第537話 捕まった
「ブラック姫、何がありましたか!」
「ご無事ですか、姫様!」
この騒ぎを聞きつけて、ようやく付き添いの連中も駆けつけてきた。おせーよ。
「こ、これは!」
「あなたたち、早く館長に医療装置を装着させ、直ちに病院に運びなさい! 輸血の準備も!」
「分かりました、姫様も!」
「いいから! 最低限の人だけここに残して、早く館長を連れて行きなさい!」
ブラックの指示で、血だらけの館長が運び出されていく。
この野郎……
「ほら、ジジイなんてどうでもいいだろうが。ウゼーな、早くしろよ。また俺にウゼーことされたくなければな」
にしても、こいつは自分でウゼーと自覚しながらウゼーウゼー言いやがって。おかげでかなりウゼー。
「仮にも来賓だろうが、俺らは。会いたきゃそっちが来いよ」
「だよな。それは俺もウゼーと思うよ。ただ、スカーレッドリーダーは指名手配されてるし、メロン代表は色々と布教するには来てもらったほうが早いんだとよ。さもないと………」
さもないと?
崩落した一室の瓦礫の上に立つ、ストロベリーという男は、何かを俺に差し出し、それを壁に投影した。
スマホ?
「動画アプリとプロジェクタアプリ。これ、ウゼーぐらいに便利なんだよね、こういう時」
プロジェクターを使って壁に映し出される映像。
それは……
『ポケット妖怪ストレッチ、始めるよ~』
『『『『『は~~~~~~~い!』』』』』
なんか、妖怪なのかモンスターなのか、変な着ぐるがステージの上で、歌って踊り始めた。
それに歓声を上げて、ステージの下で一緒になって歌って踊っているガキたち。そのステージから少し離れた場所では……
『試しに買ったけど、何なのこのふざけたオモチャ。最強の種族はヴァンパイアドラゴンに決まってるのに、そんな種類居ない? ムカつくよね? 壊しちゃおうか?』
『うう~~、レンくん、コスモスも欲しい~、ポケットヨーカイ欲しい~! 歌うの~、踊るの~、遊ぶの~!』
ステージから少し離れたところで、異様な空間を作り出しながら座り込んで、買い込んだと思われるオモチャを広げて、何やらイラついてるジャレンガ。
それを見て、コスモスは「頂戴」と駄々こねてジャレンガの服を引っ張っている。おお、我が娘ながら、なんという恐いもの知らず……
平日ながら混雑している遊園地において、二人の空間は、誰も近づけない異様な世界となっていた。
って、そうじゃなくて!
「これを撮ってるのはテメエの仲間ってか?」
「ああ。ウザイだろ?」
脅しじゃねえぞ~、お前の娘も仲間も俺の仲間はいつでも手を出せるんだぞ~、って言いたいのか、殴りたいほど顔をニヤつかせてやがる。
一方で……
『バスティスタさん、一緒に写真を撮ってください!』
『俺も握手してください!』
『胸板触らせてください!』
『あっ、ずるい、私は二の腕よ!』
『バーミリオン姫を幸せにしてあげてください!』
『アルカディア8は恋愛禁止だけど、あんたなら許す! ファンクラブの俺も許す!』
『兄貴って呼ばせてください!』
誰も近づけない、ジャレンガとコスモスの独特な空間とは打って変わり、随分と騒がしい人だかりが見える。
その中心に居るのは……
「ん? おっ、おおおおおっ!」
「あっ……ああああああああああっ!」
そこに居るのはバスティスタなんだが、俺とニートは、その予想もつかなかったバスティスタの格好に思わず状況を忘れて声を上げちまった。
『あらあらあら、まあまあまあ、バスティスタ様ったら……』
『ふふ~ん、やきもちってね、オネエ』
『ええ。せっかくお忍びということもありましたので、昨夜のことで一躍有名人になってしまったバスティスタ様の素顔を隠すように変装していただいたのに、逆効果でした』
『そうってね。アレは逆効果ってね』
本来は自分たちの方がキャーキャー言われるはずの、アイドル姫二人組みも、バスティスタの人気ぶりに少し驚いている。
でも、仕方ない。
昨夜のことで、男気バスティスタを見せて、一瞬で神族たちの心を鷲掴みにしたバスティスタは、本人はまるで狙っていないのに、正に狙いすましたかのような格好をしていたからだ。
果たしてこの世界の何人が、バスティスタの変装している『元ネタ』を知っているか分からないが……
『あの、バスティスタさん。そのサングラスはどうしたんですか?』
『これは、バーミリオン姫に渡された。変装用とのことだったが、まさかこれほど早くに正体がバレるとは思わなかった』
『そのレザージャケットとパンツは?』
『これは、昨日の晩餐会でバーミリオン姫からの贈り物だ。昨夜の騒ぎで俺も服がボロボロになったのでな。せっかくなので着てみた』
『バスティスタの兄貴ッ! 『戻ってきたぜ』って言ってください! なんなら、『くたばれベイビー』でもいいっす!』
『ん? よく分からんがそれぐらいなら………『戻ってきたぜ、くたばれベイビー』……これでいいのか?』
あっ、元ネタ知ってたか、この世界。まあ、どういう形で再現されていたのかは知らねえが、それで興奮するのは俺らも同じ。
『『『『キタアアアアアアアアアアアアアア! ターミニイチャン!』』』』
そう、ターミニイチャンだ。
「おい、スゲーな、ニート。ジュラちゃんだ」
「ああ。元俳優の世界一マッチョなアメリカ合衆国大統領。アーマード・ジュラシックネッガー……」
「あれで、ショットガンとか持って、バイク乗ったら完璧だな」
「なんか、半年前までは何があってもヴェルト万歳な戦いだったのに、今は何が起こってもバスティスタ万歳になってるな。実際、お前は嫁が六人居ると暴露されてる以外、そんなに目立ってないし」
ニートの中々厳しい指摘ではあるが、全く悔しくないし、アレに印象で負けるぐらい、全然何とも無かった。
「おお。ウザくないな……あの野郎は。まさか、ターミニーチャンとはな! あの映画も過激描写と言われて数年前に放映及び閲覧禁止になったが、その名は映画史に残る名作として今尚語り継がれてるからな。おまけにツエーな。あれじゃあ、仮にウザくても戦いたくねえ。勝てるわけねーしな。カカカカカカカカ。でも……こんな大混雑なところで爆破でも起こしたらどうなるかね? まあ、死なないだろうけどな」
そして、こいつも、正直なところバスティスタやジャレンガの力を分かっているのかもな。
襲撃やらテロやらで勝てる相手じゃねえし、どうにかできる相手じゃねえ。
まあ、他の観客にどれだけ被害が出るかと言われたら、微妙な気分にさせられるが。
「ふん。テメエの言うとおりだ、バスティスタたちにテメエらが勝てるわけねーだろうが」
「だね。でも、回りの客はどうかな?」
「知るかよ。何で異世界の住人の俺が、今この場に居ない連中にまで気にかける必要がある?」
ここでこいつに言いくるめられると微妙な空気になりそうだから、試しに突っぱねてみた。
だが、こいつは……
「カカカカカ、ムリムリ、ムリすんなって」
「あっ?」
「今日会ったジジイが抉られただけで怒るあたりが、テメエの限界だよ。テメエは、ワリーことは出来るが、外道なことは出来ねえ男だ。そういう半端なとこ………ウザッ」
こいつ………
「それと、今、メールが入った。テメエの仲間の女たち、途中から別行動してるみたいで、その内の一人は、ビーエルエス団体の贔屓にしている店に今居るとよ」
「えっ? 女たち? それって、あの三人組か?」
まあ、エロスヴィッチなら見捨てるし、リガンティナなら大丈夫だと思うが……
「いよう、もしもし。俺だ、ストロベリーだ。ああ。ああ、今、例のヴェルトが目の前に居る。そいつの声を聞かせてやれよ」
突如として電話し始めたストロベリー。どうやら、その例の団体のところに掛けているみてーだ。
つうか、テロ組織とその団体が関係しているかもしれないってのは、内緒じゃなかったのか? だから、ライラックは裁判とかになってたって話なのに、こんなにアッサリバラすか? しかも、ブラックとかアッシュの前で。
それとも、「今更そんなことどうでもいい」ということなのか、単にこいつが考えなしか………
「ほら、スピーカーにしてやったから聞こえるだろ? おい、そのまま話せよ」
『………えっと、こ、これで、話ができるんですか?』
とにもかくにも聞こえてきたのは………
「ほら。あの大人しめのウザそうな女だ」
「ペット……やっぱりかよ……」
まあ、予想通りだった。
『あの、その、き、聞こえてますかー? ………あの、これで使い方はあってるんですか?』
初めて『電話』というものを使うってことで戸惑ってるんだろうが、あのバカ………
「ペットオオオオオオ、お前ええええ、何やってんだコラァ!」
『ひっ! えっ、えええ? ヴェルトくん? す、すごい、魔水晶でもないのに、こんなに平べったくて小さいもので会話ができるなんて………』
「んなことはどうでもいいだよ、バカ! お前、何簡単に捕まってんだよ!」
『えっ、あっ、えと、ヴェルトくん?』
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