第8話  先生、やめて!

 正月明け、秀人は、すぐにカイジに連絡し、部屋におしかけた。

 今日も、カイジの腕の中にいる。

 たくましく盛り上がった肩。

 指でふれるだけで、全身が痺れていきそう。

 細身で童顔の秀人を、カイジは気に入っている。

「高校生とやってるみたいで、興奮する」

 若い子が、好きらしいのだ。

「ダメですよ、そんなの」

 カイジさんは、僕たけのものだ。

 他の誰とも、やってほしくない。高校生なんかに、とられたくない。


 次にカイジの部屋に行ったとき。秀人は、あっけにとられた。

 ジャージにトレパン姿のカイジ。竹刀を手にしている。

「どうしたんですか」

「はい、これ着て」

 手渡されたのは、どこで調達したのか、グレイのブレザーにズボン、ワイシャツにレンガ色のネクタイ。高校生の制服、一式だ。

 言われるままに身に着けると、カイジは満足そうに、

「いいねえ。ちゃんと高校生に見えるよ」

「はい?」

「おっさんくさい高校生も多いけど、シュウは現役で通るよ。ほら、上のボタン外して。ネクタイも、ゆるめて」

 素行の悪そうな高校生が、できあがった。


「シュウは、体育の授業をさぼった生徒だ。じゃ、始めるぞ」

 カイジは、いきなり怖い顔になり、

「おい、牧野。おまえ、またさぼったな。今日という今日は、許さん」

「うっせーな。剣道もサッカーも、嫌いなんだよ」

 ポケットに手を突っ込み、反抗的に答えると、

「なんだ、その態度は。そこへ正座しろ」

 フローリングの上に正座させられる秀人。

 股間を、カイジが竹刀の先端で、でぐりぐりやる。


「さぼって、何やってたんだ。女子とやりまくったか」

「そんなんじゃ、ねーよ」

 カイジは、にやりと笑い、

「それじゃ、男子とやってたか」

「なに言ってんだよ」

「ぐりぐりやられて、硬くなってるじゃないか。男の方が好きなんだな、おまえ」


 カイジは、秀人に近づき、ベッドの上に、引きすりあげた。

「何すんだよ!」

「おまえの好きなものを,たっぷりご馳走してやる」

 ベルトを外され、下着ごとズボンを引き下げるカイジ。

 上着は脱がされたが、シャツはそのままだ。

「やだ」

 抵抗するふりをすると、と強くシャツを引っ張られ、ボタンがひとつ飛んだ。

 だんだん、体育教師に迫られている気になり、ぞくぞくしてくる。


 いきなり、カイジが肉棒を突っ込んできた。

「痛い!」

 確かに痛いが、それ以上に、快感なのだ。

 もっと奥まで、と焦れるが、カイジは動きを止めたまま、

「なに腰振ってんだ。ガキのくせにやりまくってんだな。普通は、痛くて、先っぽも入らないんだぞ。今までに何本、入れさせたんだ、えっ」

「あ、せ、先生だけです」

「嘘つけ」

「本当です、あっ、あっ」

 アホらしいけど、刺激的で楽しく、何より気持ちいい。

 しばらくの間、先生と生徒ごっこは、二人のお気に入りになった。



 一月中旬、後期試験。二月上旬からは入試期間で、もう講義はない。秀人は、カイジの部屋で、やりまくった。

 佐喜のことは、ほとんど忘れかけていた。

 会いたいと言われ、三度に一度くらいは、会いに行ったが、心は冷え切っている。


「あのさ。しばらく、忙しくなるから」

 会うのも面倒くさくなり、京都行まで、会えないと伝えた。

「三月の二十日過ぎなら、いつでもオッケーだから。日程、決めといて」

 佐喜に丸投げ。自分でもひどい、と思ったが、カイジと過ごすこと、正確には、カイジとやることだけしか考えられない。

 バイトで忙しい、なんて見え透いた嘘をついて、秀人は、佐喜を避け続けた。


 ある晩、カイジの部屋から戻ると、部屋の前に、佐喜がいた。泣きそうな顔をしている。

 連絡、こっちからするって言ってんのに、と、秀人は、露骨にいやそうな顔をした。

 ストーカーみたいなことすんなよ、待ち伏せなんて。

 が、もちろん、そう口にする勇気はない。

「入れよ」

 ドアが閉まると、すぐ、佐喜は秀人に抱き着いてきた。


「会いたかった」

 どれほど待っていたのだろう。佐喜の体は冷え切っていた。

 けなげで、一途な恋人。が、もう秀人には、うっとうしいだけ。

 コートを脱ぎ、マフラーを外す。

 無言で、佐喜と向き合う。

「これ、京都のパンフレット。二十二日からで、いいんだよね」

 日程は、佐喜から連絡があったのに、ろくに目を通していなかった。


 不機嫌そうな顔を佐喜に向けると、

「誰か、いるんだね」

 思いがけない言葉。

「な、なに」

 カイジのことが、ばれた?

 慌てふためく秀人に、

「やっぱりね」

 佐喜は、悲しそうに言った。


「その、首のあざ。キスマークだよね」

「え、え?」

 自分では、全くわからない。カイジがつけたのか、どうかも。佐喜から首筋にキス、は、たぶん、されたと思うが、あざがつくほどだったのか。

「シュウに、僕の印をつけたくて。しつこく首にキスした。そんなふうに、あざがついたよ」

 それも、秀人の記憶にはない。


「いつから、なの」

 問い詰められ、秀人は、観念した。

「十一月、かな」

 渋谷で佐喜と待ち合わせた日から、とは言えなかttが。

「三か月。もっとかな」

 吐息まじりに、佐喜が言う。

「ごめん」

「クリスマスの、前から」

 泣きそうな声だ。

「ほんとに、ごめん」

 秀人は顔を上げられなかった。


 佐喜の頬を、涙が伝う。

「寂しかった。なに言っても、シュウは上の空で。一人でいるより、二人でいる方が、ずっとずっと寂しかったよ」

 こんなふうに責められるのは、耐えられない。

「ちゃんと言えなくて、ごめん。今は、あの人のことしか、考えられない」

 言ってしまった。

「もっと早く、言えばよかったんだけど。佐喜が、幸せそうだから、言えなくて」


 秀人は、佐喜の顔を見ないで、言った。

「終わりに、しよう」

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