第536話 うぜぇ奴

「セ、セピア館長ッ!」

「ぐっ、や、にゃっはなんてことをっ!」

「ちょ、おい、おいおいおいおいおい! おい、誰か人を、医者を、救急車とかいないんで! 早くッ!」

「ッ、貴様…………何者か知らぬが許さぬッ! たたっ斬ってくれるでござる!」


 美しく、埃一つない透明なショーケースやガラスに夥しい血が飛び散った。

 それは、さっきまで年齢も関係なく、ガキのようにキラキラした目で、俺に話をしていた館長の……



「テメエッ! ッ、テメェら、早く館長をどうにかしろ! 俺がこいつをブチ殺す!」


「ふっ、そんなウゼー顔で睨むなよ。ライラックをビビらせた奴らを相手に、意味なく喧嘩をするわけがねえ。今日は挨拶と、新たなる道を進むものたちのために、道を歩きやすいように中古のウザイ粗大ゴミの山を掃除に来ただけだ」



 知ったことか! 見えない力で部屋の壁まで飛ばされようと、相手が何者であろうとも、そんなもん俺がキレねえ理由にならねえ。



「そうだ、まだ名前を、名乗ってなかったな。俺は、レッド・サブカルチャー、副リーダー。エゴテロリスト・ストロベリーだ」


「知るかよ、ボケナスが!」


「カカカカカ、いいね~、まるで動じねえ。でもよ……知っとけよ、ウゼーな」


「それは、テメェのほうだ!」



 その瞬間、まるでスローモーションのように世界が止まって見えた。

 ただ、自分の掌をギュッと握り締めたこの男は、俺が接近した瞬間、一気に掌を解放し、すると溜め込んだ力が一気に破裂したかのように…………



「サイコキネシス・ブラスト」



 眩い閃光が破裂した。

 それは、魔法じゃねえ。爆薬でもねえ。

 エルジェラやリガンティナたちと同じ、超天能力のような…………



「ふわふわキャストオフッ!」


「おっ……カカカカカカカ! スゲースゲーウゼエ。崩落する天井の瓦礫を浮かせながら、俺のサイコキネシスをエナジーごと引き剥がして、爆発を圧縮して押さえ込んだか。クラーセントレフンの地上人は、そんなウゼエことができるのか」



 って、冷静に解析してる場合じゃねえ。

 こいつ、何の迷いも躊躇いもなくやりやがって。


「随分とハシャイでくれるじゃねえか、ボケやろう。おかげで、テメェのナリとか聞きてえことが色々あったのに、全部どうでもよくなったよ」

「カカカカカ、ウゼーな~、怒るなよ。ちょっとウザイだけのシャレじゃねえか」

「ワリーな、俺もウザイ奴は嫌いなんだよ」


 俺はこの時、妙な感じをこの男から受けていた。

 強いとか、弱いとか、未知の存在とか、そういう意味での感じじゃねえ。

 何だろう……こいつは……このあり方は……


「つうわけで、テメェ、覚悟は出来てるんだろうな?」


 これまで色々な奴と戦ってきたが、この男は、正義でも英雄でもなく、もっと己の欲望や感情だけに忠実な存在。


「カカカカカ。勘弁しろって。弱いものイジめしか出来ねえウザイキモオタの俺が、テメェらみたいにウザイぐらいに強そうな奴らに、勝てるわけねーじゃん? カカカカカカ!」


 不良とも違う。

 

「ちょっとウザイ挨拶と、ウザイ伝言だけすりゃー帰るよ」

「挨拶~? 伝言だ~?」

「ライラックは言ってなかったか? 間もなく、『文化大革命』の日が訪れる。その時、改めてこの世界に来いとな。そうすりゃ、ウザイと言われようが、底すら見えねえディープなサブカルチャーの世界を味あわせてやる」


 かつて、己の悪意のままに世界を思うがままにやりたい放題した、マッキーことラブ。

 アレを彷彿とさせる存在。



「頭の固い、ウザイ老害やお利口さん共を皆殺しにしてなァ! カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ! だからよ、世界間同士の外交だか何だか知らねーが、そんなお姫様共と仲良くしたって意味ないぜ?」



 そう、悪だ! だからこそ、ためらいなくぶっ潰せる!



「んで、ウザイ伝言の方なんだけど、ヴェルト・ジーハと、そこの目隠れがウゼエ、ニートだっけ? テメェらに会いたがってる奴らがいる。ウザくてワリーかもしれねえが、それぞれ来てもらうぜ?」



 そして、そんな悪意に満ちた笑みで俺たちを手招きして、一体何に引き込もうとしているんだ?



「ヴェルト。テメエは、『教祖・クリア』を信奉するウゼー宗教団体・『ビーエルエス団体』の現代表である、『メロン』が。そして、ニート。テメエは『レッド・サブカルチャー』の現リーダーである、『スカーレッド』が会いたがっている」



 ………………えっ?


「なに? びーえるえす~? それって、あのライラックが言ってた、腐った組織か!」

「えっ、俺ッ? ちょっと待って欲しいんで! レッド・サブカルチャーって、あの赤ヘルのテロ軍団だろ? なんで俺なのか、全然分からないんで!」


 引き合わせようとしている相手が、あまりにも意外すぎる。

 館長の手当にあたっていたニートも驚いて立ち上がっていた。

 まあ、俺も驚いたけど。

 すると


「メロンは、『説教』だと。そして、スカーレッドは、『確認』だと」


 と、言われても、正直俺もニートもピンとこねえ。

 説教? なんでだ? 俺は何か怒らせるようなことしたか?

 確認? どういうことだ? ニートの何を確認しようってんだ?


「つか、何で俺がそんな団体に呼ばれてるんだよ」

「そっちのウゼー目隠れは知らねーが、ヴェルト、テメエはどうやらビーエルエスの女共を怒らせたそうだ」


 なに? 俺、何をやった?


「奴らの贔屓するライラックが経営しているウゼー店、イケブクロを破壊したのはテメエらだろ?」

「それは俺じゃねえよ! ジャレンガだよ!」

「あと、女を馬鹿にしたように六人も嫁が居るとか、六人も嫁が居てその中に一人も男が居ないとか、そういう非常識なところを説教したいそうだぜ?」


 それは大きなお世話……ってちょっと待て!



「何で、嫁の中に同性が居ないと非常識なんだよ! 俺に何を説教しようとしてるんだ、そいつらは!」


「いいじゃねえか、ウゼーからさっさとついて来いよ。さもないと………俺の部下が、…子供とマッチョと魔族が遊んでる遊園地を爆破したり……エンジェルタイプや亜人や地上人の娘がいるアイドルコンサートをふきとばすか? カカカカカカカカカカカカカ!」


「ッ! テ………メエ」


「カカカ、冗談だよ、ウゼーな。笑えよ。俺にそんな命令を下す度胸があるわけねえじゃん? カカカカカカカカカ!」


 

 こいつ………本当に今すぐ首をへし折って、ブチ殺してやりたいところ。

 だが、今はまだ、こいつの言うことを聞いておくのが……クソ……なんか、も~、今日帰るはずなのに、なんでこんな面倒なことになってんだよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る