第435話 紅茶おかわり

 ラガイアタイムとキロロタイムで話が脱線したが、落ち着いて話を元に戻さねえとな。


「でだ、テメェはこのままどうする気だよ、マッキー」

「アハハハッハ、マッキーは、ううん、ラブはマニーとピースちゃんと一緒に居る。何度も言ってるでしょ?」

「テメェには聞いてねえよ、馬鹿女」

「ん~? バカ? えへへ、マニーは馬鹿なの? 人のことを馬鹿にしすぎなバカはこの世界なのに?」


 いちいち話に加わってくるマニーだが、正直相手にするだけ時間の無駄だと思っている。

 なぜなら、真剣な話が通じないからだ。どうせ、マニーは考えを改めねえ。なら、マニーには言っても無駄だ。

 だが、マッキーは違う。こっちが真剣に向かい合えば、マッキーもまた、まともに答えた。


「ヴェルトくんは、『聖王』の予言をどう思う?」


 聖王? そこでその名が出たことに、ファルガやウラたちの空気も変わった。


「ヴェルトくん、俺もね、聖王とは会ったことがない。聖騎士のヴォルドの話を通してでしか予言の内容を知らない」


 聖王の予言。ヴォルドの伝言。魔族大陸でチラッとだけ聞いたな。


「モアとかいう奴か?」

「ッ……知ってるなら話が早いや」


 二年前は、神族復活で世界の破滅云々で世界の種族をまとめようとした。しかし、それは嘘で、本当は神族の力を利用して、人類以外の種族を滅ぼそうとした。だが、ついこの間出てきた話では、『モア』だかなんだかがこの世界を滅ぼすために現れて、なんかそれを防ぐために聖騎士たちはうんたらかんたらだ。

 

「正直、俺がヴォルドにスカウトされたり、マニーちゃんと出会った頃は、聖王の予言云々じゃなくて、商人としてのでかいことをできる喜びの方が強く、前世の記憶を取り戻してからは何もかもがパナイどうでも良くなって、聖王も聖騎士も予言も神族もどうでも良くなったよ」


 聖王の予言をどう思う? 正直、良く分からんが本音だ。

 だが、マッキーはいたって真面目だ。



「でもね、最近になってちょっと色々と考えるようになったんだ。神族。神族の遺産。兵器。カラクリモンスター。そして、三つの紋章眼を集める意味とかね」


「ほ~~~~~う」


「神族は昔、ある勢力と戦っていた。その時の神族の武器が、カラクリモンスターなど、今の世界からは比べ物にならないほど発達した高度な技術、いや、俺たち的に言うと、科学力とでも言うのかな? それはもう、何千年以上昔の話かもしれない。それこそ、魔族だとか亜人がどうとか、そういう問題すら超越するほどの昔」



 そういえば、ここに来る前に、『佐々木原のメッセージ』にもそんなことが書いてあった。

 そして、封印の祠に奴らの遺産を封じ込めた。『モアを止めろ』という願いとともに。



「神族と争っていたのは、当然、『モア』。なら、『モア』とは何者? 人の名前? 国の名前? 種族の名前? いや、そもそも、神族の兵器のほんの一部でしかないと思われるカラクリモンスターであれだけの力を持っている。なら、神族のそれ以上の兵器は? 逆に、そんな力と争っていた『モア』ってどんだけ? そうやって考えて、辿りついた真実や、『モア』という存在、そして真の敵は? そう考えると……」


「そう考えると?」



 そう考えるとどうなる? すると、マッキーは疲れたように溜息ついて、ヘラっと笑った。


「そう考えると、なんもか~~~んもう、パナイど~でも良くなった」

「はっ?」

「つまりさ、ま~、もう面倒でキリのないことに俺なんかが悩んでもあんま意味ないってことで、それならそれで、自分の撒いた種だけでも責任もって花咲かせよう。それが俺の答えだよ」


 そう来たか。ある意味、それはそれでこいつらしいと不意に思った。


「ふざけるな! お前は、それに聖騎士たちは何を隠している!」

「ウラちゃん、落ち着きなって、子供たちが驚いちゃうよ?」

「ッ、私には、お前たちのいう前世がどうとかいう話は分からない。未だに整理ができない。でも、それでも、聖騎士たちの問題が原因で私たちは二年もヴェルトと…………ッ!」


 ウラがテーブルを叩いて感情を顕にする。しかし、そんな叫びを、マニーは鼻で笑った。


「二年ぐらい? マニーがこの世の人にどれだけ忘れられてると思ってるの?」

「なにっ?」

「ようやく聖騎士の魔法が解けても、もうボルバルディエ王国のマニー姫を知ってる人は誰もいないんだよ? そもそも、ボルアルディエを滅ぼしたのは、ウラちゃんたちヴェスパーダ魔王国なんだからね♪」


 そういや、そうなんだよな。俺やキシンを世界が思い出したのに、マニーに関してはあまり誰も反応しない。

 それはもう既に故郷が滅んでいることも、やっぱ関係しているんだろうな。

 そしてそれは、マニーを更に救いのない非常な現実を突きつけていることになる。


「だからこそ、まあ、世界がどうとか云々は正直俺はもうどーでもいいのよ。そんなことより、ヤリ逃げなんかしないで、男としての責任ってやつを取ろうと思っただけさ。ヴェルトくんみたいにね」

「えへへへへ、責任だって~、ラブのせきにん~。でも、それでもいいよ~。マニーはそれでいいの。聞き分けいいマニーだからそれでいいよ」


 世界よりも、男としての責任か。


「責任だ~? らしくねえな、マッキー。責任なんて、一番テメエに似合わねえ言葉だぜ。テメエに取れんのか?」

「パナイ手厳しいね~。つか、君だって同じじゃね? 君だって責任取ることは色々と――――――」

 

 言葉だけなら格好良いが、それは…………



『あたりまえだし! あいつに責任取らせるに決まってるし! ヤリ逃げとか、チョーありえねーし!』



 っと、その時。何やら非常にタイムリーというか、シンクロしたかのような声が聞こえてきた。

 俺たちも思わず会話が止まって顔を上げた。

 するとそこには、つけっぱなしになっていた戦いの映像が未だ流されていて、そこにはある三人組がとある二人に戦いを挑んでいる光景がリアルタイムで映し出されていた。



『とーぜん、あいつとエッチしたのはマヂ、強くなるための手段つーのもあったけど、それはそれ! あたしの初めて奪ったんだから、ヴェルトには責任取らせるし!』


『責任はよく分からないが、私も赤ちゃん欲しい』


『よ~~~~~~し! よく言った! なら、テメェらは大事な母体だ。あのクソガキの娘をちゃんと生むまで、ぜってー死なせねえ!』



 おかしい。ティータイムなのに、紅茶を飲んでる気がしねえ。さっきから俺たちは何度も吹き出してばかりだ。

 えっ? ちょっと待って、あいつらなんつー会話してんの?

 つか、ここで事情知ってるのは、ウラとエルジェラだけ。

 ファルガとクレランは微妙な顔を浮かべ、ムサシは混乱中。

 そして、マッキーは聞き間違い? と耳をトントン叩くは、マニーはなんかニヤニヤしている。

 いや、まあ、無理もねえよ。いきなりそんな会話を戦闘中にしている、アルテア、ユズリハ、チーちゃんの異色三人組がおかしすぎるんだよ。


『随分と余裕だわね。疲弊したお前たち三人に何ができるだわね』

『はっ? うっせーし! もう、あのクレランつう姉ちゃんのおかげで、股の痛み治ったし! つーか、むしろお前自分の心配しろってーの! あたしとユズっちの竿姉妹コンビと未来の最強ベビーシッターのチーちゃんで、あんたマヂボコって、ママン取り返すから!』


 アルテアたちは、デイヂと洗脳ママンが相手か。つうか、あの三人組が手を組むとか、なんか色々な意味で特殊だ。


『歪んだ愛情だわね』


 そんな異色三人組を、デイヂは不愉快そうな言葉を発した。

 まあ、不愉快なのは納得するが、『歪んだ』? いや、真っ直ぐとは言い難い気もするが。


『自分の故郷を滅ぼしたバケモノを親と慕い、助けるために純潔を捨て、あろうことかあんな不誠実な男と生涯を共にしようなど、正気の沙汰ではない』

『うっせーし、つか、ヴェルトが不誠実なのはよく分かってるし! でも、仕方ねーじゃん、女房他に居るけどあたしの初めて奪ったんだし……子供だって、できっかもしれねーし……気分盛り上がって、避妊しなかったし……』


 そして、不誠実なのは否定しねーのかよ! いや、別に俺も自分のことを誠実と言う気はねーが。



『だいたいよー、あいつひでーんだよ! 普通さ、妻六人とかなったら、全員平等に愛するとか、そういうパターンじゃね? なのに、あいつとヤッたとき、あいつ明らかにエルッち贔屓してたし!』


『…………………いや、私はそこまで聞いていないだわね』


『ま~、正直な、フォルナッち、ウラウラ、アルーシャ、この三人はマヂ病的にヴェルト好きすぎてやべーけど、エルッちはマヂ理想な距離感なんだよね。ヴェルトには重すぎず、依存しすぎず、んで適度なラブラブ感? んで、奉仕精神も母性もあるし、コスモスッちっていう最終兵器があるし、何よりあの胸! マヂ反則だし! りそーのラブラブ夫婦じゃね?』



 何の怒りをあいつは発散してるんだ?


「あら、私がヴェルト様と理想の……ヴェルト様、聞いてくださいましたか? 私、ヴェルト様の奥様として評価されています。それがこれほど嬉しいとは………」

「おい、私は別に病的なわけじゃないぞ! というより、理想の夫婦といえば、今すぐ二人で飲食店経営夫婦できて、家事も子育ても出来る私のほうが理想だぞ!」


 だから、そこでエルジェラも嬉しそうに、ウラも張り合おうとするなよな。

 つか、お前らさっさと戦えよ。


『ふん、よほど最低と見えるだわね! 暗黒魔法・ダークサイレントワールド!』

『そーだよ、そんなラブラブ奥さんいるくせに、他の女とヤルとか、どんだけだし! 暗黒魔法・ダークナイト召喚ッ!』


 いや、戦ってるんだけど、戦いながら何を喋ってんだよ。

 しかも、普通に高度な魔法合戦繰り広げながらあいつらは……


『つーか、あいつ、前世で神乃好きだったくせにどーなんってんだよ! 神乃とか、ふつーにチビの幼児体型で、綾瀬とかとは比べもんにならねーほどフツーの顔だったんだぞ? だからさ、あいつは人を見かけじゃなくて、内面を好きになる奴じゃん? とかって、少しいいじゃんとか思ったけど、この世界では美人ばっかじゃんあいつの嫁! しかも、そんだけじゃねーんだぞ?』


 なんで、あいつら戦いながら、俺のことディスってるんだ? つか、デイヂとの戦いに、俺は関係ねーじゃん。


『ウンウンウンウン』


 んで、サラッと映し出されたアルーシャも、心の底から同意みたいに頷いてんじゃねえよ。お前も戦えよ。


『あいつ、エルっちに贔屓してるだけじゃねーし。普通にエルッちの巨乳ばっかに夢中だったし! フォルナっちが女豹ポーズで誘っても、ウラウラがM字開脚しても、アルーシャがキス攻めしても、ユズッちが甘え甘えモードになっても、あたしが恥を偲んでエルフの耳プレイ使っても、結局あいつはエルッちの胸にダイブしてんじゃん! 何が人の内面を好きになるだ! あいつ、ただのおっぱい星人だし! エロヴェルなんかじゃねえし! おっぱヴェルだし!』


 ………………これは、何の時間だ。


『………ぐすっ………』

『のわあああ、ユズッち、泣くなって!』

『私に胸ない……ないもん………』

『だからさ、今度マヂでヴェルトに言ってやろーって話だし!』


 アルテアの隣で半泣きしながらイジけているユズリハ。いや、そういう話じゃねえだろう。


『うるせえ、ブス共! あのクソガキの趣味なんかどーでもいいんだよ! テメエらは黙って野郎から力ずくで子種絞りとればいいんだよ!』


 そして、チーちゃんも、そういう問題でもないんじゃねえのか? つうか、それ、フォローか?


『……なんか、少し不憫になってきただわね。あの男と別れるという選択はないんだわね?』


 んで、デイヂもある意味では一番的確な指摘というかアドバイスを送ったりしてるし、なんなんだよ。

 だが、その問いかけに対して、ユズリハが唇噛み締めて一言。


『やだ! ……すきだもん』


 その一言に、アルテアも口元に笑みを浮かべた。



『まっ、そーいうことなんだよ。あんたの言うとおり、あたしらは結構変なんだよ。故郷を滅ぼした人を心から親として愛してるし、あんな女にだらしない、おっぱヴェルだけど………それでも、いーとこもあったりするわけ』


『アルテア姫……………』


『あたしの人生だ! 誰にも文句言わせないんで、そこんとこヨロッ!』



 というか、最後の一言だけ言えば、それまでの公開処刑言葉攻めは要らなかったのではないか? と思った俺は、気まずい雰囲気になり紅茶を飲もうとしたら、既に飲み干していたことに気づいた。なんか気まずくなると、飲み物を飲もうとするってのはこういうことなのか?


「うう~~、私だって、私だってそこまで小さくはないんだぞ、ヴェルト! 形だって綺麗な方だとは思うぞ!」

「あらあら、ヴェルト様ったら………でしたら、今度の閨では、是非存分に私の胸をご堪能下さい」


 なんか更にぶっこんできた、ウラとエルジェラの言葉を無視して、俺はティーポットに手を伸ばそうとする。

 すると、なにやら難しい顔をしたマッキーが呟いた。



「んで、マジで俺ら、何の会話してたっけ? 俺の記憶が正しければ、男の責任がどうとか君が言っていたような…………」


「俺たちは、混乱するこの戦争ばかりの世界で自分たちに何が出来てそれをどう実践していくのか平和への道をどうやって掴むかの話し合いをしていた」


「パナイね。つか、俺が裏切って君たちがここに辿り着くまでに何があったの? おっぱヴェル君」



 冷静になって俺も思った。俺はナニしてたんだ?


「とりあえず、紅茶のおかわりくれよ」

「おっぱヴェルくん?」

「……マッキー……責任を取ることは大事だと思う。俺もそう思う」

「だよね」

「つか、話を元に戻すぞ。…………紅茶飲んだあとに」


 戦ってないのに、なんか凹んだ。


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