第354話 組織の成り立ち


「もし、そのランドが想像通りの場所だったら、なんかコスモスが笑顔で遊んでそうな気がする……」


「えっ? どういうことですか、ヴェルト様! コスモスが遊んでいるなど……先程から私には何の話をされているのかサッパリです」


「ヴェルト……なあ、教えて欲しい……その、私がお前に許されないことをしたのは、分かっている……でも、それでも……」



 いや、別に仲間はずれにしているわけじゃねえけど、確かに、エルジェラやウラたちからすれば意味不明だと思っても仕方ねえ。

 つーか、名簿のくだりから、こいつらは本当に置いてきぼりで、何か俺たちだけ理解していることに、モヤモヤがある表情だ。

 だが、これは説明してどうにかなるもんでもねえがな。 


「まあ、後で教えてやるよ。それよりも、まずはこっちで話のケリを付けておきたい。ヴォルド……」

「何だ?」


 だから、とりあえずその話は後だ。今はまずこっちの話のケリをつける必要がある。



「別に礼を言う気はねえよ。俺もキシンもマニーも、聖王絡みで人生狂わされてるんだ。本当なら、そいつらまとめてぶん殴りたいまである。だが、その前に確認したい。テメエは聖騎士の一人なんだよな?」


「まあ……立場上はそうなるな」


「じゃあ、今のラブ・アンド・ピースやら、ラブ・アンド・マニーやらはマッキーとマニーでゴチャゴチャしちまってるが……テメエもマニーの口ぶりから、ラブ・アンド・ピースに深く関わってんのは間違いねえのか? タイラーが社外取締役とか何とかだったが……つか、お前らが作ったんだっけ?」


「いや……私も口出ししているが、今の組織を作ったのはラブとマニーの二人。我らは、組織を作る提案と出資をしただけだ」



 ん……なんか違うのか?


「どういうことだ? その組織は、マッキーを社長にして、お前らが作った組織なんじゃねえのか?」

「まあ、経緯は少々複雑だがな……」


 俺が確認しておきたいのは、これまで意味ありげにチョイチョイ口を出しては、俺たちの行動に関わろうとする、こいつのこと。

 正直、こいつはどうでもいいと言っちまえばそれまでだが、何だか放置してもムズムズしてくる。

 ツラも全身も隠して、イマイチこいつの考えも伝わってこねえ。

 だからこそ、確認できるもんは今のうちにしようと思った。

 すると………


「十一年ほど前か。私が奴と出会ったのは。当時、大陸に渡り急成長していた商人のラブに、私とタイラーとマニーが接触した。当時のやつは、今では考えられん程に爽やかで、そして誠実さがあった。少々発言が軽いところもあるが、それも相手との距離を近づけるための友好的な態度であった」


 今では考えられないほど? いや、恐らくそれこそが本当のあいつの姿だったのかも知れない。

 前世云々の苦しみのない、純粋なあいつの姿。



「我らが出資して、新たなる組織を設立運営することに奴は前向きであった。そして、何度となく話しているうちに、我らとともに居た、まだ幼いマニーが奴に惹かれた。マニーの人生を狂わせ、そして特別扱いする我らよりも、屈託なく笑うラブにマニーは心を奪われ懐いた」


「ほ~……そらまた、ガキの初恋ってなところか……」


「我々は都合がいいと思った。マニーの存在を記憶消去の魔法で消したはいいものの、我々の手元に常に置いておける訳もなく、何よりもマニーは私たちを拒絶するように嫌っていた。まあ、無理もないがな。だからこそ、我々の息のかかった組織で、更に信頼できる人物の手元にマニーを置き、なおかつマニーがその場所を居心地良く思っているのであれば、好都合だと思った。だからこそ、マニーをラブに預けたのだ」


「ん? 預けた? マッキーは買ったって言ってたぞ?」


「ああ、そういう形にしたのだ。養子という形にすると、身分を抹消したマニーでは後々問題になる。だから奴隷という形で売却し、ラブにそのオーナーとなってもらうことで合意してもらった。奴なら、所有者として責任もってマニーの面倒を見るであろうと………思っていた………」



 思っていた………か………そこから、マッキーは前世の記憶を取り戻し、そこからあらゆるものが狂い始めたんだろうな。



「ワシがマッキー君と再会したのは十年前。その頃、彼はすべてを思い出しておった。そして、そのあり方はこの世界への悪意に満ちていた」


「そうなのだろうな、バルナンド。実際に、初めて出会った時から間もなく、ラブは豹変したかのように人が変わった。流石に我々もどうにかしようとしたが、既にマニーの能力も開花し始めて、更に『マッキーフレンド』なる手強いメンバーが揃い始め、迂闊に手出しができなくなった。それを抜きにしても、ラブ・アンド・マニーの存在は、人類大陸でも重要な役割になったからな」



 ラブ・アンド・マニーの本来の目的は、資金集めのようなものだとタイラーが言っていた。

 だが、それをマッキーは記憶を取り戻し、この世界や転生に憎しみを持ち、荒み、悪意をばら蒔くようになった。


「そこで、ラブを解任したり組織を解散させない代わりに、それまで奴を信じて組織運営を自由にしていたラブを止めるため、我々も組織の運営に関われるようにした。タイラーを社外取締役とし、私も裏でサポートして、組織をコントロールしていた」


 ………………………コントロール?



「できてねーじゃねえかよ。あのバカがどんだけやりたい放題したと思ってやがる。大体、今の話の流れから、マニーが裏切るのだって最初から必然だったみてーじゃねえかよ」


「そうかもしれんな。正直、二年前に正式に帝国で逮捕されたときはホッとした。堂々とタイラーが社長代理として組織の運営を引き継ぐことができたからな。だが、マニーが裏切ることは予期出来たが、このタイミングで裏切ることは予想外だった。さらに言えば、奴がカラクリモンスターをコントロールし、地底族を秘密裏に見つけ出し、既に繋がっていたこともだ」


「つっても、ワープとか使えるような反則娘に、さらにマッキー慕ってる手強い最高幹部も揃ってるんなら、時間の問題だったろうが」


「いや。少なくとも、カラクリモンスターを兵器として使えることが無ければ、こんなことにはならなかった」



 まあ、確かに。地底族の連中が地上に襲撃しても、それだけだと世界同盟に勝てるかと言ったら微妙なところ。

 正直、あのカラクリモンスターさえいなければ、マニーたちがクーデター的なモノに成功したとは思えねえ。

 マニーに反逆する意志があっても、その力が無ければどうしようもなかった。



「問題は、マニーにカラクリモンスターを起動できると教えたものが居るということだ。正直、我々もアレが動くとは思っていなかった。聖王も『この時代の文明では無理だ』と仰っていた。更に我々もクロニアの作り出したドラの構造を調べたり、試しに魔力を注いだりしてみても動かなかった。しかし、あの時、マニーは言った。地底族いわく、からの『ばってりー』に『充電』が必要だったと」



 それの何がおかしいんだ? と思ったとき、アルーシャがハッとしたような顔をした。


「……ねえ、ウラ姫、エルジェラ皇女……『バッテリー』……もしくは、『電池』と聞いて、何を想像できる?」

「ん? 『ばってりー』?、『でんち』? なんだそれは」


 あっ、そうか…………


「そ、そうじゃな」

「あ、まぢ? そっか、今更だけど、この世界にそんな言葉ねーし」

「せやな。ケータイとか車みたいな、機械があるわけやないし」

「ワードは伝わるが、意味はアンダースタンドできない……そういうものなのだろうな」


 確かにそうだな。そもそも、この世界に生まれて一度も使ったことがねえし、むしろ懐かしいぐらいの言葉だ。

 機械なんて、ファンタジーな世界において最も程遠いもの。


「佐々木原さんのこともある………ひょっとしたら、かつてカラクリモンスターを制作した神族は、私たちのクラスメートかもしれないわね。もしくは、佐々木原さん本人か」


 いや、確かにそうなのかもしれないが、問題なのはそこじゃない。


「なあなあ、ちょい待ってよ。あたし思ったんだけどさ、その地底族のやつは、何で『バッテリー』って言葉知ってたん?」


 そう、アルテアの言うとおり、それだ。

 考えられるのは、この世界でもそういうものを本当に『バッテリー』と呼ぶからなのか。

 神族に関わるものに詳しかったのか。

 もしくは………



「居るのか? 地底族の中にも………俺たちと同じ境遇の奴が……」


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