第494話 エスコート

「この世界、一見、各国仲良しみたいにしてるけど、絶対そんなことないんで。こんだけ発達した世界、絶対に表面では友好を装っても、裏では利益の取り合いしてるに決まってるんで」


 予想というより、確実というようなニートの言葉だった。



「……何故、そう思うんだ?」


「たとえば、この世界の技術力が『俺たちの前世の世界』の延長上にある文明だったとしても、裏表無く国同士がわかりあうとか絶対に無理なんで……それこそ、どっかの不良が世界中のお姫様をゲットしたり魔王とか怪物と親類とかにならないかぎり、ありえないんで」


「俺を皮肉ってんのか?」


「そうじゃないんで。ようするに、この世界の住人も神様じゃなくて、心を持った人間みたいな連中だってんなら、そういうものってことなんで……そうでなければ、テロなんてそもそも起きるはずなかったんで」



 まあ、言わんとしてることは分かるけどな。

 前世で、俺も政治とか外交にはまるで興味なかったが、それでも世界中が輪になってお手手つないでみたいなのじゃなかったのは良く分かっている。

 つまり、この晩餐会も、何やらそれぞれの思惑が飛び交う的なのがあるんだろうな。

 だが、俺は正直、そこまで不安に感じなかった。


「くはははは、まあ、いいんじゃねえのか?」

「ヴェルト?」

「だって、そうだろ? そういう裏でセコセコ考えつくような手段でどうにかできるような……っていうか、よりにもよって出来なそうな奴らが、今ここに居るんだからよ」

「……それはたしかに……」


 そう言って、ジャレンガたちへ視線を向けさせると、ニートも深くため息吐きながら納得したように頷いた。


「上辺だけの友好……痛いところをつくのね」


 一方で、ニートの言葉にどこか複雑そうに苦笑するホワイト。まあ、ニートの発言は、的外れでもねえってことなんだろうな。



「ただ、覚えておいてね。あなたたちの世界ではどうかは分からないけれど、打算があるからこそ信用できる世界もあるということを。だって、無償の愛ほど不安定で疑い深く、危ういものなんてないのだから」



 異世界人とはいえ、まるで人生の先輩からの忠告ですよと言わんばかりの言葉だが、その時、俺もニートも思った。

 このおばちゃん、「俺たちがすぐに帰れると思わない」という言葉を、否定しなかったということだ。


「あっ、パッパー、見えてきたよー!」

「うううううっ、ガクガクブルブル」

「ムサシ~、怖いの~? よわむし~、ドラちゃんのお背中に乗ってる時はだいじょうぶでしょ?」

「い、いえ、どど、ドラだからこそ信頼できるのであって、ここ、このような箱が空を飛んで、落ないか心配で」


 その時、ようやく目的地に到着したようだ。

 そこは、このコンクリートジャングルの摩天楼の中でも最も高い位置にある、細長いだけの面白みのない超高層ビルの頂上。


「さあ、お待ちしておりました」


 突如、ビルの窓が開き、大きな足場と手すりが伸びてリムジンに接続された。



「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」



 自動ではなく、ボーイのような格好をした男がリムジンのドアをゆっくりと開ける。

 一番に飛び出したコスモスを待ち受けていたのは、巨大なレッドカーペット。

 その奥に広がるビルの一室すべてを使ったパーティーホールはライトで照らされており、その奥には噴水や大理石を使った装飾をされた一段のステージ。

 

「たたたた、高いでごじゃ……のわああっ、ゆゆゆ、床が動いたでごじゃるっ!」

「ッ、びび、びっくりしたのだ!」

「うわ~~、すごい! ねえ、パッパ、コスモス歩いてないけど前に進むよ~! ほらほら~!」

「なんと、神族は飛ぶだけでなく、歩かなくても歩道が勝手に進むのか? これは便利だが、やりすぎではないか?」

「どうりで、筋力の退化したものたちばかりだったわけか」


 動く遊歩道か。俺やニートからすれば懐かしいもんだが、みんなにはそれすらも未知の存在。

 完全に田舎から上がってきたおのぼりさんになった気分だが、まあ、仕方な――――――



「「「「「ワッアアアアアアアアア!」」」」」



 そして、俺たちがビルの上の強風に晒されながらも辿りついたパーティーホールでは、数多くの円卓と、正装をした紳士淑女たちが何百人と、スタンディングオベーションで俺たちを迎え入れる。

 チカチカとする光はひょっとして、フラッシュ? カメラか? ムサシやペットは完全に萎縮してカチンコチンに固まってら。


「まるで、映画のカンヌやアカデミー気分なんで。いや、取ったことないから実際分からないんであれだけど」

「つか、今日の今日でよくもまあ、こんな準備できたもんだな。つか、おい、見ろあれ」


 大歓声の中、レッドカーペットを進む俺たちがふと視線を逸らしたら、テキパキとした動きで料理を配膳したり、来場者を案内したり、ものすごい機械的にやるボーイ達が大勢いるんだが、機械的で当然だった。


「ロボット?」

「昼間は何も役にも立たかなった連中だが、電気があれば何でもアリだな」


 いよいよ、SFチックなものが本領発揮してきたか? そんな印象を受けた俺たちだが、大歓声の中、所々に聞こえる声を俺は聞き逃さなかった。


「見ろ、ディッガータイプだ。データ通り、ドリルが肉体と一体化している」

「エンジェルタイプが二人も居る。何とか、片方だけでも入手できないか?」

「あれは、魔族というタイプか? 異様な空気を放っているな。あまり刺激しないようにしないとな」

「獣耳、獣の尻尾を生やした奴ら。あれが、遥か昔に生み出された亜人か。異種配合実験が廃止された現代ではありえない生体だな」

「あの巨漢は、本当に人間か? 筋肉増強材などを使用しているのでは?」

「ヒューマンタイプ。やはり、我々とそこまでは違いが見られないな」


 歓迎の中で確かに行われている、俺たちへの値踏み。まあ、当然といえば当然か。



「さっ、申し訳ないけれど、あなたたちには今から八人分かれてもらって、それぞれテーブルについて欲しいの」


「あん?」


「ごめんなさいね、各国平等にあなたたちとコミュニケーションを取れるようにとなると、そうなってしまうのよ」



 と、中に入って奥までたどり着いた瞬間、ホワイトの奴がいきなりぶち込んできやがった。このおばちゃん、本当に何かいきなりだな。

 もちろん、同じパーティー会場とはいえ、バラバラに座るのは正直不安がある。

 まあ、俺も解説者ニートが傍にいないのは不安だし…………


「なんか、さっきからパシャパシャパシャパシャ、なんなのこの光? もう、皆殺しにしようかな?」

「ん~……あんま美味そうな女はいないのだ。どいつもこいつも着飾っているが、文官や元老院みたいで面白くなさそうなのだ」

「加齢臭がする。気分が悪くなるな」

「……ふう……居心地が悪いな」

「とのおおおおお、せせ、拙者、一人はいやでごじゃるうううう!」

「はう、はう~~~、み、みんなとバラバラ……だだ、大丈夫かな~? うう~、怖いよ~」


 こいつらをバラバラにしていいもんだろうか。

 そこが不安で仕方なかった。

 すると、前方からドレスを着たカラフルな八人の女たちが出てきた。

 ああ、昼間の姫様アイドルたちだ。



「姫様たちが貴方がたを席へとエスコート致します。どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下さい」



 そう言って、ホワイトは後ずさりしながら俺たちから離れ、俺たちのやりとりに注目していた。

 とりあえず俺は…………


「コスモス」

「ん?」

「お前は、パッパと一緒な」


 コスモスだけ確保。俺たちはバラバラに分かれて座れとのことだが、俺たちは九人居る。なら、一人はダブるので、俺は真っ先にコスモスだけ確保。

 後はもう知らんッ!そう覚悟を決めた。

 そして今から、俺たちの前にそれぞれお姫様たちが着き、順番に手を取って、一言挨拶してからエスコートするようだ。

 

 まずは………………

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