第563話 恋愛の神※ゲームのみ

 そうか、そんなの当たり前だよ。確かに普通なら、出会って間もない女にプロポーズはありえねーんだよ。

 でも、フォルナ、ウラ、エルジェラあたりは、ほとんど出会ったその日から俺のこと大好きになったし、その所為で……

 つうか、俺、よくよく考えたら、彼女居たことが………女と付き合ったこととか、じっくり時間をかけて育むとか、そういうの一度も経験がねえ……

 だが、これが普通の恋愛なんだ。それを、気づかされるとは……



「恐るべしだぜ………バクメモか……なんつう恐ろしいゲームだ……」



 これじゃあ、ただでさえコミュニケーション能力が欠けているニートには難しすぎるゲームだろうな……



『あの~、……シオンくん、一緒に帰って……くれちゃったりしますかな~?』


「………はっ?」



 その時、ニートの持っているゲーム機から、俺が今まさに振られた女が、ものすごくトロンとした甘えた声を出していたのが聞こえた。

 っていうか、シオン?


「ああ。俺も、一緒に帰りたいと思ってたところだよ。どこか寄り道していこうよ」

『やっほ~い、そうこなくっちゃー! ぐーですよ、ばっちぐー!』


 そして、あのニートが、女に向かってサラッと言いやがった! なんで? いや、つうか、シオンってなんだよ。


「に、ニート? お、おまえ、ど、どうなって」

「………………そうだな。この店、仲良いカップルが多いな…………俺たちも、ふくめてかな?」

「いや、ニートッ! つーか、何で名前が……」

「ギャルゲーやるなら、土海紫苑の名前じゃないと、気合入らないんで」


 あれ? こいつ、ニートじゃないのか? ニートだよな? なんか、すげえ真剣な顔つきでさっきからゲーム機に話しかけてる。

 しかも、途中から女の声も聞こえて来ないし。


「好きな歌は演歌。コブシに自信がある」

『まあ! わた――』

「少し、寄り道していこうか。ここの団子屋、俺のお気に入りなんだ。ふたりだけの秘密な」

『ええ、ふたりだけのやくそ―――』

「家まで送っていくよ。……あのさ、手……つないでいいかな?」

『えっ?』


 ちょ、ちょっと待て! ニートはさっきまで、俺が振られた女と放課後一緒に帰ってたくせに、次の日は別の女とデートしてやがる。なんか袴着た女が、すごい頬を染めてるんだが、どうなってんだ?

 すると、その様子に気づいたストロベリーが、指を鳴らした瞬間、俺のゲーム機の画面が写っていた巨大スクリーンが、突如ニートのゲーム機の画面に切り替わった。

 そして、その画面を見た瞬間、あのウゼエぐらいにニタニタ笑っていたストロベリーが、ガチで驚いた顔して声を上げた。



「な、なにい! いや、マジ凄い! 学校生活二年目のこの段階で、全員の好感度がウザイぐらいにMAX!」


 ……はっ?



「しかも、難関の女教師! エンカウントが難しい他校の生徒! 更に隠しレアキャラ、サイボーグメイドロボットまで!」



 お、おいおい、そんなのまで居るのか? って、二年目!


「ちょっと待てよ、ニート! 何で二年目なんだよ! 俺、まだ一年目の夏休みも終わってねーのに!」


 同じぐらいに始めたはずのニートが、何でもうそんなに早く?

 すると、ニートはとんでもねえことを言いやがった。


「ヴェルト、お前、いちいちセリフを読んでるから遅いんで」

「はっ?」

「俺、会話は全部スキップしてるんで」

「す、すきっぷ?」

「つまり、会話を早送りしてるんで。時間のかかるゲームには、そういう機能ついてるんで」


 ど、どういうことだ? 意味が分からずニートの画面を覗いて見た。

 すると、会話の吹き出しが、超高速で次々と送られて、そのキャラが何を話してるのか全然分からねえ。


「ちょ、お、おい、待てよ! 何を話してるか分からねえのに、何で好感度が全員高いんだよ!」

「ふっ、俺からすれば、会話を見なくてもグラフィックと女の子の容姿と選択肢を見るだけで十分なんで」

「何でだよ!」


 ただ、事実、ニートはそうだった。


「おっ、ここは…………俺は、カントリーミュージックが好きだ」

『まあ、嬉しいデース! ワターシも祖父の影響で好きデース』


 ちょっと待て! 海外からの留学生が、発情したユズリハみたいな顔で嬉しそうな顔してるぞ!

 前後の会話が分からねえのに、何で!


「いや、カラオケでこの選択肢なら、どうせ『何の歌を歌う?』の質問なんで。んで、次の日のデートはこいつか……」


 しかもおかしい! こいつ、一度女とデートした場所で、今度は違う女を連れて来てデートしてやがる!


「カラオケが一番、経費削減で手っ取り早くて、好感度も上がりやすいんで……んで、ここは『アニソン』で」

『マジですかい、シオン君! こいつは~、デュエリますか? デュエリスト! てへへへへへ』


 今度は違う選択を! 何でだ! 何でそんなこと分かるんだ!

 さらに、次々とイベントが起こってる。全部早送りにされて、何の会話をしているのか分からないけど、女たちが物凄い嬉しそうにしてるのが分かる。


「うおおお! ウゼエ凄い! 超レアイベント。マドンナ先輩のおんぶイベント! これは、先輩が卒業する前に好感度MAXにならないと発動しない、超レアイベントとして話題! ウゼエすごいなニート!」

「ふ……学園のマドンナはおんぶしたら陥落……そういうとこは現実と同じなんで」


 ニ、ニートが輝いている! 後光が! まるでピアニストのように指先を軽やかに動かして次々と女たちを落としまくっているニート。

 イキイキとしている。


「す、すげえ! この男は、神か?」


 いや、お前らのほうが、神族だろ? と言いたい所だが、気持ちは分かる。

 たとえ、そのゲームに精通していなくても、分かる。今のニートが、凄いことをやっているというのは。

 気づけば、ギャラリーたちもヒートアップ。腐女子たちはドン引き。そんな両極端な空間が作り出されている。

 だが、そんな中で……



「ふ、ふふふ………うふふふふふ……」



 この空間の中、一人の女が笑みを浮かべながら……



「シオン……ドカイ……シオン……そうか……そうなんだ……ッ! ふふ、うふふふふっ!」



 思わず、背筋がゾクッとなった。誰もがスクリーンとニートに注目している中で、一人の女が笑いながら泣いていた。

 そのことに気づいたのは、俺ぐらいかもしれない。

 驚きながら、涙を流しながら、しかしその声は、歓喜に打ち震えているように見える。

 どういうことだ? 何でこの女が……



「ね、ねえ、これって、凄いことをやっているみたいだけど、最後はどうなるの? まさか、ヴェルトくんみたいに全員と結婚とかできるのかな?」


「なんと! では、ニート殿はこの僅かな時間に、十人以上の娘と!」


「無理よ。一応はかつて公式に売られたゲーム。そんな非現実的なエンディングはありえないわ」


「まあ、ヴェルトは現実にそういうエンディングみたいだけどね」


「やっぱり、にゃっはありえないよね」



 その女が泣いていることに気づいていない、ペットやブラックたち。

 俺へのディスりは置いておいて、どうせ一人しか攻略できないのに、全員の好感度を上げてどうするんだ? と言った様子で、ニートのゲームに目が離せない様子だ。

 そう思ったとき、ニートが前髪の奥の瞳を大きく見開いたのが分かった。


「来た! 『ショコラデイ』だ」


 ショコラデイ? なんか、いきなりニートが叫んだ。



「女が一年に一度、男にショコラを送る日。友人や親族には義理ショコラ。本命の男には、想いの込めた手作りショコラを送るそうなんで」


「いや、何でお前が知ってるんだ?」


「決まっている。今は二年目……つまり、二回目なんで」



 なに、そんなのがあるのか? そこまでたどり着いてねえから知らなかったが、ようするに前世でいうバレンタインみたいなのか? つうか、二回目?


「そ、そんなのが、この世界にあるんですか?」

「ええ、そうよ。大昔から伝統としてある、恋する乙女たちの祭典。一年に一度、どんな女でも、男に想いを伝えることが許される日。ちなみに、BLS団体は意中のキャラクターに送ったりしていたわね」


 架空の人間にどうやって送るんだよ? と思いつつも、ペットがどこか「ほ~」と憧れたような顔してるが……

 だが、そんなことはお構い無しにニートはやってのけた。まるで、このゲームはこの瞬間のためだけにと言いたげに……



「恋愛シミュレーションゲームで、一人のキャラクターを落として遊ぶのは下の下なんで! 本当の遊び方は同時攻略なんで!」


「カカカカカカ、こりゃ驚いた。難易度もウザイぐらいに関係ねえ。本来なら単純に、ヒロインたちの好感度がどの程度かを把握するだけのイベントなのに、全員から本命ショコラを貰うということをやってのけるとは、ウザイスゲーじゃん。しかもこんな短時間で!」



 このときばかりは、俺もクレオたちも全員同じことを思っただろう。

 このゲーム、こういう遊び方じゃねえだろと。







――あとがき――

アニッキーも『と●メモ』で実際にこうやって遊んでました……2、4は至高

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