第488話 更なる乱入

「寒気のする強さ? にゃっは何それ?」

「つうか、にゃっはうるせーよ。あざとすぎて聞いてるだけでイラっとくる。フィアリやクロニアを彷彿させる」

「大体、そもそも君は、にゃっは誰?」

「あの子の父親だよッ!」

「どこが! にゃっは似てないじゃん! 年齢だって私と同じぐらいなのに、子供いるわけないじゃん! 子供は二十歳になってからって、世界共通の法律ッ!」

「知るかーっ! 俺の世界も国も十五歳で結婚も子供もいいんだよ!」

「にゃっは嘘つきッ! じゅ、十五歳でって、にゃっはウソ! 十五歳じゃ、まだ『子作り許可証』どころか、『交際許可証』も発行だってしちゃいけない年齢なのに!」

「んなアホな! 俺はチューなんて五歳で済ませたっつーの! だいたい、許可って誰のだよ!」

「にゃっはデタラメ! だだ、大体、き、君、それより、どこの国の人? もう、こういう無礼講なイベントだからにゃっはいいけどさ~、私、お姫様だよ? 私もにゃっは権力気にしないけど、八つの大陸に散らばる八大国家、『セントラルフラワー王国』のお姫様!」

「それがどうした! 所詮は八分の一程度の価値だろうが。世界を一分の一に支配した俺に、ナマ言うんじゃねえよ!」

「……にゃっは?」

「お姫様? それがどうした。俺は自慢じゃないが、片手で数え切れないほどのお姫様を手懐けた男……いや、手懐けてねえか。あいつら、マジで自分本位だし、つうか俺はなんの会話してんだ?」


 ってか、本当に自慢にならねえし。むしろクズと呼ばれることすら余裕なレベルなんだけどな。


「すげー! 次から次へと目にも止まらねえアクション!」

「さっすが、アッシュちゃん! でも、あのエキストラの男も普通にすげえ!」 「アッシュちゃん、二番だよ二番! このまま、『必殺・十獣拳』もやっちゃえー!」


 んで、観客たちは俺たちのやりとりをコンサートの演出の一つだと思って大盛り上り。

 まあ、返って都合はいいんだが、いつまでも遊んでるわけにはいかねえ。

 だから、どーにかする。

 そのためには…………


「もういいや。ワリーが、瞬殺させてもらうぜ」


 もう、一瞬でケリをつける。


「は~~~~~~、にゃっは仕方ない」


 そう思った瞬間、アッシュが俺に向かって改めて構える。

 今度はさっきと少し違う。なんか、両手の指先をこちらに向けた独特の構えを見せ、更には身に纏っていたアイドル衣装が急に…………


「ほ~~~~~アチャーっ!」


 ヒラヒラしていた服の形が変わっていく。途端に全身から蒸気を勢いよく発し、そしてヒラヒラだった服の素材や形状が一瞬で、アイボリーたちが着ていたピッチリスーツに変わった。


「おおおおっ! 二番からは更に気合入ってる!」

「く~、バトルスーツにまで変わるなんて、アッシュちゃんサービスやべえ!」


 ああ、なるほどね、そういうこと。



「にゃっはいくよ~! 次は、バトルスーツで更に、にゃっはなバトルアクションね♪ 付いてこれるかな? ネオカンフー・十獣拳の型、『マッハ蛇拳』を、にゃっはよろしく!」


「まっはじゃけん?」


「ほら、ほら! お兄さんも早くバトルスーツ起動して」



 そして、次のアクションはテンポアップするから、さっさと俺に準備しろと言っている。

 そういや、そうだった。俺が、この世界の住人じゃねえことをこいつら知らねえのか。

 なら、無理もねえか。



「んなもん必要ねえよ」


「はっ?」


「獣の躾方を教えてやるよ。ケツを叩くか、頭を撫でるかの二つに一つ。竜も虎も手懐けた俺に、蛇ごときが粋がるんじゃねえよ」



 そう、この世界の連中。すなわち神族は、確かに飛びぬけた技術力を持っているんだろう。


「は~、もう、にゃっはいいや。じゃあ、ここはお兄さんをさっさとにゃっは倒しちゃって、サビに移っちゃおっかな!」


 しかし、肉体の身体的な能力や構造は、結局、人類と大して違いはねえ。

 違いがあるとすれば、魔法が使えるかどうかの話。

 なら、スーツの威力にさえ気をつければ…………


「ホアチャアッ!」


 所詮は、『強くて速いだけの体術』だ。

 飛ぶんだろう。パワーもすごいんだろう。速いんだろう。

 でも、それだけだ。

 キシンのように規格外じゃねえ。

 イーサムのような怪物じゃねえ。

 そんなもん、身に纏う空気を見りゃ分かる。

 そして、道具に頼り切った連中なんざ………………


「限定空間電磁パルス!」


 ……一つ言っておく。俺じゃない。俺、そんなの使えない。


「やるぞ!」

「分かってら!」

「下がれ、この世界を破滅に導く青瓢箪どもがッ!」

「オラオラオラーっ!」

「今日こそ、革命の日だッ!」


 なのになの? そう思った瞬間、ステージの向こうの真横で巨大な爆発音が巻き起こった。



「「「「「「「「「「……………………えっ?」」」」」」」」」」



 俺じゃない。俺じゃねえ! つか、なんだよ、あいつらっ!



「なんて言ってる場合じゃねえ、コスモスッ!」


「ぱっ、パッパ? ひっぐ、うう、なに、ぱっぱ~!」



 突然のことでパニックで泣き出すコスモス。俺は慌ててコスモスの元へと走って抱きしめた瞬間、さっきまで歓声に包まれていたはずの満員の客たちから一斉に悲鳴が沸き起こった。


「きゃああああっ!」

「ひ、ひっ、うわああああああっ!」

「助けてくれーっ!」

「あ、ああ、あいつら!」


 なんだ? なんだ? マジで、なんだ? 

 アイドル姫たちの表情も変わってる。怖ばっている。アッシュとかいうのも、もう俺なんて見てねえ。


「くっ、にゃっは!」

「あれは、大変、お客さんがッ!」

「ちょっと、警備兵、なにやってんのよ! 早く、あいつら捕まえなさいッ!」


 そう、『あいつら』と呼ばれた何者かが、


「わ、分かっていま、ぐっ、ダメだ、通信が繋がらない!」

「パワースーツが、起動しない!」

「レールガンもウンともスンとも言わない!」

「やられた! くそ、『機動兵』はどうだ?」

「ダメです! やられました! この一帯に集中させた電磁パルスです!」

「野蛮極まる前時代の低俗な遺物たちめ! なんてことを!」

「急いで、都市の部の『非常事態電源』を発動! インフラ、病院、あらゆるところでパニックになる前に!」


 いや、だから、マジでなに?

 警備兵たちが、メッチャマッチョなスーツとか、装備とか、車のようなものから銃みたいなものまで抱えて数百人以上一斉に出てくるも、なんか全員動きが鈍い。


「ぐっ、にゃっはダメ! アッシュのスーツも動かない!」

「えっ? そ、そそそ、そんな! だ、ダメでし! 私のスーツも!」

「そんな……いけない! 急いでお客さんを守って! 下がらせて!」

「お父様たちも、危ないです!」

「あらあら、これは、なんてひどい」

「ゲスども!」


 だが、悲鳴も爆音も止まらない。

 そして、そろそろ聞いていいか?


「な、なんだ? あいつらは」


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