第12話 ダンジョン進撃
10 ダンジョン進撃
そんな具合に迷宮を進み、階段をあがってダンジョンを進んでいく。
20階あたりからだろうか。迷宮の雰囲気がガラリとかわった。フラッシュの魔法を使わなければならないほど暗く、瓦礫などが道に積もっていて廃墟のようになっていた。
ヨッゾとフォッシャの様子がなんだか気になる。戦闘と探索で疲れ始めているのか、口数が少なくなっている。俺とサナは相変わらずだった。
進んでいくと通りに光が見えた。ちかづくと、あのなんとかいう救助隊の3人がグッタリとして倒れていた。奥からは様々な凶器を手に持った見るからに危険な機械人形がこちらに歩を進めてきている。
「手ごわそうなのがいるな……。フォッシャ、気を抜くなよ。……フォッシャ?」
返答がないので振り返ってみると、しなびた野菜のような落ち込んだ表情で、フォッシャは地面を見つめていた。
「……無理だよ」と彼女はとつぜんボヤく。
「は!?」
「みんなここで終わりなんだよ……あんな強そうなのに勝てっこないよ」
「な、なに言ってんだ!? ってか誰だおまえ!?」
場にそぐわない意味不明でネガティブな発言に俺はとまどう。フォッシャはその明るさが取り柄のはずだが、いきなりおかしくなっている。
「最初から無理だったんだよ……わたしなんかには大いなる遺産なんて無謀だったんだよ……もうおしまいだよ、ごめんねエイト、こんな弱気な相棒で……」
「なんなんだよ、どうしちまったんだ。なんかしぼんでるぞ!? ヨッゾ、ちょっとフォッシャを見てやってくれないか!? なんか様子が――」
「ああ?」
ヨッゾはのっそと顔をちかづけてくる。というか、ガンをつけてくる。さっきまでの彼とはうってかわって、ものすごい眼差しで威圧している。
「気安く話しかけんじゃねえよ」
突然グレたヨッゾは、見せるように床に唾棄する。
これはあきらかにおかしい。なにかが変だ。
「なんなんだふたりとも……知らん間にカードを使われたか」
「エイト! あぶない!」
サナの声で我に返り、ウォーマシンの攻撃に気がついた。振り下ろされたナタを寸でのところでかわす。
すぐに二撃目がきたがサナがなにか魔法をつかったらしく、緑色の光にとらわれた機械は一瞬動きを止めた。
いつのまにかずいぶん近寄られていたらしい。フォッシャとヨッゾがあてにできない今、俺が前線を張って敵の注意をひきつけなくてはならない。
「サナ、貸してくれたカードが役に立ちそうだ。……『海原(うなばら)の守護チェスタギア』」
1枚のウォリアーを召喚する。あらわれたのは、鳥とイルカとサメをミックスしたような翼のある精霊だ。敵のウォーマシンは知らないカードだが、このダンジョンは階をのぼるごとに敵が強くなっているような感じがした。ここは出し惜しみはしない。さらにもう2枚を切る。
出したのは植物の精霊テネレモと、タコに似た獣オクトロだ。
「テネレモ、頼む」動きはおそいが防御系の魔法がつかえるテネレモをサナのほうに向かわせる。
が、サナは下がるどころか俺の背中に手をあてて「私も手伝うよ」とはっきりそう言った。
無理はしてほしくないが、そうは言っていられない。俺以外が魔法かなにかでおかしくなっている今サナの手も借りたい。
「……俺とチェスタギアでひきつける。サナはみんなを守りつつ、隙があったら援護してほしい」
「わかった」
「オクトロ! 一気に決めるぞ!」
基本的にカードゲームは先行が有利だ。このヴァーサスとかいう魔法のカードの戦闘でもそれは同じ。敵がなにかしてくる前にスキルをフル活用する。
オクトロはタコツボ以外の攻撃手段には乏しいが、遠隔触手というわざで敵の攻撃力をそぎ落とすことができる。オクトロが手足をにぎれば、ウォーマシンの手足も縛られたように動きが鈍くなる。
チェスタギアが水をまとってウォーマシンの周囲を飛び回り、水の魔法が渦潮のようになり敵を締め上げて撃破した。
「すごいよ!」
うしろからサナが抱きついてくる。自分でもすこし驚くほどに事がうまくいった。
「信じられないくらい、頭が冴えてる。体も軽い。もしかして俺が今平気なのも、精霊の祝福のおかげなのか」
「そうだね。でもなかなか見所があるよ、エイトくん」
どうだろうな。サナが助けてくれてなかったらもろに不意打ちをくらって頭がふたつに割れてたかもしれん。
「さっきは助けてくれてありがとう、サナ」
「どうってことないって」
「とはいえ、このままじゃ最上階までたどりつけないぞ。……フォッシャとヨッゾはどうなっちゃってるんだ」
「このダンジョンにはある種のクリスタルを守る魔法がかけられていて、性格が本来のものとはかけ離れてしまう」とサナはつぶやくように言う。
「かけ離れる?」
「つまり、真逆の性格になるの。食べるのが大好きなフォッシャちゃんはなにも食べたくなくなってしまうし、友だちを笑わせるのが大好きなヨッゾは、その反対になる」
それでグレたヨッゾとネガティブなフォッシャがここにいるわけか。
よくみるとあの救助隊3匹組も、けだるそうに昼寝しているだけだった。
「なにやってんだよ、あんたら。冒険士を助けにきたんじゃないのかよ」と俺が言うと、
「だりーっすもんこの仕事」
たしかマタカラだったか、あくびをしていかにもという感じで言う。これもダンジョンの魔法で性格がおかしくなってるのか。
「あんなにはりきってたのに」と俺が言うと、
「過去とはすぎさるものなのさぁ」などと返ってきた。
「ねみー。もう帰って寝たい」その隣にいるやつもボヤく。
フォッシャはあいかわらず落ち込んでいて、ヨッゾも機嫌が悪そうに舌打ちをする。
「そうワヌね、もうあきらめて帰ったほうがいいかもしれない。どうせ最上階にいけっこないし。フォッシャたちに冒険士なんて無理だったんだよ。しずかなところで土と自然に囲まれて暮らすのがいいのかもしれない。いや、それすらも向いてないかも……というかエイトはきっとついてきてくれないよね。だってフォッシャとなんていたくないよね……」
「ああ? なに見てんだゴラ。やんのかああん!? しばき倒すぞこのクソガキが!」
もうこの二人はダメそうだ。このままで先に進むのはむずかしいだろうな。
「俺は精霊の祝福があるから平気なんだよな。こいつらに分けることってできないかな」
「そのカードの効果はひとりにしかつかえないみたいだよ」
「どうするか……」
ダメになってるこのなかのひとりに使ったところで、あまり意味がないよな。
と、そこで名案が浮かぶ。
「そうか。ヨッゾのスキルだ。たしか三等分に分配できるって言ってた」
「ああ、それなら……!」
ヨッゾの魔法で祝福の効果を3人にわければいい。いくらかマシにはなるはずだ。
ヨッゾ、フォッシャ、それと救助隊の隊長に使おう。そう思いヨッゾに近づいたのだが、
「んなダルいことなんでしなくちゃなんねんだよ」とイキってる中坊みたいなことを言い始めた。
「おねがい、ヨッゾ」とサナが手を合わせて頼むと、あっさりヨッゾは協力してくれた。
フォッシャは「なんか気分がよくなってきたワヌ」と言い、現に顔色も回復をみせた。ヨッゾもだんだんと眉間のしわが取れていき、救助隊の隊長も正気を取り戻す。
「すごいな。オドスキル……ってそもそもなんだったっけ」
「生物にそれぞれある特殊な能力のことワヌ」
「サナはどうして平気なんだ」
「私にもスキルがあるから。そういうの、ぜんぜんへっちゃらだよ」
なるほど。祝福ナシでもサナがまともでいてくれるのは今はありがたい。
「いったいわては何を……!?」
取り乱すヨッゾ。その横で隊長も救助隊のメンツをしかりとばして、どうにかほかの二人も無理やりついてこさせることができそうだった。
「助けていただき感謝します。途中から自分が自分じゃないみたいになってしまって……もう大丈夫です。先に進みましょう」
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