第454話 かまってちゃん

「っと、危ない。今はそれどころではありませんでしたね」

「おまえ、本当に天然だな、この馬鹿勇者!」

「ひはははははは……でもなんか……ヴェルトくんが居ると、どういうわけか、やっぱこうなっちゃんだよね……うん、ヴェルトくんらしいや……」


 いや、何が俺らしいんだよ。つうか、お前の嫁、悪化しちまったじゃねえかよ。

 ほんと、これ、どーすんの?



「もう、許さない! デイヂ! デイヂ聞こえる? デイヂ! ブラックダックは? ブラックダックはどこ? ピイトは! ピイトはどこなの!」



 テレパシーでもやっているのだろうか。っていうか、まさかこの場に援軍でも召喚する気か?



「デイヂ! 聞こえてるね? 今すぐこっちに来て! 魔力が足りない? じゃあ、ピイトくんを呼んでよ! えっ、いない? それじゃあ、ブラックダックは! メイルは! ……消えた? どうしてよ! どうしてみんなみんなマニーを裏切るの! 早く転送してよ! ボッキノピオは! グーファは! スノーホワイトは! パーさんは! 他のフレンドは何をやってるの!」



 まあ、ピイトはもう戦わねえだろうな。ブラックダックはそういやどうしたんだろ。

 デイヂも戦うだけの力も無さそうだし………



「そうだ! トゥインクル・ベルは? ハッピーターパンは? いるでしょ! もう二人共まとめてこっちに送ってよ!」



 いや、それ、フィアリとニートだから……



「どうしたの? いるんでしょ! 早く二人共送ってよ! 役にたたないデイヂなんかより、二人の方がよっぽど役に立つんだから! 裏切り者? みんな裏切り者なんだから! うるさいうるさいうるさい! 早くこっちに飛ばせって言ってるでしょ!」



 ダメだな、もう、マニーは、ニートとフィアリが既に俺たち側だってことまで分からないぐらいに錯乱している。

 見ていて痛々しいな本当に。


「ひっぐ、お、おかざん………」


 もう、ピースがあまりにも可哀想すぎる。胸が締め付けられるよ、本当に。

 すると、転送の魔法陣がコクピットに浮かび上がった。

 デイヂはもう、マニーのイカれた言葉には、逆らう気もないのか、望み通りニートとフィアリを………



「はむ、れろ、はむ、ちゅ、んむ♥ ……えへへ~、ニート君」

「ッ、や、やめろよ、おまえ、こんな時に」

「えへへへ、い~じゃないですか、幸い誰も見てませんし」

「だから、子供たちが」

「それなら、さっきピイトさんが全部面倒見るって言ってくれたじゃないですか。それに、こんな人の気配のない森の奥に一緒にきて、今更それはないですよ~」

「でも、むぐっ」

「はいはい、唇ふさいじゃいま~す。も~、空気読んでくださいよ~、ニート君。ゴッドジラアとかキングドラとかの登場で世界はもう終わりなんですから、最後くらい思い出くださいよ~♥」



 ………………………………気づいてないのか? こいつら、なにやってんの。


「えへへへ~、ニート君の舌が大きくて、一瞬で私の体中がベトベトの唾液まみれになっちゃいますねー」

「うわ、汚な………」

「なんですとー! むむむむ、許しません! そんなこと言っちゃうニート君は……ここの股間のドリルをハムハムしちゃいます!」

「ちょっ、やめろって! いや、マジでやめ、やめろ!」

「ダメですッ! 綾瀬ちゃんだって、大人の階段登っちゃったんです! 私だって負けないんですから!」


 うん、気づいていないな。でも、そろそろ止めよう………



「一応、子供、見てるんだが………この発情妖精に童貞ドリラーが」


「へっ………………………………」


「えっ………………あれ?」



 俺がボソッと呟くと、ハッとしたようにニートとフィアリが振り返った。

 そして周りをキョロキョロ見渡し、目が点になってるマッキー、ロア、そしてマニー、状況がまるで分からず首を傾げてるピースの存在にようやく気づき、まずはこれが幻じゃないか頬をつねって二人は確認し、そしてこれが現実だと互いに理解して頷きあって………



「ほわあああああああああああああああああああああああ!」


「なんでっ!」


 

 そっちが、ナニ?


「ちょとよ、ちょ、ちょっとーーー! どういうことですか、朝倉くん! こおこ、ここ、これはっ!」

「いや、違うんで! 俺、いや、気のせいなんで。これはフィアリが見せた幻術なんで。お前ら、幻術の中に居るんで!」


 ああ、もう分かったから、服の乱れを直してドリルをしまえ………


「彼らは? 妖精族に………地低族?」

「………なあ、ヴェルトくん、ひょっとしてこの二人が?」

「おお」


 もはや、余計にカオスだらけになっちまって、俺も頭が痛くなってきた。


「え~っと、……恵那ちゃんだよね? 俺、分かる? 加賀美」

「……へっ……ええええええええええええええええっ!」

「あっ、え~~~~~~~~~~~~と、ドカイシオンクン? だっけ?」

「分かってるんで! どーせ俺のことなんて覚えてないの、分かってるんで!」


 あ~、ほら、マッキー、そこは覚えてると嘘でも言ってやらねえと、ドカイシオンクンが可哀想だろうが。

 ほら、ニートの奴がスッカリやさぐれて………



「だから、マニーを無視するなァァァァァァァァァァァァァァァ!」



 おお、そうだったよ! って、いかんいかん、もう完全にペースが乱されてるよ俺ら。


「ちょっ、一体、どうなってるんですか? ここ、どこですか? っていうか~、何で副社長までここに?」

「あ~、まあ、色々あってな、完全に復讐鬼となっちまったこの女をどうにかしたいんだよ」

「はあ? っていうか、尋常じゃないぐらい怒ってるじゃないですか! 一体何をやっちゃったんですか?」


 いや、正確には何もしなかったのが原因でここまで悪化しちまったんだが………



「なになになになに? トゥインクル・ベルもハッピーターパンも、マニーを裏切るの? マニーを裏切るの? マニーを裏切るのォォォォォォォォォォッ!」



 もう、何かに変身しそうだよ、このマニーは。もう顔中から血管が浮き上がって、異形な形相過ぎて怖いわ。てか、ピースがもう気絶しそうだし。


「おい、朝倉、あれ、何がどうなってるんで?」

「言ったとおりだ。殺せば手っ取り早いんだが、ちょっと面倒なことになってな。何とか、この復讐に囚われたお姫様をどうにかしてやりたいんだが、なかなかうまくいかなくてな」

「というと?」

「なんとかしようとしても会話も繋がらねえし、つか、さっきからどうしてか話題が逸れてマニーが置いてきぼりでな。無視されてると思って、余計にブチ切れてんだよ。ほんと、どうしたもんかね」


 そう。問題なのは、マニーの心を救うこと。しかし、マッキーでさえ無理な上に、返って悪化させているのが現状だ。

 正直、マニーを救うことなんて出来るのか?

 そう思いかけたとき、ニートから意外な言葉が出てきた。



「いや……復讐鬼っていうか……むしろ、このまま無視して怒りを発散させた方がいいんじゃないか?」


「はっ……?」


「だってこいつ……復讐鬼っていうより、どっちかっていうとただの『かまってちゃん』にしか見えないんで」



 その時、俺、マッキー、ロアの三人は思わず首を傾げた。


「かまって……ちゃん?」

「俺も身近な奴がかまってちゃんな妖精だから分かるんで。正直、かまってちゃんは、相手にした時点で負けなんで、相手にしない方が相手の心も折れるんで。……ふっ……、常に教室の隅で人間観察をして、誰にも構ってもらえなかった俺の目は誤魔化せないんで」


 いや、それはいいとして……『かまってちゃん』ってなんだ?


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