第505話 文明の違い

 広い店内だ。暴れる分には支障ない。

 変態未知の実力者だろうと、心置きなくできる。


「さあ、僕様たちの加速装置についてこれるかな?」


 二体の人形とライラックの加速。

 まるで、車が加速したかのように力強く床を蹴り、俺たちへの突進を見せ――――


「月散ッ」

「馬鹿ッ、俺らもいるってのにッ!」


 反対に俺はムサシとペットとニートを魔法で引っ張って、逆にジャレンガから遠ざかった。

 ジャレンガから放たれる月光眼の威力により、まるで磁石の同じ磁力どうしが反発するかのように、「二体」の人形は吹っ飛ばされて、壁にめり込む。

 だが、



「斥力発生、ハイテクだね~。でも、重力には斥力がないことを知らないかい?」


「ッ!」


「重力グラビティ発生装置ジェネレーターッ!」



 月光眼が効いてねえッ!

 まるで何事もないかのように加速して、ジャレンガに―――――



「おやすみなさい! 超ウルトラバイブレーションジェネレーター!」



 掌を向けただけで壁を貫通するほどぶっ飛ばした!


「ジャレンガーッ!?」

「何をしたんで、あいつ!」

「あの伝説の月光眼が、通用しないでござるッ?」

「あの人は、一体!」


 空間が歪むほどの力の発生、そして、耳鳴りのような音。

 あれは、見覚えがある。確か、ルシフェルやキシンが…………


「ふふふ、魔族が相手ということで多少の力を加えたが、さすがだね。通常の人間であれば素粒子まで分解できるほどの威力だ。未だに原型が保たれていることは、敬意に値するよ」


 ぶち壊された壁の向こうから、瓦礫を掻き分けて、ジャレンガが起き上がる。

 だが、その姿、頭が割れたのか、目や耳からも青い血が流れ、激しい損傷を受けた肉体では、腕や足が骨折したと思われるほど曲がり、青黒く染まっている。



「ッ、ガハッ……なにそれ……ルシフェルさんと似た技?」


「ルシフェル? ああ、七つの大罪か。構造はよく知らないが、所詮は遥か昔のアイディアと技術だろう? 比較されても困るね」



 確かにそうかもしれねえ。

 ルシフェルと似た技と言っても、それはあくまでこいつらの文明よりもはるかに昔の技術。

 二千年もあれば、人間は宇宙にだって行けるほどに進歩する。

 ならば、こいつも……


「関係ないよ? アイデアや技術が何年進化しようと、僕を怒らせた一瞬一瞬は色あせないからねッ!」


 しかし、ジャレンガは構わずに飛んだ! 足が折れたのなら、翼を広げて、真っ直ぐルシフェルに向かう。

 腕が上がらないなら、その鋭いヴァンパイアの牙を立てて襲いかかる。


「いや、無理だよ」

「ッ!」


 しかし、ライラックの首筋にジャレンガが噛み付こうとした瞬間、見えない力場に弾かれた。


「ぐっ!」

「振動発生させている僕様に、近づいたり触れたりするのは自殺行為だよ?」


 ダメだ! 戦うスタイルが違いすぎる。

 いくらジャレンガでも、文明と文化が違いすぎるか?

 しかも、このライラックとかいうやつは、その中でも多分ずば抜けた力の持ち主だ。

 なら、



「仕方ねえ、手ェ出すぞ!」



 俺のレーザー砲で、一気に――――



「殺すよー! ヴェルトくん、僕がこいつを殺すんだからッ!」


「ッ、ば、ジャレンガッ!」



 しかし、ジャレンガがふっとばされながらも、拒否してきた。

 それは意地か? だが、傷つきながらもその瞳は、変わらず邪悪に満ちている。

 いや、こっちもあんまり余所見ばっかできねえか。


「抹殺スル」

「電子ビーム射出」


 来たな、バスケコンビ。壁まで吹っ飛ばされたが、ノーダメージで起き上がって追撃してくる。

 その腕に、何やら未来武器を装備して、二人がかりで俺たちに向かってくる。

 だが、余所見はできなくても、こんなもんに手間取っているわけにもいかねえ。


「けっ、連携で来るか? 相性いいんだな、お前らは。だが、残念だがお前らと俺との相性は最悪だぜ?」


 そう、ロボなら所詮はカラクリモンスターたちと同じだ。

 生命体じゃねえ物質が相手なら、俺にはやりようがいくらでもある。


「ふわふわストップ!」


 こうして、二体まとめて身動きを封じることも容易い。

 こっから、空気爆弾で爆発させるのも、そしてレーザーで撃ち抜くのも、選択肢はいくらでもある。

 まあ、とりあえず今は確実にやることにする。



「ふわふわレーザーッ、四連射!」



 俺のレーザーは、閃光とともに、二体の人形の頭部と胴を抉り取った。


「うわっ、容赦ないんで」

「殿! あまり活躍されると、拙者の役目がなくて、さみしーでござるっ!」


 わかってる。なら、後はトドメをさしな。



「螺旋茨ッ!」



 ニートが床に手をかざした瞬間、床を突き破って枝分かれしたドリルが、破損した二体の人形を突き刺し、



「ミヤモトケンドー・二刀千華繚乱ッ!」



 最後は、ムサシの神業とも言える斬術の連続で、もはや分解と言えるレベルにまで先輩後輩を細切れにした。



「けっ、大したことねーなー! 神様の文明も! これなら、戦闘用のカラクリモンスター共の方がまだエグかったぜ!」



 技術の進歩を披露させる間もなく破壊した。意外とあっけなかったが、その方がいい。

 こんなところで出し惜しみしたりして、面倒なことになるぐらいなら、相手の手の内を見せられる前に破壊する。

 問題なのは…………


「マッハフットワーク」

「ッ!」

「ハハハハハハハハハハハ! 野性味が強すぎるな、ジャレンガくん。勘や身体能力だけでは、僕様は捉えられないぞ?」


 そこで俺たちが見たのは、蝶のよに舞い蜂のように刺すかのごとく? いや、そんなものじゃない。

 自分の意思を持ったかのような爆風が店内を縦横無尽に駆け巡り、ジャレンガの全身を魔族の青い血で真っ青に染めていた。


「ジャレンガッ!」

「はやっ!」

「な、なんでござる、あの男は!」


 あのジャレンガが、まるで手も足も出ずに? そんなことってありえるのか!


「ッ、ウザイよ、君、殺すよ?」

「はははは、無理だよ、ジャレンガくん。」


 ジャレンガが竜の腕で切り裂きにかかろうとも、超振動の壁がジャレンガを弾き返し、振動を纏ったライラックの掌を少しジャレンガに近づけただけで、ジャレンガの全身からいくつもの骨が粉砕したと思われる鈍い音が響き渡った。



「あがっ! がっ……」


「ひゅう、その可愛い顔とお尻のわりに、なんと頑丈な体だ。さすがは魔族と呼ばれる非常識な生物。でもね、所詮は改造もされていない純粋な生物。脆弱なヒトも、兵器を持てば獣も国も世界すらも一瞬で消し去るんだよ!」



 そして、そのまま空間を振動させ、ジャレンガの全身の骨を粉々に砕いたまま衝撃波でジャレンガを店の外まで飛ばした! 

 これは、まずいぞ! ジャレンガの意地がどうとか言ってる場合じゃねえ!


「しゃあねえ、手ェ出すぞ! ペット、お前も遠距離から何かやれ! ムサシ、不用意に近づくのだけはやめろよ!」

「あ、う、うんっ! なら、ああいうカラクリモンスターみたいなのは雷が……雷光ライトニングロックッ!」

「御意ッ! ならば、見せてくれよう、空を切り裂く、ミヤモトケンドー・二天真空居合切り!」

「あ~もう、だからヴェルトに巻き込まれるの嫌だったんだ! くそ、もういっちょ、螺旋茨ッ!」


 遠距離からの四人同時攻撃。振動だか何だか知らねえが、これで少しぐらいは……


「ふふふ、けがわらしいノンケの諸君に、僕様が本当の兵器を見せてあげようか?」 「ッ!」


 今度は、一瞬にして空間の温度が急激に上昇したのが肌に感じた。

 まるで電気のようにスパークされたエネルギーが、ライラックを包んでいる。

 そして、振動を放っていた右手とは逆の左手を開き、俺たちに向ける。

 これはっ! ルシフェルと同じ技だ! 

 あれを食らったら、まずい! 死ぬっ!



「荷電粒子ビームだっ!」



 一直線上に突き進むレーザービーム。

 何万度にまで急上昇した光学兵器! 一瞬で蒸発するっ!



「ふわふわ方向転換ッ!」



 なら、その砲口を曲げちまえばいいっ!

 それだけで、ライラックの左手は俺たちの斜め上に向き、天井を一瞬で蒸発させ、ビームがメガロニューヨークの夜の大空へと放たれた。


「ふひ~、危な…………」

「た、助かった~、ほんと危なかったんで」

「ぐぬぬぬぬ、拙者としたことが、殿の手を煩わせるなど」

「あ、ありがとう、ヴェルトくん………一瞬ダメかと思ったよ~」


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