第448話 騒がしいクラス

「あはは、それはアカンな~、麻帆ちゃん。チュウは立派な不順異性交遊なんやから、バレたら輪島くんまずいや~ん」

「そんっな! で、でも、私も仁くんも、ふ、ふ、不純じゃないもん!」

「そんなん、先生に言い訳通用せんえ~、これで輪島くんが問題になって、出場停止とかになったらどうするん?」

「ッ、そ、その時は………その時は、わ、私が学校を辞めて責任取るもん! でも、仁くんはダメ! 甲子園出場の夢を叶えるために!」


 いや、チュウぐらいで何で学校辞めるんだよとツッコミ入れたいし、不知火なんてどう考えてもからかってるだけなんだが、麻帆という女はかなり重く捉えており、それが真剣だからこそ野球部も慌てて立ち上がった。


「そんな! やめろよ、麻帆! お前は、大学出て絵本作家になるっていう夢が……」

「仁くんの夢を壊してまで叶えたい夢なんてないもん! 大学だっていかなくていい! 私は、野球をやっている仁君を応援したいだけなんだから!」

「麻帆……」


 不知火という女はもはや腹を抱えて爆笑中。

 他の女子たちは、目の前のラブコメを「ドキドキ」「ワクワク」で眺め、男子は「チッ」「うらやましい」という舌打ちが漏れた。


「バカ言うな、そんなのダメに決まってるだろ。大学に行かないとか、俺なんかのために」

「そんなことな……あっ……でも……」

「ん?」

「大学に行かないと~、やっぱり……しゅ、就職とか厳しくなっちゃうから……その時は……」

「その時は?」

「豆腐屋さんに、バイトじゃなくて、正社員として正規雇用して、ほし~かな~って……い、言ってみちゃったり、そのしたわけだけど……」


 照れハニカミの女は眩しい笑顔を放って、次の瞬間、クラスは舌打ちと同時に喝采が沸き起こった。

 ピューピュー、ピーピー指笛と拍手が沸き起こり、もはや、何の話をしていたのかもウヤムヤに……


「そうか、そうだったんだ! 輪島! 吉田! 君たちが僕に教えてくれた責任の取り方、僕もそれを実践するしかないのだろう! 責任を取る、それは償うべき相手に生涯をかけてサポートすること! それが責任の取り方だ!」


 ウヤムヤにすればいいものを、自分で掘り起こしやがった、この秀才男。



「へ~、ほなら、責任とって、ガイア君もウチと付き合ってくれるん?」


「つ、付き合う? それは、男女としての交際ということだろうか? それは待ちたまえ、不知火! 君は君を傷つけた男に身を委ねようというのか? たわけもの! こんな、たわけた男に自分を安売りするような真似はよしたまえ!」


「でもウチ、結構値段高めやと思うえ?」


「ぬっ、そうか……つまり、僕に君を買い取れと……しかし、それならばすべきことがあるだろう。まずは御両親に謝罪と誠意を持って交際を宣言し、お許しを戴かなければならない。そうなると今、社会的に収入のない僕ではご両親も納得されないだろう。そうなると、バイトを……いや、まともな定職にもついていない男等余計不安に感じられる。しかし、まずはまとまった収入を手早く手に入れるにはバイトをし、そして就職活動を……そうなると、学校をやめて中卒で採用をしてもらうしか……バイトなら鈴原に紹介してもらったのがいくつか……でも、就職活動は……とにかく!」



 下手に暴走しまくった、星川は、一人でブツブツ言いながら立ち上がった。

 そして……


「よし、みんな! 僕は就職活動をしてくる。申し訳ないが、体育祭は辞退させてもらう。こんな無責任な僕ですまない! では、まずは就職活動のスーツを買ってくる!」

「あは♪ ウチとの将来を真剣に考えてくれて、嬉しいな~」

 

 有無も言わさずに走って教室から飛び出した星川を……誰も止めなかった。


「いいのかしら?」

「星川くんですからね~。あの、どこかズレた残念な暴走がなければ、いいんですけどね~」

「てか、こんな理由で中退して就職活動とか、学校側許すわけないじゃん」

「鬼だな、不知火は……」

「まっ、冷静に落ち着けば帰ってくるだろ」


 正直、学校にあまり来ない俺にはよく分からんが、どうやらこういうのは日常茶飯事のようだ。

 下手にクソマジメなやつだからこそ、極端な思考に走るようだが、まあ、随分と異常なもんだな。


 

「それにしても、不知火さん、それに輪島君や吉田さんも、もう少し落ち着いた生活をしたらどうなの? 一時の色恋で将来を左右させるような行いはいかがなものかと思うわ」


「あは♪ んも~、華雪ちゃんは固いえ~。せっかく美人で告白もたくさんされとるんやから、恋愛には寛容やないとアカンよ? あ~、でもガイア君はあげんからな~」


「不知火さん、私たちは高校生よ。それに、来年には受験があるのだから、生活態度は改めるべきよ」


「ぶーぶー、そんなんやと華雪ちゃん、青春時代損するえ~、まあ、華雪ちゃんは、まだ恋をよう知らんからなんやろうけど」


「ふっ、恋? 私には必要ないわ。私は将来、大学を卒業後には官僚を目指すのだから、『恋愛なんかに時間を取られたりなんかしないし、人生を左右させたり等しないわ。恋に暴走するなど、私に限って絶対にありえないわ!』 分かった?」



 断言するかのように「NO恋愛」を述べた委員長の発言にクラスメートの何名かがガチ凹みをしている様子が手に取るように分かった。

 これはこれで変わった女だが、俺には関係ない……そう思った。


「まあ、それはパナイ置いておいて~、綾瀬ちゃん、どうすんの? 今日中にリレーの選手は登録して、説明会に参加しなきゃダメっしょ? ガイア君、たぶん今日はもう戻ってこないっしょ?」

「というより、本番までに戻ってくるかが心配よね。というより、彼、しばらくは『責任』とか言って、こういうクラス代表みたいな種目は辞退すると思うのだけれど」

「今のところ、リレーは、鮫島君、宮本君、あと、俺とガイア君でしょ? でも彼ダメとなると他には………」


 はあ……つらまん……帰りたい……なんで俺はここに居るんだ? マジメにホームルームにまで参加して……

 てか、『あいつ』は何をやってんだよ。あいつは! 俺を無理やり学校に連れて来たくせに、『あいつ』本人がいねーじゃねえかよ。



「やっほほーい! よばれて飛び出て、アッと驚くミナ~ちゃん! とうっ!」



 ああ、現れやがったよ、あのバカ女。

 さっきから、教室の扉が閉じたり開いたりと騒がしいが、更に騒がしい女が現れやがった。


「美奈。あなた……今まで何を……」

「いやいや~、ゴメンよ~、綾瀬ちゃん。ね・ぼ・う♪ いや~、メンゴメンゴ!」

「あなた……星川君の責任感は大概だけど、あなたの無責任ぶりも非常識よ!」

「す、すまんでごわす、綾瀬御奉行様! 小職の与えられた任務である、ダンガム製作活動に――」

「どうせ玩具を作ってただけでしょ! 本当に、なんなのよ、あなたまで!」

「のー! ダンプラは玩具ではなく魂だよぉ!」


 苦労するな、あのクラス委員長。そのうち、心労でぶっ倒れるぞ?


「そーいえば、星川君が走って出て行ったけど、何かありエッティ?」

「いつものことよ。ただ、時期が悪かったわ。彼、体育祭のリレーには多分でないわ」

「えええええ! それは、まずいよぉ! だって、クラス対抗リレーが一番ポイント高いんじゃん!」


 あの女。神乃美奈。

 やはり、何度見てもウゼエ。というか、何で俺はあんなのに言いくるめられて、学校に来てんだ?

 数日前にミルコのライブに遊びに来たあの女は、こっちがどれだけ怒声を上げようとも、怯むことなくあのズレた思考と会話で俺たちのペースを乱した。どう言いくるめられたのかは、もはや会話の内容が意味不明すぎてあまり覚えてねえ。


「ん? おっほーーーー! これはこれは朝倉君ではないですのん! 数日ぶりぶり!」


 しかも、こっちに話かけてくんなよ、ウゼー!


「いや~、来てくれるかどうか心配だったんだけど、男だね~、朝倉君。ちゃーんと学校に来た、エライエライ」


 いいこいいこと俺の頭を撫でようとしてくるが、つか、やめろよ、こんな気安いスキンシップ。やっぱ本気でこの女ウゼー。

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