第489話 解放せよ


 突如として、会場の斜めから現れて出てくる連中は。

 ドクロマークのエンブレムが入った防弾用ジャケットに、フルフェイスのヘルメットを被った、全身赤の軍団。

 そして、その手と両肩には………


「ひゃっはーっ! 電磁パルス使うと俺らもレールガンもスーツも使えねえのが悩みだが、まあ、関係ねえ!」

「古きものにも時と場合には役に立つってこと思い知らせてやる!」

「さあ、くたばりなっ! マシンガンだぜーッ!」

「すげええ、全世界の博物館からかき集めてきた、こんな前時代の武器も、今じゃ無敵だーッ!」


 パラパラっと乾いた音と共に一瞬で未来の都市を悲劇へと変える集団。

 何万もの客が泣き叫び、倒れ、もみくちゃになってドミノみたいに倒れ、砕かれたコンクリートや割れたガラスが散乱する。


「な、なんだ、あのテロリストみてーなのは!」

「うえ~~~~ん、パッパ~~!」

「くっそ、マジでどーなってんだ?」


 俺はコスモスを抱き寄せて、取り敢えずステージの柱の影に避難。

 倒す倒さん、助ける助けないはとにかく置いておいて、この状況はどうなってんだ?



「あんたたちっ!」



 その時、パニックに包み込まれた会場の中、俺たちの場所に逃げ延びてきた女が一人。


「お~、えっと、あの、誰だ?」

「ピンク」

「んなんどうでもいい」


 あ~、なんかピンク頭のセミロングの、なんかちょっとだけ気の強そうな感じの………って、んなんどうでもいいか。



「あ~、これ、どうなってんの?」


「しっ! 怪我したくなかったら、隠れて。奴らは………反世界連邦を掲げる『レッド・サブカルチャー』よ。手段を選ばない最低のクズたち」



 ………とりあえず、一旦整理させろ。

 え~っと、まず俺は今日、神族と出会った。んで、ワープした。神族の世界に来ちゃった。その世界はSF世界だった。コスモスが可愛かった。なんか姫様アイドルとかいうのと一悶着あった。そしたら、いきなりテロ団体に襲われた。



「なんだそりゃ?」



 すべての意味を込めて、なんだそりゃ。


「はっ? あんた、なに? どういうことって、あいつら、友好を結んだ八国に反発してるからに決まってるじゃない!」

「なんで?」

「なんでって、そんなの――――――――」


 って、聞いてる暇はねえ。

 鳴り止まねえマシンガン、何故か全く働かないスーツを着たままテロ集団の確保に行こうとするも、すぐにやられる警備兵たち。


「おい、ちょっと待て。警備っぽい連中、何であいつら、武器使えねーんだよ。なんかヘンテコなスーツあったろうが」

「無理、電磁パルスでほとんどの電子製品が使用不能になってんの!」

「~~~~なんだそりゃ! おい、超優秀翻訳家のニートはいねーかっ?」

「この一定空間内にジャミングを起こしてあらゆる電子部品を使えないようにしてるってこと! 馬鹿? 全世界禁止兵器の一つ!」


 いや、そんな強力な武器なら使うだろうが………って、いかんいかん。

 そうだ、世界の感覚が違うんだ。

 俺が居た世界じゃ戦争の時なら、そんな強力な武器は使っちまえ的な世界だったかもしれねーが、俺の前世の世界的には核兵器とか細菌兵器とかみてーなもんに該当すんのか? 知らんけど。

 にしても、奴ら、何でこんなことを?

 ………?


「ん? あれ? ちょっと待て、よく見ると、撃たれてるし、痛がってるけど、誰も死んでなくね?」


 何気なく気づいたが、突如現れたテロ軍団は、サブマシンガン構えて撃ちまくり。

 その弾幕をモロに浴びる市民や警備たちの連中は、確かに痛がってる。

 でも、誰も血を流してない?



「し、死んでって………まあ、あいつらの武器はエアーガンだから」


「なにっ? テロリストがエアガン? なんだ、その平和な連中はッ!」



 エアガンだとっ? そ、そりゃあ、エアガンとかでも打ちどころ悪ければ結構重傷になったりするだろうけど、テロリストなのにエアガン? むしろそっちがなんでだよ!

 すると、俺の頭が余計に混乱する中で、現れたテロ軍団が何かを叫んだ。



「いいか! よく聞け! 俺たちは、別に殺しをしたいわけじゃねえ! ただ、訴えてるだけだ! こんな綺麗ごとだらけの腐った世界をどうにかしろって言ってんだ!」



 その訴えが、いったい何人に、どれだけ聞こえているかは分からんが、それでも俺はとりあえず耳を傾けた。スゲー気になったから。



「世界の戦争は確かに終わった。平和になった。お互い破滅しか生み出さない兵器の規制だって分かる! でもな、それからの世界はなんだ? あらゆるものが有害有害有害と規制ばっかして、もはや平和な世界は人の住める世界じゃなくなってんだよ!」



 すると、次から次へと出てくる赤ヘル軍団の一人ひとりが、エアガン掲げて叫びだした。



「そうだそうだー! 『娯楽文化』の規制を無くせーっ! 青少年に悪影響? 犯罪助長? ふざけんな! ハンターピースを再連載しろーっ!」


「健康に悪い? 禁酒禁煙法案? ふざけるな! 自由に酒飲ませろ! 自由にタバコ吸わせろー!」


「オンラインゲームは俺の子供の頃からの生きがいだったのに廃止しやがって! もう一度戻せーッ!」


「ポルノに興味あって何が悪い! エロ本もエロ動画も完全撤廃? 自慰行為は精液の不法投棄で罰金? 交際審査? 恋愛許可? 子作り許可? ふざけんな!」


「許可制の恋愛なんてまっぴらだ! もっと、文化人なら自由な恋愛をさせろーっ! 不倫は文明だーっ!」


「家庭崩壊しようと俺は風俗に行くんだー!」


「芸術のゲイ術を認めてよっ! 神の遺産をよみがえらせろ!」


「ギャンブルは廃止? ワシは勝負師じゃったんじゃ!」


「ナイトクラブは非行の溜まり場? 夜九時以降の外出禁止? 寝れるわけないだろうが!」


「ロリ漫画を返せーッ! 僕は、そんなもので影響受けて犯罪なんてしないのねん!」


「俺の馬は偉大なる七冠馬の血を引くサラブレットだったんだ! 競馬界の神馬にだってなれた! それなのに、動物虐待で競馬の廃止? ふざけんな!」



 ちょいちょい変なのが混じってるが……う~~む……なんだこのテロは?



「そう、俺たちはこの世界を壊すんじゃない! 昔の世界を取り戻すために戦う! そのための要求は一つ! 遥か昔、新たなる世界に移り住んだ我らの先祖。絶望しかないと思われていた祖先に、娯楽という文化を生み出して与えた、我らがサブカルチャーの神、『レッド』を、コールドスリープから解放せよ!」


「「「「「解放せよッ!」」」」」



 そして更に、誰だっつーの! いい加減、頭の中で処理できなくなってきた。

 今こそ、翻訳家ニートが傍にいて欲しい!


「だ~、くそ! あいつは? あいつはまだ降りて来ないのか?」


 さっさと降りてきて、俺に要点を説明して欲しい。

 だから、来てくれ、ニート。



「降りてきて欲しかった~? 一応、来たけど? ヴェルトくん?」


「ッ!」


「えっ? ちょっ、誰、こいつ?」



 しかし、切に願った俺のもとへと舞い降りたのは、コウモリの翼を生やしたヤヴァイ奴だった。



「で、どういう状況かな~? ちょっとうるさいけど、掃除したほうがいい? まだ、ほかの奴ら来るの遅くなるっぽいし、あ~、僕たちだけで暴れちゃう? あいつら殺しちゃっていいよね?」


「お前は来んああああああああああっ! 余計に混乱すんだろうがッ!」



 くそ、もう知るか! どうにでもなれ!



「ふわふわ回収ッ! オラァ! まずは全員マシンガン没収だァ! んで、全員そこになおれええ!」

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