第512話 男の幸せ
え~~~っと、待て待て待て待て。なんで、世界が注目してるんだ?
「あははは、君と同じだね~、ヴェルトくん。ほら、僕たちが初めて会った日、君がウラ姫と結婚した日」
「ジャレンガ?」
「あれもさ~、結局、あのプロポーズとか全部世界中に流されてたんでしょ? どうやら君の弟弟子も、そういう流れは受け継いでるんだね?」
ジャレンガにしては珍しい、おちょくったような嫌味だが、それにしてもなんでこんな大ごとになってるのか意味不明だ。
つうか、映像見る限り、あのバーミリオンとかいうお姫様は、バスティスタ相手にいっぱいいっぱいな様子で周りに目が行っていない。
一方で、バスティスタも威風堂々しすぎてて、全然周りを気にしてない様子だった。
そして、そんな二人の間では…………
『自分には大切な家族を幸せにする使命がある。そして、あの子達が自立し、立派な大人になるまで見届けるのが俺の使命であり、誓いであり、夢であり、そし生きがいだ』
と、真剣な顔でバーミリオンに告げるバスティスタ。
えっと、この状況は恐らく…………
『ええ、その理由は分かりました、バスティスタ様。ですから私は申し上げています。そのお手伝いを、あなたの傍で私にもさせて戴きたいと』
えっ? なになに、もう、そんな話までいってんの? お前ら、今日会ったばかりじゃねえのか?
『そして、そこで、私を判断していただくことは出来ないでしょうか? 子供たちのためにと生きるあなたの心の優しさに、私の胸のときめきは既に臨界点に達しています。ですが、そのためにあなたは、生涯自分の幸せを求めずに、自分の人生を犠牲にし続けるのは、あまりにもさみしいと思います。だから、私にお手伝いをさせてください。そして、その日々の中で、私のことをもっと知っていただけたらと思います』
……………………やべえ、ナニコレ?
当初の予定では「よ~、バスティスタ~、アイドルにコクられるとか、パネエじゃねえか~」と言ってやるつもりだったのに、多分俺が今、そのセリフを言うためにこの状況の中に入ってったら、ものすげえ、スベるだけじゃなく、反感買いそう。この世界的に言う、炎上するってやつだ。
『家族のために生きることが、人生を捨てたとこになるというのか?』
『バスティスタ様?』
そして、この状況でバスティスタは、シリアスにさらにシリアスを返しやがった。
『犠牲だと? そんなはずはない。ヴェルト・ジーハを見てみろ』
『ヴェルト? あの、例の彼ですか?』
『ああ、そうだ』
ん? なんで俺の話題?
『毎日どれだけ労働して体に疲労がたまろうと、あいつはコスモスや幼い妹と接する時間を惜しまない。それは、自分を犠牲にしているのではない。あいつは生き生きと、絵本を読んでやったり、ままごとに付き合ってっやったりしている』
おい、そこで、ニートとペットは何を笑い堪えてやがる。
「絵本……ヴェルトが……ままごと」
「ヴェルトくんが、そんなことを……ぷっ、く、く、小さい頃、フォルナ姫におままごとに誘われても全然乗り気じゃなかったのに……コスモスちゃんとハナビちゃんにはしてあげるんだ……」
「勿論、拙者もでござる! お嬢様がお嫁さん役、ハナビ殿が娘役、殿が旦那様役、拙者は飼っている猫の役でござる!」
仕方ねえだろ。だって、コスモスもハナビもメッチャ喜ぶし。
『俺は、ヴェルト・ジーハの気持ちがよく分かる。自分が育て、守り続けている一方で……自分が子供たちからパワーを貰っているのだ。俺も……孤独に耐え切れず毎晩泣いていたチビたちが……いつしか、寝言で『兄ちゃん』と口にしながら笑っているのを見た時………これ以上ない幸福だったのを覚えている』
バスティスタの気持ち、俺も良く分かった。
子供のためにと思って、疲れていようが、大変だろうがお構い無しに構っているようで、本当に力を貰っているのは俺の方だったりもする。
『ヴェルト・ジーハも、子の為なら何でもするだろう。相手が魔王だろうと、世界を巻き込む大戦争を起こそうとも、娘のためならば戦う。俺も同じだ。あの子達のためなら、どのような汚いこともしよう。この手を汚そう。全てを敵に回そうともだ』
ヤバイ。なんだ、この断り方は。
これじゃあ、おちょくれねえじゃねえかよ。
「やけくそになって結婚してるヴェルトとはエラい違いだと思うんで」
「ま、まあ、殿ほどではござらんが、天晴れな男子でござる」
「でも、ヴェルトくんがバスティスタさんを気に入ってる理由、なんか分かるかも」
だな。まあ、あいつらしいといえばあいつらしい。
つーか、あの姫さんも姫さんだけどな。
「さすがに、出会って初日はムボーだろうな。せめて、チビ共と先に会って、気に入られて、外堀を埋めるぐらい手順を踏まねえとな」
あまりにも淡々と断っていることで、何だか少し気分がしんみりしてきた。
『だからこそ、バーミリオン姫。俺に好意を寄せてくれたことは誇らしく思う。だが、俺がお前をどう思うかは、正直関係ない。今の俺は、家族のこと以外を考えられない。それが、父親として、兄として、そして男としての俺の意地であり、幸福でもあるのだ。俺は好きでやっている。犠牲なんかではない。俺が、そうしたいのだ。この体は、そのためにあるのだから』
これはもう、挽回不可能だろう。
だが、それが誰にでも理解できているのに、誰もが言葉を発しない。
集まっている野次馬も、テレビのリポーター的な奴らも言葉を失い、見入っている。
そこに歓声も励ましの言葉もなく、ただ見守るだけ。
流れる場の沈黙が続き、やがてバスティスタが背を向けた、次の瞬間だった。
『な~ん、なのだ。ちょっと、わらわが買い物行ってる間に、何をやっているのだ?』
『はううう、ひひ、人がいっぱいでで、でし、お、おねいしゃま~~!』
『ふん、そんなに慌てるとバレるのだ。クールな顔をしていないとダメなのだ。まあ、わらわはどっちでも構わんが』
『い、いいい、イジワルです~』
それは、沈黙していた群衆を一瞬でザワつかせ、そして二つに分かれて道を勢いよく開けてしまう存在。
『ん? お~、バスティスタではないのか。なんなのだ? 逢引なのだ?』
『バーミリオン姉さままで、んん、ッ、え、ヴィッチお姉様、こんなところで、スイッチ入れるのダメでし』
『むふふふふふ、なら、凛としているのだ。そして、ちゃんと真っ直ぐ歩くのだ。さもないと……ぐふふふ……バイブ落っこちるのだ♥』
……で、アレハナニヤッテルノ?
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