第487話 ライブに合わせて

「予想以上に盛り上がってるってね♪」

「ちなみに、誰この子? キモイ客が喜んでるからいいけど」

「迷子でしか? はうっ!」

「父親は? 全く、なんで私がこんな子供騙しを……にゃ、にゃんにゃこにゃん♪」

「にゃっは楽しいから、にゃはいいよー♪」

「あらあらあら、まあまあまあ」

「どうしましょうか?」

「でも、なんか複雑よ。私がセンターで踊っている時よりも、観客が盛り上がってなくって?」


 コスモスに合わせて振り付けしながら、アイコンタクトしながら「どーすんの?」状態のアイドルたち。

 ダメだダメだ。いい加減とめねーと、コスモスは余計に調子のって可愛くなる………じゃなかった、調子のってどこまでやるか分からねえ。



「くそ、この距離ならッ! ふわふわ回収ッ!」



 ちょっと強めに、多めに魔力を込めて、コスモスをステージ中央から袖にいる俺のもとへと回収。



「ふぇっ? あれ?」


「「「「「「「「ッ!!!!」」」」」」」」



 空から降りてきたコスモス。そして、今度はいきなり目の前で浮いて引き寄せられる。

 その光景を目の当たりにしたアイドル八人組も目を見開いた。

 だが、



「やー! コスモスまだうたいたいよ~!」


「ジタバタするなーーーーっ! いいから、戻ってこい!」


「やったらやーーっ! うたう~~~~の~~~~!」



 コスモスが暴れる! 抵抗するコスモスから発する力が、俺の魔法を反発しようとする。

 だが、俺の年季をなめんなよ? ちょいと俺が本気を出せば………


「にゃっは嫌がってるからやめにゃっはーっ!」

「ッ!」

「私たちの仲間を攫うなんて、にゃっは許さないっ!」


 誰かが宙に浮いてジタバタするコスモスを抱きしめて、こっちをキッと睨んできやがった。


「ッ、誰?」

「男ッ!」

「ちょっと、警備員さんは何をしてましか?」

「それより、アッシュ!」

「まって、お客さんも首を傾げてるわ~」

「このままじゃ、パニックに! お父様や、各国王様たちも注目してますし」

「とにかく、私たちは続けるわ! 曲を流して!」


 おいおい、何を? プロ根性? 良く分からんが、再び何か軽快な曲が流れ出し、七人がステージ上に散って踊りだした。

 だが、中央でコスモスを抱きかかえてこちらを睨む、灰色髪のボーイッシュカットの女。クリッとした目に八重歯が見える女が、こっちをキッと睨んでいる。



「どんな手品を使ったか、にゃっはわからないけど、にゃっは嫌がってる女の子を舞台裏から連れていこうなんて、にゃっは許さないっ!」



 だから、俺の娘だからッ!



「くそっ、相手に出来るか!」



 もういい。目にも映らぬ光速で、コスモスぶんとって、さっさとこの場から離れよう。



「魔導兵装・ふわふわ世界ヴェルト革命レヴォルツィオーン!」


「ッ!?」


「わりーな、邪魔しちまって。とりあえず、さっさと退散するからよ!」



 ラーメン屋で、アイボリーたちの実力から大体のことは分かった。

 こいつら、技術力はSFだが、身体能力はそれほどでも………



「ッ! ほあちゃあーーーーーっ!」


「はっ?」



 それは、予想もしていなかった。

 あやうく、ぶつかるところだった。



「グッ! ん、んだと?」


「にゃ、にゃっは~~~~~、にゃ、なに、今の? し、信じられないぐらい速い……それに、私の崩拳を回避した?」



 今、何が起こった?


「ッ、この女ッ!」

「この人……できる!」


 コスモスを奪い返そうと、魔導兵装で真っ直ぐ女に向かって飛んだ。

 しかし、直前女は、飛んできた俺に対して、コスモスを手から離して、寸前で俺に直突きを放ってきた。

 瞬間的なことで俺もちょっと驚いたが、なんとか躱したものの、ちょっとこれは………


「お、おい! なんか、今度は変な男が乱入してきたぞ!」

「なんだ? しかも、体から、なんか光みたいなのが………」

「ぼぼぼぼ、ぼくたんのアッシュたんになにするだーーーっ!」

「てめえええええ、ヴィーナスエイトに近づくんじゃねえッ!」


 そして、こうなるわな。

 ステージ上で思わず止まっちまった俺の存在に会場中が気づく。

 そしたら、大人気アイドルグループに見ず知らずの男が乱入とかなったら、ファンは怒るわ、そりゃ。

 だが、その時、



「パッ――「にゃっは許さないッ!」」



 コスモスが俺に「パッパ」と言おうとした瞬間、コスモスの前に立った、このアッシュとかいう女が、俺に向かって構えた。



「警備さんも、来なくて大丈夫。みんな、にゃっはでアノ曲をお願い♪」



 そして、俺を確保しようとして飛び出そうとする警備たちを制止させ、周りのメンバーにウインクしながら俺に向かって叫ぶ。



「ルールを守らない人には、アッシュちゃんが、にゃっはお仕置きしちゃうぞーーーーっ!」



 するとどうだ? 近づくな。離れろ。消え失せろと俺に向かっていた空気がいっぺん。

 力強いドラム音を響かせた曲と共に、会場中が再び熱気に包まれた。


「あ~、これ、イベントだったんだ!」

「なんだ~、ビックリした。次は、アッシュ姫のシングル、『カンフープリンセス』だったんだ」

「じゃあ、パフォーマンスしながら歌ってくれるわけか! く~~~、最高!」

「しかも、ただのパフォーマンスじゃないからな」

「そうそう。アッシュ姫は、あの世界最新護身術・『ネオカンフー』を習ってる、凄腕なんだからよ!」


 会場中に溢れる熱気と歓声の中、俺だけは違う感覚に包まれていた。

 俺の乱入というトラブルすら、まるでライブイベントのように観客に思わせるアドリブの中、俺を見据えるこのアッシュとかいうアイドル女の空気が張り詰めた。 


「誰かは知らない。でも、にゃっは強いね」


 マイクを手で包んで、俺にしか聞こえない声で語りかけるアッシュという女。


「ほら、お嬢ちゃんも、お姉ちゃん達と踊ろうってね♪」

「うん、次はアッシュがメインだから、お姉さんたちと踊ろ?」


 そして、コスモス! 何を誘われてパッパを置いてトコトコと向こうに行っちゃう!


「いや、そーじゃねえ! 悪かったから、とにかくそいつを連れて俺はさっさと行きたいから!」

「にゃっはダメ。もう、お客さん盛り上がっちゃってるから、だから少しのあいだ、にゃっは付き合って」


 もう、イベントは止めることはできない。

 だから、覚悟しろと、どこかイタズラめいた表情をしたアッシュが、曲の歌い出しの瞬間、俺に向かって飛びかかってきた。



「アチャッ! ホアチャーっ! ほ~~~~、アチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャ!」



 ッ、こ、これはっ!


「ぐっ、な、な、なにっ?」


 俺の両手に手を絡ませ、引き落とし、離し、裏拳。止まらぬ連続攻撃。

 しかも、そこそこ速ェ!

 俺もなんとか躱すが、こんな攻撃、これまで体験したことがねえ。

 空手とも、ボクシングとも、プロレスとも、喧嘩術とも違う。

 相手を翻弄するような動き

 これ、どこかで見たこと………


「す、すごい! 私のトラッピングが、にゃっは当たらない! にゃっはやるじゃん!」


 そして、何よりも………



「アチャチャチャチャチャチャチャチャチャ、ほ~アチャーっ!」



 この独特な掛け声は………指先一つで相手を粉砕するやつじゃなくて………もっと現実的なアクション映画的な………カンフー?

 何で、こんな未来SF世界のアイドルが?

 しかもアイドル衣装で?

 身体能力も、まあまあ高そうだな。


「アチャチャチャチャチャチャチャチャチャ!」


 ………………にしても



「アチャチャチャチャチャチャチャチャチャ! アチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャ!」


「~~~~っ」


「アチャチャチャチャチャチャチャチャチャ! アチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャアチャ!」


「だー、うるせええっ!」



 と、人が真剣に考えようとしてるのに、何でそんな集中を邪魔するようなヘンテコな掛け声してんだよ! ギャグか?


「ッ! ここまで、にゃっは当たらないの、初めて……にゃっは何者? これは……スーツの力、にゃっは使うべき?」


 すると、どうだ? 俺が距離を離した瞬間、元気いっぱい娘みたいだったアッシュの表情が、次第に真剣味を帯びてきていた。

 どうやら、俺が予想以上だったかのような反応だな。

 まあ、いいか……とりあえず今は………



「ちっ、アチャアチャアチャアチャ、うるせーよ。そんなに、アチーなら、寒気のするような力で、身も心も震え上がらせてやろうか?」



 さっさと、どーにかするか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る