第434話 愛を知った

 肝臓、みぞおち、ローキック、テンプル、脊髄!


『バカなっ、ぐっ、き、貴様、まだこれだけ動けて……どこにこんな力が……瀕死だったはずだ!』

『僕も、そんな感じでフォルナ姫を恐れたよ!』


 ラーーーーーーッシュ! 


「おっしゃー、いけーラガイア! 殺せ、玉蹴り上げろ、踏みつけろ、ボッコボコに!」

「ヴェルト様、す、少し、落ち着いてください。コスモスたちが居るのですよ?」

 

 まるで、テレビの前で格闘の試合をかぶりつくように見て、贔屓の選手が劣勢から逆転のラッシュを見せているかのような興奮。子供の教育に悪くても、抑えきれなかった。

 だが、ラガイアの攻撃はそれだけじゃねえ。


『ラガイアアアアアアアアアアアア!』


 ノッペラが怒号と共に、口から魔力を凝縮させた砲撃を放………とうとした。

 だが………


『無駄だよ、魔王ノッペラ。あなたの魔法はもう、僕には届かない』

『なっ………に?』


 砲撃が放たれなかった。それどころか、ノッペラの動きが止まって……


『………確かに、あなたの血を引いているね、僕は………』

『心眼力の金縛りッ! バカな、………お前ごときが、何故!』

『魔王ノッペラ。残念だけど、僕も、目に見えるものしか見ないのは、とっくにやめてるんだ』

『この技は、私がサイクロプスの証でもある瞳を失い、地獄のような修練の末に身につけた力だぞ! それを、何故、お前ごときが!』


 ノッペラの金縛り技。それを、ラガイアまでやりやがった。いつの間に? いや、違う。戦いながら身についたんだ。


『僕も同じことをフォルナ姫に言ったよ。でもね、結局潜り抜けた地獄がどうとかなんて関係ないんだ。そんなものを心のよりどころにしているようじゃ………』

『ッ!』

『僕の本当の家族には勝てないよ!』


 ラガイアを纏う闇の衣が、拳一点に集中し、渦巻いている。全てを飲み込む闇。その巨大な闇を纏った拳を、ラガイアは振りかぶり………



『待て、ラガイアよ! 私をここで倒していいと思っているのか! 混乱の中にある魔族大陸を統べ、サイクロプスを導き、魔族大陸の頂点に立とうとする私を! 覇道を!』



 最後の最後まで、性格を最初から最後まで通してくれて、逆にありがたいな。ノッペラも。

 親も子も血筋も関係ねえ。心置きなくやってやれ、ラガイア。

 すると、ラガイアは、悲しみでも怒りでも、ましてや相手を馬鹿にするでもなく………



『ふふ、悪いね、魔王ノッペラ。残念だけどあなたの事情なんて、僕には『興味ない』んだ♪』


『ッ!』



 自分を縛り付けていたもの全てから逃れ、自由を手にした子供のように、ニッコリと微笑みながら、身動き取れないクソやろうに、全力全開の一撃をぶちかましてやった。

 強烈な一撃をモロに食らった魔王ノッペラは、大の字になってダウン。起き上がる気力すらないほど完膚なきまでに叩きのめされた。


『お兄ちゃん………僕………勝ったよ?』


 それだけを呟き、全てに満足したかのように、ラガイアも気を失って倒れた。だが、その表情は、とても穏やかに笑ったままだった。


『ラガイア………寝てる……ホッ』


 慌てて駆け寄るキロロだが、ラガイアがただ疲れて寝ているだけなのを見て、安堵したように胸を撫で下ろした。

 俺も、そしてウラたちも同じだった。


「ひははははは、勝っちゃったよ、ラガイアくん。現役バリバリの七大魔王に。やるね~、でも悲しいね~………実の子に引導渡される親とかさ」


 そんなの関係ねえ。だから、俺たちがあいつの傍にいる。今はただ、「よくやった」「ゆっくり休んでろ」と心から思った。

 すると……


『ぐっ……こ、この、私が、ラガイアごときに………』


 倒れているノッペラから聞こえてきた声。やろう、死んでなかったか。

 だが、もう身動きも取れねえ様子だ。そしてもう、戦う気も無さそうなほど脱力している。


『魔王ノッペラ…………』

『ふん、…………トドメをさせ……キロロ姫。ラブ・アンド・ピースに唆され、屈辱に耐えながらも奴らに力を貸したが………これ以上、生き恥を晒すことはできん……この勝負、ラガイアの勝ちだ』


 もう、何もかも終わった。魔王の頂点に立つ野望も全て。

 それを悟ったノッペラは、観念したように自分の身を差し出した。

 だが…………



『魔王ノッペラ、あなたは………大きな思い違いをしている……』


『どういうことだ? キロロ姫』



 ゆっくりとノッペラに近づくキロロ。

 ノッペラの傍らに腰を降ろし、手を差し出し、ノッペラの腕に触れた。

 何をする気だ? なんか、雰囲気的に「もう、親子で傷つけあうのはやめよう」とか、和解を持ち出す雰囲気に見える。

 すると…………



『ボーンクラッシュ』


『ウゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』



 ……………えっ?

 バキ、ボキ、ゴリ、メキョ。という、なんかもう、メチャクチャに骨が粉砕された音が聞こえた。

 えっ? な、なに? なんか、目を閉じかけたノッペラが、メッチャ大声で叫んだんだが………

 


『ぐはっ、が、があ! キ、キロロ姫、な、なにを!』


『分解したら一瞬で死ぬ。だから、骨を粉砕にとどめた。ボーンクラッシュ』


『ッ! それはどういうッ、ぐおあああああああああああああ!』



 あの、キロロさん? なんか、ノッペラさんの右腕が、左腕が、なんかメッチャ青黒く腫れ上がってるんだけど。



『一思いに殺すのはよくない。ので、じっくりやることにする』


『ちょっ!』



 眉一つ動かさぬ、人形のような表情でサラッと言うキロロ。



『次は、私が相手をする。ラガイアが満足したように、次は私が満足するために、あなたと戦う』



 ノッペラが、ゾッとしているのが手に取るように分かった。

 そして……



『とりあえず、足』


『うわごああがああああああああああああ!』


『両足首。膝』


『ひぎゅあああああああ!』


『股関節』


『ぶへぶああああ!』


『肋骨』


『うじゅああああああ!』


『肩』


『ほでゅわあああ!』


『指は一本一本順番にしよう』


『じょわがああああああ!』


『あっ、いけない。骨じゃないから忘れてた。………こうが――――――――――』


『うごわあああああああああああ、一思いに殺してくれえええええええええ!』



 ……激カワ魔王による、キロロタイム…………



『ラガイア……私は嬉しい。あなたはもう愛の力を知っていると言った。あなたが、私の愛を知ってくれたことが嬉しい。そして、私の愛を知ったことで今日の勝利に繋がったということが、私は何よりも嬉しい』



 いや………そこは違うんじゃ………でも、二年前の戦いで乱入したこの場に居る俺たち全員が思った。



「ヴェルト君………あの時、キロロ姫いなくて良かったね。お互いに」


「「「「「コクリ」」」」」



 珍しく、心の底からマッキーと意見があった。というか、俺たち全員うなずいていた。

 とてもじゃないが子供には見せられない映像に俺たちが呆然としていたため、既に紅茶が冷めていることに気づくのに少し時間がかかった。


「………で、えーと、ヴェルト君……俺たち、どこまで話してたっけ?」


 そして、俺も素で忘れた。

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