衛所

マクスベル派

ピアーズ派

ディミトリ派



私がオリビアに聞いたところによると、貿易の街『グーデン』の衛所は、この3つの派閥にわかれている。



マクスベル派

衛兵長オリビア=マクスベルを筆頭にした派閥で、貴族出身者が主に占める。現在はほぼ私の派閥と言っていい。


ピアーズ派

副衛兵長ピアーズを筆頭にした派閥で、平民の労働者階級の家の者が主に占める。


ディミトリ派

戦術顧問兼指導教官を務めるダグラス=ディミトリを筆頭にした派閥で、街に多額の融資を行っている裕福な商人が後ろ盾として付いている。




「さてさて、どこから掌握していこうかな」


オリビアから説明を受けた後、私は執務室で作戦を考えていた。



あれから超スキル〈洗脳〉について調べてみた。


使い方は前のスキルと変わらない。ただ洗脳したい相手と目を合わせるだけ。数秒間見つめあわなければならないが、一度完全にかかってしまうと、まず解けない。オリビアを観察してみても、私から洗脳を解除しない限り解ける様子はなかった。


洗脳をする際に消費する魔力量も少なく、一度洗脳してしまえば魔力を消費することもない。継続して魔力を消費しないのは正直助かった。私の魔力総量はあまり多くない。


超スキルとされる訳のわかる機能性だ。



ここまでだと最強なのだが、このスキルは決して万能ではない。


このスキルの一番の短所は、洗脳する際に必ず目を合わせなければならない点だ。オリビアの時のように、相手が油断してくれた場合は楽勝だが。意図して私と目を合わせないように立ち回られると非常に厄介だ。


例えば遠距離からの不意打ちで、目をピンポイントで攻撃されれば、私は最大の武器である〈洗脳〉を使えなくなってしまう。


あくまで私自身の戦闘能力は一般人並なのだ。いつでもどこでも護衛がいるわけではない。


その他にもいろいろと短所はあるのだが、今はここでとめておこう。




「オリビアはどう思う」


「ディミトリ派からではどうでしょうか。ピアーズは現在任務で、衛所に帰るのは数日後です。対してディミトリは、新人研修期間のため自身の屋敷ではなく衛所に来ています。今がチャンスかと」


オリビアは優秀だ。その若さで国の経済の要である街の衛士長を務めているだけあり、頼んだことには私の予想をはるかに超える成果を出してくれる。


まあ、優秀で完璧主義であるがゆえに、日々のストレスは相当なものがあるようだが。私への仕打ちは、仕事の鬱憤をはらすためでもあったようだ。


しかし、最近のオリビアはとても楽しそうに輝いて見えた。なぜなら、仕事が終わればご褒美があるから。




部屋の扉をノックする音。オリビアの入室許可を求める声が聞こえた。オリビアを中に入れると、もじもじとしながら彼女が言った。


「……ご主人様ぁ♡ 今日もアレをしていただけますかぁ」


オリビアの可愛らしい猫撫で声。恥ずかしそうに顔を赤らめ、目には隠し切れない欲をたたえている。


「いいよ。おいで」


オリビアがソファーに座っている私の隣に移る。こちらを向いた彼女の唇をふさぐ。


「…………チュ…………ンッ……チュ…………ンハァ……………チュ……」



自分の魔力を相手に流し込む方法はいくつかある。そのなかで一番簡単で効率の良い方法は、自分の体液を相手に飲ませることだ。


私は既にオリビアの人格を掌握している。だが私とオリビアの間にある繫がりは薄い。オリビアと私が唾液を交換することで、相手の魔力を自身の体に馴染ませることができる。そうすることで、私の魔力をオリビアの身体に満たし、完全に私のモノにすることができる。


これを完成できれば、洗脳がとけることは不可能だ。どんな方法を使っても、オリビアが私のモノでなくなることはない。


口角が上がる。



徐々に私たちの吐息は浅くなってくる。息を吸うために離れ、もう一度自身のそれをオリビアのものに押し当てる。


唇を舐める。オリビアが口を薄く開いた。すかさず舌を差し込み、オリビアの口内を舐めまわす。私のとオリビアのとが絡み合い、お互いの唇を夢中になり貪る。私が唾液をオリビアに流し込めば、オリビアは嬉しそうに喉を鳴らしそれを飲む。


「…………ブチュ……チュバッ……………チュッ……アッ…………」


口を吸うと、オリビアが甘い声を上げた。熱い舌先が絡み合い、唾液の混じり合う音が、部屋に満ちていた。


(あと、もう少し…)




   ◇◇◇




乱れた服をなおし、最後に髪を整える。



私の前には、蕩けそうな表情を浮かべるオリビアがいる。


彼女の身体には、順調に私の魔力が溜まってきている。最初は私との口付けを嫌がる可能性も考えていたが、それは杞憂に終わった。むしろ、彼女の方から私に求めてくるくらいだ。


彼女の話によると、私とのキスは芯から体が温かくなり、今まで感じたことのない溶けてしまいそうなほどの快感をもたらすのだそうだ。


私の口付けによって乱れる彼女を見るのは悪くない。




さてさて、オリビアの次は、ダグラス=ディミトリだ。オリビアに負けず劣らずのクソ貴族らしい。練習台ぐらいにはなってくれるだろうか。

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