第503話 創成期の者

「地底族のニート君。どうして君が、カリスマ教祖クリアのペンネームを知っている?」

「カリスマ? 『腐教祖』じゃなくて?」

「ふむふむ~。ひょっとして、ディッガータイプには何か言い伝えのようなものが伝わって?」

「そうじゃないんで。ほんと、説明が難しいんであれだけど………」


 遥か昔にこの世界に変な文化を広めて今でも影響力を残しているのは、クラスメートだった。

 とりあえず、これで確定というところだった。

 さて、それはそれとして、これからどうすっかな……なあ? 先生。


「まあいい、じっくり話を聞かせて欲しい。根掘り堀り堀り、堀まくってね♪」


 奥へと進むライラック。

 そこにあったのは、大きめの向かい合ったソファーとデカイテーブル。

 その上には、俺たちの世界にはないが、前世では見たことがあるような駄菓子や料理が盛られていた。


「へえ、店は気持ち悪いのに、食い物はウマそうだな」

「ん、懐かしいんで」

「と、殿、こ、これは見たこと無いものばかりで危険でござる! まずは拙者が毒味を!」

「これ、どうするの? ヴェルト君」

「ねえ、殺さないの?」


 見たことの無い食べ物にうろたえるムサシとペットだが、俺らには良く知ったもの。

 ピザ、ナゲット、フライドポテト、ポテトチップやチョコスティックなど、懐かしいものばかり。

 俺は、熱々でトロリとしたチーズ乗ったピザを、一切れ取り、口に運ぼうと―――――


「殿ッ! ですから拙者が毒味をしますゆえっ! あ~~~~~ん、ガブッ!」


 口に運ぼうとしたピザをムサシが横から一気に食い取られた。

 っておいおい、そんな一気に食うと………



「ぷぎゃああああああああああああああああああああああああっ!」



 お前、猫舌なんだからそんなに熱いものを一気に食うなよ。

 悲鳴を上げて床の上をゴロゴロ転がるムサシに、店内から笑いが漏れた。

 だが、それでも……


「お、おいしい……これ……」


 続いてピザを恐る恐る口にしたペットが、顔を上げてそう言った。


「おいしいよ、これ。熱い生地の上に、チーズとトマトソース? この食感もいい」

「だろ? でも、あんまここらへんのものばっか食いすぎるなよな。デブになるからよ」

「えっ、そうなの?」


 でも、食いすぎたらデブになるとはいえ、それでも食っちまう。そういえば、ハンバーガーもどきを向こうの世界でも食ったが、こういうのはなかったな。

 懐かしくて、そして悔しいが普通にウマイと感じた。



「ふふん。ヴェルト君とニート君は手馴れた感じだね。正直、こういう手づかみで食べる料理なんて、今のこの世界では敬遠されているんだよ。品が無いとか、肥満の元だとかくだらない理由でね」


「ほ~う、そりゃ確かにくだらねーな。別に毒でも麻薬でもねーのに、神経質すぎだな」


「その通りさ、神経質すぎなんだよ、今のこの世界はね!」



 すると、俺の反応に嬉しそうな表情を浮かべ、ライラックは両手を広げて立ち上がった。


「この世界には数多くの誇れる文化がたくさんあった。サブカルチャーの創始者『レッド』が、世界に裏切られて冷凍刑務所に収監されても、彼の残した文化は遥か昔より世界に生き続けた」


 レッド。それは、昼間のテロリスト共が叫んでいた人物の名。解放しようとした人物の名。


「刑務所に収監される前に、レッドがこの世に残した超膨大なデーターベース。『レッドデーターブック』は、その時代のみならず、遥か先を見据えたアイデアの宝庫だった。漫画、ゲーム、電子書籍、コンピューター技術、テレビ番組、お笑い、お色気、映画、スポーツ、娯楽施設、数限りなくあった。それらは、レッドの意志を継いだ者たちが後世へと伝え、そして独自に発展をさせて未来へと繋げた。しかし、今の社会はなんだ?」


 政治家のように、っていうか、こいつ皇子で政治家でもあったな。熱弁しながら、主張する。


「漫画もゲームも、コミュニケーション能力が乏しくなり、ジャンルによっては影響を受けて犯罪の元になる、ジャンクフードや炭水化物は肥満の原因となり寿命を縮めるや、愛の無い性交渉による感染症や売春などを無くすために一切の風俗店を排除し、交際や結婚にも制限を設けた。スポーツのルールも大幅に改善させて、コンタクトの多いものは徐々に排除されて軟弱な者ばかりの世界になった。実に嘆かわしい」


 そして、その主張のすべてが、どう聞いてもこの世界の方針とは真逆を行っていることからも、やっぱり……


「昼間のテロリスト共と、テメエは絡んでいるのか?」

「そうなると、君はどう出るかな? ヴェルト・ジーハ君」


 認めた。本当にアッサリと。



「それで裁判みたいになってんじゃねーのか?」


「ふふふふふ。本音を語るに値しない老害共に、僕様の真の思いを語る必要も無い。どうせ、彼らは外面を気にして反対する。自分たちは権力を行使して、金に物を言わせて裏では遊んでいるというのに、国民には我慢せよ、逆らったら逮捕しろと言う。反吐が出るだろう?」



 少し意外だった。何故なら、こいつが嘘を言っているように見えなかったからだ。

 それは、今の話が全部真実であることを意味する。

 今日会ったばかりの俺たち相手に?



「そんな、管理規制の神経質社会じゃ、そうなった直後は荒れたんじゃねえのか?」


「別に一気に規制されたわけじゃない。徐々になったのさ。例えば、映画や漫画など、激しい残酷で暴力的な描写、性的興奮を煽るような表現などは年齢制限を設け、それが徐々に人の死が関わる描写、血が出る描写、女性の肌の露出なども規制された。ちゃんと服を着てるのに、献血広告に巨乳の女の子のキャラを載せるのはいかんとか、新聞広告にたわわな女の子のキャラを載せるのはどうのと……そうやって何年もかけてたどり着いた先は、既にサブカルチャーが滅んだ時代に生まれた子供が大人になって、社会を作っていく世界になっていた。今の世界を作る彼らは、滅んだサブカルチャーの価値を分からぬまま育ち、何の疑いも持っていない」



 それが「無い」時代に生まれたからこそ、「無い」ことに疑いを持たない。その感覚、なんとなく分かるかもしれない。

 朝倉リューマとして死んで、そしてヴェルト・ジーハとして生まれたこの人生。前世ではあって当然だったものが無い世界。しかし世界はそれをおかしいと思わない。

 俺もなんで「無い」ことに誰も疑問を持たないのかと不貞腐れていた。



「でも、無いことを疑問に思わないんだったら、お前らもそうじゃねえのか? まだ、そんなに歳じゃねえだろ?」


「そうさ。僕様たちも本来はそうだった。教祖クリアや、現レッド・サブカルチャー組織のリーダーである『スカーレッド』が立ち上がり、僕様たちに素晴らしき文化を教えてくれなければね」


「ようするに、知らなきゃ別に何とも思わなかったのに、それを知っちまったからこそ、もう、それがないとダメってぐらいハマッたってことかよ」


「そういうことだね」



 これまでの会話。もはやムサシはチンプンカンプンの様子。ジャレンガとペットは何となく理解できている様子。

 そして、ずっと黙ったままのニート。


「ニート、テメエはどう思う?」

「ん?」

「お前も、案外こいつら側なんじゃねえのか?」


 俺よりも、よっぽどこういうジャンルの文化に興味ありそうなニートはどう思うか?

 と思ったら、ニートは別のことを考えていたようだ。



「その、レッドってのは何者だ?」



 ニートが考えていたこと。それは、レッドという名の、全ての元凶だった。



「遥か昔……創成期に、クラーセントレフンから僕様たちの先祖をこの世界に転移させた者たちの内の一人。君たちには、神族の大幹部とでも言えばいいかな?」


「………者たちの内の一人? 者たち?」


「そうだ。かつて散らばっていた神族を纏め上げて異世界へ転移し、この世界の土台を作った方々だ。まあ、時が立つにつれて、みながバラバラになったり、国に分かれたりしたが。教祖クリアもその一人」



 まあ、確かに気になるといえば当然か。

 その、カリスマ教祖とやらは十中八九クラスメートだろう。

 そして、それを含めた文化というものを世に広めた存在もまた……



「まさか……橋口……」


「ハシグチ? ニート、テメエまさかそいつも………」


「………たぶん………」



 これは、随分と皮肉だな。

 俺たちのクラスは、確かに皆死に、そして転生していた。

 しかし、転生したとしても、国も種族も、年代すらもバラバラだった。

 バルナンドやキシンは俺よりも遥かに年上だからだ。

 でも、これはねえよな。



「創成期……何年前か分からねーが……なげーだろうな………」


「ほんとそうなんで。まるでピンと来ない」



 声も叫びも届くことの無いほどの大昔。

 そいつらが、何を考え、何を思って生きていたのかなんて知りようがない。

 そりゃ、切なくなるな。





――あとがき――

クラスメート分らなければ、目次の一番最初の名簿を見てつかーさいね。

引き続きよろしくです。


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