第518話 俺は何と戦っている?

「テメエは、確か、ライラックの妹の………」

「ミントでしてよ。今、どういうわけか、外では多くの人が取り乱して危険になっているので、無闇に動き回らない方がよろしくってよ?」


 アイドルグループのリーダー格っぽい女。このヴァルハラと呼ばれる国の姫。

 そしてついさっき、ジャレンガにぶちのめされた、変態ライラックの妹。

 その事実から、思わず俺は身構えていた。


「ああ、だから俺はコスモスを……」

「リガンティナ姫とあなたの娘さんの部屋はこちらよ。私が案内しましてよ?」


 なに? それは、好都合……なんだけど……


「何で、お前、知ってるんだ?」


 確か、噂ではこいつ、今夜は枕営業うんたらかんたらで……

 そして、こいつはあのド変態ライラックの妹でもある。

 そもそも……


「そもそも、何でテメエは無事なんだ?」

「上階のVIPルームは、バイオハザード用の防護システムが作動していましてよ。それより、早くしたほうがよろしいと思いましてよ?」


 バイオハザード? また、随分とニートが好きそうな単語なことだ。

 まあ、それならそれで問題ないのか?


「この部屋よ。さあ、いらして」


 そうだな。それに、今はこいつを信じるしかねえ。

 俺はミントに連れられるまま、とある一室の前に案内された。

 その扉は、ミントの所持していたカードキーを通すことで自動的にロックが解除され、中に入った瞬間、電気一つついてなかったのに、いきなり部屋が明るくなった。

 中には広々としたリビングやソファー。アンティークものの家具や、液晶型のディスプレイ、そしてテーブルの上には豪華な花束と果物……


「って、コスモスいねえじゃねえかっ!」


 ガチャリ。その時、そんな音がした。


「…………ん?」

「……………ライブ、スタンバイOK」


 振り返ると、ドアをしっかりと閉めたミントが背中を向けたまま、何かを呟いていた。


「おい……テメエ……コスモスはどこだ?」


 なんか、様子が変だ。いや、なんか嫌な予感がしてきた。

 かなり強めの口調で問いただすと、ミントは答えた。



「ヴェルトさん。どうして私が、ステージ衣装でここに居たのかを、気になさらなくって?」



 はっ? ……言われてみりゃそうだな。

 別にライブってわけでもないのに、お忍びで現れたお姫様がどうして、ステージ衣装で?

 目立つだろうが。


「実はこの部屋が、今晩、あなたに宛がわれた部屋だったのでしてよ?」

「……だから?」

「そして、今夜……私はこの部屋をステージに、ライブを行う予定でしてよ?」


 そして、ようやくドアに顔を向けていたミントがこちらを振り返る。

 その目はどう考えても……



「ヴェルト・ジーハさん専用特別公演。ノー○ンライブを!」



 …………………………………………………………………………?



「あっ! か、勘違いしないでくださいませ! ノーパ○といっても、ただ、スカートの下に下着を穿いていないだけで、ただ、それだけなの!」



 …………………世間では、それを○ーパンと呼ぶと思うんだが。



「へ、変な勘違いしないでくださいませ。元々はパンチライブを行う予定だったのだけれど、この方が質として喜ばれると思っただけで、私は別に変態じゃなくて、おさわりだって別にあなたのお気に召すままで、とにかく――――――」


「ふわふわパニック!」


「はぐっ!」



 最後まで聞いてられるか。



「お前も、普通に洗脳されてんじゃねえか。バイオハザード用防護壁って、何も役に立ってねえし! まあ、各階ふきぬけになってる時点で気づくべきなんだけどな」



 経験に乏しかった半年前の俺ならば、ものすごいドキドキしたんだろうが、今の俺にはハニートラップは通用しねえと何度も言ってるだろ?

 問答の時間も惜しかったので、俺はミントをソッコーで気絶させた。

 倒れこむミントの衣服がほんの少し乱れて、スカートの裾が、中身が見えるかどうかのギリギリのラインでまくれるも、今の俺は気にしない!


「つうか、国際問題にならねえよな? っていうか、お姫様の痴態と貞操を守ったんだから、むしろヒーローか」


 とりあえず、気絶したミントは放置して俺は……


「待って、ヴェルトさん! せめて、お尻愛からでも始めさせても、よろしくって?」

「ほぐゅわ! て、テメエまでバーサーカーに!」


 背後からのタックル! 完全に油断……って、そうか! エロバーサーカーモードだから、こいつにも通用しねえのか!

 なんつう、傍迷惑な力だよ!


「ヴェルトさん。私は、兄とは違ってよ? 兄のような奇人をパーティーで見て、ヴァルハラを誤解されてしまったかと思うと、私……私……」

「っ、あーもう、分かったよ! 別に誤解してねえよ! ライラックが特別だって分かってるから、とにかく離せよ!」

「そう、私は兄とは違う! ちゃんと私は、異性のお尻が好きでしてよ!」

「……………?」

「愛し合う男と女。異性同士のお尻を愛し合う。だから、私と、お尻愛になるのはいかが!」


 何言ってんだ、こいつ。

 いや、っていうか、こいつもまさか……


「テメエまで変態だったか!」

「失礼! 私は変態じゃなーい!」

「どこがだよ! そもそも法律で禁止されてんだろうが! そこはどうなんだよ、ああん?」

「ええ、勿論! 法律では禁止されている。交際許可すらも下りていない異性の体に触れるのは禁じられていてよ。それは、王族とて例外ではなくってよ! それを私が破るわけがなくってよ!」

「なら、何故、俺のズボンに手をかける!」


 ダメだこいつら。言葉も思考もすべてが支離滅裂になっている。

 エロスヴィッチの力が、まさかここまでとは思わなかった。

 こりゃあ、多少手荒にしてでも……


「殿の匂いはここにゃあああああああっ!」

「ヴェルトくん、ムサシちゃんがどうしても止まらなくて、ゴメンネ。本当にゴメンネ」

「ヴェルトお兄さんまで、シアンいじめないでくらさい!」

「助けに来たわ! 指は無事よね?」


 全員集合しちゃったよ!

 強固なはずのVIPルームのドアなど、侍ムサシにかかれば、豆腐のようにスパスパ斬られた。

 そして、全員揃って異常な目をして………


「ったく。女たちにこれほど過激なアプローチされても手出しできねえのは、ヘタレかゲイだけだと思っていたんだけどな。これだから、妻子持ちはつらいぜ」


 だけど、そうは言っても喰われるわけにもいかないよな。

 ムサシに関してもだ。こっちがムサシを可愛がるならまだしも、ムサシが俺を喰うのは、何だか殿としての威厳が許せねえ。



「つうわけで、手荒にいくぞ! ふわふわモーセ!」


「殿~~~! ご乱心を~~!」


「ご乱心はお前だろうがッ!」



 目の前の壁は左右真っ二つに分けて、真ん中を悠々と通り抜ける。

 甘いぜ、ムサシ。洗練され、極限まで集中したお前ならまだしも、発情モードで混乱中のお前じゃ、俺を止めることはできないぜ。

 後ろから俺を呼び止める声を耳にしながらも、俺は飛ぶ。


「コスモスーッ! どこだ、コスモスー!」


 くそ、ホテルが無駄にでかすぎる! しかもパニック状態で周囲が騒がしい中で、コスモスが果たして俺の声が聞こえるか? 

 リガンティナだってどこに居るかは………



「中年ばかりしかいないではないか! 夫ーーーっ! ラガイアーっ! 我が夫がどうしていないのだー!」



 あっ、居たよ。

 こんな叫び声、一人しかいない。

 っていうか、状況的に、誰彼構わず発情してるわけでもなく、ラガイアに貞操を守ってるあたり、リガンティナの執念は見事なもんだな。

 ホテルの廊下を、鬼のような形相で徘徊するリガンティナ。

 どうして、俺の義理の兄貴や姉は、あんなに一癖も二癖もあるやつばかりなんだ?





――あとがき――


下記もお願いします!!!!


『ポンコツ正義の魔法蹴撃士は学園Fランク生徒縛りで青春満喫~「勉強不足」でSSSランク勇者パーティーをクビになったので力を制御されて勉強しなおす』


https://kakuyomu.jp/works/16816927862967571461



まだ書き始めたばかりです。ついでに、作品のフォローと「★」でご評価入れてください。某所で「エロいからアウト」となって、こっちではエロ排除して書いてるテンプレ気味のやつですが、たまにはこういうのも書いておきたいなと思いました。

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