第495話 指名

 まずは、というより、この選択肢というのは意外と重要だったりもする。

 何故なら、各国が俺たちと平等にコミュニケーションを取れるようにメンツをバラけさせると言っても、俺たちがそれぞれ持っている情報や引き出せるものは人それぞれだ。

 つまりだ、引き出す相手によっては情報に差異が…………



「あらあらまあまあ、でしたら、その~、えっと、あの~、……バ、バスティスタ様……」



 っていうのは意外と気にしてないのか? とばかりに、頬を赤らめたチョロ……じゃなかった、お姉さんちっくなお姫様が一番に前へ出て、軽くスカートの裾を摘みながら一礼をした。

 そう、バスティスタが助けた女だ。


「お前は、昼間の……」

「改めてお礼を、そして是非とも我が国の席へ、バスティスタ様。私は、バーミリオン。『ネーデルランディス公国』の姫、バーミリオン・ネーデルランディスです」

「……そうか、無事そうでなによりだ」

「はうっ! ッ、あ、あの、その、父もお礼をしたいと……ですのでどうか、我が国の席へ……」


 少し間を置いて俺をチラッと見るバスティスタ。あ~、もういいよいいよ、今は合わせとけと顔で合図した。


「分かった、では、言葉に甘えよう、バーミリオン姫」

「まあっ! あ、ああ、りがとうございま、あの、わ、私のことはバーミリオンと……」


 なんだろう、スゲエ白けた気分だ。これは、お見合いパーティーか?

 本来であれば、色々と謀略があってもおかしくないんだが、まずは初っ端は初々しいお姫様の恋に会場中の空気が温かくなった様子だ。


「バーミリオン姉ェ、マジだね」

「あは、ミリ姉さん、可愛いってね♪」

「よ~し、じゃあ、私もにゃっはいっちゃおーっ!」


 するとほぐれた空気の中で、ほかのお姫様たちも出てくる。


「にゃっは! ねえ、そこの剣を持ってる子さ~、私のところに来てよ」

「にゃ、にゃにゃ! せ、拙者でござるか!」


 昼間に少しやりあった、うるせえ女はなんとムサシ指名。一瞬俺かと思ったけど、なんか普通に相手にされなかった。


「クラーセントレフン……確かに皆、すごく強いし、凶暴な空気も感じる……でも、君からは、にゃっは『武』の感じがするんだよね~」

「む、むむ」

「私は、アッシュ。セントラルフラワー王国のお姫様、アッシュ・セントラルフラワー。にゃっはよろしくね♪」


 ほ~、あの女、うるせーけど意外と目ざといな。確かに、色々な戦闘能力を誇る俺たちの中で、唯一ムサシはちゃんとした剣術の英才教育を受けてた侍だしな。

 あの女も、一応格闘技をやってるみたいだし、興味を持ったか。

 もっとも……


「よし、亜人の娘だ!」

「姫様は当たりを引いてくれましたな」

「ええ。獣と人の血を引く亜人。御伽噺や歴史書の中でしか語られていませんからね」

「是非色々と話を聞きたい」


 あの女の国の連中は、他にも思惑はありそうだがな。


「じゃあ、私は、そちらのエンジェルタイプの御方」

「私か?」

「ええ。私はミント。この国、ヴァルハラ大陸ヴァルハラ皇国の姫、ミント・ヴァルハラよ。あなたを、歓迎します」


 次に動いたのは、アイドル姫たちのリーダー格っぽく、今俺たちが居るこのエセニューヨーク的な国全体の姫様。

 選んだのは、リガンティナ。


「さすがはミント姫! 他国の連中は、エンジェルタイプの希少性を分からないようだな」

「ああ、それにあの娘、エンジェルタイプであり、さらにとてつもない気品を感じる。恐らく、身分もエンジェルタイプの中でも上」

「ならば、引き出せる情報は、あのメンバーの中でも郡を抜いているはず」


 そういうことね。まあ、身分が高いってのは当たっているが……


「……チッ、取られた……しっかたないわね……えへへへへ、きゃる~ん♪ それじゃあ、ブラックは~、お兄ちゃんがいいなー♪」

「…………えっ?」


 その時、やけにイラっと来る可愛いアピールしながら前へ出たのは、黒髪ビッグテールの小柄な女。

 ワザとなのか、それとも自分では演技のつもりかは分からねえが、かなりワザとらしく擦り寄った相手は、なんとニート!



「えへへへへ~、おに~ちゃん! ブラックだよ~! ソロシア帝国のブラック・ソロシア、よろしくね~! ほら、お兄ちゃんも、一緒にラブラブラック~!」


「うっわ、ウザ」


「ああんっ? あんた、いきなり何言ってやがってお兄ちゃんえへへ、一緒にご飯食べるのいや?」



 まさかニートを選ぶとはな。いや、そうでもねーか。


「エンジェルタイプは取られたか。ちっ、ヴァルハラめ」

「まあいい。ディッガータイプであれば、ハズレではないだろう」


 とまあ、そういうことだ。

 んで、俺は俺で何だか面白くて笑っちまった。


「くはははは、モテモテじゃねえか、ニート」

「ぬぐっ、ヴェルト」

「フィアリには黙っててやるから、楽しんで来いよ~、くはははは」

「ッ! そのセリフ、ほんっと、お前に十倍返しで言ってやるんで!」


 どうして、ニートはああいうブリッコな女と縁が出来るのかと思うと笑えたが、まあ、別にそれが進展するなんてことも……


「えっ、ちょっと、腕組むの?」

「そ、そうよ、そういうマナーよ。分かりなさいよ、べ、べつ、別にあんたが気になってるわけじゃないんだからね!」

「……うわ……安っぽ……全然響かないんで」

「ッ! ちょ、あんた生意気よ! 私をだれだとっ、ッッく~、お兄ちゃんイジワルダメだよッ♪」


 ねえよな? 進展することなんて。

 なんて、思っていたら、次は少し違う展開になった!


「はう、えと、みんな、こんなに早く、えっと、私はどうしればいいでしか? はうっ、ま、またかんじゃったよ~」


 少しビクビクしながらオロオロしている、どこかペットに似た雰囲気の気の弱そうな細身の女。

 どこか緑味のある青い、ボリュームのあるツーサイドアップの髪型の女。

 どこか保護欲そそられそうな雰囲気を出している女の姿に、


「じゅるり」


 なんか、よだれを舐める音が聞こえた。


「うまそうなのだ……よし、そこの娘、わらわがそなたの国の席に座ってやるのだ」

「え、えええ! ええええ!」

「なんならこのまま寝室に、ぬはははは、イジメたく、ん、んん! おっと、是非ともお願いしたいのだ。よいか?」

「あ、えっと、わ、私の国に? えっと、ありがとうございます! 私は、シアンでし! ~~~っ、シアンです。その、シアン・ゲイルマン。ゲイルマン王国の姫でし!」


 ………………あの国……あの姫……可哀想に…………トラウマになるな


「おおおっ! シアン姫が動けるか心配だったが、亜人であれば悪くない!」

「ああ、見た目も小柄な子供。うまく懐柔すれば……」


 懐柔? 無理に決まってんだろ。

 よりにもよってジョーカーを引きやがった。


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