第4話 幻の調査
2幻の調査
次の日ギルドにくると、なにやらいつもよりさわがしかった。マイさんに話をきくと、なにか厄介な依頼がころがり込んできたらしい。
「幻(まぼろし)の妖精?」
フォッシャが机に身をのりだして聞く。
「はい。なんでもラジトバウムの森にめずらしい果樹があって~。その実を食べに何十年に何回かおとずれるとか~」
「仕事内容自体は生態系の調査、なのか。つまり……」
「そうです。珍しい種なので、まずは存在を確認していただくこと。それと、できれば健康状態なども知りたいそうなので、できれば写絵を撮ってほしいとのことです~」
なるほど、幻の妖精か。
「専門の機関も調査にきていますが、やっぱり広いし危険もありますから人手がほしいそうです」
渡されたチラシを読んでみる。妖精が見つかった場合の特別賞金は相当高いが、見つからなかったときは警護分の報酬しか出ないようだ。
はっきり言って警護の報酬額はリスクに見合っていない。1週間は束縛されるのにこのではうまい仕事だとは言えない。
「見つからなかったら、警備の礼金がすこし出るだけか……それでみんなしぶってるってわけね」
「何年かに一回はときどき調査団の方がきているらしいのですが、だいたい[ハズレ]でして~……」
「なるほど」
「どうするワヌ?」
「警護に、妖精の観測か……」
「おもしろそうっちゃおもしろそうワヌね。フォッシャたちなら、木の実で食いつなげられるし」
さすがに木の実だけで食生活をまかなえるわけではないが、フォッシャのジョークに俺はふっと笑う。
「逆に燃えるかもな。もし成功したら大金が手に入る。一攫千金のチャンス、イチかバチかも悪くない」
「そう言うと思ったワヌ」
「了承しました。では、がんばってくださいね~」
マイさんが相変わらずおっとりした表情でほほ笑む。
そういうわけで、調査団のひとたちに同行して草花の生い茂るジャングルエリアへとやってきた。
ほかにも冒険士はきていていくつかのグループに別れた。俺たち眼鏡の男性にくっついて獣道をすすんでいく。
幻の妖精が来るのを待つだけだと思っていたが、並行してほかの生物などの調査も行っているようだった。道に生えている植物や動物たちを観察してなにか記録をとっている。
そして夜には安全な地帯でテントを張って寝る。次の日も同じことの繰り返しだった。
眼鏡の研究員のひとは無口だったが、話しかけるとフレンドリーに返事をしてくれた。ときどき植生物について解説してくれ、仕事中退屈することはなかった。
「今回の目的、シャールはとてもグルメな妖精でね。特定の木の実しか口にしないんだ。それでこのラジトバウムへもふらっと寄ることがあるんだよ」
そういうようなことを教えてくれた。そこにフォッシャがたずねる。
「なんていう木の実ワヌ?」
「ルビーエメラルドって品種さ。でも繁殖力が弱いからめずらしくてね。探すのも大変で、あまり位置が特定できてないんだ。それさえわかれば、シャールが出てくるスポットもある程度予測できるんだけど……」
俺とフォッシャは、顔を見合わせる。
「ルビーエメラルドって、緑の実に青の斑点が混じってるやつですか?」
「そう、それだね」
またフォッシャと目をあわせる。それなら知っているかもしれない。
「あの、僕たちいくつか場所がわかるかもしれません」
「えっ、本当に?」
「ええたぶん。よくこのあたりの木の実を……」
よく食べてるから、と言うのはやめておいた。冒険士でこのあたりの食べられる野生植物にくわしいのはおそらく俺とフォッシャかもしれない。
さっそく知っている地点に向かうことになった。
日は沈み始めている。モンスターたちを刺激しないよう、しずかに通っていく。
ガサッとしげみからなにかがでてきて身構えたが、すぐにほっと胸を撫で下ろした。
「なんだ、おまえらか……」
モンスターのなかには人懐っこいのもいる。ブロウルッグと呼ばれるこのペンギンみたいな生き物たちは、人を襲ってこないどころかフレンドリーな性格だとしてよく知られている。
「ちょ、ついてくんなって」
手でしっしとやってもおだやかな顔で5匹ほど後をついてきている。
「まあとくに害はないからだいじょうぶワヌ」
目的のあたりにちかづいたとき、研究員の人がはあっと息を呑むのが聞こえた。
妖精がいるようだった。黄金に近い緑色の精がホタルのようなほのかな光をはなって、枝にすわっておいしそうに木の実を口にほうりこんでいる。
「あれがまぼろしの?」
「あ、エイト、写絵をとらないと!」
フォッシャに言われて思い出し、冒険士カードをとりだす。これには写真のような機能もついていて、横にかまえて絵をとることに成功する。
妖精はこちらに気がついたようだった。研究員のひとの息があまりにも荒く、その音に反応したらしい。羽をはためかせて、空へ飛んでいってしまった。
「す、すごいぃぞ! これは大きな発見だ!」
「任務は成功?」ときくと、
「成功どころか大成功さ! ばんざい!」
「じゃあ……」
いいかけたところでフォッシャと顔をみあわせる。
しぜんと笑いがこみあげてきて、手をとって抱き合う。
研究員のひととブロウウルッグたちも一緒になって、みんなで輪になって狂ったように歓喜のダンスをした。
ふと、遠くの木の幹に少女が座っているような影が見えた気がした。テンションがあがりすぎておかしくなったのかもしれないと思い、気にせず踊ることにした。
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