第410話 カオスの時間⑦

「はは………」

「――――――――ッ?」



 その時、一瞬何者かの笑い声が聞こえた。

 まるで俺を、そして俺たちを嘲笑うかのような笑い。

 すると………



「シューティングスター」



 今度は流星じゃねえ。


「つおっ!」

「これはっ!」

「ほほうっ!」


 流星群だ! 空を埋め尽くす光の矢が、ドーム上に俺たちを覆い、一斉に降り注がれる。


「ちょっ、なんなんですかー!」

「あの矢、何で光ってんの? 魔力的なの?」

「ほほう、魔力で強化された矢を一斉射出か」


 この状況下、俺の思ったこと……ああ……めんどくせえ……それだけだ。

 魔力で矢を強化? だからどうした? ミサイルでもレーザー光線でもねえ、ちょっと威力のあるだけの矢を降らせるだけで、どうにかなると思ってんのか?


「ふわふわキャストオフ&世界ヴェルト


 なら、矢を纏っている魔力を無理やり引き剥がし、矢そのものを俺の魔力でコントロールしちまえばいいだけのこと。

 ほらな? 矢は俺たちに降り注ぐことなく、空中で停止した。


「お見事、お兄ちゃん」

「ぐわはははは、荒い性格のわりに、繊細な技術を持っておるな」

「ほほう。これが、ヴェルト・ジーハの能力かなのだ?」


 さあ、こっからどうするんだ? 

 だが、そう思った瞬間……


「ヴェルト様、危ないッ!」


 停止した弓矢と重なるように、第二の矢が既に放たれていた。

 停止した矢を死角として、俺を狙ってやがった。


「で? だから、無駄だって」


 まあ、そんなもの、この一帯の物体の配置や空気の流れ等を既に感知していた俺が気づかねえはずがねえ。

 威力を殺して素手キャッチ。


「わおっ、ヴェルト君、やりますね~!」

「あいつ、ほんと便利な魔法使えるのな」


 そして、アルーシャに教えてやる。


「くははは、なあ? アルーシャ。ドヤ顔ってのはこういう時にやるもんなんだよ」


 ちょっとからかうように言ってやった。

 だが………


「ん?」


 その時、俺は、そして俺たちはハッとした。

 冗談交じりで言った言葉だが、アルーシャは耳に入っていないのか、目を大きく見開いて、体を震わしている。

 いや、アルーシャだけじゃない。


「い……今の技……フォルナ?」

「ええ……派手な大量の矢を全て囮にして、本命の一矢で相手をしとめる戦法……」


 フォルナまで何かに驚いて体を震わせている。

 なんだ? 二人を除いて、俺たちは意味が分からず首を傾げていた。

 すると、その時だった。



「いや~、お見事お見事。やっぱ、ただの人気者ってだけじゃなさそうだ」



 来場客なんて誰一人いないこの地。居るとしたら、俺たちを除くと、後は決まっている。


「スノーホワイトと七匹の小人は、ミスしたようだが。まあ、相手がテメエらだと仕方が無いけどな」


 敵だ!


「けっ、来やがったな」

「みなさん、お気をつけて!」

「ふん、誰に言っているのだ?」

「ラブ・アンド・ピースの方ですね? コスモスを返してもらいます!」

「現れたな、ビチグソ共がッ!」


 建物の屋根の上から俺たちを見下ろすように現れた謎の人物。

 そして、案の定、着ぐるみを着ていた。


「おほ、こりゃ、随分可愛らしいキャラのご登場」


 そこに居たのは、狐の着ぐるみの上に、緑一色の服と帽子を被ったキャスト。

 勿論それが何のキャラクターなのかは、ほとんどのものには分からねえが、俺らには分かった。



「なあ、ヴェルト。あれさ、ろ、『ロービン・フード』じゃね?」



 ああ、だろうな。

 その傍らには巨大な黄金の弓矢を携ええている。

 弓矢を使い、全身緑色のキャラといえば、森の狩人として名を馳せたキャラだ。

 

「ぐわははははは、良い度胸じゃな。ブラックダックのように影でコソコソするより、好感持てるぞ? 何者か?」


 そう、イーサムの言うとおり、このメンツを相手に余裕の態度で登場する辺り、只者じゃない。

 もしくは、ただの相手の力が分からない、口先だけの馬鹿か。

 さあ、どっちだ?


「そう、俺はラブ・アンド・ピース最高幹部の一人。コードネームは、『ロービン・フード』。よろしくな」


 どうやら、前者のようだな。「よろしく」と言いながら放たれた雰囲気は只者じゃねえ。

 もっとも………



「十秒やる。コスモスのところへ案内してから半殺しにされるか、今この場でぶっ殺されるの、どっちがいい?」



 只者じゃない? そんな連中、腐るほど見てきたぜ! つうか、もう、そんなもんじゃ驚かねえよ! 俺が今、どんな連中を引き連れていると思ってんだよ。



「へっ、勇ましいじゃねえか。そういうところ、なんつうかブレねーな、リモコンのヴェルト」


「後五秒だ」



 いや、もう、五秒も待つ気はねえ。どうせ、案内する気はねーんなら、今すぐブチのめして………


「お待ちなさい、ヴェルト!」

「待って、ヴェルト君ッ!」


 と思った瞬間、血相を変えたフォルナとアルーシャが俺を止めた。


「何のつもりだ? 俺がこんなのに負けるとでも思ってんのか?」


 いや、どうやらそういうわけではなさそうだ。

 フォルナとアルーシャは、驚愕に満ちた表情で、屋根の上に居る『ロービン・フード』を凝視していた。

 どうした? 何かあったのか?


「おいおい、どうなってんだよ、ぶっ殺すんだろ?」

「綾瀬ちゃん?」


 周りの連中も、フォルナとアルーシャの行動には意味が分からず首を傾げる。

 だが、そんな周りの声も入らぬほど動揺している様子を見せる、フォルナとアルーシャは、震える唇で、ロービン・フードに尋ねた。


「その声……その弓……あなた、まさか……う、うそ……」

「……ッ、どういうことかしら? そんな着ぐるみ着て……私たちを誤魔化せると思っているのかしら?」


 えっ? 知り合いか? ちょっとこれには予想外だった俺たちも驚いた。

 すると、フォルナとアルーシャの言葉に、ロービン・フードは大げさに両手を広げて笑った。


「ふはははははははははは、いや~、さすがだぜ。やっぱ二人は誤魔化せねえか……なあ? じゃじゃ馬の嬢ちゃんたち……ま、『同じ十勇者』の戦友……そりゃそうか」


 十勇者……だと?

 その言葉は、二人の疑念を確信に変えるものだった。

 フォルナとアルーシャは動揺を抑えきれずに、ただただ叫んだ。

 だが、状況はそれだけにとどまらねえ。



「あらら、その程度の現実に揺らぐような信念で、時代の最先端に挑もうなど、愚か者のやることだと分からんのだわね?」



 人を見下したかのような強気な女の声がした。

 もう一人居るのか? そう思って振り返ったそこには、アヒルが居た。


「おっ!」

「ちょっ、こいつは!」

「……………………あっ…………」


 しかもただのアヒルじゃない。

 ピンク色のリボンを頭につけた、アヒルの着ぐるみを着た何者か。

 だが、着ぐるみの中身は知らないが、この着ぐるみのキャラクターだけは知っている。


「デイヂ・ピンクダック執行役員………」


 フィアリがそのキャラクターの名前に、わざわざ役職までつけて解説してくれた。


「裏切り者の末路………覚悟することだわね、トゥインクル・ベル」


 これまた、只者でない奴が現れたものだ。

 いや、だが正直な話、今の俺たちは、申し訳ないことに、現れたデイヂ・ピンクダックさんのことは、正直どうでも良かった。

 問題なのは、このデイジ・ピンクダックの傍らにもう一人居ること。


「ぐわはははははは……噂は本当じゃったか」

「……ふん……わらわたちと違い、おぬしはそうなっていたのだったのだ」


 少し、切なそうな表情で呟くのは、イーサム、そしてエロスヴィッチ。

 デイジ・ピンクダックの傍らに無言で立つもう一人の人物。

 それが、どれだけやばい人物かを俺たちはよく知っている。

 そして、その人物の姿を見て、あのシリアスブレイカーのアルテアが、初めてうろたえた。


「アルテア姫。この傀儡が、そこまでショックなんだわね?」


 アルテアを挑発するように告げるデイヂ・ピンクダック。


「ま……ママン……」


 その傍らには、無言で正気を失った、最狂の四獅天亜人が立っていた。





――あとがき――


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