第353話 向かうべき場所
懐かしい名前。「こんなやつ居たな」と思うのもあれば、「こんな奴いたっけ?」というのもある。
この未来へ向けたメッセージのようなものを残した、かつてのクラスメート。
『佐々木原』はどんな気持ちでこれを残したんだろうか。どんな事情だったんだろうか。
『モア』とは何だ? 思うことが色々ある。しかしその前に……
「誰が、ツンデレヤンキーだ!」
「恋の迷走女王って、失礼ね! 別に迷走なんかしていないわ!」
「ロックデナシ……ミーが……」
「ギャンブルデビルか……懐かしいで……」
「ワシ、草食剣士て……」
「あたしのピュアビッチってイミフじゃね?」
俺たち、こんな風に思われてたんか。何だか、凹む。
「なあ、ヴェルト。この紙に書いてあることは何なんだ?」
「ヴェルト様……」
ウラたちが少し寂しそうに俺の袖を引っ張るが、まあ、こいつらには確かに意味不明だよな。
「……そうか……異なる世界で生きてきた転生者か……あらゆる事態を想定していたが、これは予想外だったな。しかも、そんな転生者たちが、よりにもよって世界を左右させる存在として生まれているとはな。探せば意外と他にも出てくるかもしれんな」
「つうかさ、これマジで何なんだよ。確かにここに書いてある名前は俺たちと関係ある。でも、全然状況が把握できねえ。こいつは、何を思ってこんなメッセージを残した? つか、モアって何だ?」
ヴォルドは顎に手を置いて独り言をブツブツ呟いては、少し溜息ついていた。
まあ、何だかんだでこいつらの計画は全て俺たちの存在が起因してぶっ壊れたのだから無理もない。
転生者が世界を掻き乱すなど、予想も出来なかっただろうからな。
すると……
「モアは聖王の予言に登場する、この世を破滅へ導く者の名だ」
「マジメに聞いて損したぜ」
聖王と聞いて、一気に胡散臭くなった。
「ざけんなよ。俺たちも、タイラーたちも、世界中がそんな奴のために振り回されて、しかもこの状況になっても出てこねえ。挙句の果てに、モアだかモアイだか、またわけのわからんキャラまで登場させて、いい加減にしろってんだよ。予言? そんな言葉を使って、どんなシナリオを今度は考えてんだよ」
だって、神族の封印を解かせないとかいいながら、ちゃっかり裏では自分たちが神族の復活を企み、それを利用して世界の友好とかほざきながら、裏では人間以外の種族を滅ぼすことを考えてるような奴。
そいつの予言? ふざけんな。
すると……
「まあ、信じる信じないは好きにするがよい。それに、シナリオというものは否定できん。正確には……予言を回避するためのシナリオだがな」
「だから、そんな言葉遊びもどうでもいいんだよ。テメエはさっさと、マニーが次に行く場所を教えろ。このメッセージを残した佐々木原にどんな意図があるかなんて分からねえが、それが何であれ、コスモス以上に重たいものはねえ」
それは、俺だけじゃない。
「そうね、今の私は迷走なんてしないで、行動は全部一直線だからね」
「ミーはロックデナシ。バット、ミーのベストフレンドのファミリーを見捨てるほど、クズではない」
アルーシャやキシンたちも、佐々木原のメッセージを折りたたみ、頷いた。
やるべきことは、今何なのか、それは俺たちみんな同じである。何ともありがたいことだった。
「ふん。……まあ、いいだろう。まだ、時間はある。マニーを止めるのなら、今の人類大連合軍や天空族より、お前たちのほうが身軽で確率も高いだろう。ヴェルト・ジーハ……神族大陸を目指せ」
神族大陸?
「そこに、二年前よりラブ・アンド・ピースが買い取った土地がある。例えマニーが我らを裏切ろうとも、ラブ・アンド・ピースまで切り捨てることは無い」
「ラブ・アンド・ピース?」
「そうだ。そこにはとある建設中のものがある。元々、商売のために組織が建設を目指していたものだが、そこにはラブ・アンド・ピースの最高幹部たちも居る。手ごわいぞ?」
最高幹部? って、よくよく考えればよく聞く組織なのに、この組織に詳しくねえな、俺。
「なあ、今更なんだが、そもそもラブ・アンド・ピースそのものは、マッキーが社長だけど、お前らが作ったんじゃねえのかよ」
「ああ。もっとも、ここまで大きくしたのはラブとマニーの二人だがな」
「社員の奴らとは何人か会ったことがあるが、最高幹部とかピンとこねーんだよな。社長と副社長がアレだしな」
「最高幹部に関しては、ラブとマニーが独断で選んだ。ゆえに、組織の上層部はほとんど我らよりもラブやマニーに従う」
なるほどな。
「ちなみに、ウラ姫よ。そなたは、ラブ・アンド・ピースにおいて、人類と魔族の橋渡しをする大使として、重要幹部の一人ということになっているが、組織運営に携わる最高幹部のことは知らんだろう?」
「それは……そうだが……」
「お前たちも分かっている通り、ラブ・アンド・ピースが世界の種族の友好を目指す橋渡しとなるというのはあくまで表向きの目標。その裏では、組織の運営に携わり、それでいて世界にその名を広めていない大物たちが存在している。末端やウラ姫たちにも知られていない、最高幹部……それこそが、マニーの本当の仲間だ」
組織そのものはこいつらが作ったのかもしれねーが、そこから先はマッキーの手によって好きに染められたわけか。
なんとも迷惑極まりない。
「まあ、マニーどもに従って俺らの邪魔をするってなら、問答無用だ。全員ぶっ倒していいんだろ?」
「せやな、分かりやすくて、ええわ。ついでに、マッキーも泣かしてやらなアカンな」
「オフコースだ」
そう、例え相手が誰だろうと関係ねえ。
多少手ごわかろうと、魔王とか四獅天亜人とか、それを立て続けに見た俺らに恐れるものはねえ。
むしろ、洗脳されているママンたちの方が厄介だ。
「のう、ヴォルドとやら」
「ん? 何だ? シンセン組、バルナンド・ガッバーナよ」
その時、難しい顔をしたバルナンドが珍しく声を上げ、ヴォルドに訪ねた。
「その、ラブ・アンド・ピースの最高幹部とやらに……『黒きアヒル』と呼ばれた、『ブラックダック』……という者は居るか?」
ギャグなのか? 真剣な顔で何を聞くかと思えば…………
「ああ。居るな」
「「「居るのかよッ!」」」
思わずツッこんじまったけど、そんなフザけた名前の奴まで居るのかよ!
「本名は不明だ。また、マニーのように常に着ぐるみを着ているので正体も不明。だが、そんな名前の幹部は確かに居る。ラブ・アンド・ピースの最高幹部の、『マッキーフレンド』と呼ばれるメンバーの一員だ」
いかん、真面目にやらなきゃいけないのにギャグにしか聞こえねえ。
呆れたように思わず苦笑する俺たちの脳裏には、前世のテーマパークが浮かんでいた。
「……そうか……ふむ……復讐など、掲げる気はなかったのじゃが……これも運命じゃな、過去の決着を付けるための」
「……バルナンド?」
だが、そんな俺たちに比べて、バルナンドはやけに真剣な顔で…………
「ヴェルト君。今更じゃが、ワシもこの戦いを最後まで共にあることを誓おう。無論、コスモスちゃんの救出が第一優先じゃが、ワシにもこの世界でバルナンド・ガッバーナという人生を歩み、繋がり、育んできた以上、白黒つけねばならぬ相手が居るようじゃからな」
多分、詳しい事情を聞こうとすれば、バルナンドは辛いことを思い出しながらも教えてくれるんだろうな。
そして俺たちは、何となくだけど、分かっちまったかもしれねえ。
バルナンドが、何と決着を付けようとしているのか。
「ねえ、バルナンドくん。そういえば、あなたのご家族は――」
「そうか! ジジイを休ませてやれねえのは、ワリーが、スゲー助かる! ありがとよ、バルナンド!」
「ちょっ、ヴェルト君!」
俺は、アルーシャの言葉を遮った。そして、多分、アルーシャが言おうとしていたことが関連していることは間違いないだろう。
でも、それを知ったからって、何かが変わるわけじゃねえ。
「ああ、任せてもらおう。ワシも五百歳の人に比べれば、まだまだ現役じゃからな」
「くはははははは、そりゃそーだ!」
だから、これでいい。
こまけーことは、気にするなだ。
「つーわけだ、ヴォルド。こっちは何の迷いもねえ。どんなフザけたキャラが居ようと、それで世界中からクレームが来ようとも、どんな夢の国でもぶち壊す」
「そうか……ならば、行くが良い」
ヴォルドは少し呆れたようにため息吐きながらも、さっきの空間能力で今度は丸い筒を取り出し、それを俺たちの前に広げた。
それは、大雑把に書かれているが、この世界全体を表した地図。
「今、我々はこの魔族大陸のヤーミ魔王国に居るわけだが。マニーたちはこちらの神族大陸を東へと向かい、海に面した位置にある、この場所。神族大陸『マウハマー』と呼ばれている地区。元々は亜人たちが占領していた土地だ。そこに、一国の王都クラスの範囲の土地を購入し、開拓し、奴らは『ランド』と呼ばれるものを作ろうと…………」
「「「「ランド……ねぇ~」」」」
「そうだ。ラブから聞いたか? 奴が逮捕される前から計画していたものを」
いや、聞いちゃいねーけど……俺たちは全員苦笑していた。
マッキーの野郎、自分が監獄に居る間にも、部下たちにそんなもんを作らせてたのかよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます