第544話 メロンの正体

「終わりだ、ヴェルト・ジーハ。幻想と現実の狭間に落ちて死ね」


 感じろ。空気であいつの居場所を感じるんじゃない。

 空気で感じるのは……



「ふわふわキャストオフ!」


「……え……なにッ!」



 それは、機械の声じゃねえ。

 起こった事態に驚いて、思わず漏れた女の声。

 そして、感じる。ハッキリと。



「ふわふわ空気爆弾ッ!」



 正面から向かってきていたはずのメロンの姿は直前で消え、代わりに『俺の背後』から俺を仕留めよとしていた、実物のメロンが、俺のカウンターに捕まり、吹っ飛ばされていた。


「お、おおおっ!」

「殿の攻撃がついに通ったでござる!」

「おっ! カカカカカカカ、どうなった!」

「メロン様ッ!?」


 ああ。ようやく捕まえた。

 捕まえられた。

 そして、それは驚いたことに、俺の予想が当たっていたことを意味する。


「やーれやれ。ま~っさかこんなことになるとはな。ペットの告白よりも驚いちまった」


 俺に吹き飛ばされ、床の上を二転三転転がったメロンが起き上がる。

 その姿は、さっきまでと違っていた。


「メロン代表!」

「そ、そのお体は!」


 さっきまで、スラッとした、メロンカップ女だったのに、今はどうだ?

 ユズリハと大して身長が変わらねえ、チンチクリンになっていた。



「ヴェルト・ジーハ……貴様……」


「それでも機械声を貫くか。まあ、勝手にすりゃいいが、それがテメエの本当の姿か。実は、幻使って自分をナイスバディに見せていたとか、可愛いところあるじゃねえか」



 間違いない。これは幻覚じゃない。あいつ本人。あいつのリアルな姿だ。

 胸もペッタンコ。身長も小さい。それがこいつの本当の姿。



「なーにが、映像技術だ。すっかり騙されてたぜ。テメエの力の正体をな」


「ッ!」


「お前に感じていた気配そのものは、現実なのか錯覚なのか分からなかった。だが、お前から溢れていたものは、間違いなく現実だった」



 ありえないはずの仮説。ありえないはずの事実。しかし、それが真実なのだと知った瞬間、俺は余裕に満ちた顔を作りながらも、心は激しく動揺していた。



「殿、どういうことでござる? 殿は、一体何を見破ったでござる?」


「なーに。ようするに、こいつは最初から嘘をついてたってことさ」


 

 何が起こってるかまるで分かってなさそうなムサシたちに答えを言うが、正直、これから俺が言うことは、あまりにも根本的にこれまでのことをひっくり返す答えなだけに、俺はみんなのこの後の反応が容易に想像できた。



「つまり、そもそもこいつの使っていたものは、映像技術がどうとかそういうものじゃねえってことだ」



 それなのに、俺はこいつが何とかタクティクスとか言うし、この世界の技術力だからと頭で勝手に納得しちまったから、深く考えなかった。単純に、こいつの最初の発言や、回りの言葉に騙されていたってことだ。

 いや、この様子だと、こいつの仲間の腐女子共も、知らなかったな? 全員首を傾げてるし。



「いや、待って欲しいんで、ヴェルト! 映像技術じゃないなら、どうやって? ノーシーボ効果を起こして、お前をここまで追い詰めたのは、一体どんな技なんで? まさか、催眠とか?」


「ある意味、催眠に近いかもな。結果的に、俺の脳はこいつの作った幻に騙されまくっていたからな。でもな、そうじゃねーんだよ、ニート。俺が分かったのはそういうことじゃねえ」


「じゃあどういう?」


「重要なのは、催眠だろうと錯覚だろうと、こいつがやったことは、『技術』じゃねえ。『能力』だってことだ」



 そう。『技術』じゃないんだ。『能力』なんだ。

 それなら、機械が無いのも頷ける。機械を使って俺に錯覚を見せていたんじゃなくて、『能力』で俺に幻を見せていたんだから。

 と言っても、こんな訳の分からん説明だけじゃ、ニートたち全員首を傾げたままだがな。



「つ、つまり、その、メロンって奴は、催眠術を使っていたってことか? エロスヴィッチみたいに?」



 催眠術。それも一つの可能性としてはあった。

 でも、違う。



「確かに、その可能性もあった。でも違う。俺のふわふわキャストオフが、幻覚を破ったのがその証拠」


「はっ?」


「何で俺のふわふわキャストオフが幻覚を破れたのか? 簡単だ。『魔力』で作られた『幻覚』を、俺が無我夢中でやったふわふわキャストオフで魔力を引っぺがしたから、幻覚が破れたんだ」



 ――――――――――――――――ッ!


 それは、魔法というものに知見のないこの世界の連中には意味の分からない話だろう。

 だが、ニート、ペットはこの説明で余計に混乱した顔を見せた。



「ちょっと待って、ヴェルトくん! そ、それじゃあまるで、こ、この人が……」


「……ちょ、つまり……ヴェルト……お前は、こいつが、『魔法』を使ってお前に幻術をかけていたってことか?」



 そうなんだ。

 俺があの時に掴んだものの感触は、紛れも無く魔力だった。

 メロンから溢れていたものは、魔力だった。



「よくよく考えれば、そこに居るストロベリーだって、エルジェラたちと似た力を使ったんだ。そう考えれば、不思議じゃなかった」


「いや、そ、それじゃあ、ヴェルト、このメロンって女は……魔法を使える……改造人間か何かか?」



 改造人間。それも一つの可能性としてはあった。

 神族が魔法を使えないんだから、魔法を使えるとしたら、改造か何かされている奴かもしれないと。

 でも、俺の考えは違った。


「しかし、殿! 拙者もそれほど魔法の知識は深くないでごさるが、そのような、限りなく現実に近い幻惑魔法や幻術など、あるでござるか?」


 その時、これまで黙っていたムサシが口にした疑問こそが、正に俺に衝撃的な事実へ辿りつかせるものだった。



「そ、そうなんで。フィアリの幻術だって、あれは当事者が望むものを見せる幻術だったんで、細かく何を見せるとか、そういうことまで出来なかったんで」


「そうだな。フィアリは、幻術をかけられた奴の望むものを見せる幻術。だから、見せられるものは選べなかった。どんな幻を見るかは、術をかけられた本人任せだった。でも、こいつは違う。術者の思うがままに相手を幻術にかけた」



 そう、フィアリの言霊を使った幻術とは少し違う。

 術者の思うがままに、際限なく幻を見せ、そしてダメージや感じたもの全てがリアルと錯覚してしまうほどの、強力な幻術。

 すると………



「ある……そういう魔法……ううん。そういう能力……確かに存在する」



 それは、ペットだった。

 そして同時に、ペットも俺と同じことが頭に浮かんだはず。



「分かった気がする……私も、メロン代表の力が、この発展した世界の技術によってもたらされたもの……そういう前知識を忘れて、もしこれを魔法の力だと考えてみたら、全然違うことが私も……」



 ペットの唇は震えていた。



「でも、うそ? そんなことって? だって、だって、……そんなことがありえるはずが……」



 それは、俺と同じように「そんなことがありえるのか?」という思いからもたらされる震えだ。


「おい、ペット、一体どういうことなんで!?」


 ニートや、ムサシには分からないのも無理はない。

 正直、これは『魔法の力』とか『能力』といっても、ハッキリ言って希少すぎる力だからだ。



「それは、魔法でありながら、能力でもある。究極の幻術使い………夜と朝の狭間、世界を曖昧に照らす光……それは世界の現実と幻想の境界を支配する力………」



 そして、ニートの問いかけに、ペットは震える唇で答えた。



「月光眼と並ぶ、伝説の魔眼…………『暁光眼ぎょうこうがん』の力!」



 ペットのその言葉に、驚愕の表情を浮かべたのは、ニート、ムサシ、そしてアイドル姫のブラックとアッシュの四人だった。



「……いや、ちょっと待って欲しいんで……」


「と、殿……暁光眼とは、確か……」


「ね、ねえ、その眼って、本当に伝説なの? よくある眼なの?」


「にゃっはどういうことなの!」



 こいつらがそう聞きたいのも無理はない。

 そして、同時に俺もそう言いたいくらいだったからだ。

 だからこそ、俺は気を落ち着かせながら、メロンに聞くしかなかった。



「メロン。お前……何者だ?」



 全てを込めて、俺は聞いた。お前は何者かと。

 すると………



「ふっ………ふふふふふふふふふふふ」


「ッ!」 



 次の瞬間、メロンは持っていたタブレットを破壊した。

 そして、同時に、メロンの被り物の下から、女の声が聞こえた。

 人を嘲笑うかのような、メロンの本当の声。

 そして、メロンは俺に相対しながら、初めて俺に肉声で言葉を放った。



「私が何者か? ここまで謎解きをしておきながら、最後の解を相手に求めるなんて、やはりあなたは阿呆のようね、ヴェルト・ジーハ」



 この口調! そして、この、尊大な態度は!



「ッ、テメエ! ま、まさか!」


「口を閉じなさい、ヴェルト・ジーハ! 今、こうして貴様と会話することすら虫唾が走る!」



 この、俺に対する怒り、憎しみ、そして殺意……。

 こいつの小さな体から溢れ出ている。止まることなく、激しく。



「ふふ、本当にあなたに対する失望は大きいわ。たかだか十年………運命的な危機を共に乗り越え、あれほど身も心も燃え上がった私との愛を忘れ……今では妻が六人? 娘が居る? 人を……女をバカにするのもいい加減になさい、ヴェルト・ジーハッ!」



 …………ん?



「あれ? ワリ、それなんだっけ? お前の正体、ひょっとして? ……とか思ったけど、それはまるで心当たりがねえ。まさか人違いか?」



 なんか、まるで身に覚えのないことを、物凄い恨みを込めて言われてるが、なんか違う?

 だが……



「…………………………………………あっ!」



 何かを思い出したペットが声を上げた。いや、「あっ」てなんだよ、「あっ」って。



「ヴェルトくん……ひょっとして……あの時のアレ……ほら、ハンガー船長とかの……」



 いや、「アレ」ってなんだよ、「アレ」って。

 だが、それを確認する前に、メロンは既に動いていた。



「もう、口を閉じなさい! 女の敵、ヴェルト・ジーハ! お前をここで殺すッ!」



 ちっ、今はノンビリしている場合じゃねえか。

 クソ、訳の分からないことを言いやがって。

 だがな……



「俺に言いたいことがあるなら、まずは、そのツラを見せてからにしやがれっ!」


「ッ!」


「ふわふわキャストオフッ!」



 相手の力が、機械でなく魔法の一種だと分かったからには、もう俺には通じねえ。

 魔力を込めて発動させるなら、その魔力を引き剥がせばいい。

 幻術を発動させようとした瞬間、魔力を引き剥がす。こいつから、ガクッと力が抜けているのが分かった。

 それを見て、俺はもう一つ、こいつから剥ぎ取る。



「そのツラを見せろッ! チーーーーーービ!」



 次の瞬間、メロンの被り物が宙を舞った。





――あとがき――

明日も2話投稿します! 本日と同じく朝9時頃にまず投稿し、20時ごろにもう一話投稿します! お楽しみに!


また、少しでも本作を多くの人に見て頂きたく、引き続き本作の応援をよろしくお願い致します!


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