第545話 思い出話・お漏らしメモリアル

 ペットとのことがなければ、俺はもうお前を思い出すことなんて二度となかったかもしれない。

  

 あの日に起こったちょっとした出来事よりも、あの事件の後に、俺が朝倉リューマの記憶を取り戻した時の絶望や取り乱しが大きく、お前のことを弔ったり思い返したりしてやることもできなかったからだ。

 

 そう、あの日、ペットと裏通りで少し話していたところに、袋を抱えた大人二人が走ってきたんだ。

 

 見たことのない二人組。

 海賊の船長と思われる男と、下っ端に見える男。

 ハンガー船長と呼ばれた男と、その部下だ。

 白い袋を掲げて、人目を気にして、怪しいコソコソ話をしているのを、俺とペットは通りにあった樽の影に隠れて聞いていた。



「で、ハンガー船長、この後の段取りすけど」


「分かってるダッ、ハ、ハンガー。各関門に提示する、通行手形は用意しているハンガー?」


「抜かりなく。元々自分はそっちが本職ですからねえ」


「頼りにしているハンガー。元大盗賊にして、現在ではあらゆる国へ商人として潜入できる諜報員、『アリパパ』の力を見せてもらうハンガー」


「兄貴、今の俺の潜入用のコードネームはそっちじゃないっすよ」


「そうだったハンガー。では、移送はお前に任せるハンガー。私は、このままシロムに向かうハンガー。お前は、正規のルートで堂々と積荷を持って移動するハンガー」


「積み荷は暴れないですかね~?」


「暴れても、魔法封じの錠をしているハンガー。魔法さえ使えなければ、ただのガキハンガー」


「ああ、そういうことですかい」



 ハンガー? アリパパ? どうなっているんだ? あいつら、何者だよ。

 元盗賊? 海賊? 全然意味不明だ。それに、さっきあいつらは……

 すると、その時だった。


「んーっ! むーっ! むーっ!」


 ハンガー船長が肩に担いでいた袋が、激しく動いた。

 それは明らかに、袋の中に何かが入っている。いや、「何か」ではなく、「誰か」だ。


「ひいっ!」

「ッ!」


 バカッ! ビックリしたペットが思わず声を……


「誰ハンガーッ?」

「って、……おやおや、可愛いガキどもじゃねえの」


 すぐにバレた。ハンガー船長と盗賊アリパパとかいう奴が、ギロッとこっちを睨んでるっ!


「に、逃げるぞ、ペット!」


 俺は慌ててペットの手を掴んでその場か――――



「極限魔法・スリープ」



 ―――――――――――――――世界が真っ暗になった。



 そして、気づけば、ガタガタとした揺れと音で目が覚めた。

 両手足はロープで縛られて、蓑虫状態。

 回りは、樽や木箱、袋に囲まれている部屋。いや、これは移動しているから馬車?

 どうして俺は?


「んー、むー、むー、んー!」

「ヴェルトくん………」


 そして、目の前には、俺と同じように縛られている、ペット、そしてあのチビ女が居た。

 昨日、俺がカンチョーしてお漏らしした、クレオって姫だ。

 クレオは、猿轡と目隠しまでされている。



「ペット、それにお前は、お漏らしチビ女!」


「ふぉふぉっふぇふぁ≪その声は≫! ふぁふぇふぁふぁふぁふぃ(誰がお漏らしよ)!」


「し~っ、ヴェルトくん、大きな声出しちゃダメ、気づかれちゃうよ」



 ペットが「静かに」と言ってくるが、これは?

 そうだ……俺たち、ハンガー船長とかいうやつらに見つかって、そのあとどうなった?

 あれ? これって?


「ヴェルトくん、わ、私たち、ひっぐ、……ゆ、ゆーかいされて……」

「え~~~~」


 気づけば顔が一瞬でクシャクシャになって急に泣き出すペット。

 そうだよ、俺たち誘拐されたんだ!

 くそ、それじゃあここは?

 誘拐犯の馬車の中か?



「どうしてこんなことに?」


「……ふぉふ、ふぁふぁふぁふぁふぃふぉふぁふぃふぉふぁえふぁふぉ(そう、あなたたちも巻き込まれてしまったのね)?」


「いや、何言ってんのか分かんねーよ」



 にしても、俺とペットに比べ、クレオはやけにガッチリと縛られてるな。

 俺とペットは、体を縄でグルグル巻きにされているだけ。

 それに比べて、クレオは、目隠しに猿轡。そして両手を後ろに回して、手首を手錠みたいのでガッチリと固定して、両足首も同じように枷を嵌められてる。


「ふぁふぁふぃふぉふぃふぁふぉふぉふぁ、ふふぁんふぃふぁふぁ。ふぉのふぉうふぉ、ふぁふぉふふうふぃふぉふぁふぉふふぃんふぁふふぃふぉふぁふぇふぇふぃふぃふぁ(私としたことが完全に油断したわ、こうもアッサリ捕まった。そしてこの錠、これには魔法封じが施されているから自力で脱出もできないわ)」


 何言ってるかわからないけど、なんとなくだけど言いたいことが分かった。

 こいつ、今、魔法使えないのかもな。だから、逃げられないと言ってるっぽい。


「どうして? 誰がこんなことを? 私たち、どうなっちゃうのかな~?」


 馬車はまだ動いたままだ。どこに向かってるかも、外の景色が見えないから分からない。

 どうしてハンガーとかいうやつらが、クレオを攫ったのかわからないし、このまま俺とペットもどうなるか分からない。

 どうしよう。

 なんとかしないと……

 ペットを守ってやるって約束したばっかだしな。

 すると


「……ふぁふっ!」

「ん? どーしたんだよ、お漏らしチビ」

「………ッ」


 その時、クレオが物凄い顔を赤くして、内股になってモジモジしているのが分かった。

 何か落ち着かない様子。震えている。今更恐がっているのか?


「恐いのか?」

「んーん」


 首を振ってる。違うと言ってる。

 でも、落ち着きの無さはどんどん大きくなって、何だか貧乏ゆすりまでしだしてる。


「寒いのか?」

「んーー、むーむっ!」


 違う? ムキになって首を横に振って、俺もペットも、どうすりゃいいか分からない。


「なんだよ~、それじゃあ、小便とかじゃないよな~?」

「…………………………………………………………」


 シュンとなった。正解だった。


「そ、そんな、姫様……で、でも、ここじゃ……」


 そうだよな。こんな場所じゃするところなんてないし、こんな状態じゃ……


「あっ、そうだ」


 そうだ。ここには積み荷が色々とある。

 小麦粉の袋、卵、雑貨、それになんかの坪とか。それなら……



「よし、お前の横に壺が転がってる。そこにしろよ」


「ッッッッッッッ!」


「ヴェヴェヴェ、ヴェルトくん、ひひ、姫様相手にそ、それはひどいよ~!」


「だって、他に方法ねーだろ? この鎖とか全然取れないし」


「ッ………………」


「だ、だからって、ひ、姫様に、そ、その、お、おし、っこ、壷にしろって……」


「ほら、俺、後ろ向いてるから、そのまましちゃえよ」


「~~~~~~~~~~~ッ!」


「うー、ううう~~~……ッ、姫様、私も目を瞑ってます!」



 クレオが目と口が塞がれてるのに、物凄い顔を真っ赤にして、物凄い唸っているのが分かった。

 ほんとに女ってメンドクサイな~。



「また漏らすぞ?」


「んんんーーーっ(あなた、殺すわよ)! んん、んんーっ、んんん、ん、んむむむむ、んんーっ(じょ、上等よ、この程度のことで、私の誇りは穢されたりしないわ)!」



 俺とペットは後ろを向いて、目まで閉じた。

 終わったら教えろよと伝えたのだが………



「…………………………………………………」



 なんか、物凄い静かでいつまでたっても合図が来ないけど、どうしたんだ?

 でも、これ振り返って途中だったらまずいよな? ペットにはいいけど、フォルナにバレたら後で殺されるし。



「ん、ん………ん、んっ!」



 終わったのか? そんな様子じゃなさそうだけど。


「ん、んっん(ちょっと)!」


 呼んでるのか? 振り向いていいのか? 俺とペットは目を開けて、ゆっくりと後ろへ振り返った。

 すると、クレオは壺の前で固まったまま、まだ何もしていない。

 どうしたんだ?


「ん……ん……」


 物凄い気まずそうに、何かを俺たちに言いたいのか?

 なにぶん、クレオは俺たちとは違い、目も口も塞がれているから、何を言いたいのかが分かりづらい。



「ふぃ、ふぃふぁふぃ(し、下着)」


「はっ?」


「ん、………ん、ふぃふぁふぃんげはい(下着が脱げない)」



 何が言いたいんだ?


「んが、んんんはら、はんふがんふふぁん(手が縛られているから下着が脱げないの)!」





――あとがき――

姫の窮地をヴェルトは救えるか?! 本日も二話投稿です! 夜20時ごろに投稿します!


また、少しでも本作を多くの人に見て頂きたく、引き続き本作の応援をよろしくお願い致します!


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