第6話 流されて
佐喜からは、すぐに、
だいじょうぶ? 気を付けてね
気遣う言葉が届いたが、うしろめたくて秀人は、スマホをオフにした。
不調なんかじゃない。
罪悪感で、どうにかなりそう。
気になるマッチョと、偶然、再会して。
佐喜との約束があるのに、カフェについてきて。
でも、このチャンスを逃したら、もう二度と。そう思ったら、大した用じゃない、と佐喜を切り捨てていた。
十二月はじめのカフェは、暑すぎるくらいに暖房が効いていた。
カイジはダウンを脱いだ、下は白の半そでTシャツ。筋肉に沿って、ぴっちり肌にはりついている。
「寒く、ないんですか」
秀人が聞くと、カイジはにっこりして、
「室内なら、これで十分。筋肉のおかげかな」
胸がキュンキュンする。
秀人の熱い視線を、カイジは楽しんでいる。
「君は、シュウくん、だったっけ」
「はい」
「学生だよね」
「はい」
カイジは二十九歳。ジムのインストラクターと聞いて、腑に落ちた。
「この間は、君と話したかったのにな」
ナオがカイジにべたべたするのを見て、いたたまれなくなった。
「あいつら、ヤリモクだよ」
吐き捨てるように、カイジが言う。
やるのが目的で、ゲイアプリを利用した、と。
「シンとは、友達募集で、知り合ったんですけど」
カイジは、にやっと笑って、
「それがテなんだよ。シュウくんは、ヤリモクに登録したりしないだろ」
「しませんよ」
そんな恐ろしい事、と続けると、
「だからさ。初心者を狙うなら、友たち募集が効率的なんだよ」
ヤリモクに登録しても、擦れた奴しかひっかからない、とカイジは言うのだ。
「まいったよ、あいつら、しつこくてさあ」
あの後、三人でホテルに行った、と聞いて、秀人は仰天した。やっぱり、逃げて正解だった。
「時間、あるんだよね」
カイジが、秀人をじっと見つめる。蛇ににらまれたカエル、とはこのことか。
「はい」
ちょっとつきあって、と言われ、カフェを出た。
カイジは裏道に向かう。そこがどういう場所か、知識だけはある。ホテル街だった。
カイジの肉厚の、大きな手が、秀人の手を握る。
手を引かれるままについていき、気づいたらホテルの部屋にいた。
真ん中に、どーんと置かれたダブルベッド。義兄との一夜を思い出し、胸が高鳴る。
後ろから抱きしめられ、首筋に熱い唇を押し付けられた。それだけで、崩れ落ちてしまいそう。
改めて、正面を向かされてのキス。すぐに舌を差し入れられ、秀人は、我を忘れた。
「何人、やらせたの」
あけすけに問われ、秀人は、首をかしげた。
「ふ、ふたり、かな」
義兄と佐喜の顔が、ちらっと脳裏に浮かぶ。
「ここは?」
お尻を、ぎゅっと掴まれた。
小さく、横に首を振る。
「そう。はじめてなんだね」
カイジは、にやっとした。
「俺に、くれるよね」
耳もとで、ささやかれて、秀人は、うなづいた。そうするしか、なかった。
「シャワー浴びよう」
バスルームに連れていかれる。
服を脱ぐと、圧倒的な肉体が現れた。下半身は、怖くて見ることができない。体に押し付けられて、硬くなっていると知れた。もちろん、秀人自身も。
ざっと汗を洗い流した後、カイジは、ボディソープのボトルを手にした。
たっぷりソープをつけた太い指が、秀人のそこに入ってくる。異様な感覚に、秀人はふるえた。
「い、いや」
腰をよじって逃れようとするのを、がっちり押さえつけられる。
バスタブを跨がされ、淵に手をつかされた。
「痛いの、いやだろ。ほぐしておくんだよ」
カイジの指は、奥まで挿入され、中で、くいっと曲げられ、秀人は、ひっと悲鳴をあげた。
奇妙な感覚。嫌ではない。でも、このまま続けられたらヘンになっちゃう。
「も、もうやめて」
思わず懇願する。
「いいの? 出そうなのに」
カイジが、からかう。
指一本でイクなんて、恥ずかしすぎる。だが、
「いきなり入れたら死ぬほど痛いんだ。聞いたこと、あるだろ」
そうだ。あそこに、挿入する。不自然な使い方をするのだから、痛みの代償は、相当なものだと聞いている。
でも、指だけで、こんな。
カイジの、空いている手が、秀人の中心を翻弄し、ついに、バスルームで欲望の証を放ってしまった。
部屋に戻った時、もう秀人は、ふらふらだった。これからが本番なのに。受け入れたのは、また指だけ。
怖い。でも、知りたい。
本当は、義兄と、そうなりたかった。
この人となら、何をしたっていいんだ。
佐喜のことは、頭から吹っ飛んでいた。
ジェルを十二分に塗りたくって、カイジが侵入を試みる。
入り口に押し付けられた先端の熱く、硬く、大きいことに、秀人は、たじろぐ。
こんなものが、本当に入るんだろうか。
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