第6話 精霊の祝福


4 精霊の祝福



 武具屋のとなりで、サナは俺たちを待っていた。彼女と合流を果たす。俺たちがくると思っていた、といわんばかりに彼女は微笑を浮かべた。


「テストに受かるにはどうしたらいい?」


「自然にいつもどおりなさってください。それで向いていると判断すれば島に案内したいと思います。テストも依頼の一部なので、報酬をさきに渡しておきます」


 1枚のカードを差し出される。魔法系のカードだ。


「【精霊の祝福】……」


「レアカードですよ」


 それから俺たちは森林地帯へとでかけた。その日受け持った依頼はオドの質量調査だった。


「オドの質量?」


 サナは冒険士の仕事について興味があるようで、いろいろと聞いてきた。ほかにラジトバウムのことや俺たちのことも。話してみると、彼女は意外とおしゃべり好きで好奇心旺盛な人だった。


「結晶はいろんなところにできるだろ。いまだにその法則性はわかってないみたいだけど……そういうのを研究してる人たちがいる。どこにできやすいか、パターンはあるのかとか。この装置であたりのオドを計測できるんだとさ」


「ふーん」


 そんなこんなでジャングルをうろついた。

 サナがいること以外はいつも通りだった。仕事をして、カードショップにいってギャル店員さんと話したりカードを眺めたりして、飯を食って寝る。


 次の日また森林地帯にでかけていると、ばったり知り合いの冒険士と出くわした。

 ジャン・ボルテンスとゴロクだ。俺とフォッシャはあまり交友が広いわけじゃないが、このふたりとは面識がある。友人、とまではいかないが仕事について相談するこもある。


「ようスオウザカじゃねえか。なんだいそのきれいなお嬢さんは」


「依頼人だよ」


「うらやましいねえ」


 ボルテンスはそう言って肩をすくめ、あることを提案してきた。


「そっちもクリスタルハントか? なら、ゲームといこうぜ。ただ集めるんじゃおもしろくない。どっちがどれだけ多く集められるか。赤は1ポイント、ほかは3ポイント。お前が勝ったらカードを1枚くれてやるよ、俺が勝ったら……カードゲームで手合わせするってのはどうだ?」


「なんであんたとカードゲームしなきゃいけないんだよ」


「言わせんな。男のカードゲーマーは貴重なんだよ。こいつはカード興味ないし、俺は女の子とはなすのはちょっと苦手でな……」


「ともだちがほしいワヌね」


「そ、そうは言ってねえよ! ま、とにかくこっちが勝ったらそういうことだから覚えておけよな」


「ま、このアホは気にせずがんばってくれ」とゴロク。彼はラジトバウムの冒険士、特に男の冒険士の相談役のような立ち位置で面倒見のいいやつだ。


「だれがアホだ」


 去っていくふたり。そんなこんなで、勝手にゲームにのせられてしまったらしい。


「クリスタルをより集めたほうが……か」


「ボルテンスには悪いけど負ける気さらさらないワヌ」


「オド結晶の位置を把握したいんですか? ならちょうどあのカードを使ってみては?」


 サナがそう言う。


「あのカード?」


「【精霊の祝福】です。オドに関するすべての能力が強化されて、オド結晶のばしょがわかるはずです」


 そういわれても話をうのみにできるわけではなかったが、ためしにカードを切ってみる。

 すると自分のからだからオドの破片があふれでてきた。満杯のコップからもれる水のようにとめどなく流れ出てくる。

 そしてあらゆる感覚が鋭敏化して、この森林のなかの気配を感じ取ることができる。


 これがオドの感じってやつなのか。いや、なにかそれ以上のようにさえ感じる。見えていないのにほとんど明確に遠くでなにが起きているかわかるようだ。


「なんだこれ……」


「それが精霊の力です」


「どったのエイト」


「いや……精霊の祝福か……すごいカードだな」


 オドがみえすぎるので、オド結晶の場所なんて簡単にわかった。

 もはや乱獲だった。ありえないほどにクリスタルが見つかる。このペースでいったらもう持ちきれないほどだ。


「エイト、すごい勘ワヌね! きょうは冴えてるワヌ」


「いや勘じゃない。オドの感じでもない。オドがみえる。みえすぎる。まるでいきてるみたいに……」


 正直、あまりに集中力が高まりすぎてこわいとさえ思うような感覚だった。


「なんなんだよ、この魔法」


「レアカードだと言ったでしょう?」


 サナはそう言って微笑むだけだった。

 なにか近くで、よくないオドが起きたのをとらえた。俺はクリスタルをほっぽりだして、その場所に向かう。


「エイト、どうしたワヌ?」


 そうきくフォッシャも、答えずともすぐにわかったようだった。モンスターが崖からすべりおちたらしく傷をおって倒れていた。あたりには石が散乱している。


「崖がくずれてしまったようですね」


 とサナが言う。おそらくそのとおりだろう。

 毛むくじゃらの体にアヒルのような容姿。ツーファンと呼ばれる種族だろう。傷はふかくはないが、ツーファンは群れで動くタイプではないからほうっておくのはかわいそうだった。


「フォッシャ、治療してやろう」


「がってん」


 治療セットをだして、ツーファンを手当てしてやる。


「勝負はいいの?」とセナがすこし不思議そうにきいてきた。


 別に考えがあって動いてるわけでもないが、どう答えたものか俺はすこしなやんで、


「これでも元カードゲーマーでさ。なにをするにしても、負けたくはないけど……」


 素直にただ今の気持ちを表現する。


「自分のやりたいようにやりたい。カードゲーマーだったからかな」


「腕に自信が?」


「いや……」


 そんなことをきいてくるサナだが、どこか俺の返答にまんざらでもなさそうに理解をしめすような顔をしていた。



 けっきょく、あれからツーファンを縄張りのあたりまで運んでやったのと治療に時間がかかりすぎてオド結晶は大した数集まらなかった。

 ボルテンスは満足げに笑って、カードショップで待つと宣言してきた。俺はもうどうにでもなれという感じだった。


「あー疲れた疲れた」


 宿にもどり、どかっと椅子に座る。サナのいうとおりいつも通りにしている。これが今の俺たちのふつうの日常だ。


「エイトさん、フォッシャさん」


 と、部屋にいたサナが声をあげる。


「テストは合格です。やはり見込んだとおりでした」


「おお! やったワヌ!」


 俺たちのなにが合格だったのかわからんが、まあこれではじめてスタートラインにたったわけか。

 サナは立ったまま真剣な面持ちで話し始める。


「改めて、依頼のことを話したいと思います。まずクリスタルについてです。エイトさんが期待されていたものがあるのは真実です。しかし豊潤なオド結晶のウワサは冒険士を呼びよせ、そして彼ら全員帰らずに姿を消している現状があります」


 クリスタルを求めて、命知らずが何人もあらわれるのに後がたたないってわけか。


「ダンジョン、迷宮のなかで消息の途絶えた彼らを探し出してほしい。そして……もう冒険家が犠牲にならぬよう、あなた方の手でクリスタルをみつけだしてほしいのです」

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