第504話 無きゃ無いで

「ふふ、一体どうしたのか分からないが、ヴェルト君、そしてニート君、君たちなら僕様たちの叫びを理解してくれると思った。共に、このつまらない世界をぶっ壊し、共に新しい世界を作ろう! そしてその果てで、僕様たちと君たちの世界で手を結び、共に『モア』を倒そう!」


 俺たちが何を思っているのかをまるで知らないライラックだが、そこで本来の目的を口にした。

 俺たちと組み、この世界の文化を取り戻し、そのうえで互いに歩み寄って手を組んで、そして共に戦おうと。

 その想いを込めて、ライラックは俺の前に手を差し出して、握手を求めてきた。


「ヴェルト……」

「殿?」

「ヴェルト君」

「ふわ~~~あ。話まだ?」


 そして、そんな中で俺の出す答えとは?


「まあ、勝手にやってろ。俺には興味ねえ」


 それが俺の答えだった。


「……おやおや、ここまで熱く語ってもまるで興味を示さない? はは、嘘はやめたまえ、ヴェルト君。君はそんな男ではないだろう?」


 一瞬驚いたように目を見開いたライラック。だが、すぐに笑って俺の発言を冗談だろ? と言ってくるが、別に俺も冗談のつもりじゃなかった。


「そういう文化を取り戻す取り戻さないはお前らの世界の問題だろうが。何で俺が関わらなくちゃいけねーんだよ」


 そう、だって俺らには全く関係なかったからだ。



「いやいや、そうじゃないよ、ヴェルト君。これから近い未来に僕様たちの世界は互いに手を結ぶことになる。それなのに、君は今のこんなつまらない世界と手を結ぶのかい? 君の言う、貧弱の世界。娯楽も何も無い世界と組むのかい?」


「娯楽ね。確かに、そういうものにハマっちまった連中からすれば、規制されたり、無くなっちまうことに複雑な気持ちになるのは分からんでもない。俺も、あるのが当然と思っていた文化が、気づけば全く違うものになっていた……そういう経験はあったからな。でもな……」


「でも、なんだい?」



 そう、俺もライラックたちやテロリスト共の気持ちは分からんでもなかった。



「でも、無きゃ無いで、意外と別に何ともなかったぞ? 俺はな」



 ただ、所詮は分からなくもないというだけで、そこに俺が関わる理由にはならなかった。


「この世界ほどじゃなくとも、発達した21世紀の日本から、突如ファンタジー世界の農家の息子になった俺。最初は荒れて、やさぐれて、不貞腐れて、でも……結局俺はそこまでだ。自分の中で消化できた。親とか、幼馴染とか、恩師とか……気安い街の連中とか……、新たな出会いとか、そして嫁とか娘とかな。それで十分だった。十分すぎるぐらいだ。それ以上なんて、別に今、思いつかねえよ。文化だ娯楽だなんて、まるで気にする暇もないほど、俺の今は毎日がヤバくて、イカして、楽しいもんだぜ?」


 そうだ。俺もあったはずのものが無くなって、自分の第二の生を最初は呪った。恨んだ。

 なら今は? そんなことはねえ。微塵もな。


「勿論、そうじゃねえ奴も居た。未練の塊みたいな奴で、世界を憎み、まるでゲームみたいに破壊しようとした奴も居た。あったはずのものが無くなり、世の中を心の底からそいつも恨んでいた。でも、結局そいつも……ダチとか……娘とか……女房とか……なんか、そういうもんで、世界を受け入れて生きようとしていたからな」


 そして、俺の脳裏に思い浮かんだ一人の男。かつて、『マッキー』と名乗り、誰にも本当の自分を曝け出さなかった男。

 でも、今のあいつは違う。

 今のあいつは、娘と女房を守る父親だ。たまにふざけるところは、相変わらずみたいだが。

 まあ、要するに………


「まあ、要するにだ。テメエの趣味を人に押し付けるなよ。デモは起こしたい奴らだけでやれ。だが、それがデモだけじゃなくテロまで発展し、その刃が少しでも俺の世界に触れてみろ。……そん時は………最強にイカした世界が丸ごとテメエらの相手になってやる!」


 要するに、俺はこいつらと共に文化云々で関わる気はねーってことだ。

 それが、俺の結論だった。

 すると、ニートがさりげなく聞いてきた。


「ヴェルト、クラスメートはどうする気だ?」


 それは気になるところなんだろう。こいつらと組まないなら、凍結されていると思われるクラスメートはどうするのかと。

 だが、ソレはソレだった。



「それはこっちで考える。どうやったら、解放できるかも含めてな」


「あっ、それは助ける気なんだ。でも、それじゃあ、こいつらと目的同じだと思うんで」


「はあ? たどり着く場所が同じだからって、一緒に行く必要もねえだろ? だって……友達でもなんでもないんだしな!」



 そうだ、こいつらと組まないだけで、別に助けないとは言ってない。

 つまり、それだけのことなんだ。

 すると、どうだ?



「いや~……困った困った……君たちなら、僕様の想いは受け入れてくれると思っていたのに」


「はあ? 俺は百パーノンケだぞ! 嫁だって六人も居るしな!」


「いいや、そうじゃなくて、君も……世の中の定めた常識なんかに囚われて生きていけない人種だと思っていたからね。というより、六人も奥さん居る時点で文明壊していると思わない?」



 それは当たっているかもしれねーな。だが、だからって、それで何でも同調すると思うのも甘すぎる。

 それで、どうする?

 俺がもう仲間になることはねーことぐらい、とっくに理解できているはずだ。

 なら、どうする?

 すると、ライラックは………


「でも、それでも理解してくれないとなると、君たちは僕様の敵になるってことかな? そうなると、面倒なことになるけどいいのかい?」


 最終通告のように問いかけるライラック。

 それでも俺の答えは変わらないと言ってやろうとした。

 すると、その時だった!


「話、長いよ?」


 もう、我慢の限界だったのか、俺の真横を闇のドラゴンの腕が通り抜け、ライラックの顔面に深く爪を突き立てて引き裂いた。


「えっ!?」

「ライラック皇子!?」

「きゃ、きゃあああああああっ!」

「えっえっえ、何あれ! アレもショーなの?」

「違う、本物ッ!」


 顔面を引き裂かれてひっくり返る、ライラック。激しい音と共に、店内が突然の出来事に大パニックになる。

 叫び、そして悲鳴を上げながら店の外へと出る女たち。

 そんな中、ジャレンガは三日月のような笑みを浮かべて、倒れるライラックに告げる。


「ほら、めんどくさいんだから、壊しちゃえばいいでしょ?」


 は~、と深く溜息吐くも、まあ、これは決別の合図だと思ってくれて構わない。


「うわっ、とうとうやりやがった、こいつ。ほんとめんどくさいんで」

「ジャレンガ王子~……殿、拙者の後ろにお下がり下さい!」

「えっと、あの、その、大丈夫なの、これ?」


 仲間たちが心配するも、まあ大丈夫だろう。

 どうせ、これぐらいじゃ死なないのは、さっきのパーティーで分かってるしな。


「あ~あ、そうなんだ。まあ、グダグダするよりハッキリしてて、それはそれでいいかもね♪」


 ほらな、無事だったよ。というより、血の一滴も噴出さず、引き裂かれた状態の顔のままで、ライラックはニタリと笑った。


「でも、そうなると、現世界政府と君らが組まれるほうが僕様たちには厄介だし……ここで君たちを、どうにかしちゃおうかな?」


 来るかッ! 

 そう思ったとき、予想もしていなかった方角から、俺に向かって飛び掛ってくる影。

 それは、ステージの上で三文芝居していた男たち。


「殿には指一本触れさせぬでござる!」


 だが、その強襲は俺には届かない。

 飛び掛った二つの影は、目の色を変えたムサシの木刀で叩き落された。


「へえ、流石だね。野生の反射神経」


 勢いよく味方を叩きつけられたというのに、ライラックはとくに変化無くニコニコしている。

 すると、本来であれば悶絶ものの一撃を食らったはずの男が、痛がるそぶりも見せずに立ち上がった。

 そして、その様子は明らかに異様だった。

 ムサシに叩きつけられて破損したのか、膝関節や肘が折れたまま立ち上がっている。

 だが、次の瞬間、壊れたはずの部位が一瞬で元に戻った。


「ッ、なんと!」

「こいつらも改造人間ってか?」


 おいおいおいおい、ここにも不死身が?

 そう思ったとき、ライラックが笑って口を開いた。


「いいや、改造人間じゃないよ。『改造愛玩機動ロボ』だ」

「……なに? ろ、ロボ?」

「そうだ。プログラムしたセリフを言わせたり、感情を表したりと、一時は大ヒットした商品だ。まあ、愛玩と同時に警備用に色々と改造させたけどね」


 すると、二体は先ほどあれだけ感情豊かに芝居をしていたのに、今は真っ黒い機械の瞳で、無表情に口をパクパクさせた。


「侵入者排除シマス」

「デリートシマス」


 おっ、体が少し変形している。よく見ると、体のツギハギが浮かび上がり、更に全身にエネルギーを行き渡らせたかのように熱く滾って見える。

 随分とおっかない愛玩用だな。

 まあ、おっかなさなら、俺の愛玩ペットには負けるけど。


「本当に、くだらねえ。愛玩用? 俺の愛玩は竜人娘と虎娘って決まってるんでな。テメエの趣味は理解できないんで、破壊するぜ?」

「ふふふふふ、仕方ない。それじゃあ、君たち全員まとめて………無理やり新しい世界に目覚めさせてあげよう。根堀り堀り堀り堀まくってね♪」


 さあ、後は心置きなくやるとするか!


「いや、ヴェルト……竜人娘はお前の嫁じゃん」


 今はそういうツッコミなしだ、ニート。

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