第571話 (꒪ཫ꒪; )
「ニートくーーーん! 良かった、無事だったんですねー! も~う、彼女をほったらかしにして何を……って、この空気なんですか?」
店の扉が開き、小さな妖精フィアリが店内に入ってきた瞬間、俺は即座に反応した。
考える前に体が動き、気づけば店の外へと飛び出そうと、俺は扉へと走っていた。
ようするに、逃げ出したのだ。
「どちらへ行くつもりですの?」
しかし、回り込まれた! っていうか、フォルナ、何で普通に雷化してんだよ!
「もう、ヴェルトくんったら、そんなに慌ててどうしたの?」
そして、気づけば俺の足が床と同化しているかのように氷漬けにされている! っていうか、アルーシャ、何で普通に店内で氷魔法使ってるんだよ!
「私たちが急に現れたからビックリしただけだろう? 『さぷらいず』というやつだ。なあ? そうだろう? なあ? なあ? なあ? ヴェルト」
そして、回り込まれ、身動き取れなくなった俺の、首筋やら腕やら胸やらのツボみたいのを、ちょちょいと突かれた! っていうか、ウラ、お前のツボ押しの効果なのか、俺、魔法が発動しないんだけど!
「ヴェルト、皆さんの前であまりイチャイチャするのも恥ずかしいという気持ちは分かりますわ。ですが、ようやく帰ってきた妻に労いもないのはいただけませんわ」
「本当にね。中にはあの最終決戦以来、山のような激務や後処理に追われながらも、君と幸せになるためにという想いを心の支えにようやくここまで来た女も居るのよ?」
「半年でも数ヶ月でも数日でも同じ。家を離れた嫁が帰還したのだ。そんな私たちがお前からの息も苦しくなるような強い抱擁と、熱い口づけをどれだけ待ち望んでいる思っている?」
顔はニッコリと笑う妻三人。だが、それは数秒前の笑顔と違う。なんか、全身から黒っぽい何かが漂っている。
「困りますわ、ヴェルト。いくら恥ずかしいからといって、そんな風に逃げ出そうとしたり、そんな追い詰められた罪人のような表情をされては、何かワタクシたちに顔向けできないような何かをしたのではないかと疑ってしまいますわ」
「ふふふ、なんてね。いくら君がヴェルトくんとはいえ、妻が誰も傍に居ない期間がほんのちょっとできてしまっただけで、火遊びなんてしないわよね? こ~んなに可愛い妹さんや、純粋無垢な子供だって居る、パッパなのにね~?」
「そうだろうな。あの最終決戦でめでたく、身も心も結ばれ、それからも何度となく愛し合った私たちを裏切るマネをヴェルトはしないだろう」
裏切る気なんて欠片も無い。いや、無かった。俺の身に起こったことは、本当に悲劇だったんだ。
「あらあら、情けないわね。世界を制覇した男と聞いていたのだけれど、家庭の天下も取れないとはね」
そして、言葉を発せない俺の代わりに、一番黙っていて欲しい女、クレオが尊大な態度で割って入った。
その瞬間、ニコニコしていたはずの、フォルナ、アルーシャ、ウラの三人の笑顔が消え、絶対零度の冷たい表情に変わった。
「何者ですの?」
「初めて見るわね」
「貴様、名を名乗れ」
その時に見せた迫力といえばもう……
「にににに、兄ちゃん……寒いよ~、恐いよ~、ね、ねえちゃんたちどうしたの?」
「パッパ~、フォルナちゃんたち、お顔恐いよ~」
「は、はうわ~、こ、こうなってしまうと、と、殿を守るよう言いつけられた拙者の命も危ういのでは……」
怯えるハナビ、コスモス、ムサシ。
「………半年前、戦争が終わってヴェルトがこの家に帰ってきたとき、妻が六人になったといわれたときは呆れたが……数日で増えたか」
「マスター、すまない。俺にはどうすることもできなかった」
「ね、ねえ、あなた! 私、これから何人の子供から、おばあちゃんって呼ばれるのかな?」
呆れる、先生、バスティスタ、カミさん。
「ふんだ。ばーか、ヴェルトくんのばーか。怒られちゃえばいいんだから」
「ねえ、ペット。あんた、ヴェルトくんと何かあったの?」
完全に俺を見捨てているペットに、戸惑うホークたち。
「ここ、こんな描写まで、は、はうわ、な、なんという愛くるしい……私もラガイアにこんな顔をさせたい……やはり縛ったほうが……」
同人誌読んで、こっちに無関心なこいつはどうでもいいや。いや、ある意味ではどうでも良くないリガンティナ。
「あーあ、ウザイくない、ああいう女たちさ? ヴェルトくん、やっぱり僕の妹にしとけばよくない?」
「なはははははは。しかし、ここは怒るのではなく、ヴェルトを褒めるところであろう。なんせ、今回は半年前のようにわらわが後押しして嫁を抱いた時や、興奮したムサシを救うために抱いた時とは違い、わらわの影響がないところで、自ら便所でズッコンバッコンだったのだ!」
そして一番黙れえええええ! ジャレンガッ! エロスヴィッチッ!
「「「あ゛~? い、いもうと~? ……ムサシを抱いた時~? ……師匠の影響がない時にズッコンバッコン~?」」」
畜生、三連チャンで反応しやがって! つうか、こいつら、エロスヴィッチのことを師匠とか呼ぶのやめろ!
「は、はうわ~~! え、エロスヴィッチ様、それを言ってはダメでござる! ち、違うでござる奥方様ッ! あ、あれは、エロスヴィッチ様の手で、拙者が壊れてしまいそうになってしまった際、殿はそれを救うためにとエッチなことしてくださっただけでござる!」
「「「………ほう………」」」
「そう、一回、たった一回だけでござる! 殿は、哀れな配下を救うため、やむなく一回だけ拙者と! ………あっ、しかし、一回は一回でござるが、回数的には、ひい、ふう、みい………う、うへへへへへ~……んもう、殿は何度も何度も拙者に……うへへへへへ~♥」
「ムサシーーっ! そこで指折り数えてんじゃねえっ! 嬉しそうにしてんじゃねえ! つうか、お前はもう黙ってろ! 今すぐ、コスモスとハナビを連れて部屋に戻ってなさい!」
もう、ダメだ。ニコニコから絶対零度。そして、今度は………阿修羅だ。
「ヴェルトォオオオオオオオオオオオオオオオ! あなたは、一体、何を考えていますの! 足りませんの? 六人では足りませんの? 何が足りませんでしたの!」
「ふ、ふふ、ふふふふふふ。初めてよ………前世でも、現世でも……これほど一人の人をいたぶりたいと思ったのは……氷の牢獄の中で永久凍結させてしまおうかしら……誰の目も声も届かぬ世界の果てで……」
「本来なら、今すぐにでもお前と寝室に行きたいところだが、まずは地獄に行ってもらわないといけないようだな…………まずは、下段回し蹴り一万回……生まれたての子鹿のように震えさせてやろう」
俺も初めて見る。これまで、こいつらが嫉妬したり、やきもちで怒ったりするのは何度もあった。
だけど、こ、こ、ここまで……ここまでの憎悪を出せるもんなのか?
もう、ダメか? いや、そうだ!
「お前ら、その話は後でだ。フォルナ、聞け! この女は、チェーンマイル王国のクレオだ!」
「……えっ?」
「アルーシャ、聞け! 俺たちは、さっきまで飛ばされていた場所で、クラスメートに会った!」
「……えっ?」
「ウラ、俺たちの飛ばされた世界は、神族世界だったんだ。今からそのことについて、話をしなくちゃダメだ! 至急、魔王たちと会議するぞ!」
「なに?」
どうだ、意識逸らし作戦だ。これなら流石に反応……
「クレオ姫! ま、まさか、そ、そんなことが! し、しかし、確かに言われてみれば……あなたは!」
「クラスメートに再会? どういうこと? ヴェルトくん! 一体、君は、誰と再会したの?」
「神族の世界だと? それは、本当か、ヴェルト! もし、それが本当だとしたらとんでもないことだぞ!」
フィーーッシュ! 囮の餌に引っかかった! これなら……
『俺の嫁になれよ、クレオ』
「(꒪ཫ꒪; )!?」
と思ったら、俺の声が、ニートが向こうの世界からお土産で持って帰ってきたタブレットから聞こえてきた。
――あとがき――
明日も二話投稿します! また、10時ごろに!
大丈夫、ヴェルト! まだ何とかなるさ!
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