第493話 歓迎会へ

―――というわけですが、さて、今回の一連の大事件のこと、どう思います? 今日は与野党の両方の先生方にお越しいただきましたので、お願い致します。 


―――ええ、これはですね、会場の警備体制もそうでしたけど、問題は『ジャンプ』の実験を強行した現与党の体制に問題がありますね。そして、その実験を指揮したホワイト所長、そしてそのホワイト所長を任命した大臣、その任命責任を取って辞任すべき、そして今すぐ党を解散すべきですね。こんな前代未聞の大事件を各国国王が居る中で起こされては、国民の信頼も地に落ちたと認識すべきです! 国民は怒っております!


―――いいえ、今回あれだけの騒動が起きながらも、負傷者は多数出たものの死者は一人も出ておりません。今回、全く予期できなかった襲撃に対して、会場の警備体制が柔軟に、かつ、的確に動いた結果だと思っております。そしてなによりも、今回の実験を行ったからこそ、我らはクラーセントレフンの住民とコンタクトを取り、なおかつこの世界に招くことに成功しました。これは、歴史的な、我らの偉大なる大きな一歩と認識しております。なによりも、今回は国民、及び世界中の方々の大半の支持を得て行ったことであり、これは、世界を上げて喜ぶべきことと私は思います。


―――はい? 的確に動いた? 警備が? あなたは本当にそうお思いですか? いいですか、多くの負傷者を出しながら、実験は成功した? あなたのその発言は、国民の命を軽んじているものですよ? 今すぐ、あなたも辞職するべきだと思います! 


―――そんなことは言っていない


―――今すぐ国民の民意を問うべきです! 


―――チッ……もちろん、今回負傷された方々には――――


―――今、舌打ちしましたね? 議員としてあるまじき態度です! 辞任しなさい辞任!


―――いえ、それよりも私は今日はここで失礼させて戴きます。番組の途中ですが、今日、これから例の方々の歓迎パーティーを行いますので


―――逃げるのですか! あなたには、国民に対する説明責任があると思います! 待ちなさい! 待て! 


―――どいてください


―――今、押しましたね! 暴行罪だ! 暴行罪! 暴行罪! ぼーこーざいっ! ぼーこーざいっ! 


 

 とまあ、変なやり取りがスピーカーから聞こえてきて、俺もニートも思った。



「なあ、ニート。俺たち、前世の世界に帰ってきたのか?」


「予想はしてたけど、技術も世界も進歩しても、政治の内容だけは全く進歩してないんだな」


 

 ある意味で呆れ、ある意味で面白かった。


「不愉快なラジオね、番組を変えなさい」

「うわっ、今度はお歌が聞こえてきたー! ねえ、これなんなの?」

「はううっ! なんと摩訶不思議な! このようなブツブツした穴から、人の声が聞こえてくるとはどういうことでござる!」


 プチっと番組が変わり、今度は音楽が聞こえてきて、コスモスたちは興奮冷めやらぬ様子だ。

 そんな中、俺とニートの目の前に居るおばちゃんが口を開いた。


「にして、クラーセントレフンの方々は、とても強い方々だったのですね」


 派手すぎず、しかし質素すぎない、シンプルで白を基調としたパーティードレスに身を包んだ、研究所のおばちゃんことホワイトが落ち着いた口調で語りかけるが、今の俺の仲間たちはそういう状況でもなかった。



「おお~、パッパ~! みてみてー、おもしろーい!」


「あ、あああ、お、お嬢様、そそ、そんなに窓に近づかれると、あ、危のうございまする、どど、どうかお下がり下さいますよう!」


「しかし、便利なものだな。翼が無くても飛べるのか、神族は」


「まあ、僕らは自分で飛んだほうが早くない?」


「う~む、なんだか護送されてる気分で窮屈なのだ。わらわは、もっと自由奔放がいいのだ!」


「う、うわ、と、飛んでる……飛翔(フライ)の魔法を使っていないのに、飛んでる……すごい」


「魔法の使えない俺が空から世界を眺める日が来るとは思わなかった」



 俺たちは今、地上から百メートル以上上空に居た。

 縦長の、どこのVIPを乗せて走るのかと思われる黒塗りピカピカのリムジン車。

 特徴はタイヤがないことだ。タイヤがないのにどうやって動く? なんか、飛んでいる。



「空飛ぶ車なんて、昭和世代が夢描いていた未来だと思ってたんで、なんか変な感じなんで」


「ん~、まあ、そうだな。交通の法律とかどーやってんだろうな」


 

 俺とニート以外、目を輝かせたり、怯えたり、何だか窮屈にしていたりの仲間たち。

 全員、パーティードレスだったり、スーツだったりの正装をさせられた格好で、とある場所へと向かっていた。



「あなたたち二人は、落ち着かれているわね。アイボリーから聞いた、地上世界クラーセントレフンの文明レベルからすれば、驚くかと思ったのだけれど」



 別に俺たちの文明を馬鹿にしているわけでなく、もうちょっと興奮してもおかしくないと思っての質問だろう。

 だが、ぶっちゃけ俺もニートも………


「まあ、空飛ぶ車ぐらいは、技術的には不可能じゃないとは思ってたんで」

「だな。車が空飛ぶことに比べたら、ヴァンパイアドラゴンが隕石の雨を降らせることの方がよっぽど驚きだ」


 確かに、俺たちの世界よりこの世界の文明は比べるまでも無い。

 更に言えば、俺たちの前世の文明よりも更に先を言っている。

 しかし、今のところは、俺たちの前世の技術の延長線上ぐらいにしか見えない感じで、そう考えると、まだファンタジー世界で驚かされたことで鍛えられた免疫が、今のところ利いてるってことなんだろうな。



「そういえば、アイボリーが言っていたわ。そちらのお方は、地上世界の住人でありながら、随分と博識でいらしたと。やはり、『ディッガータイプ』はそういう教育を?」


「えっ? ディッガー………ああ、地底族か。まあ、地底族の文明もまあまあだけど、ここまでじゃないでアレだけど、俺とヴェルトは少し特殊なんで」


「あら。そうなのですね。是非とも、晩餐会の場では色々と教えて欲しいものですね」



 晩餐会。



「つーか、他国に来て、あんなことがあったっつーのに、よくやるよな。普通は安全を考えてすぐに王様とかは帰るんじゃねえの?」


「ええ、通常はね。でも、それでも残るということは、それほどあなたたちは世界にとって無視できない存在ということよ。それに、このまま帰っては、他の国々もクラーセントレフンの情報を全て、このヴァルハラに独占されるのではと、危惧しているようだしね」



 まあ、ようするにだ、俺たちの歓迎会をやるとのことだ。

 テロで襲われたとはいえ、実質的な被害はそれほど多くは無く、ぶっちゃけた話、テロの被害よりも俺たちの登場の方がこの世界的にはインパクト大だった様だ。

 聞いた話によると、『ジャンプ』の完成は世界中が待ち望んだビックイベントであり、アイドル姫たち同様に各国の首脳たちが丁度この国に集結していたこともあり、各国こぞって俺たちとのコミュニケーションの場を望んだとか……



「んで、俺らいつ帰るんだ?」


「ご心配なく。それほど時間は取らせません。万が一にと非公式にスペアとして用意していたジャンプの充電と調整を行っています。それが完了次第となります」


「ふ~ん」



 まあ、それならいいかと思うし、そもそもこっちも色々と聞きたいことは山ほどある。

 ならば、一緒に飯を食うぐらいはいいか……


「そう簡単じゃないと思うんで」

「ニート?」

「仲良く飯食べて、バイバイ? そんな簡単に、ほかの国の連中も含めて俺らを帰すとは思えないんで」


 だが、その時、俺に耳打ちするように小声でニートが呟いた。

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