第447話 あのときの俺ら

 気づけば世界を左右させる大怪獣バトル。

 デカ物同士の大喧嘩は、もはや驚くというよりも見るものを呆れさせるほど現実離れしたものだ。

 しかし、本来であれば一瞬の気も許せない攻防の中、俺はどうしても集中しきれなかった。

 いや、体のキレも魔法のキレもいい。ドラとコスモスとの息もピッタリだ。


「ドラちゃん、頑張れー!」

「もちっす! トリプルレーザー光線っす!」


 でも、どうしてだろうな。

 こんな時に…………


『あははははははは! 本当にムカつくな~、やっぱりヴェルトくんは一番嫌いッ! 嫌い嫌い嫌い! 死ぬほど嫌いーーっ!』


 いや、こんな時だからこそなのか?


『ゴッドジラアちゃん、今すぐ、あんな長い首全部ねじ切っちゃえ!』

「させないっす! ぐるぐる巻きにしてやるっす!」


 あのゴミ島で過去と決別して以来、まあ、それどころじゃなかったってのもあるが、それほど前世のことを考えたりしなくなった。

 たまに見ていた、前世の懐かしい夢も見ることもなかった。

 でも、今は……


『ひはははは!』

「くはははは!」


 笑っていても、どれだけ闘志を燃やそうとしても、頭の中ではどうしても昔のことを思い出しちまう。

 大して仲良くもなかった、加賀美という男のことを。

 それは、こうして狂ったように笑っているマッキーも同じなのか?

 分からない。だが、俺自身の意識は、どうしても、昔のことを振り返ろうとしちまう。






 いつだった? 俺が加賀美という男と初めて話をしたのは。







 あれは…………



「ん~~~~、あかんわ。この新台、前と演出あんま変わっとらんな~。保留もイラッと来るし、やっぱワイには合わんな~」


「へい、十郎丸。パチンコ雑誌を読んでスタデイか? いい加減、ストップする気にはならないか?」



 そうだ。教室だ。



「なに言うとんのや、ミルコ。行くとこまで行く、破滅を恐れへんやつこそが、ギャンブラーの証や。ゼニ失うことが怖くて、スリルが買えるかい!」


「ノンノン。この間、ティーチャーに見つかって停学しただろう。またやると、次は更にロングタイムになる」


「はっ! 停学が怖くてギャンブルとヤンキーできるかい! せやろ? リューマ」



 あの日、珍しく朝から学校に行っていた俺は、ホームルームの時間、青年誌を読みながら、ミルコと十郎丸のバカ話を聞き流していた。

 ホームルーム、何を話してたっけ? つか、なんで俺、学校に?


「私語を慎しんでくれないかしら、木村くん、村田くん、今はホームルームの時間よ? 体育祭に出場する競技を決めているのだから、あなたたちも聞いほしいのだけれど。今、職員室に行っている星川くん含めて、リレーの選手だけは既に決まっているから、それ以外で何かを考えてもらわないと困るわ」


 パンパンと手を叩いて皆の視線を集めるのは、真面目で優等生なクラス委員長。学校を代表する才色兼備だ文武両道だなんだで評判が良いのだが、って、今にして思えば綾瀬だよ。


「お~、ミス綾瀬、クールダウンだ」

「せやでー、委員長、べっぴんが台無しやで~?」

「ふざけないで。いい? 体育祭は、一人一種目は必ず出場よ? あなたたちだって必ず出てもらうのだから、しっかり話し合いに参加してもらわないと困るわ。それと、朝倉くんも」


 あ~、覚えてるな。とにかくあの時、俺は不機嫌で睨み返していた。


「あ゛~?」

「ッ、そ、そう睨まないでくれてもいいでしょ?」


 強気な綾瀬だったが、ガチで不機嫌そうに睨むと若干怯んだのを覚えている。というか、この頃は綾瀬も俺のことは普通に嫌いだっただろうしな。

 そして、不機嫌な俺の睨みでクラスが若干緊張したんだったな。「おい、誰か止めろよ」「怖い」とか……



「大丈夫かな~、暴れないかな~、やだよ~、怖いよ~、つかさちゃん~」


「ふっ、安心しな、リコ。私の可愛いリコ。あんたに汚い糞豚男子には指一本触れさせないから。ねっ、ほら、こっちにきな、ふふ、ほら、スカートめくって。大丈夫、今は誰も見てないから。机の下で、ちょっとだけめくりな。今日、私の言いつけ通り、私が昨日履いていたパンツを履いてきてるんでしょ? ちゃんと見せなって。どう? ねえ、可愛いリコ、今、どんな気持ち? 朝から何回もトイレに行って、何をしていたの? ねえ、ねえ、ねえ、はあ、はあ、はあ!」


「そうそう、だいじょーぶでしょ。むしろ、私は暴れる朝倉くん見たいかも。暴れる朝倉くん。それを止める木村田コンビ。三人の荒んだ不良が仲違いし、乱れた服が三人にイケない気持ちを芽生えさせ、愚腐ぐふ♪ 愚腐腐フフフフフフ、『暴れるなよ』『どうした、もうここがこうなってるぜ』『素直になれよ』『俺たち三人は一チン同体だろ?』木村田コンビの猛烈な責めに、涙目になって堕ちていく朝倉くん! 愚へへへへへへへへへへ!」


「お~、相変わらず心が美しくないな、響嬢。女性は可憐であれ。例え、僕の美しさに敵うことなくとも、精一杯美しく咲く努力をしなければね。ああ、でも、努力の必要なくしてこれほど美しくなってしまった僕は、なんと罪作り。不良の罪など、僕の罪に比べれば軽いもの」


「天我、誰も聞いてないパナイ聞いてない。でも、なんかパナイね~、全然クラスまとまんなくて、綾瀬ちゃんかわいそ。まっ、朝倉くんらが暴れたら、鮫島くんが抑えちゃってよ。頼むよ~、空手マスター」


「いや、俺、喧嘩は禁止されているから……」


「ハハハハハ、スクールファイターの名が泣くアルヨ、鮫島クン。肉まん食うカ? 空手家が戦いに積極的でなかたら、中国四千年の歴史が火を噴くネ」



 なんか、非常識な連中も混ざっているが、まあ、基本的このクラスはなんか変だから、あんま俺も周りの目が気になんねー。

 すると、その時だった。


「いやいや、委員長。今は、出場種目決めよりも、朝から噂になっている、あの問題でしょう」

「確かに、そうだね」

「うん、そうネ。私も気になるヨ。あの星川君が、停学だとか退学だとかの噂がながれているネ」


 その話題が出た瞬間、クラスが「その通りだ」と騒然となった。

 しかし、そんなクラスメートの反応に、クラス委員長は頭を抱えてため息はいた。


「退学も停学も……特にないでしょ? ただ、体育倉庫で足を滑らせて、その流れで偶然、 有希子の胸に触れただけでしょう? そんな事故がどうしてそんな大げさに発展しているのかしら?」


 俺はその事件を知らないが、っていうか事件か? 

 停学と退学のグレーゾーンを甘く見すぎだぞ? こと、停学に関しては俺と十郎丸の経験値からも、そんな鼻くそみたいな事故で、そんな話題になるはずがない。

 しかし、………


「ええ~、華雪ちゃん酷いえ~、ウチ、ほんまに傷ついたんよ?」


 と、すこしとぼけた京都弁で口を挟む女。

 黒髪ロングの清楚系? 物腰もどこか落ち着いているように見えるが、その中身は正直……



「有希子、あなたね~、星川君をからかいすぎよ。マジメな彼なら、ここまで異常な反応するなんて目に見えていたでしょう? 彼、自首する犯人のように職員室に行ってたわ?」


「はは、そうなんよ。も~、星川君ってな、ウチがほんのちょっと「エッチ」てゆうただけで、もう慌ててな~、もう、ほんまかわええんよ」



 やけに機嫌よさそうに語る女は到底被害者とは思えねえ。


「騒がしいぞ、何をやっているんだね、君たちは!」


 教室の扉が勢いよく開けられた。

 そこに居たのは、



「お帰りガイア君、パナイ落ち着けって。ちなみに処分は?」


「うっ、その、小早川先生は……ただの事故だし、そんな大事には……と言ってくれているが、僕はそう思わないんだ! 責任ある立場の人間は、しかるべき形で謝罪を証明する義務があるのだ!」



 たかが事故で胸に触れた。それをここまで大事にして暴走する思考回路はいかがなものか。

 それに対して、当事者である不知火という女はニマニマしている。



「そうやねー、ウチ、傷ついちゃったえ、ガイア君」


「うっ! し、不知火! わ、分かっている! しかるべき処分と償いは受ける。生徒会長職を降り、そしてテニス部も退部する。示談についても君が納得するまで話し合おう」


「ん~、そやなくて、ウチ、ガイア君の責任の取り方って、おかしいと思うんよ。ようするに逃げて、お金で解決っていうん? それがガイア君の責任の取り方なん?」


「ッ! い、言われてみればそうかもしれない。僕はなんと、たわけものなんだ。婚前の女性の体を僕のようなたわけ者の手で汚してしまうなど、不知火の精神的苦痛は一生消えないだろうというのに、僕はなんてことを……役職から退くことと、金銭で解決しようなど、なんと、たわけたことを………」



 誰か、このテンパってる男を助けてやれよ。と思ったが、なんか面白そうなので、俺はこのままでもいい気がした。

 だが、やはりやりすぎだと、誰かが口を挟んだ。



「おい、不知火、それぐらいにしろよな? あんま気にしてねーくせに、ガイアをイジメんなよ」


「気にしてない? 輪島くんは、どうしてそう思うん? 君だって、大事な彼女が暴行受けたら許せないやろ~?」


「な、つ、そんな例を出すなよ! 大体、お前はいつもガイアに気安い態度でべたべたしてるくせに、ちょっと事故で胸に触ったぐらい、ネチネチ言うなよ!」


「でも、ウチは処女やよ? 麻帆ちゃんと違ってな~」


「ッ!」



 物申したのは、何処にでもいそうな黒髪坊主、肌がほんのり日に焼けた野球部の男。

 変な奴が多いこのクラスにおいて、ある意味特徴のない男だが、その男の文句に対して不知火が放ったカウンターにより、男と、その『麻帆』という女に注目が集まった。

 そして次の瞬間、『麻帆』と呼ばれた女は、半泣き状態で立ち上がった。


「はううっ! ちが、ほ、ま、まだ、そんなことしてないもん! き、キスまでしか!」

「お、おい、麻帆!」

「はううっ! ご、あ、や、あの!」


 カウンターの被害を受けたのは、どうやら野球部の彼女と思われる女。まさかの飛び火に口を滑らせてしまい、その発言で、不知火という女は余計ニヤニヤ。既に清楚の欠片もない。




――あとがき――

すまん、更新遅れたのよ。予約投稿ずれてたの直すの面倒で……

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