第3話 逆境の生活
――かつて種族らはすべてのエネルギーの源泉であるオドをめぐって争いあった。
相次ぐ戦乱はオドの怒りを買い、高度な文明技術はカードの魔法として封印された。
いま地に海に平静はもどり、カードによって生命らは繁栄をとりもどした。
これはそんな時代にあってカードをめぐる大冒険活劇を繰り広げた、ある男と相棒の物語。
1逆境の生活
ジャングルへともぐって地下遺跡をうろつく。薄暗くほこりっぽい、とてもいい環境とはいえない。
ぬるい風が頭をくもらせる。だが気は抜けない。
目当てはオド結晶。すなわちクリスタルだ。
「まるで宝箱ワヌ」
どうやら目当ての結晶はあったようで、フォッシャがそう言った。
遺跡の通路の床が一部くずれていて、巨大な穴ができていた。ある程度深いようなので、おたがい腰にロープを巻いて相棒の珍獣フォッシャを釣りおろす。回収作業がしやすいよう、俺は地上から光るカードを持って下を照らしてやる。
「こりゃすごいな。だれも手をつけてないみたいだ」
このでかいアナグラ遺跡はモンスターたちの棲家になっていることも多く、立ち寄るにはリスクもある。
ふと地上のほうで、遠目になにかをとらえた。カードのライトをそちらのほうに向ける。
なにか丸く小さなものが山積みになっていた。よく見ると、果実かなにかのようだった。
「わっ!? まっくらでみえんワヌ!」光をうしなったフォッシャのほうはあわてていた。
「なんか向こうの部屋に、大量に木の実が積まれてる」と俺は報告する。
「木の実? ひょっとしてここらってモンスターたちのエサ場だったりして」
「はは、まさか、な……ま」
フォッシャの冗談に笑っていたその時だった。獣のうなり声がする。気のせいであってほしかったが、いよいよ山猫のようなモンスターたちが怒りの形相で姿をあらわす。
「って本当にそうなのかよ!? フォッシャ急げ! 数十匹くらいにまわりを囲まれてるぞ!」
「えええ?!」
「もう回収できたか!?」
「いまやってるワヌ!」
「しかたねえ、全部はむりだ。引き上げっぞ!」
ロープを引っ張ってフォッシャを地上にもどす。脱出するため、【煙幕】のカードをつかった。
結晶の入ったリュックサックを背負い込みフォッシャとともにその場をはなれる。
うまく離脱したと思ったが、突風がふいて煙が払われてしまった。ふりかえると山猫がカードをくわえていた。
魔法のカード。この世界はあれがあればだれでもどこでも魔法、つまり不思議な力を使うことができる。カードはほかにも道具をだしたり種類は多岐にわたる。
「風の魔法か」
「まだ追いかけてくるワヌ! エサを盗みにきたドロボーだと思われてるのかも!」
「ハァ!? おいおいおい!? 俺たちは盗人なんかじゃないって! クリスタルを集めてただけで……!」
と言い訳したところで魔物相手には話がつうじるわけじゃない。
荒っぽいことはしたくないが……
衝撃(ショック)魔法のカードを後方の天井にむけてつかう。山猫が追いつく前にがれきで足止めしようというわけだ。
「おお! がれきで道をふさいで……でもそれも吹っ飛ばされたワヌ!」
だめだ。結晶が重くてあまり長くは走れないぞ。このままだとつかまる。
「なんかファンたちに追われてるスターみたいな気分ワヌ!」
「どう見てもそんな状況じゃねえよ!?」
横を走るフォッシャとともになんとか遺跡を抜けた。草木生い茂るジャングルエリアへと出たが、山猫たちはかなりお怒りのようでまだ何匹もついてきていた。
「トリックカード……【三角飛び】。フォッシャにつかまるワヌ!」
「そんなの持ってたのか!?」
言われたとおり彼女に抱きかかえるようにしてしがみつく。フォッシャはいきなりとんでもない高さまでジャンプして、忍者か鳥みたいに木々の幹から幹へと飛び移っていく。
「ってぐわああ!!??」
フォッシャはいいが、彼女が木々を飛び移るごとにしがみついているだけの俺のほうは木の枝が刺さるわ、茂みが顔にぶつかるわ幹に腹を打ち付けるわでひどい有様だった。
「ちょっと待ってくれ……! 俺がつかう!」
魔法の使用権を交代して、フォッシャに俺の背中にしがみついてもらう。下をみるとまだ山猫たちはついてきていた。かなり足が速くあまり距離は開いていない。
「河だ! 飛ぶぞ!」
先に河岸がみえ、まよわずにとびこむ。そのときの勢いでフォッシャが俺の背から手が離れてしまい、空中で別れてしまった。
カードをかまえる。さっきの縄をとっさに出してフォッシャを引っ張った。
いざ水の中に落ちるというところで、もう1枚つかう。ボロい小船が水面に出現し、そこに着地する。遅れてロープとともに飛んできたフォッシャもしっかりとキャッチした。
ゴロクという知り合いの冒険士が運搬につかえるからとゆずってくれたカードだ。脱出のために使うことになるとは想定していなかったがあまりカードを持っていないうえ買う金もとぼしい俺たちにはありがたい助けとなった。
さすがに山猫たちは泳いでまではこないだろう。フォッシャと俺はふたりして安堵の息をもらす。
「はあ、なんとかなったな……」
そう思ったのもつかの間、河のさきは滝になっていたという海外の古いアニメにありがちな展開が俺たちを待っていた。
「ああああああああああああああああああああああ!?」
叫び声がラジトバウムの森にこだました。
なにはともあれきょうは大漁だった。冒険士集会所にいって、カゴに入れたクリスタルを机の上にならべる。受付のマイというふだんはのんびりしている女性も、さすがにすこし驚いているようだった。
「たくさんですね~……なんだかすごいツイてましたね~」
「勘がいいんだよ、こいつ」
椅子にすわっているフォッシャの頭を撫でる。フォッシャには野生の勘のようなものがある。
冒険士、そして俺たちはこうやってクリスタルを売買する。そうして得た資金で、なんとか生計を立てている。
よく知らないがこのオド結晶とかいうのはなんでもエネルギーの源だかそんな感じのなにかだそうで、常に需要がある。自然の多い場所でよく発生するらしい。
この青や赤、さまざまな色の原石を集めて街で売買するのが冒険士のおもな仕事である。
あぶないところ、あぶない仕事、どこへでも行くしなんでもやる。きのうやったポスター貼りの仕事も冒険士として受け持ったものだ。
生きていくために俺はこの仕事でかせぐことに決めた。相棒のフォッシャとともに、食べられそうな木の実を集めてかじながら探索する。
モンスターもでるし道も舗装されてないから危険はある。が、冒険士にはある特権がある。
それはカード制限の一部解除だ。ほんらい強力すぎる魔法は存在はしていても発動はできないが、冒険士であれば使用することができる。
実際なんどかそれが必要な仕事もあった。作物を荒らしている猫サイズの虫を追い払ったり、恐竜とたたかったりもした。そのおかげで今は片腕をかるく骨折していて包帯を巻いている。
なんだかんだ生き残れているのは、フォッシャってパートナーがいてくれるおかげだと思う。
こちらでの生活にさいしょは戸惑った。いまはどうにかこうにかやっていけているような状況だ。
「今夜はパーッといくワヌ!」
「そうだな。いつも木の実とパンだけだし……お店にいくか」
わーいと、フォッシャは飛び跳ねてはしゃぐ。
「きいた? あのウワサ」
隣の女性冒険士たちの会話がきこえてきた。
「あれでしょ? 超巨大な山みたいなクリスタルが、ある島にねむってるって」
「ほんとかねえ。まゆつばモンじゃないの」
超巨大なクリスタル、ねえ。そんなの見つけられたら大金持ちになれるわな。
気になりはしたが、その場をあとにする。
相棒の小さいフサフサの生き物、フォッシャといっしょに俺はこの街ラジトバウムで生活している。
今日のの仕事はこれでおしまいだ。とおりのベンチでひと息つきながら、ぼーっと道を行き交う人たちをみつめる。
「いやーがんばったワヌ」と、フォッシャがグビグビ器用に小さい手をつかってジュースを飲みながらいう。
「どっかにドデカいクリスタルがあるかもしれないんだってさ。ほかの冒険士が言ってた」
「どっかって?」
「どっかだよ。やっぱ一発デカいの当てれたらいいよな。ドデカいクリスタルみつけたら、どんだけ売れるかな!?」
「おお! ぜったい見つけてやろー!」
「おーし」
そんなことを話しながら、宿への帰り道に向かう。
途中、カードショップをみつけた。ショーウィンドウ越しに、対戦している様子にじっと目を奪われる。いつの間にか足をとめて、見入ってしまっていた。
固まっている俺の足を、フォッシャがつんつんと手でつついてきて、
「そんなに興味あるならやってみればいいのに」と言う。
「ん? ああ……なんでもないよ。ちょっと、故郷をおもいだしてね」
「エイトの故郷ってどこだったっけ?」
「……そうだな。なんていうかまあ、カードゲームはここよりかはもっとマイナーだったかな」
「どんなところかじゃなくて、どこかって聞いてるワヌ」
「そのうち話すよ」
あのカードたちはああいう風に遊びやスポーツとしても使えるが、ただの紙札じゃない。
ここではカードが魔法のような役割を果たしている。たとえば重い荷物をたくさんはこぼうと思ったらカードの魔法で簡単にひょいと持ち上げて運ぶことができる。また、カードのなかの戦士たちは実在のモデルがあるらしく、ここではカードをぞんざいに扱ったり侮辱するような行為は良しとされていない。
そういうカードもタダで手に入るわけじゃない。
冒険士として得た金でいつか魔法も買えたらいいが、もう少し先になりそうだ。
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