第535話 エゴイスト

「お連れの方々は?」


「もう、いいよ。ほっとけ。んで、続きだ。その予言は分かったが、どうして当時の奴らは、そんな壮大な予言を信じたんだ? ピンとこねーよ」


「ええ。実はそこのところが、私にもよく分からないのです。しかし、当時の人類と地上人は、その予言を信じたそうです」



 いや、当時の連中だけじゃねえ。

 それこそ、聖騎士の連中も、そしてアイボリーたちの様子からこの世界も未だにその予言を確信している。

 どうしてだ?



「そして、そこでご説明しなければならないのは、当時の人類の主要人物。後に文明の父と呼ばれた『サブカルチャーの父・レッド』、我らの世界の技術の素を作って、僅かな期間で人類の歴史を飛躍的に進歩させた『人類史最高の頭脳・シルバー』、さらには『仙人・イェンスァ』、そして―――――」



 そして? 思わず話にずっと聞き入っていたからこそ、俺は気づいていなかったのかもしれない。

 それは、あまりにも自然に現れていたから、てっきり関係者だと思っていた。



「レッド、シルバー、イェンスァ、レインボー。後はなんだ? ブロンズか? どうせ一度に説明しても入りきらない説明を、ウゼーダラダラ続けることに意味はあるのかよ? ウゼエだけだぜ」



 違う……こいつは……カタギじゃねえ。

 それは、傷んだ紅い色の極太ドレッドヘヤー。

 そいつは、このエリアに足を踏み入れてゆっくりと俺たちに接近していた。


「えっ……ええっ!」

「にゃっは嘘でしょ!」


 それは、その人物を見た瞬間、俺の後ろで魂の抜け殻状態だった、ブラックとアッシュがいきなり顔を上げて、その表情を驚愕に染めた。


「はっ? 誰なんで?」

「むむむ? 何奴! そこで止まるでござる!」


 そして、そいつは周りの声や反応など一切気にしない。

 ジャレンガのように口角を釣り上げた笑み。

 四角いメガネをかけ、そのレンズの奥では、ウラのように真紅に輝く瞳ではなく、赤黒く染まった瞳。

 そして、亀裂が走ったかのように顔面に刻まれた稲妻のようなデカイ傷跡。

 どこか寒気を感じさせた。


「あなたは……ッ、ま、まさか! そんな! どうしてここに!」


 そして、姫二人と同様に狼狽え出す館長。

 なんだ? 顔見知りか? そして、なんかビビるぐらいヤバイ奴なのか?

 いや、ヤバイかどうかは別にして、ちょっと待て……ナンダコイツハ?


「ッ、ちょっと、そこで止まりなさい!」

「にゃっは警備は何をやってるの! 機動兵!」


 姫二人が血相を変えて俺の前に回り、現れた男に構える。

 すると、アッシュが叫んだ言葉に従って、館長が引き連れていた四体のメタリックロボが目を光らせて、男を取り囲もうと――――



「ウゼーな~。ストロベリードリル」



 極太の長いドレッドが捻りながら伸び、一瞬でロボたちを貫いた。


「ッ!」

「えっ?」


 目を疑った。いや、一瞬頭の中で「なんで?」という言葉が、俺と、そして特にニートに過ぎったはずだ。



「カカカカカカカカ。ウゼエぐらいくだらねーだろー? 展示物の見学なんてウゼエだけだ。本は表紙を見るものじゃねえ。中身がウゼエぐらいに大切なんだ。つまり、歴史も文化も、博物館に飾るものじゃねえ。自分で体験するものだぜ。ウゼーぐらいにそう思わねーか~? クラーセントレフンのダチたちよ~」



 その男は、何事もなかったかのようにロボたちを破壊し、そしてその場でドカッと偉そうに座り込んだ。

 俺たちを下から見上げ、まるで見下ろすかのような高圧的な態度。

 しかも何でこいつ……


「おい、神族は、魔法が使えない、普通の人間の青瓢箪共の集まりじゃねえのか? なんだよ、こいつは」


 普通の人間しかいない? そんな馬鹿な。


「何でこいつは、耳が尖ってんだ? 何でこいつは、髪の毛ドリルなんだ? なんでこいつ、半身が褐色肌で、もう半身が色白なんつう意味の分からねえ肌の色なんだ? そんでなんで……天使みたいにデッカイ翼が生えてんだよ」


 エルフのような耳。体の半分がダークエルフのような肌の色。ドレッドヘヤーの髪の毛先がドリルになり、そしてその背中には天空族のような羽?

 すると、男は俺の反応に更に口元の笑みを鋭くし、突如語り始めた。



「亜人や、新人類の研究は、俺たちの祖先がこの世界に移り住むと同時に全て取りやめになった。亜人をウゼーぐらいに管理できなくなった前例から、再び同じ過ちを繰り返さぬようにと、そして当時は兵器として利用していた新人類もいずれは反旗を翻すのではないかと恐れた祖先は、研究データを全て廃棄し、そして新人類も全てクラーセントレフンに置き去りにした」



 この、各種族のパーツを体の至る所に身につけた男は、何なんだ!

 しかし、男の話は続いた。



「だが、時代が進めば同じ過ちを繰り返そうとするウゼーバカは増えるもの。科学者共のただの伝説を復活させたいというウザイぐらいのエゴから、決して公にできねえ違法で非人道的な研究の積み重ねでたどり着いたのが、俺だ……ってのは、まあ、ウゼーぐらいどーでもいい話なんだよな!」



 そして、突如狂ったように笑い、そして叫んだ。



「ケツのクソふきの役にも立たねえ、ウゼー過去の歴史をありがたがって、道を妨げるウザイ粗大ゴミを撤去しねえ。だから今の世界はウゼークソミソなんだよ!」



 人を外見だけで差別しちゃいけねえ……っていうレベルを超越しやがって。何者だよ、こいつは。



「カカカカカカ。まさか、政府のジャンプの実験早々に、クラーセントレフンの地上人たちがこうして現れるとはな。色々と予定が狂ったが、嬉しい誤算だ。正に、新たなる歴史の幕開けに、俺もまた胸が踊っている……テメェらは、ウザくねーな」



  そして、目を見開き、手を天井に伸ばす。



「そう。過去の遺物も新たなものを生み出さなければ、ウザイくらいに意味を成さねえ。展示されるだけで何も生み出さねえ遺産なんざウザイゴミと同じ。新たなる歴史の一歩を歩く者たちの、ウザイ妨げにしかならねえだろうが」



 突如、空気が変わっ! 何をする気……ッ!


「テメェッ!」

「え、えええっ! マジなんで?」

「ちょっ、何すんのよ!」

「にゃっは危ないッ!」


 男の腕が巨大なドリルへと変化して、何の躊躇いもなくそのドリルを天井に突き刺した。

 すると、一点を突かれた天井は、そこが起点となって部屋中に亀裂が伸び、次の瞬間、砕け散って瓦礫が俺たちに降り注ぐ。


「ふわふわ世界!」

「…………おっ、カカカカカカ、それが魔法か。ウザさの無い素敵な出会いに感謝だ」

「ッ、テメェ……」


 何の躊躇いもなく突き刺しやがった。

 世界遺産の宝庫みてーな博物館で、こいつはいきなり何を……


「だが、解体工事は邪魔すんじゃねえ。そこは、やっぱちょっとウゼーか?」

「ッ!」

「サイコキネシス」


 掌を俺に向け……ッ!


「ッ、う、おおおおおっ!」


 見えない力! まるで、全身を何かに掴まれたかのように、そして見えない壁が飛んできたかのように、俺が、耐え切れず、吹っ飛ばされる!


「ッ、ヴェルト!」

「殿ッ! き、貴様ァ! 拙者の殿に何をするでござるか!」


 にしても、この力……どういうことだ? まるで、エルジェラやリガンティナたちみたいな……


「ッ、や、やめろおっ! ここは神聖なる世界の遺産が眠る聖域! なんてことをすッ――ガハッ」


 ッ! 館長…ッ!



「遺産は使わなきゃ意味ねえだろうが、ウゼー老害が」



 気づいたときには、男のドレッドドリルが、鋭く尖り、それは、館長の枯れ枝のように細い体を貫いていた……

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