第538話 本命じゃないのにフラグ立てるな

 流石にいきなり怒られると思わなかったのか、戸惑って歯切れの悪いペット。

 だが、すぐに状況を察知して申し訳なさそうに言ってきた。



『ご、ごめんなさい、ヴェルトくん……その、エロスヴィッチ様とリガンティナ皇女がコンサート会場で騒動を起こして……その時、気を使って下さったアプリコット姫が、連れてきてくれたお店に行ったら、その、変な人たちが待ち構えていて……私も姫様もお付の人も急に囲まれて……』


「どーして、簡単に敵に捕まったりするんだよ! 本当にメンドくせえ! つか、てめーそれでも元人類大連合軍に選ばれたエリートかよ! エルファーシア王国騎士団の人間かよ! 強いんだからもうちょっと抵抗しろよ! それもダメなら、それこそ飼われたペットみてえに首輪でも付けて家の中でワンワン吠えて御主人様の帰りでも待って尻尾振ってろ、このバカやろう! しかも、護衛だなんだの連中も本当に使えねえし!」


『……ひ、ひどいっ! そ、そこまで言わなくても……わ、私が悪いのはわかるけど……ごめんなさい……』



 ちっ、そして涙声になりやがって。

 だから、あいつは昔からイラつくんだよ。


「いや、ヴェルト。お前、マジ、ふざけるなって感じなんで」

「こいつ、何を泣かせてんのよ」

「にゃっは最低」

「殿ぉ~」


 しかも、ニートもブラックもオレンジもムサシも、俺の過去話を聞いたあとだから、なんかかなり視線が痛い。

 でも、今も言ったが、ペットは普通に戦えばソコソコ強いハズなんだからもうちょい抵抗してもって思うのは―――――



『ちょっと、あんた! 女のくせに何を男と電話してんのよ! ざけんな! もう一度あんたにしっかりと教育してやるから!』


『わかります、ペットさん。私も見た目はただの文学少女でカモフラージュしたいと思っていた時期がありました。でも、自分を偽っても何もいいことはないのです。女は男に触れてはいけないのです。男の逞しき肉刃と交えられるのは同じ刃を持つ者同士! 男子の! 男子による! 男子のためのチャンバラごっこ! 激しい斬り合いの末、突き刺すのはどっちなにょかあああ、ぶっはあああっ!』


『もうたくさんだ! 貴様は不純物だとなぜ気づかない! あれほどの素材が揃っているメンバーの中に居る自分を不自然になぜ思わないのか! ブーメランパンツレスリングバスティスタ! ダウナー系ジャレンガ! 受けヤンキーヴェルト! オールマイティプレイヤーニート! これをなぜ邪魔しようとするッ! お前に女子としての礼節や矜持はないというのかああああっ!』


『さあ、ゲームを始めましょう! 受け・攻め当てゲーム! 今から、美青年の写真パネルを次々見せていきますので、この美青年は受けなのか攻めなのかを一瞬で当ててもらいます! さあ、どっち!』


『それが終わったらBLカップリング神経衰弱をやります! 美青年カードを裏にしてテーブルの上にばら撒いて、ランダムで二枚めくっていきます。めくったカップリングで一つ妄想ストーリーを発表してもらい、回りが興奮したらポイントゲット! 最後に一番ポイントの高かった者が勝利!』



 ……ペットの声をかき消すほどの迫力のある女たちの声が聞こえた。

 ……なるほど………怖くて抵抗できなかったか……… 


「おい、ペット」

『ひうっ、ヴェ、ヴェルトくん……あの……』

「仕方ねえから、とりあえず行ってやるよ。だから、洗脳は堪えろよ。すぐに助けてやるからよ」

『ッ、ヴェルトくん……』


 ったく、仕方ねえな。助けてやるか。あ~、メンドくさい。



「そういう約束だったからな。それに、世界一臆病なお前は俺でも守れるぐらいに弱いんだから、守るのに丁度いいからな」


『ッ!』



 すると、ペットが息を飲んだようにビックリして黙った。だが、すぐに、クスリと声が漏れた。



『ズルい……今更そんなこと思い出すなんて……遅いよ~……』


「ふん、お前だって俺のことを二年間忘れてたくせに」


『ほらズルい! 気にしないって言ってたのに、その話……それ言われちゃうと……私、どうしようもないよ~……本当に、ヴェルトくんって酷い』


「それこそ今更だろ?」



 さっき、昔の話をしたから、何だか久しぶりに弾んでペットと会話した気がした。

 それが電話越しというのも何か変な気分だ。しかも、純正ファンタジー世界の住人ペットを相手に。



『『『『だから、男とイチャつくんじゃない!』』』』


「「「だから、本命じゃないくせにフラグ立てるな!」」」



 とまあ、電話の向こうからと、ニート、ブラック、アッシュの三人からの同時ツッコミを入れられる始末。


「はう~、殿~、もう、殿はかっこいいでござる~……さすがは、拙者の……えへへへへ」


 ムサシは除いてだが……

 まあ、なんか、少し恥ずかしい気もした。

 とは言いつつも、フラグ云々は抜きにして、俺がこのまま行くのはほかの連中は簡単には許さなかった。



「とはいえ、殿、危険です。この妙な男の口車に乗っては、どのような罠があるやもしれませぬ!」


「ってか、それってバラバラに行くのか? 俺、バラバラなら勘弁して欲しいんで。ヴェルトは別行動だし、ムサシは絶対ヴェルトの方に行くから、俺が一人になっちゃうんで」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! そもそも、そんな面会は私たちが許さないわ! エゴテロリスト・ストロベリー! むしろ、あんたはこの場で逮捕するわ!」


「こんな所に、にゃっは堂々と来られたのに逃がすなんて、にゃっはできないんだから!」



 まあ、そうなるよな。


「おいおい、散々ウザイラブコメ見せた後でそれ? うわ、ウザ。テロには屈しないって? ウゼー、アイドル姫共」

「当たり前よ!」

「あ、そうなんだ。ふ~~~~~~~~~ん、ウザ」


 その時、不愉快そうな表情を浮かべながら、ストロベリーは何かのスイッチを押した。

 すると……


「ッ!」

「なっ!」

「……えっ……」

「にゃっ!」


 近くから巨大な爆発音がした。

 既に半壊している俺らのエリアにもその揺れが伝わってきた。



「こことは離れたエリアにある、……何のエリアだっけ? 忘れた。んで、ついでだからウザくもう一つポチッとな」


「ちょっ、あ、あんたっ!」


「あっ、ここも押しとこ。ここも。ここも」


「な、ちょっ、ぐっ、や、やめっ!」



 ちょ、おいおいおいおい! 次々と巨大な爆音が響き渡り、揺れが! 

 ま、まずい! 俺らのエリアも、瓦礫が余計にふってきて……


「ふわふわレーザーッ!」


 もう、流石に支えるのは無理だ。だから、俺は、天井から落ちてくる瓦礫を、いっそのことレーザーで消滅させた。

 そして、空に伸びる光の柱が消えたとき、周りを見渡したら、さっきまで館長が目を輝かせて説明していた展示品が、無残に瓦礫に潰されて、メチャクチャになっていた。



「おお、ありがとな、ヴェルト。あんまここに影響が無い離れたエリアを爆破してたんだけど、ここが元々壊れかけてたの忘れてた。カカカカカカカカ!」


「テメエ……」


「恐い顔すんなよ、ウゼーな。もうやらねーって。これ以上ここを爆破したら、俺も巻き添えくらって死んじまう。だから、次は……こっち♪」


「ふわふわ回収ッ!」


「………おっ……」



 ここでは爆破はもうやらない。なら、次は? 

 決まってる。コスモスやリガンティナたちが居るところだ。

 俺が後一歩、こいつの手からスイッチを取り上げなければ、こいつは本当にやっていた。



「あ……あんた、なんてことをッ! こ、ここがどれだけの歴史が詰まった場所か……どれだけの遺産が残っていたと思っているの!」


「じゃあ、ウゼーお姫様、テメエは人生で何回ここに来たことがある? 数えられる程度のもんだろ? じゃあ、ここに毎日来いと言われてテメエはここに毎日来るか? こねーだろ? 所詮、その程度のもんだよ。展示品だって、昔からあるものとウゼーぐらい変わらねーだろ?」


「それが、一体なんだっていうのよ!」


「でも、俺は毎日スナック菓子もジャンクフードも食える。それこそ数え切れないほど食える。一生コミックを読んで生活しろといわれても喜んでやる。そういう数え切れないほど行うことを許容できる、むしろ自らやる。それこそが、サブ・カルチャーの魅力。それを廃止して後世に残さず、カビの生えた博物館の方が後世に残す遺産~? カカカカカカカカカカ! 断言するぜ? サブ・カルチャーを廃止したら永遠に恨みを持って戦う奴らは現れる。だが、博物館が爆破されても、せいぜい二~三週間ニュースで騒ぎになって、たまにやる特番の世紀の衝撃映像とかで取り上げられる程度。その程度のことだぜ? 俺のやったことは」



 ふ~~~~…………とりあえず……


「うるァ!」

「ッ!」

「ちょっと、黙れ」


 ベラベラうるせえ、こいつのドタマを一発警棒でぶん殴っておいた。

 手に痺れが残るほど、振り抜いて。



「ごっ、お、おおっ! ……って~……テメェ、何ウザイことしてんだよ!」



 完全不意打ちだったからか、こいつも若干驚いたように目を見開いたが、すぐに俺を不愉快そうに睨んできた。

 でも、これで済むだけまだいい方だ。



「おい、その程度のことだ? お前のやったことは? 何を勘違いしてやがる」


「あっ?」


「今はこんなもんで我慢してやるが……ペットを助けたあとでじっくり教えてやるよ。俺を怒らせたことがどれほどのもんかをな」



 だから、さっさと案内しろ。その後で、俺を怒らせた奴がどうなるか、テメエを使って後世まで伝えてやるよと言ってやって、俺はストロベリーのケツを一度蹴り上げて、前を歩かせた。


「……おお、ウザ怖」


 かなりイラっとしてストロベリーは振り返ったが、コイツ自身も何か思うことがあるのか、結局俺に何かするでもなく、黙って俺たちの前を歩いた。



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