(閑話)剣士エレン

私には可愛い仲間がいる。その子の名前は、メイ。


数年前、とあるスラム街で拾った子で、私をとても慕ってくれている。

最初は私を警戒して必要以上に近寄ってくれなかったが、今では私を信頼してくれて、時には甘えてくれる。


とても可愛くて、愛らしい妹みたいな存在だった。そう過去形なのである。


いつからだろう。彼女にこんな気持ちを抱いてしまうようになったのは。

彼女が泣きながら今までの罪を告白し、私が彼女を守ると決めた日だろうか。彼女が体調を壊して、いつもは見せてくれない弱った姿で、私に甘えてきてくれた時だろうか。彼女が魔物に襲われそうになり、慌てて彼女を庇った時だろうか。


いつしか私はメイに、恋愛感情を抱くようになったのだ。


でも、私はこの恋心を成就させる気はない。

理由はいくつかある。同性であることや、彼女の私への態度があくまで大切な恩人というカテゴリであること、など。私が告白もできないヘタレだからじゃないぞ。


以上のことで、私の彼女への態度は終始大切な仲間だったと思う。



  ◇◇◇



「ごめんね、メイ」


私のせいで、メイまで殺されそうになっている。

仲間だと、友人だと、思ってきた彼らに殺されそうになるのは凄く哀しいし怒りを感じる。


でも、それ以上にメイが死ぬのが、嫌なのだ。


(立て、立つのよ、私。メイを守るって誓ったじゃない)


メイが何か私に呼びかけているのを、意識の外で感じる。きっと私に逃げろだとか、言っているのだろう。あの子は、そういう子だ。


「メイは私が守る」


これは自分への誓いの再確認。そして、改めて強く誓うための儀式だ。


草むらから、早速一匹の魔物が踊り出る。それを一太刀で斬り捨てると、違う茂みからさらに魔物が飛び出してくる。私は無我夢中で剣を振った。


振り続けると、魔物の包囲網に隙間があることに気づいた。メイは自力で動けない。剣を片手で持ち、片手でメイを抱える。


メイは同じ女性とは思えないほど、軽かった。こんな状況でなかったら、歓喜したことなのに。


メイを抱えながら走ると、遠くに岩穴が見えた。それを目指して疾走する。


絶対に私の腕の中にいる人を死なせない。



  ◇◇◇



「じゃあね、メイ」


泣きそうだ。これでもう、私はメイと再び会うことはないだろう。


結局最期まで、私は自分の想いを告白することができなかった。最期なのに、一番に後悔するのがそのことだなんて。自分はどれだけ彼女のことが好きなのだろう。



わざと大きな音を立てながら走る私を、大量の魔物が追ってくる。


集中しなければと思うのに、頭に浮かぶのは去り際のメイの悲痛な表情だった。彼女の叫び声も、頭から離れない。


幸せにしたかった。初めて会った時の、この世の全てに絶望した顔を変えたくて、その顔を心からの幸せに染めたかった。



猛烈な吐き気が起きて、血の塊を吐き出す。体は限界に近い。魔物もすぐそこまで近づいていた。


しかし、私の顔には笑みがあった。私が魔物を引き付けている間は、メイは無事だ。

なら私は、絶対に倒れるわけにはいかない。



剣を十分に振れるくらい広い場所に着くと、立ち止まり剣を構える。


「惚れた人を守れなくて、何が剣士だ! お前たちの相手は私、剣士エレンである!!」


私は剣を振り上げた。

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