第492話 何者だ?

 さて、バスティスタが漢を見せたのはいいんだが、正直そこでもう終わりは確定していた。


「う、う、撃て撃て撃てーっ! あれを持って来い!」

「おうよ、見てビビんなよなっ! 改造バルカンだっ!」


 回転式の連射銃。まあ、オモチャだけどな。

 だが、別に身構える必要もねえ。


「ふんっ!」


 まるで戦争映画定番とも言える、オモチャなんだが、相手が悪い。

 激しい弾幕がバスティスタに襲い掛かかるも……


「……これにはどんな効果があるのだ?」


 瞬き一つしないで平然としていた。


「……はっ?」

「ちょ、うそだろ! 缶ぐらい簡単に貫通するんだぞ! 全然、痛がらねえっ!」

「まさかこいつ、改造人間化! いや、でも電磁パルスで動けねえはずなのに!」


 そりゃー、オモチャでも、あんなの当たれば痛いし、下手すりゃ大怪我する。

 なのに、バスティスタの強靭すぎる肉体には、豆鉄砲にもなりゃしねえ。

 バスティスタは攻撃されているのに、あまりにも威力が無さ過ぎて自分が攻撃されているのか疑っているほどだ。


「ふう……闘志が足りんな……握魔力弾!」


 呆れたように溜息を吐きながら、その場で手を軽くグーパー。

 それだけで、バスティスタの強烈な握力が空気を弾き、それが弾丸となって赤ヘル軍団のバルカンが粉微塵に破裂した。


「げ、げえええええええええっ!」

「な、なん、なんだそれはあああっ!」


 それでお終いだ。体を張る必要もねえ。


「下卑な思いだろうと、何かを成したいのなら、そんなガラクタ等に頼らずにかかって来い。体を張ってお前たちを止めてやろう」


 技術やら文明というものを享受している連中が、大した武器も使えないこの状況下で、バスティスタに「かかって来い」なんて言われたらどうなる?


「ば、ばけもんだああっ!」

「こ、こ、殺されるッ!」

「もう、俺、田舎に帰るからーっ!」


 そうなるわな。

 俺だって、同じ立場なら逃げてたかも知れねえ。

 女の胸を触るための関門にしては、難関過ぎるだけに、赤ヘル軍団が可愛そうだった。


「無事か?」

「……は、はい! あ、あの、お、お名前を……」

「名乗るほどのものではない」


 名乗るほどのもんだよ! 

 まあいいや、こっちのラブコメはもうほっとこう。

 あとは…………



「なはははははは! 全く、とんでもない腰抜け共なのだ。お前たちの行いはな」


「ちっ。中年に熟女の老害共か。これが神界? ヴァルハラ? 片腹痛いな」



 このお姉さま方だな。

 色々と圧倒される光景で、少しスタートダッシュに遅れた二人だが、ようやく追い抜きをするかのごとく怒涛の勢いで前に出てきた。


「ななな、なんだ、この、このチビッ娘ッ! け、け、獣耳に獣尻尾!」

「天使のおねえたまっ!」

「この二人は、コスプレか? それとも、奇跡か? 幻か?」

「そんな!? あらゆる社会の縛りがある世の中で、こんな二人が!」


 ヘルメットのグラスを上げて、恐れるよりも、驚くよりも、とにかく目を輝かせてエロスヴィッチとリガンティナを瞳に焼き付ける赤ヘル軍団。

 しかし、その瞳の輝きは、すぐに恐怖に染まること等、俺にはよく分かっていた。



「おぬしらの、死ぬ前に胸を無理やり触ってやるという気持ち……温いのだ、甘いのだ、小さいのだッ!」


「「「「ッッッ!」」」」 


「陵辱をしようとする者の心構え、相手の心を恐怖で包み、破壊し、侵略し、舐り、吸い尽くし、しかしそれでも足りぬとまだ貪り尽くす! ………教えてやるのだ。犯すということがどういうことなのか」


「「「「―――――――――――えっ?」」」」



 可愛らしい容姿詐欺代表のエロスヴィッチが繰り出す、陵辱タイム。

 俺は、その光景をとても見る気になれず、視線を逸らした。

 すると、その先には………



「ふむ、なかなか良い鉄や素材が揃っているな……この世界は……どれ、以前コスモスが披露していた、『アレ』でも真似してみるかな」



 両目の紋章眼を光らせて、何を企むリガンティナ?

 すると、その瞳の輝きに連れられて、上空に次々とエアガン、電子機器と思われる小型の何か、ステージの架台、あらゆるものが密集し、形を変え、そしてその姿を世界に披露する。



「さあ、轟け! 唸れ! 爆誕せよっ! 天空機動戦人エンジェルダンガム!」



 巨大な二足で世界に降り立つ、SFとファンタジーのコラボレーション。

 ここまで来ると俺は言葉を失い、俺の代わりにニートが興奮しながらも、俺の思ったことを口にした。



「や、やりすぎなんでっ!」



 俺も大概だが、本当にそうだと思う。気づけば俺もマシンガンを撃つのをやめていた。

 だって、そうだろう?

 式典だとかアイドルのライブだとかに集っていた大勢の客。

 それは、唐突なテロによって興奮が悲鳴へと変わり、世界が混乱した。

 しかし今、現状はどうだ? 混乱しているのは、むしろテロリストたちの方だ。


「ぎゃ~~~~! もう、安全な社会でいいからーっ!」

「もうしませーん、田舎帰るーっ!」

「もう、BLなんかの復活求めませーん! 教祖様、ごめんなさいーーっ!」


 泣いて、叫んで、助けを求め、そして逃げ惑うのはテロリストたちの方だ。

 気づけば、世界はまるでテロリストたちが被害者のような光景を作り出していた。


「し、信じ、られない。あんたたち、なんなのよ! あの、『レッド・サブカルチャー』が、たった数人に……クラーセントレフンの人たちってこんなに強かったの?」

「アイボリーさん、あの人たちを私たちの基準にしたらダメだよ~。あの五人は、私たちの世界で戦っても、アイボリーさんたちみたいな反応されるぐらい、規格外な人達なんだから………」


 現状を見渡して、駆けつけてきたアイボリーは、ペットと並んで呆然と立ち尽くしている。

 煌びやかな式典会場が一瞬にして地獄と化した惨劇の中に居る俺たちを恐れるような瞳で見て、なんかまるで俺たちがテロを起こしたかのようじゃねえか。



「あは! 帰る? なんで? 君たちさ~何で自分たちが帰れると思ってるの?」


「「「「「ひいいッ!?」」」」」


「月光眼・万有引力♪」



 そして、逃がすことすらもはや許さないとばかりに、赤ヘル軍団を引力の力で引き寄せるジャレンガが邪悪に笑い、そして悲劇は止まらない。

 気づけば、会場に居た客も、この世界の各国の警備員と思われる連中も、アイドルも、研究員も、俺たち、特に俺を含めた五人には畏怖の篭った瞳を向けていた。



「神族の血って美味しいのかな? まあ、でも、今はまずはシャワーかな? 真っ赤なね?」


「「「「「いやぎゃああああああああああああああああああっ!?」」」」」


「たるんでいるな、この世界の男は。俺が性根から鍛え直してやろう。全員、そこに直れ! まずは千本タックルからだ! 来い、俺が受けてやる!」


「「「「む~~~りーーーでーーーすーーーっ!」」」」」


「やれやれ、もう終わりか。せっかくのダンガムの力を、まだ発揮していないというのに。誰か、立ち向かう猛者はいないのか! 情けない! だから男はラガイア以外はダメなん………ッ、ええええい! 思い出しただけで、魔王キロロが許せん!」


「「「「き、巨大な『機動兵』が大暴れし、ぎゃあああああああっ!?」」」」


 

 ジャレンガ、バスティスタ、リガンティナ、



「なはははははは、ふらつくではないのだ。ふらついたものからお仕置きなのだ」


「「「「「「ははいっ! エロスヴィッチたま~~~~~っ!」」」」」」



 何故か、赤ヘル軍団を捕まえて、組体操のピラミッドをやらせてその頂点で足組んで座りながら高笑いしているエロスヴィッチ。僅かな時間で何をしたとはもう聞かない。

 だが、俺が聞かなくても、世界はそうではない。


「さて、アドバイザー・ニート」

「誰がお前のアドバイザーなんで。俺、ジュース屋。ジュース屋なんで」

「ダチだろ? 親友じゃないか。見捨てんなよ。この状況をどうやって収束できると思う?」

「ダチなんてありえないんで。親友とかありえないんで。そもそも、俺がこんな状況をどうにかできるような解を持ち合わせていたら、とっくに勇者になれたんで」


 俺自身が落ち着くも、もはや阿鼻叫喚な世界は変わらない。

 コスモスの説教どころじゃなくなり、しばらくボロボロになったステージの上で、世界中の視線を集めて俺とニートはポカンとしていた。

 すると、それがどれくらい続いただろうか?



「助けてくれて……あ、ありがとう、と言うべきよね……」



 一人のアイドルが俺たちに声を掛けてきた。


「ミント姫!」

「おさがりください、ミント様ッ!」

「ミントッ!」


 ミント色のポニーテイル。八人アイドルの立ち位置的に、どこかリーダー格っぽい気の強そうな感じ。

 だからそれゆえ、代表的な意味合いを込めて問いかけてきたんだろう。

 アイドルであり、姫でもある。その身分ゆえに周りの大勢から制止をされるが、別にもう暴れる気はねえから、そこまでビビらんで欲しいもんだ。



「でも、あ、あなたたちは…………何者なの?」



 みんな、誰もがその目で語っている。「お前たちは何者だ」と。

 その問いかけに応えたのは…………


「クラーセントレフンの方々ですよ、姫様」

「ッ! ホワイト所長!」


 研究所のおばちゃんだった。


「な、なんだって?」

「にゃっは!」

「ちょ、ちょっと待って! く、クラーセントレフンって、地上世界のこと?」

「し、しかし、それなら、彼らは、異世界の住人?」

「それじゃあ、ジャンプの実験は成功したってことかよ!」


 研究所のおばちゃんが、マイク片手に壇上にあがり、世界に語りかけるかのように温和な口調で答えた。

 そして、舞台の上から、俺たちの思いなど関係なく告げる。



「そう、遥か昔の盟約に従い、ついに我々は再び先祖の故郷にたどり着いたのです! そして今、我々の危機をお救いくださりました! 是非、我らの世界を超えた友に、万来の拍手をッ!」



 その言葉に、どれほどの効果があるのかと思ったが、「世界を超えた」という言葉が入った瞬間、それまで俺たちを異形の目で見ていたものたちも、どこか戸惑いながらも次々と拍手を沸き起こした。


「歓迎します!」

「おい……」

「我慢してください。そうでもしないと、収まりません。それに、事故で巻き込んだなどと、公表できませんし」


 そしておばちゃんは、またもや俺たちの意志などお構いなしに、俺の手を無理やり掴んで握手してきた。

 ここで振り払うのもなんだから、なされるがままになったが、このおばちゃん、なかなか狸だな。

 だが、そんな中で、俺は確かに聞こえた…………



「なるほど……クラーセントレフン……この科学と無縁の力、……使える……うまく利用できれば……」



 万の拍手に包まれて、俺たちが居心地悪そうにしていた中で、確かに呟かれた一人の女の声…………



あゆむ……必ず、あなたを止めてみせるから……」



 やけに決意の篭った言葉だった。

 思わず振り返った。

 だが、そこにいるのは、八人の姫様アイドルだけ。

 正直、拍手がうるさくて、ハッキリと誰の声かは聞き取れなかった。

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