第570話 三面阿修羅


「ふふ、私は十年ぶりね。何だか、ガラにも無く緊張してきたわ、ねえ? あ・な・た」


「ッ、やめろ! 今から行くのは、エルファーシア王国なんだよ。突然消えた俺たちが帰った瞬間に、知らない女が俺の腕にまとわりついていたら、全員から睨まれる」


「……えっ、ヴェルトくん、そもそも君は睨まれないとでも思ってるの?」


「ぶ~、パッパから離れてよ~! パッパの隣、コスモス!」


「はう~、拙者、七人も奥方様がいらっしゃると、殿が拙者に寵愛を下さるのがいつになることやら……」


「で、言い訳は考えたのか? ヴェルト。俺は何も言えんぞ?」


「は~あ、僕の妹は八人目なのかな? ムカつくな~」


「……はあ……ほんと、お気楽なんで」


「うぇへへへへ………BL同人誌……なんという文化! これは、是非天空世界に広めねば!」


 

 まったく、全員他人事だと思って。

 だが、確かに言い訳を俺も考えねーとな。

 幸い、今は国に嫁は誰も居ないんだ。だから、その間にどうにかしねえとな。


「エルジェラ、ユズリハ、アルテアは多分大丈夫だろうな……」


 エルジェラはたまに嫉妬したりすることもあるが、やっぱりコスモスが居る分、他の嫁たちよりもどこか余裕がある。

 ユズリハは、噛み付いてくるけど、ディープキスでもしてエロ猫可愛がりすれば、多分ふにゃふにゃになって誤魔化せるはず。

 アルテアは、なんか爆笑して終わりそうだ。

 だから問題は……


「あの、三人だよな………」


 フォルナ、ウラ、アルーシャ。この三人は、ガチでキレる。

 だからこそ、誤魔化しに集中しなけりゃならねえのは、この三人だ。



「それじゃあ、行くよ。準備はいい? 転送先は、私たちが飛んだのと同じ座標に」



 準備は出来たかと尋ねるアイボリーに、俺たちは同時に頷き、そしてもう一度俺たちは振り返って、ホワイトやアイドル姫たちに手を振る。

 そして、「また会おう」と改めてみんな言っていた。



「それじゃあ、みんな、行くわ! ジャンプ発動!」



 そして、次の瞬間、眩い閃光が俺たちを包み込み、俺たちは何かに吸い込まれた。

 

 これで、神族世界とはおさらば。


 僅か二日間で何が出来たかというのもあるが、正直、色々なことがありすぎた。


 世界の真実や、クラスメートたちのこと。そして、それがあまりにも大きなことになり過ぎていて、簡単にどうにかなるようなものでもなかったということだ。


 正直、この世界の文化がどうとかの話は勝手にやっていろって感じだ。

 しかし、やがて俺たちの世界と交わる時や、その先にある世界の崩壊云々などを考えると、やはりこのままの別れというわけにはいかねえだろうな。


 まずは、みんなと相談でもして、神族世界についてどうするか一回考えねえとな。




「…………っ、まぶし! 一体何が…………アッ………」




 そして、そんなことを考えている間に、俺たちを包み込んだ光が落ち着いた途端、俺たちの視界には慣れ親しんだ光景が眼に映った。

 そこは、俺の帰る場所。


「兄ちゃん! コスモスッ!」

「ハナビッ!」


 良かった。どうやら問題なく帰ってこれたようだ。

 とんこつラーメン屋。まぎれもねえ、俺の家だ!



「ヴェルト! おお、バスティスタも、みんなも、無事だったのか!」


「マスター。心配をかけて申し訳ない」


「まったくだぜ! お前ら、急に消えちまうんだからよッ! 国中大騒ぎだったんだからよッ!」



 先生も居る。厨房から飛び出してきて、笑顔で俺たちの肩を何度も叩く。


「心配させたな、先生」

「まったくだ。だが、無事ならよかったよ」

「はは、ワリーワリー」


 たった二日とはいえ心配させたが、とにかく俺たちもこれで本当に、帰って来たって気になった。


「ふわ~~~、良かった~、帰ってこれた~」

「まあまあ、楽しかったのだ」

「だが、一安心ではあるな。さて、私はこの同人誌を部屋に帰って読まねば!」

「まあ、僕はもういいかな? あの世界はウルサイし? もう行きたくないかな?」

「えへへへ、ジージもただいま~!」

「なんか、こうして帰ってみると……何だか、夢みたいな世界だったんで」


 さっきまでのような、コンクリートジャングルと超最先端科学技術に満たされた世界から帰ってみると、色々と不思議な体験をした気分になるが、やはり元の世界のほうが落ち着くな。

 俺も、何だか肩の力が抜けた気がした。


「ヴェルトくん! ペット! それに、みんなも! 良かった、無事だったのね」

「まったく、心配させたね」

「ペット、よかった~!」

「うわ~~~~ん! ホークちゃん、ハウちゃん、サンヌちゃん! こわかったよ~、ヴェルトくんが最低だったよ~」


 おお、偶然店に来ていたのか、ホークたちも来ていたか。

 俺たちの無事な姿を見て、安堵の表情を見せていた。


「あの……その、それで……あの」

「おお、そうだったな、アイボリー。なあ、先生。ホーク。俺たちが消えたせいで取り残されちまった、こいつの仲間は今、どうしてる?」


 再会や帰還を喜ぶ皆の中で、気まずそうに尋ねてくるアイボリーを見て、アイボリーの仲間たちを思い出した。


「ああ、例の奴らは、とりあえず王宮に客として招かれているよ。まあ、怪我が酷くて、まだ治療を受けてるけどな」


 ああ、そういえばそうだった。

 あいつらが暴れて、俺たちが返り討ちにしてやったんだった。

 俺たちがこの二日間、神族世界を堪能している間、あいつらは寝たきりだったわけか。可愛そうに……


「まあ、無事なら良かったわ」

「だな。これで処刑でもされてようなら、どうしようかと思ったぜ」


 アイボリーも、とりあえず仲間たちの無事に安堵して、ホッと胸を撫で下ろした。

 これで心配事は何もなくなっ………



「本当ですわ! ようやく国に帰って来れましたのに、ヴェルトが居なくなったと言われたときは、ワタクシもどうしようかと思いましたわ!」



 ………………お………………おや?



「全くだ! 家に帰ったら、ハナビが泣きながら飛びついてきたんだぞ? 家族を心配させるとは、何事だ!」



 ……………あ…………………あれえ?



「まあ、いいじゃない、二人とも。こうして無事に帰ってきたわけだし。今は素直に、ちゃんと帰ってきた夫を広い心で迎え入れてあげましょう」



  ……………な…………………なにい?



「お、お前ら……なん……で……」



 そこには、予想もしない三人が居た。ニッコリと笑って。



「ふふ、ようやく仕事が一段落して、帰ってきましたわ、ヴェルト!」



 政務に追われて中々帰ることのできなかった妻が、満面の笑顔をしている。



「魔族大陸からここまで、本当に遠かったが、しかしようやく帰って来れたぞ、ヴェルト!」



 世界の果てから海を越え、遠くに行っていた妻が、少し涙目になっている。



「私も、帝国での政務や隊の引継ぎ等が無事に終わってね。兄さんやお父様とも相談し、これからは本格的に、君と同棲をして関係を深めたいと思ってね。でも、まずは半年振りね、ヴェルトくん」



 そして、「これからはずっと一緒よ」という笑顔の妻が……

 


「三面阿修羅……じゃなくって、いや、だけど……よ……よりにもよって!?」



 そう、フォルナ、ウラ、アルーシャの三人が居た。



「いや、ヴェルト……まあ、気持ちは分かるけど……ぷくくく……」



 ニートのツッコミには、どこか「同情」と「いい気味」な感情が混じっているようだった。



「あら、その三人が……『側室』かしら? あ・な・た?」


「「「……………はっ?」」」



 そして、ゴングが鳴った。





――あとがき――

お待ちかね、100話ぶりに登場の嫁! フォルナ、ウラ、アルーシャ! 感動の再会です!


この続き、20時にまた会いましょう(笑)


「勉強不足な魔法蹴撃士~勉強しながら最強の足腰で♥イロイロ♥学園無双」

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それまで暇ならこっちもよろしくお願い申し上げます。

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