第513話 意外な対決

 二つに別れた群衆の真ん中を闊歩する、威厳と妖艶な雰囲気を纏いながら、ニタニタとした笑みを浮かべている、エロスヴィッチ。

 そして、その隣には、何故か体を小刻みに震えさせながら、ぎこちない足取りで歩き、その頬は赤く染まり、かなり涙目になっている、シアンと呼ばれていたアイドル姫。

 それほど寒くもないのに、不自然なロングコートで全身を覆い隠している。


『ん、ううう、あう、く、なわが、食い込み、ん、ん』


 そして、時折漏れる艶っぽい声はなんだ? 

 アイドル姫の中でも最も子供っぽい大人しめの少女から醸し出す思わぬ色気のようなものに、集まった群衆もどこか顔を赤らめている。



『ぬはははは、お~、バスティスタ、何をやってるのだ?』


『エロスヴィッチ。部屋に居たのでは?』


『うむ。部屋でシアンと一緒に『色々』と遊んでいたのだが、それだけでは物足りなくて、少し買い物に行ってたのだ。意味不明なものばかりの中に、中々面白いものも混ざっていて、目移りしたのだ』



 色々遊んでいた。何を遊んでいたんだ? そして、なんでシアンとかいう姫はお前の傍らに立っているだけで、今にも失神しそうなぐらい全身をプルプルさせてるんだ? 

 そして、俺だけだろうか。あのシアン姫の着ているロングコートの下が、一体どうなっているのか気になっているのは。



『ほれ、見てみるのだ! 最近、肩などの凝りがひどいわらわに最適な、この、『はんでぃ電動まっさーじ』とやらはすごいのだ♪』


『何故、九本も買う必要が?』


『それは、わらわは九刀流だからなのだ!』



 九本のハンディ電動マッサージ。通称『電マ』を袋から取り出して電源入れた瞬間に「ウイ~~~ン」となって、先端の部分が振動する。

 なんでだろう。一般的なマッサージ道具なのに、あの女が持っているだけで、卑猥にしか見えねえ。


『他にも、明るいところでも気にせず寝れる『アイマスク』とやらに、荷物を縛ったりする際に便利な『伸縮自在のロープ』など、他にも色々と性活……生活に便利なものがあったので、買ってしまったのだ♪』


 意味不明な表情で首を傾げる、ジャレンガ、ペット、ムサシ。うん、それでいい。

 特にムサシとペットは、俺たちの感じたような違和感を思うことなく、健やかにそのまま育ち、何ものにも染まらないで欲しい。

 だがしかし、エロスヴィッチのお買物に、何か別の意図を感じた俺、ニート、そして意外にもピンクは「うわ~」と引きつった表情のまま、車内で硬直してしまった。

 だが、そんな状況の中、この場に現れたエロスヴィッチは、俺たちにも予想もしないブチ込みをさらにすることになった。


『んで、おぬしは、確か、バーミリオン姫と……そうかそうか、コクったのだな♪』

『はうっ!』


 超嬉しそうにニヤ~っと笑うエロスヴィッチは、そのまま笑いながらバーミリオンの背中を叩いた。


『なれば、こ~んなところでお見合いしとらんで、さっさと部屋に行って乳繰り合うのだ! せ~っかく、こんなイイモノ持ってるのだ、こんな堅物、パイ揉ませれば瞬殺なのだ♪』

『ひゃうっ! あら、あらあらあらあら! まあまあ、いや、まあ、なんてことを!』

『おおおおお、いい反応なのだ。どれ、耳をペロッと』

『ふひゃうっ!』

『おお、敏感なのだ! のう、バスティスタ、わらわにくれんか? わらわ、ちょっとだけ、ちょっとだけこの娘を貸してほしいのだ!』


 だから振られた状況で、バスティスタが格好良くフッた直後に、テメエは何を他国のお姫様の胸を揉みながら、大衆とメディアの前でやらかしてんだよ!


『そ、そんな! ヴィッチお姉様……ど、どうして、私にアレだけのことをされたのに……』

『ん~? なんなのだ、シアンよ。妬くとはカワイイが煩わしいのだ。そんな女はもう、一緒に遊んでやらないのだ』

『しょんなっ!』

『だが~、そうなのだな~、今夜、わらわが教えたとおり、ヴェルトの機嫌を回復してくるのなら、許してやるのだ。嫁がおらんで色々と溜まってるヴェルトのチン―――』


 嫌がるバーミリオンの胸を揉みながら、耳とか首とか舐め、その傍らにはショックを受けているシアンがヘタリ込む。

 そんな衝撃的な映像は、やがてプツリと途切れ、何やらテロップのようなものが画面に映し出された。


「おい、ピンク。なんて書いてるんだ?」

「放送事故よ…………」

「あの、ババア…………あのババアッ!」


 ほんと、メンドクセーことしやがって。

 俺は思わず車の扉を開けて外に出る。

 真下に見えるエロスヴィッチの凶行を、今すぐこの場で「ふわふわパニック」でもして、お仕置きしてやろう。

 そう思っていた、その時だった。


「その汚らわしい手を離せ、エロスヴィッチ」

「ぬっ?」


 ギロりと睨んだマッチョが、エロスヴィッチの首ねっこを摘まみ上げた。

 それには、若干不愉快そうな顔を浮かべたエロスヴィッチは叫ぶ。


「なんなのだ! ちょっと、パイを触るぐらいは挨拶なのだ! もう既に、あのパイは自分の物だと独占欲でも出しているというなら、体の割に器の小さい男なのだ!」


 いやいやいやいや、なんだよその滅茶苦茶な文化は。

 スカイカーから飛び降りようと、ドアを開けた状態のまま、俺は固まっていた。



「貴様の常識は、我々の世界でも異端だ。人の器に口出す前に、まずはお前自身が恥を知れ」


「あ゛? ……バスティスタよ……おぬしの方こそ、一体誰に向かってそんな口を聞いているのだ? たかだか、ラブ・アンド・ピースの元最高幹部というだけの、チンピラ風情が」


「ふん。三大称号を捨てて引退した老兵は、過去を振り返ることでしか自分を何者かを語れない。実に哀れだな。お前にできることは、性欲の赴くままに、人を汚すことしかできん。カイザーとチロタンが、貴様を国から永久追放してくれてよかった」



 ん? あれ? おい、ちょっと、お~~~い、ちょっと?

 なんでお前ら、そんな一触即発な雰囲気を………


「……この手を離せ、筋肉だけでケツの穴の小さいクソガキが。わらわは、今から二人の姫と親交を深めるのだ。女の手も握れぬビビリなデカ物は、この電マで遊んでろ」


 エロスヴィッチの雰囲気が変わった。

 いつものド変態笑から、殺気立った相手を地獄へ突き落とすかのような瞳。

 その圧力は、平和ボケしてるこの世界の連中に耐えきれるものでもなく、シアンやバーミリオンは思わず腰を抜かした。

 そして、集まった群衆も思わず後ずさりするほど。



「そういうわけにはいかん。確かに、この手は女の手も握れぬ身なれど………今日はまだ終わっていない」


「なにいっ?」



 だが、それほどの圧であっても、怯むことなどありえないバスティスタは………



「今日は、俺がバーミリオン姫を守る。昼間に誓ったその約束は、ギリギリまだ続いているのでな」



 すると、次の瞬間だった。

 何かブチっと鳴った音と共に、エロスヴィッチをつまみ上げているバスティスタの顔面を九つの高速の尻尾が鞭のようにしなって襲いかかった。


「ッ、バスティスタ様ッ!」

「お姉様ッ!」


 突如始まった攻撃。突如として緊迫した空気が一気にして破裂した。

 バスティスタの腕から逃れたエロスヴィッチは上空に飛び上がり………



「おぬしの魔羅がどれほどのものかと気になった時期もあったが……もういいのだ! 剛剣を抜くことも知らぬ腰抜けは、わらわに及ばぬと知れ!」


「やれやれだな………仕方ない。少し捻り潰してやるか」



 ちょ、ちょと待てちょと待てちょと待てーーーーいっ!


「あははははは、なんか面白いことになってない?」

「分からないんで! どうしてこういう展開になったか、全然分からないんで!」

「とと、殿、どうすれば!」

「あんな二人が戦っちゃったら、とんでもないことに!」


 ああ、その通りだよ!



「テメェら、何やってんだ! 何をいきなりドリーム対決やってんだよっ!」



 しかし、俺の叫びなど耳にも入ってない二人の尻尾と拳がぶつかり合い、ホテル前の広場に巨大な衝撃音を響かせた。 

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