗り出した。


「だからこそ、君の意見や君の話を聞きたいんだ。君の経験上でこういうケースでは女性はどう思っていると思うか、仲直りしたり親しくなったりするのにどういうやり方があるのかなど、話を聞かせて欲しいんだ。正直、人類大連合軍での戦友たちも、こういう相談ができなくて困っていたんだ」


 中学生か! 思春期真っ只中か!

 つってもまあ、こいつらはそういう灰色で血みどろの青春時代を過ごしてきたのだから仕方ねえのかもしれねえ。

 で、そんなやつら相手に俺の経験を語るって言ってもなあ。


「やれやれだぜ。つうか、俺の話を参考にする? まあ、参考つっても俺の場合は………」


 さて、そんな中で、こいつらに対して俺はどうか?

 俺は手元にあったグラスの中身を一気に飲み干し、自分自身のことを思い返してみた。


「………ん?」


 俺の場合………


 フォルナ。十年以上前から単純に結婚を予約されていた。


 ウラ。恋愛飛び越えて、いきなり家族になって、なんやかんやで夫婦に。


 エルジェラ。事故があって出会った初日にコスモス出産。


 アルーシャ。ドサクサ。


 アルテア。ノリ。


 ユズリハ。おまけ。


 クレオ。勘違いの積み重ね。




「………………………………ッ!」



 その時、俺は気づいた。いや、思い出した。

 神族世界で、恋愛シミュレーションゲームをやっているときに気づいたこと。

 よくよく考えれば、俺自身も普通の恋愛なんてまるでしていないってことを。

 朝倉リューマの時だってそうだ。好きな女に告白して、恋人になって、そこからどういう接し方をしていくとかイマイチピンと来ない。

 甘酸っぱい恋愛ドラマのような積み重ねをしていない。

 俺の場合、出会って、なんやかんやで、気づけば夫婦というよく分からん法則………


「ヴェルトくん?」


 それに気づいたとき。偉そうな態度を振る舞いながらも、自分自身も経験不足なことに気づき、何だか急に微妙な気分になった。

 どうする、なんてアドバイスする? 告れ? いや、俺、よくよく考えたら告ったことがねえ。クロニアに言った言葉も、ヴェルト・ジーハとしてはノーカンな気もするし。

 ベッドに連れ込め? いや、今になって思うと、俺から女を連れ込んだ経験がねえ。ほとんど、誘惑されるか、強制される。

 

「どうしたんだよ、ヴェルト」

「ヴェルト、もったいぶらないで教えてくれないか?」


 そう、妻七人居ながら恋愛初心者? これじゃあ、俺も人のことが言えねえじゃねえか。

 このままじゃ俺もバカにされる。なら、どんなアドバイスを………



「ッ、そうだ! つまり、テメェら全員、そういう恋愛の機会が不足しているから、頭の中でうまくシミュレーションできねえってことだろ?」


「しみゅれーしょん?」


「なんか難しい言葉だな。ヴェルトがそんな頭よさそうな言葉使うだなんて」


「ヴェルト、では、そのしみゅれーしょんとやらは、どうやってやるんだい?」



 そう、その時、俺は気づいた。

 神族世界に行って、そのまま服のポケットにしまったままだった、向こうのストロベリーから借りパクしたもの。



「これだ! 恋愛シミュレーションゲーム・バクバク・メモリーズ・Ω、だ! これでちっとは女のことを勉強しな」



 ポカンとしながら、初めて手渡されたゲーム機に戸惑うロアたち。

 正直、俺もこのゲームを最初はバカにしていたが、なかなか奥が深いゲームだというのがやってみて分かっている。

 これなら、恋愛初心者にはうってつけの教材と言える。


「な、なんだい、この絵は。動いている? こんなの見たことないよ。これは、一体! とてつもない高度な技術を感じる………ッ、真理の紋章眼発動!」


 そして、ロアは、手渡された謎の物体を解析すべく、紋章眼………って、なんだよその能力の無駄遣いは!

 恋愛シミュレーションゲームを解析するのに、ファンタジーな魔眼を使うとか、もう眼が可哀想だろ。


「すごい。架空の世界に存在する女性との恋愛………こんな教材と技術がこの世に存在するだなんて。しかも、架空の世界の女性か。これなら、血に汚れた僕でも……」

「ほんとかよ! こんなちっこい平べったい物の中に居る女と恋愛? すげえ。これなら女が何考えてんのか、勉強になるな」

「素晴らしい。これほど高度なアイテムがあるなんて」


 そして、ついには恋愛シミュレーションゲームを全身震え上がらせながら大絶賛する勇者三人。

 シュールな光景だった………


「ん? なるほど………これはどうやら………同時に四名までの『ぷれいやー』が参加できるようだね。毎ターンずつ参加者同士でゲーム機を回し、共に競争したり、協力して『パラメーター』を上げたり、告白する女性が重複すしてしまった場合は戦いすらある。なんという奥の深いものなんだ」


 そして、俺の知らなかった機能まで明かされた。つか、一人用ゲームじゃなかったのな、それは。

 紋章眼でそんな機能まで解析したロアだが、そこで魔眼を閉じた。


「おっと、これ以上の解析は、選択肢の答えなどがわかってしまうから、フェアじゃないな。でも………大体分かった」


 そして、ロアはとても爽やかな笑みで俺たちに言う。

 普通ここまで爽やかな笑顔が似合うイケメンは、「遊びに行こうぜ」とか「甲子園を目指そうぜ」とか、そういう言葉が似合うはずなのに………


「よし、バーツ、シャウト、そしてヴェルトくん! 一緒にこのバクバク・メモリーズ・Ωをやろうじゃないか!」


 こんな爽やかなツラで「恋愛シミュレーションゲームやろうぜ」と来たもんだ。

 なんともまあ、笑える状況だったが、バーツとシャウトが断ることもなく、結局俺もこの場で一緒にやらされることになった。


 そして、俺たちは知らなかった。


 まさか、俺たちと関係ある女たちも、「女子会」を計画していたということを。

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